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定期航空協会 井上会長の基調講演。「人と物の輸送で生まれる価値を次世代へ残すために脱炭素が不可欠」
2022年9月22日 18:46
- 2022年9月22日 実施
世界最大級の旅イベント「ツーリズムEXPOジャパン2022」が9月22日~25日の4日間にわたり、東京ビッグサイト(江東区有明)で開催されている。
初日の基調講演には、定期航空協会会長でANA 代表取締役社長の井上慎一氏が登壇し、「“さぁ、未来の空へ”持続可能な航空業界の挑戦」と題した講演を行なった。今回のツーリズムEXPOジャパンは「観光による気候変動への挑戦」をテーマの1つに挙げており、井上氏が話したのはSAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)を中心とした脱炭素の取り組みについて。
井上氏はまず、これまでの国際的な気候変動への取り組みを振り返り、その原点は1995年にドイツ・ベルリンで開催された「COP(気候変動枠組条約締約国会議)」の第1回会議まで遡り、2022年にはCOP27が予定されていると紹介。2020年までの枠組みとして著名な京都議定書や、2020年以降の枠組みであるパリ協定が温室効果ガスの排出削減に向けた国際的な合意であることに触れたうえ、日本は2020年に当時の菅総理大臣が「2050年カーボンニュートラル宣言」を掲げて、日本政府としての長期目標を設定していることを説明した。
この宣言を受けて日本の航空業界は、国内線はパリ協定の枠組みに沿っている一方、国際線は輸送によって発生するCO2がどの国家に帰属するかを整理するのは難しいため、国連の専門機関であるICAO(国際民間航空機関)によって共通の目標とスキームを設定している、とした。井上氏は「全産業のうち、航空業界が排出しているCO2は2%だが、人類のサステナビリティのために少しでも貢献したいという思いから活動している。私たち自身も人と物の輸送を通じて生まれる価値を次世代へ残すためにサステナビリティへの対応は不可欠」という。
また、航空輸送の脱炭素は技術的に難しいと言われている現実について、井上氏は「我々の大きな挑戦」と表現した。IATA(国際航空運送協会)では、SAF・新技術・運航上の工夫・カーボンオフセット・カーボンキャプチャーなどいくつかの手法を組み合わせる視点と、航空会社だけでなく、政府支援・燃料製造事業者・投資家・航空利用者との連携という視点の2つを持っており、そのなかでもSAFについては、「2050年のネットゼロに向けて最も大きな役割を果たす」と井上氏。
SAFについてはこれまでも本誌で取り上げているが、従来の石油由来の航空燃料(ケロシン)と異なり、動植物油脂やバイオマスなどから製造する代替燃料であり、特徴の1つに空港の給油施設など、これまでのインフラをそのまま使える点が挙げられる(ドロップインフューエル)。水素や電気を現状の航空機(特に長距離)に適用するのは技術的にまだ困難を伴うが、現状の内燃機関とSAFは組み合わせやすいというのが大きなメリットになっている。
とはいえ、SAFを燃料とすることでCO2が出なくなるわけではない。SAFを使っても既存燃料と同様にエンジンからCO2は発生する。SAFがCO2を削減するメカニズムは、飛行中ではなくライフサイクルにある。地中から掘り起こした炭素を大気中に放出する石油燃料と違って、SAFはすでに地上に存在する炭素を活用する「炭素リサイクル」の仕組みによってCO2の削減を果たすわけだ。
それでもSAFでのCO2削減効果は90%にとどまり、残り10%の排出を抑えることができない。そのため、IATAのいう複数手法の組み合わせが有効になると井上氏は説明した。なお、日本製のSAFはまだ商用化されていない。井上氏は「国産SAFの量産化と価格の低廉化は今後の航空業界のカーボンニュートラルに向けて鍵になる」と課題を示した。