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手荷物コンテナを空港~駐機場でレベル3自動搬送。GNSS・LiDAR・スキャナで自律走行するクルマを見てきた
ANAと豊田自動織機が羽田でトーイングトラクター自動運転の実証実験
2021年4月1日 07:00
- 2021年3月29日~4月2日 実施
ANA(全日本空輸)と豊田自動織機は、新開発の自動運転トーイングトラクターによる実証実験を羽田空港で報道公開した。実験期間は3月29日から4月2日の5日間を予定している。
トーイングトラクターは空港内などにおいて、旅客の手荷物や貨物を収納したコンテナを運搬するための車両。羽田空港においてはANAだけで200台あまりが使用されており、人員確保の難しさや省力化の面から自動化を見据えた技術開発を進めている。両社は2019年2月からその実用化に向けた取り組みをスタートしており、これまでに佐賀空港(九州佐賀国際空港)およびセントレア(中部国際空港)において実証実験・試験運用を実施。その成果を踏まえ、国内最大の羽田空港においての実証実験を行なうことになった。
これまで用いられていたのは試験車両の域に留まったモデルだったが、今回の実証実験に用いられているのは実用的な牽引・登坂性能を持ち、各種センサーを搭載することでレベル3相当の自動運転を実現。加えて外観デザインや内装にもこだわった完成度の高い車両で、2022年以降の販売を視野に入れている。両社は今後、2021年10月に羽田空港で実運航便による試験運用を経て、2025年には無人搬送の実現を目指す。
実績のある豊田自動織機製トーイングトラクターがベース
車両の主な仕様
ベース車両: トヨタL&Fカンパニー製電動トーイングトラクター 3TE25
乗車定員: 2名
サイズ: 3680×1793×2394mm(全長×全幅×全高)
重量: 5260kg
自動走行タイプ: 車両自立型
自動レベル: レベル3相当(運転席にはドライバーが乗車)
車両のベースとなったのは2017年に発売したトヨタL&Fカンパニー製電動トーイングトラクター「3TE25」で、これまでに750台あまりの販売実績があるというモデル。ただ、羽田空港の場合、巨大エアポート故の広さはもちろん、橋やアンダーパスに由来する坂道が点在しており、荷物を牽引してクリアできるか否かを事前に走行してチェックを行なったという。
自己位置推定には衛星電波(GNSS)を測位するアンテナのほか3D-LiDAR(ライダー)、ジャイロセンサー、路面パターンマッチング用カメラを搭載。これらを組み合わせることで「さまざまな屋内外をシームレスに自動走行することが可能」だという。障害物の検知には3Dライダーおよび2Dレーザースキャナを利用することで、近距離から遠距離まで全域をカバー。そのほか、キャビンには自社開発の樹脂ウィンドウを採用することで、デザイン性はもちろん軽量化、運転席からの視野を向上しているとアピールした。
今回の実験は羽田空港北端の制限区域内、西貨物地区で行なわれ、第1ターミナル側にある西貨物上屋をスタート。コの字形に走行して首都高速上をパスし、第2ターミナル側にある407番スポットまでの約3kmを15分ほどで結ぶ。
当日実施したメディア向けの試験では、駐機場のコンテナ積載スペースまで自動で走行する様子のほか、一時停止では自動的に停止しドライバーの指示(車両内ディスプレイのボタンを押す)により再スタートするシーンも見られた。
「業務のシンプル&スマート化」を目指す
事前に行なわれた説明会では、ANA 執行役員 オペレーションサポートセンター長 兼 空港センター長の要海昌樹氏が登壇した。
要海氏はまず、自動化の推進にあたっての背景を説明。まず、飛行場では航空機が到着すると、1機あたりおよそ10名のグランドハンドリングスタッフが荷物の積み降ろしなどの作業に携わり、それは「ここ何十年も同じような」人手に頼ったものだったと振り返る。
