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電気が通っていない山中で普通に生活することを目指す「EcoFlow House」
2023年4月4日 23:05
- 2023年4月4日 取材
ポータブル電源などの電源ソリューションを開発・販売するEcoFlow Technology Japanは4月4日、長野県伊那市の山中に建てた「EcoFlow House」を報道関係者向けに公開した。
EcoFlow Houseがあるのは、伊那市の横山集落から車で10分ほどの険しい山の中。もともとはスキー場として開拓された土地だったが、積雪量が少なくなったこともあり、60年ほど前には使われなくなったという。30~40年ほど前からはキャンプ場として活用された時期もあったが、人口減少に伴い、それも閉鎖に。現在はパラグライダーやマウンテンバイク、オフロードバギーなどのアクティビティの発信地として使われるようになっている。
マーケティング部 マーケティングジャパンディレクターの中井拓氏によれば、1日の中で激しい温度変化があり、1年を通しても厳しい環境で、電気も水も無い場所で自社の商品をフルに活用することで、新たな体験を提供できるのではないかと考えたのが、この場所にEcoFlow Houseを作るきっかけだったという。
同社が販売する商品としては、ポータブル電源やソーラーパネルがよく知られているが、それらを組み合わせてオフグリッド環境を構築する家庭向けのパワーシステムの販売も行なっており、そのデモンストレーションの場としても活用される。
3人家族が1日で使うとされる電気使用量の12.2kWhを目安とし、これに相当する電力を賄えるソーラーパネルを屋根に設置してバッテリーに蓄電することで、山中においても普段と同じ生活を送れるようになっている。水については、ポリタンクで運び、それをモーターで汲み上げることで、一般的なキッチンシンクのような使い勝手を実現している。
1階のキッチンには冷蔵庫や電子レンジ、食洗機などが一通り揃えられており、快適に生活できるようになっている。2階は寝室になっており、3つのベッドが並んでいる。
電気や水道が無いのはもちろん、人里離れた山中となれば通信環境も無い。そこで、EcoFlow Houseでは低軌道衛星を使った通信サービス「Starlink」を活用することで、都会と遜色の無いWi-Fi通信環境を構築している。取材の合間にオンラインミーティングでこのWi-Fi環境を使わせてもらったが、途切れることなく快適に仕事をこなせた。
トイレについては仮設型のものが軒下に設置されており、これを利用することになる。今のところ、お風呂は無く、今後、五右衛門風呂を設置し、電気でお湯を沸かして使用できるようにすることを検討しているとのこと。
また、現時点ではエアコンも設置されておらず、そのままでは夏場に生活するのは厳しいのではないかと考えられるが、同社では新商品としてポータブルエアコンを近日発表する予定で、こうした機器も試せるようになる見込みだ。
同社では、3月半ばからポータブル電源の「DELTA 2」の購入者向けにEcoFlow Houseで1泊できるキャンペーンを展開しており、すでに多数の応募があるという。4月中旬には受け入れ準備を整え、順次当選者を招待していく。
今回の報道公開で中井氏が強調するのは、地元の企業や団体との協力関係だ。同氏は、麓の集落からの送迎などをサポートする「ASOBINA」を運営するERUKなど、多数の地元企業・団体からのバックアップ無くしては成り立たないと語る。こうした背景もあり、同社ではEcoFlow Houseを軸に環境、観光PR、防災といった3つの視点で伊那市内でさまざまな活動を行なっていくとしている。
報道公開では、地元の食材を使ったメニューを提供するレストラン「kurabe CONTINENTAL DELICATESSEN」オーナーシェフの渡邊竜朗氏らがポータブル電源を使ってガレットやパスタを調理して関係者に振る舞った。今回の取り組みには、「信州錦」などの日本酒を製造する宮島酒店や、地元のリンゴでシードルを作るカモシカシードル醸造所も協力しており、宿泊体験者向けに伊那の食の魅力も伝えていくという。
元々パラグライダー競技の日本代表でもあるERUK代表取締役の呉本圭樹氏は、出身地である伊那市でさまざまなアウトドア・アクティビティの体験サービスを提供しているが、「ヨーロッパに行くたびに気候の変動を肌で感じる。それは日本も同じで、寒暖差が激しくなると上昇気流が発生しやすくなり、大きなフライトができるようになる」と述べ、自然環境を守っていくことの重要性を強調。
同氏は、そう語る一方で「パラグライダーは化学繊維でできており、地上に降りたら電子機器を充電したり、普通に暮らしたり、世界選手権でも電気の確保が大事になる」と電気をはじめとする科学技術の活用にも理解を示す。
EcoFlow House内のデザインを担当したBEE DESIGN 代表取締役の山下勝彦氏は、エアブラシアートや彫刻、壁画を手掛けるアーティスト。屋外で作品の制作を行なう機会も多いという同氏は、「シャッターアートなどでは電源が確保できなくて困ることもある。大きな現場では電気の取り合いになることもあるが、太陽光があればその場で電気ができるとなれば、現場での働き方も変わってくる」と、EcoFlowのソリューションに期待を寄せていた。
アルピニストでもあり、伊那市からの委託を受けて山小屋を経営するファーストアッセント 代表の花谷泰広氏も、「少しシビアな山小屋のような場所でこういうことができれば、小さな歯車から回していって、麓の生活に落とし込んでいけばいい。どんどん高性能になって、環境負荷の低減につながるといい」とコメントしていた。