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羽田C滑走路の事故で茨城空港への行先変更。正月三が日の夜に乗客を最寄り駅まで運んだ想定外の臨時バス。なぜすぐ手配できた?

関東鉄道バスの車両。JR石岡駅前にて

運転手不足、正月の夜……そのなかで出した送迎バス

 1月1日午後に「令和6年能登半島地震」が発生。そして、翌2日の17時50分ごろ、被災地に向かおうとしていた海上保安庁の航空機と、新千歳発・羽田行きの旅客機が羽田空港の滑走路上で接触・炎上するという事故が起きた。

 事故が発生したC滑走路への着陸を予定していた各社の旅客機は、着陸を目前にして成田空港や中部国際空港へなどへのダイバート(当初の目的地以外への行先変更・着陸)を余儀なくされた。

 各機の乗客は、目的地である羽田とはまったく違う場所に夜更けに降り立ち、そこから東京方面にどう向かうか、途方に暮れた人も多かったという。

 そのなかで、スカイマーク2機のダイバートを受け入れた茨城空港では、乗客を最寄りの鉄道駅(JR常磐線 石岡駅)に送り届けるために、関東鉄道(茨城県土浦市)を中心に、8台ものバスが送迎に駆けつけたことが話題となった。

茨城空港に着陸するスカイマークの機体

 茨城空港は、周囲に宿泊施設がほぼなく、最寄り駅も遠い「陸の孤島」といわれるような立地で、交通の便は決してよいとは言えない。かつ、周辺のバス会社は各社とも運転手が不足しており、急に必要が生じたからといって、すぐ送迎バスを出せるような余力はない。

 もし各社が送迎バスへの依頼に応じていなかった場合、乗客は最悪の場合「何もない真冬の空港で、ひたすらタクシーを待ち続ける」という事態すらあり得るところであった。急な事態にもかかわらず、すみやかに送迎バスを出した関東鉄道バスや各バス会社、運転手の対応への賛辞や「好判断」「神対応」との声が広がり、ついにX(Twitter)で「関東鉄道」がトレンド入りするまでに拡散したのだ。

 バス会社各社は、なぜダイバート対応の送迎バスを出すことができたのか。関東鉄道バス、スカイマークなど各社にお話を伺い、乗客を無事に駅まで送り届けるまでの流れを追ってみよう。

突然「正月の夜に茨城空港へ300人強が到着」。そのときスカイマークは? バス会社は?

羽田空港の滑走路を移動するスカイマーク機。衝突事故は、海側のC滑走路で起こった

 スカイマークによると、羽田空港で衝突事故が発生した1月2日は、新千歳空港発・羽田空港行きの以下2便が、茨城空港へのダイバート対応になったという。なお、同社は茨城空港から新千歳・神戸・福岡・那覇への4路線を定期運航しており、ダイバート先として問題がないと判断したのだろう。

SKY720便: 新千歳(16時15分)発~羽田(17時55分)着予定→茨城(18時32分)着
SKY966便: 新千歳(16時25分)発~羽田(18時10分)着予定→茨城(18時35分)着

 乗客は2便合わせて300人強。19時台以降はまだ、通常の空港シャトルバスが石岡駅方面に2本、水戸駅方面に2本残っているが、あいにく定期便の到着が数便あり、2機300人強の送迎を追加でまかなうような余裕はない。

関鉄グリーンバス・石岡営業所

 この状況のなかでスカイマークは、茨城空港に近い各バス会社に声をかけた。関東鉄道の広報によると、ダイバートに対応する送迎バスの依頼は、同日の19時6分に入ったという。

 しかし、あいにくこの日は正月三が日の最中であり、近隣の路線バスは休日よりさらに少ない「特別ダイヤ」で運行。出勤している運転手も通常時より少ない状態であった。

 そのなかで、市内のバス路線での運転を終えて帰ってきた運転手に次々と声をかけ、茨城空港への連絡バスを受け持つ「関鉄グリーンバス」(関東鉄道の子会社)の石岡営業所を中心に、いすゞ「エルガミオ」(58人乗り)を2台、ほか2台で、計4台のバスならびに運転手を確保したという。

