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ANA、脱炭素社会への移行を推進するトランジション戦略策定。宮田グループCSO「目標を掲げるだけでなく到達する」

2022年8月1日 発表

ANAホールディングス株式会社 上席執行役員 グループCSO(Chief Sustainability Officer)宮田千夏子氏

 ANAホールディングスは8月1日、2030年と2050年に設定している脱炭素社会に移行するための環境目標の達成に向けて、トランジション戦略を策定した。同社は中期経営計画などで2050年までのCO2排出実質ゼロなどをすでに掲げているが、CO2の削減・相殺・除去という3つの視点から、4つの柱で目標のさらなる推進を図る。

 4つの柱とは、CO2の削減における「運航上の改善」と「SAFの活用」、CO2の相殺では「排出権取引制度の活用」、CO2の除去では「ネガティブエミッション技術の活用」をそれぞれ挙げている。

運航上の改善(CO2の削減)

 細かく見ていくと、すでに取り組んでいるものとしては、ANAがローンチカスタマーとなり配備しているボーイング 787型機に代表される低燃費機材など、「次世代低炭素機材の導入」がある。

 このほか、国交省と連携して混雑空域・時間帯の予測の高精度化、飛行中のリアルタイムな経路の最適化など、航空交通システムの革新でより短い距離で飛べるようにしたり、上空待機を削減したりして燃料のムダをなくす「航空管制の高度化」を行なう。

 さらに、駐機中、地上走行中、離陸中、水平飛行中、降下中など、運航におけるさまざまな段階で燃料の節約を行なう「運航の工夫」によって、CO2の削減を図る。この運航の工夫については、片側のエンジンのみで地上走行する・着陸時のフラップ角を浅くして空気抵抗を抑えるなど、自社で実施できる施策についてはすでに取り入れているという。

 なお、低炭素機材という点では、エアバスやボーイングが2030年~2040年をメドに計画を進める水素燃料機や電動(またはハイブリッド)航空機は、本戦略に含んでいない。これらは動力源が既存燃料インフラとまったく異なるというハードルがあるうえ、初期段階の機体では座席が数十名程度になるとみられており、ANAのフリート戦略には組み込みにくい部分が多いという。将来的にインフラ整備や座席数の拡大(=機材の大型化)も見込まれるが、それは2050年には間に合わないため、CO2削減はSAFの活用が中心になる。

脱炭素へのロードマップと4つの柱(ニュースリリースから)

SAFの活用(CO2の削減)

 そのSAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)だが、既存の化石燃料以外の原料、すなわち動植物油脂やバイオマスなどから製造する代替燃料のことで、業界では2030年までに日本全体の航空燃料の10%をSAFに置き換えるロードマップを策定している。

 SAFは既存の燃料とよく似た性質を持ち、混ぜ合わせることも可能で、貯蔵タンクや機体への給油設備、使用する航空機自体が現状のまま転用できることから、業界の脱炭素には不可欠の存在と位置づけられている。

 ANAは、3月にJALや日揮ホールディングス、レボインターナショナルらとSAFの商用化・普及促進を目指す団体「ACT FOR SKY」を立ち上げて、原料の調達・製造・供給までの国内サプライチェーン構築に力を入れている。同時に2050年には航空燃料のほぼ全量を低炭素化する目標を掲げているが、しかしこれはすべてをSAFに代替するという意味ではない。

 SAFの製造コストやインフラなどさまざまな事情で既存燃料からの100%切り替えは難しいとみられており、CO2の削減割合においてはSAFが60~70%、前述した運航上の改善や新技術などで20~30%に達するものの、100%には届かないという。

排出権取引制度の活用(CO2の相殺)とネガティブエミッション技術の活用(CO2の除去)

 そこで、航空以外のセグメントで削減された排出枠を購入することで、見た目上のCO2削減量を達成する排出権取引制度を一時的措置(短期~中期)として活用する一方、2050年には排出権取引制度に依存しない体制を目指していく。

 排出権取引を活用しても完全にゼロにできない部分については、CO2を回収・吸収・貯留・固定化するネガティブエミッション技術(NETs)の活用で、大気中のCO2を除去して実質ゼロを目指す。

 NETsは工学的プロセスでCO2を除去して排出量をマイナスにする仕組みで、ANAはCO2を大気中から直接回収するDAC(Direct Air Capture)と呼ばれるアプローチなどに取り組む予定という。

 ANAHD 上席執行役員 グループCSO(Chief Sustainability Officer)の宮田千夏子氏は、今回発表したトランジション戦略について、「コロナ禍で行動様式が変わってきたが、一方で人と人が出会うことの意味も強く感じてきた。航空会社として人流・物流で社会に貢献できると思っている。しかし、ESG経営をさらに進めていかないと社会からは認めてもらえない状況になってきている。エアラインは環境負荷への影響もある」と前置きして、「SAFが大きい存在であることは変わりないが、SAFだけでは100%のCO2は削減はできないので、ネガティブエミッションを設定した。リーダーシップを持って先んじて取り組みたい。2050年の目標を掲げるだけでなく、きちんと到達することが必要」と言及している。