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未来の旅はAIに話しかけて旅程作りから予約までお任せに? 「AI Trip Planner」の導入を始めたBooking.com
Booking.com CBOインタビュー
2024年12月13日 06:00
Booking.com(ブッキングドットコム)は、さまざまな旅行関連の商品をオンラインで手配、販売するOTA(Online Travel Agency、オンライン旅行販売事業者)としてグローバルに認知されている。
1996年にオランダで創業した同社は、2000年代にインターネットの利用が進むにつれて成長し、ホテルのオンライン予約事業を中核として、航空券、レンタカー、現地ツアーなども合わせて取り扱っており、今やインターネットを利用して旅行を手配する個人旅行者にとってはおなじみの存在だろう。
そのBooking.comで事業活動を統括するのが、CBO(Chief Business Officer、最高業務責任者)のジェームス・ウォーターズ氏だ。氏が来日しているタイミングにお話を伺う機会を得たので、同社のIT戦略に関して聞いてきた。
英語圏で始まっている生成AIの導入、まるで人間に話しかけるように旅程や予約の作成が可能に
――Booking.comの日本での展開について教えてほしい。
ウォーターズ氏:日本での事業はインバウンド(訪日外国旅行者)が重要なのは言うまでもないが、それと同時にアウトバウンド(日本人海外旅行者)も重要だ。そうしたときに、われわれのグローバルなビジネスという性質は、言語という壁を取り払うことができるという点で、目的地としての日本を認知してもらうのに役立っていると考えている。
例えば、欧州で言えばローマやパリ、米国で言えばニューヨーク、日本で言えば東京や京都、大阪のような観光地情報を見つけるのは容易だろう。しかし、それ以外の観光地を見つけるのは簡単ではない。われわれはそうした観光地をグローバルに紹介していく役割も担っており、Booking.comが紹介しているコンテンツを見て、日本に東京、京都、大阪以外の素晴らしい観光地があることを「発見」しているのだ。
そしてその逆もそうで、グローバルに新しい観光地があることを日本の利用者に簡単に見つけてもらう、そういうことも提供できていると考えている。スロバキアやアルゼンチンなど、日本の利用者にはあまりなじみがない目的地であっても、われわれのサービスを利用していただければ、日本語で予約して、日本語でサポートを受けることが可能になる。
目的がビジネスであろうが、観光であろうが、目的に応じたホテルを予約し、フライトを予約する……そうしたことをご自分の言語で利用できることが価値になっている。私の仕事はそうしたお客さまに新しい価値を提供できるITサービスを提供することだと考えており、日々アップデートに取り組んでいる。
――日本の観光客はグローバルな顧客と違うところがあるだろうか?
ウォーターズ氏:それはお答えするのが非常に難しい質問だ。というのも、日本だけでなく、世界中どこの利用者もそれぞれ異なるニーズを持っており、一概にここが違う、そうではないということを言えないからだ。ただし、英語を使う国以外では言葉の壁というのは小さくない。そのため、日本で言えば日本語のコンテンツのように現地の言葉で書かれたコンテンツを用意することは重要だと考えている。
細かく言うと、それぞれの国で観光客の傾向は異なっている。例えば日本の利用者はヨーロッパへ行くときに、4~5か国をまとめて予約することが多いが、逆に欧州から日本に来る利用者は、まずは東京や京都、大坂といったおなじみの観光地を予約することが多く、そこにニーズが集中している。
言葉や文化の違いなどがあるが、そうした違いを、ITを利用して吸収していく、それがグローバルにビジネスを展開するOTAとしては重要だと考えている。
――IT業界では生成AIの活用が進んでいる。Booking.comでも「AI Trip Planner」(筆者注:現時点では英語版で先行導入している機能)に、よりシンプルな検索や優先度を指定した質問、生成AIを利用したレビューの要約機能などを追加することを発表している。今後生成AIはOTAのビジネスをどう変えていくか?
ウォーターズ氏:われわれは最近AI Trip Plannerを導入し、お客さまにご利用いただいている。大きくいうと3つのことが新しくできるようになる。
1つ目はより高度な目的地の発見だ。われわれはほかの大手テック企業がしているのと同じように、生成AIを導入するために、LLM(大規模言語モデル)と呼ばれるファウンデーションモデルを導入し、それをわれわれのさまざまなサービスから活用できるようなオーケストレーションレイヤーを設けて、われわれが持つデータと組み合わせて活用していくシステムを構築した。
それにより、利用者が検索では見つけることができないような目的地をAIに聞いて解決することが可能だ。例えば、10月に旅行するときにちょうどその時期に美味しい料理を出すレストランがあって、興味がある博物館もある、そんな複数のことを掛け合わせて目的地を決めたときには、LLMを利用したAIに聞いてみれば、答えを導き出してくれる。
2つ目はプランの自動作成と予約だ。それと同時にわれわれのパートナーとなるホテルやサービス事業者にとっても、自分たちを見つけてもらうことが容易になる。生成AIに「東京に1週間行くのだけど、その間に私ができる5つのことはなに?」と質問すると、その旅行プランを生成AIに作ってもらって、同時にわれわれのサービスを利用してホテルをリストアップしたり、レンタカーを手配したり、夕食の計画を立てて予約をしたりということが可能になっていく。
3つ目はAIを活用したカスタマーサービスだ。先ほど言葉の壁に関してお話しさせていただいたが、今AIを利用してパートナー、旅行者、カスタマーサービス、エージェントの間で生成AIを活用した翻訳機能を活用している。また、利用者にはチャットボットの機能を利用してカスタマーサポートを提供しているが、そのサービスはAIと人間のハイブリッドとして提供している。
現時点では生成AIの活用はまだまだ初期段階であり、今後より高度なコミュニケーションが取れるツールとして発展していける、そう考えている。
今後はプライバシーに配慮しながら、生成AIを活用してよりパーソナライズされた旅行体験の実現へ
――生成AIは旅行体験をどのように変えていくだろうか?