現状ではコロナ禍の影響により余剰人員が発生しているものの、今後の事業回復、生産年齢人口の減少を見据え、安定的なオペレーションを継続するためには省力化は必要不可欠。そこで、自動運転やロボットの活用など新しい技術を活用し、少ない人数と労力で誰にとっても働きやすい環境を目指す「業務のシンプル&スマート化」について継続して取り組みを続けているとした。
自動運転については空港の場合、「制限速度30km/h」「人や自転車の飛び出しがない」と、一般道より条件的に恵まれていることから、トーイングトラクターの自動化および自動運行バス(レベル3)と、今後もこの2つの導入を目指していく。
なかでもトーイングトラクターについては2018年から実験を拡大してきており、今回は「いよいよ本丸である羽田空港」での実施を迎えたと、これまでの成果を背景に自信を見せつつ、さらに「10月からは同車両で実際のオペレーションに導入していき、2025年には無人化を図っていきたい」と展望を語った。
続いて車両開発を担当する豊田自動織機 執行職 トヨタL&Fカンパニー R&D センター長の一条恒氏が登壇。同社では将来の物流の姿として「スマート物流」を掲げ、「自動的に情報収集、判断、指示、確認をしながら人の介在なくモノのオペレーションを実現」すべく、さまざまな開発を続けてきたと前置きした。
ANAとは2019年から空港業務の効率化に向けて協調しており、今回使用する車両は佐賀空港、セントレアにおいて実証実験を行なった成果をもとに、「ハードウェア的には走行性能、牽引力の向上など」「ソフトウェア的には自己位置推定、経路計画、自動運転制御などの大幅な精度向上」のバージョンアップを行なったものであると説明。
2022年10月の販売および2025年の自動運転実施に向けて、今回の実証実験および10月には実運用における試験運用を繰り返し、大規模空港での導入における課題の洗い出し、問題の解決に向け開発を推進していくと述べた。
さらに、ANA 執行役員 オペレーションサポートセンター 品質企画部 オペレーション企画チーム リーダーの岡田稔氏が実証実験の概要を説明。
まず、グランドハンドリング業務におけるイノベーションの方向性として、業務のシンプル&スマート化を目指すと説明。これには「労働集約型からの脱却」「持続可能な体制構築」「国、自治体、空港ビル、エアラインの相互連携」の3点が重要だと述べた。
現在は「手荷物の自動積みつけ」「空港内外バスの自動運転」「ロボットスーツの活用」「リモコン式航空機牽引器の活用」などに取り組んでおり、トーイングトラクターの自動運転もそうしたものの1つになる。
開発のポイントは2つあり、「航空機が駐機するランプエリアには目印がなく、平面空間のなかで建物のような大きな航空機が出入りする、そういった環境のなかで自分の位置を精緻に特定しながら走行する」こと、もう1つは「空港の走行経路はすべてが供用経路であり、1つのエアラインだけで独自に自動運転の設備を設置していくことはできない」ことだという。
このため、現状では車両側に求められる機能が多くあり、これまでに2018年度に佐賀空港からスタートしてセントレアでの実験、佐賀空港内で実際のオペレーション便での試験運用などを実施。そして今回は羽田で初めて実施となるうえ、新開発の車両を投入すると説明。「今回の実証実験を通じて技術的な課題や運用面での課題を確認したうえで、今後の本格的な自動走行のオペレーションへの導入、あるいはそのほかの業務の自動化との連携を通じて具体的な省人化」および「空港支援業務におけるシンプル&スマート化の確実な推進」に向けて取り組んでいきたいと締めくくった。
最後に豊田自動織機 トヨタL&Fカンパニー R&D センター AR プロジェクトの渋谷修氏が車両概要についての解説を行なった。渋谷氏はこれまでに試験運用を行なった佐賀空港とセントレアでは、牽引荷物が2両、3両と少なく、また平坦な路面で交通が少ない環境だったものの、他車両混在環境下のなかで問題なく自動化できることを確認できたと言い、これにより「技術開発の目処付けおよび技術課題の把握が完了」したと自信を見せた。
今回の試験運用ではこれまでの成果を踏まえ、「国内最大の規模である羽田空港での導入を見据え新型車両を開発」したと説明。