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近鉄の新型車両8A系に乗ってきた。部分的ロング/クロス転換、扉そばの腰掛け“やさしば”ほか新機軸が盛りだくさん!
2024年10月22日 06:00
- 2024年9月30日 実施
近鉄(近畿日本鉄道)は9月30日、新型一般車両・8A系の関係者向け試乗会を実施した。その模様と、8A系の概要についてレポートする。ちなみに、「8」は所属する線区(奈良線・京都線・橿原線)を、「A」は車両のグループ分けを意味している。
大阪上本町~東花園を1往復
試乗会は大阪上本町から奈良線の東花園駅までを往復する形で、2時間ほどかけて行なわれた。営業運行は10月7日から始まっていが、その際の運行路線は奈良線・京都線・橿原線・天理線。そのうち奈良線が試乗会の舞台となった。
新しい近鉄電車の価値創造
8A系は、単に老朽化した車両を置き換えるだけの存在ではない。近鉄電車の魅力と価値を高めることで、より多くの方に近鉄沿線に住んで、電車を利用してもらいたい。そういう使命が課せられている。
そこで車両というハードウェアにできることは何か。そこで考えられたのが、さまざまな旅客が有する、さまざまなニーズに対応できること。
例えばシート配置。8A系の車内は、近鉄がかねて多用している、ロングシートとクロスシートの切り替えが可能な「L/Cシート」を配している。
最近では首都圏でも、朝夕に有料着席列車を運転するために、このタイプのシートを設置した車両を導入する事例が増えている。しかし近鉄の場合、有料特急は別にあるから、あくまでL/Cシートは「多様なニーズに対応するためのもの」だ。
従来のL/Cシートは、全体を一括してロングシート、あるいはクロスシートにする仕組みだった。しかし8A系は車内を複数のブロックに分けて、個別にロング/クロスの切り替えができる新機軸が取り入れられた。「ちょっと混みそうだから、半分だけロングに」なんていうこともできる。そして実際、営業運転では車両の中央部だけをクロスシートにした事例がある。
おもしろいのは側面の行先表示器。表示内容を柔軟に切り替えられるLEDの利点を活かして、一般的な日本語と英語に加えて「ひらがな」の表示が加わっている。漢字を覚える前の小さなお子さんでも読みやすい。
そして8A系の新機軸として、すでに広く伝えられているのが「やさしば」である。車端部の優先席や車椅子スペースとは別に、1両につき2か所を設けた。具体的な想定利用者として「ベビーカーを押している親子連れ」や「大きなスーツケースを持った旅行者」が挙げられている。
ベビーカーにしろスーツケースにしろ、車内ではそれなりに場所をとる。通常のロングシート車やクロスシート車に持ち込むには気を使うところだ。そこで、扉の脇に広いスペースを確保した。それを編成の一部ではなく全車に均等配置することで、ホームや車内で大きく移動しなくても利用できるように配慮している。
そして「やさしば」は、コーナー型の腰掛にすることで、柔軟な使い方ができるように工夫した。実際に試してみると、進行方向に向かって並行に座ることも、直角に座ることも、あるいは斜めに座ることもできる。また、スーツケースが勝手に動き出さないようにするストッパーも設置している。
ただ、従来にない種類の設備だから、利用者がこれをどう使いこなしていくかは、今後の状況を見る必要があろう。利用者が育てていく設備といえるかもしれない。
このほか、近鉄の鉄道線向け車両では初めて、押しボタンで側扉の開閉を行なえる仕掛けが付いた(鋼索線では前例がある)。これは、停車時間が長いときに車内温度を適切に保つためのものだ。
日常のなかにも華やかさを
一般車は特急車や観光列車と違って、毎日の生活のなかで利用する「普段の足」である。だから内外装のデザインでは、奇をてらわず、毎日のように乗っても飽きがこないよう工夫を凝らした。
「日常の華やかさ」を掲げて、「万葉集」をキーワードとした内装デザインの担当は、イチバンセンの川西康之氏。川西氏は、近鉄橿原線沿線の奈良県川西町出身でもある。
外装は、「柔らかく、愛嬌のあるデザイン」を追求するとともに、ひと目で「近鉄の電車だ」と分かる赤と白の塗り分けを引き継いだ。ただし色調は異なり、従来と比べて、赤は深みのある、白は明るい色調に変わった。また、先頭部の形状はエッジが立った「尖った」ものではなく、柔らかさを大事にする形で仕上げている。
おわりに
前述したように、8A系はまず2024年度分として、奈良線・京都線・橿原線・天理線に4両編成12本が投入される。次の2025年度からは大阪線、名古屋線、南大阪線にも同系列の車両が導入される。
この8A系が構想され、実車が生み出されるまでの過程を追うとともに、開発に携わった関係者の生の声をまとめた「私鉄車両ディテールガイド 近鉄8A系」が、9月24日にイカロス出版から発売された。こちらも手に取ってみていただければ幸いだ。