ウォーターズ氏:多くのことが変わっていくと考えているが、大きく言うと2つあると考えている。
1つ目は、現在われわれが旅行を計画するときにやっているような、検索から始めるというやり方は変わっていく可能性が高いということだ。
旅行を計画するときには、まず3つないしは4つ程度の単語のフレーズで検索するというのが普通のやり方ではないか。しかし、生成AIには自然な言葉で話しかけることが可能だということが重要だ。例えば、11月11日に東京に行くのだけど、4人家族のためのキッチン付きの家、お風呂もありで……みたいな形で生成AIに話しかければ、生成AIが最適な計画を立ててくれて、予約できるホテルや航空券まで提案してくれる。
2つ目は生成AIが持つ要約などの生成機能の活用だ。今ホテルの予約をするときには、自分の必要な要素を見つけるために、まずわれわれのサイトでホテルを探してきて、そのホテルのページを隅々まで読んでようやく目的の情報を見つけるだろう。
例えば、ホテルに子供が楽しめる施設があるかどうか、そんなことを条件にして探したいけど、今の検索だとなかなかそこまで探せないので、利用者が能動的にその情報を探しに行く必要がある。
しかし、生成AIの要約機能を使えば、そんなことも簡単に探せるので、「子供向けの施設が充実している東京のホテルで12月24日の空き客室を探して」とか言うだけで簡単に探せるようになる。まるで、人間と話しているような感覚で生成AIと話して、単にもともとあったWebサイトの情報が表示されるのではなく、ライブで生成された応答を得ることができる、これが大きな違いになると考えている。
――なるほど、未来の旅行は生成AIに「今年の年末の旅行は12月20日から5日間で、家族4人で予算は50万円で、最適な目的地はどこだと思う?」みたいに話しかけると、その最適な答えが生成されて表示されるみたいな感じになるのだろうか?
ウォーターズ氏:そのとおりだ。かつ、そうしたパーソナライズされた条件を生成AIが記憶してくれて、さらなる条件の追加なども自由自在できるようになる。海外の空港に到着したら、生成AIが空港から街へ行くまでの最適な方法を表示してくれて、前に覚えてもらっていたあなたの好みに基づいた夕食のレストランを表示して場合によっては予約までしてくれる……そんな未来が実現可能になると私は考えている。
もう1つ重要なことは、これまでのように旅行者が自分の好みをシステムに伝えること(筆者注:例えばホテルの検索時にバスタブがある部屋とか、冷蔵庫は必要、など)をしなくても、生成AIがそれを推定してくれることは重要だと考えている。
例えば、このユーザーは子供と一緒に旅行するのだな、学校の休暇に旅行したいのだな、などのトレンドを推定してくれる。その結果からパーソナライズされた旅程を生成AIが提案してくれることが可能になる。生成AIを利用した旅行ビジネスではそうしたことが重要になっていくのだとわれわれは考えている。
――生成AIを導入する事業者側のメリットは何か?
ウォーターズ氏:生成AIのパワーは旅行事業者の側にもメリットをもたらすと考えている。もちろん利用者のプライバシーは最大限配慮することは大前提だが、利用者に許可された範囲で、その情報を航空会社やホテル側とシェアすることが可能になる。
例えば、常に通路側の席を希望している、こんな部屋・果物・花が好きだ、そんな情報を航空会社やホテルとシェアすることができれば、よりよいパーソナライズされたサービスを提供できるようになる。こうした情報のシェアは、これまでもある程度は可能だったが、生成AIの時代には生成AI同士がその情報をやりとりし、ホテルの従業員が会話的にわれわれの生成AIに聞く、そうしたことが可能になる。
とてもおもしろいことに、テクノロジを導入することで旅行体験がより人間的になる、と考えている。そして航空会社やホテルにとってはよいパーソナライズされたよりよいサービスを提供できれば、再び利用してもらえる機会が増えることになるので、事業者側にもメリットがある。
――こうした生成AIのような新しい技術の登場はまさに旅行業界をダイナミックに変えていく可能性が高い。Booking.comを創業したときにはこんな未来が来ると予想されていたのだろうか?
ウォーターズ氏:Booking.comの創業者は、かつて自分のガレージで、5軒の予約できるホテルの契約と1つのサーバーでビジネスを始めた。彼らはオンラインで販売する意味があるものの1つが、ホテルの予約だというビジョンを持っていた。というのも、ホテルは実際に行かないと試すことができないからだ。そのため、われわれのサイトでは初期の頃から写真コンテンツを充実させてきた。
また、現在ではほとんどのデジタル関連の企業が導入している「ABテスト」の機能もかなり初期の段階から導入した。つまり、常にデータを活用して経営判断をするということを先んじて導入してきた。それが顧客を中心にビジネスを構築するという企業文化につながっているのだ。今後生成AIの導入が進めばそうしたことがより進展していく、私たちはそう考えている。