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レノボがロビンソン・クルーソー島でワーケーション×ボランティアの社会実験

日本人参加者が語る実際のところ

ロビンソン・クルーソー島

 レノボは、3月中旬~4月中旬にかけてチリのロビンソン・クルーソー島でワーケーションとボランティアを組み合わせたプロジェクト「Work for Humankind」を実施した。6月20日、日本から同プロジェクトに参加したフリーランスクリエイターの山口智氏がメディア関係者のグループインタビューに応じた。

 世界的なPCメーカーのレノボでは、得意とするITを活用することで社会の課題解決を図るプロジェクトを毎年実施しているが、今回は自然保護団体のIsland Conservationと協力し、ロビンソン・クルーソー島の課題解決を目指して参加者がボランティア活動をしながらワーケーションを行なう形になっている。

 ロビンソン・クルーソー島は、南米チリの西の沖合約670kmにある島。島の北岸にあるサン・ファン・バウティスタという町に約900人が住んでおり、島の97%が自然保護地区に指定されるほどの豊かな自然が魅力の島ではあるが、地域の経済はロブスター漁業に大きく依存しているとされる。

「Work for Humankind」に参加した山口智氏

 山口氏が参加したのは、2回実施されたプロジェクトのうち2回目で、世界各国から集まった10人とともに活動した。ライターや獣医、デザイナー、エンジニア、海洋生物学者、都市設計家など、さまざまなジャンルのスペシャリストが集まったという。

 同プロジェクトは、各々のバックグラウンドを生かしたボランティア活動に週20時間取り組むことが条件とされており、それ以外の時間はテレワークや余暇などに自由に割り当ててよいことになっている。

 日本とは13時間の時差があるため、同氏は朝4時~8時と9時~11時を仕事の時間に割り当て、12時~14時にボランティア活動を行ない、その後は20時頃までを自由に使っていたという。

山口氏の1日の過ごし方

 渡航費や宿泊費、朝食と夕食の費用はレノボ側が負担する形で、実質的には昼食代と自由時間にかかるお金が自己負担となる。「現地ではかなりアクティブに自由時間を過ごした」という山口氏。シュノーケリングなどで必要になる機材は現地のダイビングショップなどで実費を支払ったが、それでも1か月ほどの滞在で5万円ほどしか使わなかったのだとか。

 実際に行なうボランティア活動の内容は、同行した2名のプロジェクトマネージャーと現地に着いてからディスカッションして決めていったという。

 山口氏によれば、島だけに魚介類は豊富だが、果物や野菜のほとんどは島の外からの2週間に一度の船便での輸入に頼っており、天気次第ではそれも欠航になるなど、離島ならではの厳しい現実があった。農作地を広げようにも97%が自然保護地区に指定されており、大規模な農場を作ることも難しい。そこで同氏は最初の1週間半でグリーンハウス(ビニールハウス)を作り、パクチーやハーブなどを育てた。

 滞在期間の後半では、自身のマーケティングやリサーチといった特技も活かし、食の観光への活用をテーマに、現地の食文化を伝えるショートフィルムを制作したという。日持ちする玉ねぎやじゃがいものほか、名産のロブスターを使ったメニューの数々はロビンソン・クルーソー島ならではとのこと。

 もともと朝は強いほうだという山口氏にとって、日本との時差はメリットでしか無かったという。参加者の多くも朝早くに起きて、各々がフルリモートで仕事をこなしながら活動しており、論文を書いている学者の隣でYouTuberが字幕を付ける作業をするなど、それぞれが緩やかなつながりを持ちながら合宿生活を送っていたのだそうだ。

 大学卒業後に日本IBMに就職し、その後、香港のスタートアップで働いたり、外資のベンチャーキャピタルでマーケティング・リサーチ業務に従事したりし、現在はフリーランスでWeb制作やスタートアップ企業の支援などを行なっているという山口氏。改めて会社に勤めようと面接もしていたそうだが、同プロジェクトに参加し、いろんな職種の参加者がフルリモートで働き、仕事以外の時間に生き生きと活動する姿を見て、今後もフリーランスで働いていくことを決めたという。

 レノボ・ジャパン 広報の鈴木正義氏によれば、島のダイビングショップ兼カフェだった建物を改装し、高速インターネット接続に対応した「テクノロジー・ハブ」として利用できるようにすることで参加者をサポート。参加者が帰った後もITを活用して地域の課題解決が続けられるように設備を残し、島の課題の一つとされていた教育の観点から同施設を図書館として使えるようにしていくとしている。

レノボが「テクノロジー・ハブ」を開設して、継続的な活動をサポート

 同社では、世界10か国の約1万5000人を対象に働き方に関する意識調査を実施した結果、61%が「どこからでも仕事ができるのであれば、地域コミュニティへ恩返しをしたり、社会へポジティブな影響を残したりすることが非常に重要」と回答したとのことで、今回はボランティア活動をテーマの1つに掲げたという。

 実際にプロジェクトに参加した山口氏は、ボランティアに対する意識も高く、活動を通じて現地のレストランのシェフともSNSでつながっており、今後は一個人としてネット経由でボランティア活動を続けていきたいとしている。