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Uber、タクシーの動的な価格設定「ダイナミックプライシング」を説明。国交省案より幅の大きい「リアルな実装を」

2021年6月1日 実施

説明会でダイナミックプライシングについて説明した、Uber Japan モビリティ事業ゼネラルマネージャーの山中志郎氏

 Uber Japanは6月1日、報道陣を対象とした勉強会を東京都内で開催し、国土交通省が2021年内の制度設計を目指している、タクシー料金の変動制価格「ダイナミックプライシング」について説明した。

にわかに注目を集めている「ダイナミックプライシング」とは

 Uberといば、近年はUber Eatsでおなじみのフードデリバリー事業のイメージが強いかもしれないが、もともとはアメリカでモバイルアプリを利用した配車サービスとしてスタートし、その後ライドシェアサービスを柱として成長してきた企業だ。日本でも、参入当初からタクシー事業者と提携してモバイルアプリを利用した配車サービスを提供しており、モビリティ事業も大きな柱の1つになっている。

 現在Uber Japanは、国内でUber TaxiとUbre Premium(従来のUber Black)という2種類の配車サービスを提供。このうちUber Taxiは2018年に淡路島と名古屋でサービスを開始し、現在では東京を含む全国12都市でサービスを提供。また最近では、外出が困難な高齢者などに向けて、新型コロナウイルスのワクチン接種会場までタクシーの無料乗車を提供するプログラムを11都市で展開する、といった取り組みも行なっている。

日本では、Uber Eatsでおなじみのフードデリバリー事業と、Uber TaxiおよびUber Premiumのモビリティ事業を展開
2018年に淡路島と名古屋でUber Taxiを開始し、現在では全国12都市でサービスを提供
外出が困難な高齢者などに向けて、新型コロナウイルスのワクチン接種会場までタクシーの無料乗車を提供するプログラム

 そういったなか、5月28日に閣議決定された国土交通省の第2次交通政策基本計画のなかで、「大都市部における都市鉄道等の通勤時間等の混雑緩和を促進させる施策の1つととして、ダイナミックプライシング等の新たな政策の効果や課題を十分に検討する」との方向性が示されたことで、にわかに注目を集めているのが「ダイナミックプライシング」だ。

 現在の日本の鉄道やタクシーの運賃は、国土交通大臣の認可を受ける必要があり、営業もその内容に従う必要がある。つまり、基本的には決められた運賃に従って営業を行なう必要があるわけだ。

 それに対しダイナミックプライシングは、利用者と事業者の需要と供給のバランスに合わせて運賃を変動させる料金形態となる。具体的には、タクシーの利用者(需要)が少なく、空車(供給)が多い状況では運賃を安く、逆にタクシーの利用者(需要)が多く、空車(供給)が足りない場合には料金が高く設定される、といったものだ。

 Uberが海外で展開しているモビリティ事業では、このダイナミックプライシングが取り入れられている地域が多く、タクシー(またはライドシェア)の供給状態と利用者の需要状態をリアルタイムに監視して、それに合わせて運賃をリアルタイムに計算、上下させている。これにより、同じ地域で同じ曜日にUberを利用する場合でも、そのときの需給バランスに応じて運賃が大きく変化する。場合によっては、安価な状態の運賃に比べて2~3倍、さらにはより高い運賃が設定されることもある。

 現在の日本のタクシーは、決められた運賃で利用できるため、運賃が変動するという点には違和感があるかもしれない。しかしこれは、航空機の運賃やホテルの宿泊料が、残席数や残室数に応じて変化するのと同じようなもの。そういった意味で、日本でもある程度は受け入れられている料金設定方法と言える。

ダイナミックプライシングは、需要と供給のバランスに合わせて運賃を変動させる料金形態のこと
オーストラリア、シドニーでのダイナミックプライシングの例。時間帯によって料金の割増率が変化している
こちらもオーストラリア、シドニーでのダイナミックプライシングの例だが、日によって料金の割増率が異なっていることが分かる

需給バランスが短時間で解消する? ダイナミックプライシングのメリットとは

 Uber Japan モビリティ事業ゼネラルマネージャーの山中志郎氏は、このダイナミックプライシングの仕組みによって需給バランスが早期に改善され、タクシー事業者、利用者双方にメリットがあると説明した。