 このほか、鉾田市「出来根観光」、鹿嶋市「池田交通」などのバス会社もスカイマークの要請に応じ、合計8台のバスが向かい、19時45分ごろから茨城空港に順次集結。現地では、茨城空港と関東鉄道の職員が乗客の誘導を手早く行なった。

茨城空港バス乗り場

 通常の茨城空港~JR石岡駅間の路線バスは、バス専用道(旧・鹿島鉄道の線路跡)を経由するが、今回はすべてのバスが貸し切り扱いであったために一般道路(国道355号など)を走り、21時10分ごろまでには、すべての乗客をJR石岡駅に送り届けたという。

 この時間に石岡駅に到着すれば、特急「ときわ」が東京方面に2本、水戸方面に4本、さらに普通列車もある。羽田空港からのダイバートによって茨城空港に到着した300人強の乗客を、関東鉄道バスをはじめとするバス会社は、こうして無事にさばききったのだ。

 しかし、お話を伺った関東鉄道の広報担当の方は「運転手の確保は確かに大変でしたが、弊社はあくまで、依頼に粛々と対応しただけです」「お困りのお客さまを無事に送り届けることができて、何よりです」と、至って謙虚だ。

 今回のような茨城空港へのダイバート対応はめずらしい事態ではあるが、JR常磐線や自社の鉄道路線(常総線・竜ケ崎線)などが運休した際の振り替え輸送が発生する場合もあり、関東鉄道バスとして、緊急事態の際のノウハウはある程度できているという。

 なお、今回の急な依頼に対応した運転手に関しては、「もちろん、残業代や代休などの対応をしっかりと取ります」とのことだ。

数時間で300台のバスを投入? 関東鉄道バスの「航空祭・臨時輸送」がスゴい!!

毎年12月の航空祭では、約300台のバスが会場への輸送を担う

 さて、関東鉄道バスはなぜ、正月の夜に臨時バスを出すことができたのか。その理由は、「そもそも臨時バスの運行経験が豊富だった」ことにあるのではないか。

 茨城空港に隣接する航空自衛隊・百里基地で毎年12月に「航空祭」が行なわれる際には、関東鉄道バスは各地の観光バス業者のまとめ役を担い、たった5時間少々(2023年開催は12月17日8時30分~14時)で4万人という来場者の移動のために、「各社合わせて約300台」という途方もない数の臨時バスをコントロールする役目を果たしているそうだ。

 当日は、各地にトランシーバーを持った社員が待機し、「行列200人、いや300人……○番から○番のバス待機!」という、緊迫したやり取りが飛び交う。ここまですさまじい臨時バス運行を行なった経験があればこそ、いざというときのやり取りがスムーズに行なえるだろう。

「土浦ニューウェイ」を走る関東鉄道バス。かつてはバスのルートとして走行していた

 そんな関東鉄道バスも、いわゆる「2024年問題」から来る運転手不足に悩まされており、2023年12月には要員の不足を理由に、32路線49系統で、全体の6.1%(平日235便、土日祝116便)という大幅な減便に踏み切ったばかり。同社は賃金制度や支援金などで運転手の待遇向上を図っており、各社ともこういった事情は同じだろう。

 この苦しい人繰りのなかで、関東鉄道バスなど各社は空港への送迎バスを出し、ダイバートによる行先変更で不安を抱えた乗客を救った。バス会社だけでなく、「行きます!」という運転手の方の決断がなければ、こういった判断を下すことはできなかっただろう。

 思いもつかなかった「茨城空港へのダイバート」のために、急な残業をされた運転手の方には、残業や休暇だけでなく「えっ、いいんですか?」と驚かれるほど、なんらかの形で報われてほしいものだ。