 例えば、ある地域でタクシーを使いたい人が急増し、タクシーの数が足りずになかなか捕まらないといった状況や、タクシーを利用したい人がほとんどいないのに空車のタクシーが集まっているといった状況は、日常的に発生している。そういった場合、ダイナミックプライシングが導入されていれば、タクシー利用の需要が多い地域では運賃が高く、需要の少ない地域では運賃が低く設定される。

 これにより、タクシー乗務員の多くが運賃の高い地域へ移動しようと考え、需要の多い地域にタクシーが集まることになる。すると、料金が高くてもよいのでタクシーを使いたいと考える人が、タクシーを短時間で捕まえられるようになる。

 逆に、タクシー需要の少ない地域や時間帯では、運賃を下げることになる。すると、普段タクシーを使わない人が、値段が安いならタクシーを使おうかと考えるようになる。また、地域のスーパーなどと連携して、客の少ない時間帯にスーパーまでのタクシー運賃を安くして集客を図る、といったプロモーションも行なえるようになる。

 こういったことにより、需要の多い場面や需要の少ない場面のどちらにおいても需給バランスが改善され、利用者の利便性向上と、タクシー事業者の利用率向上、ひいては売上向上につながるという。

 現在の日本のタクシーは、実車率(乗客を乗せて営業している割合)が平均で35%ほどだというが、タクシーにダイナミックプライシングを取り入れることで、実車率が高まり、売上も上がると予想されるため、タクシー乗務員の働き方も大きく変わる可能性があると山中氏は指摘した。

タクシー乗務員に需要が急増し運賃が割増となっているエリアが伝えられることで、そのエリアにタクシーが集まり、需給バランスが早期に改善される
ダイナミックプライシングを取り入れることで、タクシーの実車率が高まり、売上も上がると予想され、タクシー乗務員の働き方も大きく変わる可能性があると山中氏は指摘した

実証実験で効果は確認済み。日本でのダイナミックプライシング導入の可能性は

 日本でのタクシーの売上は、1990年代をピークに減少が続いているという。ただ山中氏は、ダイナミックプライシングを導入することでオフピーク時の新規需要の開拓などによって新しいユーザーが獲得でき、売上を高められるとの見解を示した。

 まず、その根拠として示したのが、Uberアプリでのタクシー配車利用者の年齢層だ。現在の国内タクシーの売上は、50歳以上の利用者が約64%を締めているという。それに対しUberアプリ配車の利用ユーザーは50歳未満が75%を締めているそうで、ダイナミックプライシングはアプリ配車で導入されることになるため、アプリ配車に慣れている50歳未満の新規顧客層を開拓できる可能性が高いと説明。

日本では1990年代をピークにタクシーの売上は減少が続いている
ダイナミックプライシングの導入でオフピーク時の新規需要の開拓が期待できる
Uberアプリ配車のユーザーは50歳未満が75%。ダイナミックプライシングを導入するとアプリ配車に慣れている層を開拓できる

 また、Uber Japanは2020年11月から2021年4月にかけて、広島、京都、名古屋で割引プロモーションを利用した実証実験を行なったという。

 その結果、20%の割引を設定した広島、最大40%の割引を設定した京都、名古屋ともに、割引によって運賃単価は下がったものの、乗車回数、乗車距離、利用総額はすべて増えたという。特に名古屋の実験では、40%引きの運賃を設定した場合に乗車回数は117%増、乗車距離は12%増、利用総額は46%増と、いずれも大きな伸びを示しており、運賃の引き下げがタクシー事業者の売上増につながると指摘。

 合わせて、実証実験を行なう当初は、はじめこそ利用者が増えてもそれ以降は伸び悩むのでは、と考えていたところ、京都、名古屋ともに週を重ねるごとに利用者が増えていったという。

 こういったことから、日本でもタクシーへのダイナミックプライシング導入は十分にメリットがあり、右肩下がりとなっているタクシー業界を大きく変える可能性を秘めていると説明した。

2020年11月16日から7週間、広島で実施した実証実験では、運賃を20%引いた場合に1人あたりの利用額は15.7%増えたという
京都で2021年2月15日から8週間行なった実証実験では、割引率を最大40%に設定したところ、割引率が高いほど利用総額が増加
名古屋で2021年2月15日から8週間行なった実証実験では、割引率が40%の場合で利用総額が46%増と大幅な増加を記録している

課題はダイナミックプライシングの制度設計

 続いて、Uber Japan 政府渉外・公共政策部長の西村健吾氏が、ダイナミックプライシングの課題について説明した。

 西村氏は冒頭、国土交通省が取り組むダイナミックプライシングの制度設計について、「いくつかの要素が欠けていると、実効性の乏しいフェイクなダイナミックプライシングになってしまうので、需給調整がきちんと働くリアルなダイナミックプライシングをぜひ実現してよい形で導入していただきたい」と述べつつ、現時点での課題を2つ示した。

 1つは、価格設定だ。海外の例や国内の実証実験などからも、変動幅が大きいほど需給調整が効きやすいという結果が得られていることもあり、可能な限り上下とも変動幅を大きくして検討してもらいたいという。国土交通省は、「まず上は20%、下は10%の変動幅といったところから実施したい」と公言しているそうだが、西村氏は「ダイナミックプライシングが導入されることは大事だが、変動幅をもっと大きくしてもらいたい」と注文を付けた。

 西村氏は、もともと国土交通省に在籍していたそうで、深夜割増で20%増、障がい者割引で10%引きという、現在の割増・割引の枠内で実施したいとする国土交通省やタクシー業界の考え方にも理解を示しつつも、それでは「リアルなダイナミックプライシングの実現には道半ば」と指摘し、よりフレキシブルに変動幅を設定してもらいたいと述べた。

 もう1つの課題として指摘したのが導入タイミングだ。現時点での国土交通省の目標では、2021年度内に実証実験を行ない、2022年に本格実施をするというスケジュールが公表されている。そのスケジュールでは、より大きな変動幅を導入するとしても2020年度の本格実施による効果を見てからとなるため、2023年以降となってしまう。「低迷しているタクシー産業の需要を大きく伸ばすには、変動幅の大きい、リアルなダイナミックプライシングを前倒しで導入してもらいたいし、我々も(国土交通省に)働きかけていきたい」と西村氏は述べ、説明を終了した。

ダイナミックプライシングの課題について説明した、Uber Japan 政府渉外・公共政策部長の西村健吾氏
西村氏は「需給調整がきちんと働くリアルなダイナミックプライシングをぜひ実現してよい形で導入していただきたい」と述べ、変動幅の大きなダイナミックプライシングの導入を提言した

「事業者に分かりやすく説明していきたい」

 その後の質疑応答では、主に山中氏が回答した。

 まず、ダイナミックプライシングを導入する場合にどれぐらいの変動幅が望ましいのか、という質問に対し、「海外の事例や日本での実証実験から考えると、変動幅が大きい方が効果があるのは明白」と述べつつ、「どのレンジで始められるのかは、誰に聞いても違う答えが返ってくるといった状況なので、我々パートナーのタクシー会社や国土交通省と議論し日本での展開について考えを深めていきたく、現時点では明確な数字は決めていない」と回答。

 ダイナミックプライシングを導入する事業者と導入しない事業者が混在することによる混乱は考えられるか、という質問に対しては「利用者がアプリに利用場所と目的地を入力した場合に、料金がどれぐらい割増、または割引になっているか、はっきり分かるような体制を構築する必要がある。流しのタクシーはメーター料金、ダイナミックプライシングはアプリ配車で事前に金額が分かる形にすることで、混乱を避けるように進めることになると思う」と回答。

 タクシー業界からはダイナミックプライシングの導入に反対する声も聞こえるが、どのように対応するのか、という質問については「我々Uber Japanのパートナー事業者に限っては、実証実験などの結果も見えているので、非常に前向きな声をいただいている。乗務員の方からは不安の声も聞こえてくるが、我々の実証実験の結果なども示しつつ、分かりやすく説明していきたい。国土交通省も2021年度中に実証実験を開始するとしているので、そちらも合わせて理解していただけるように働きかけたい」と回答した。