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エア・カナダのビジネスクラス「シグネチャークラス」に乗ってみた。バンクーバー発便では独創的な“和風料理”提供
2020年3月16日 15:16
日本4空港からカナダを結ぶフライトを運航するエア・カナダ。太平洋側の玄関口となるバンクーバー国際空港に、ビジネスクラス搭乗客のみが利用できるプレミアムラウンジ「シグネチャースイート」をオープンしたことは別記事「エア・カナダ、バンクーバー空港にレストラン風の新ラウンジ『シグネチャースイート』新設。ビジネスクラス乗客だけが利用可能」でお伝えしたとおりだ。本稿では、そのシグネチャースイートと併せて利用することになるビジネスクラス「シグネチャークラス」に搭乗した際の様子をお届けする。
エア・カナダの日本~カナダ線は、現在新型コロナウイルスの影響による運休便も出ているが、スケジュール上は羽田~トロント、成田~バンクーバー、成田~モントリオール、成田~カルガリー、夏期には関空~バンクーバーといった路線を運航している。
今回搭乗したのは成田~バンクーバー線となるが、太平洋路線における“玄関口”となる空港を結んでいる路線でもある。エア・カナダ アジア・太平洋地区 統括支社長のワイス貴代氏によると、成田~バンクーバー間のみの利用者が大半だというが、アジアや米大陸の各都市へ向かうための乗り継ぎ地として、飛行時間が短めで、第三国を含めてその先を結ぶ路線が多い成田(東京)とバンクーバーを結んでいるというのは本路線の大きな特徴だ。
さて、今回の成田~バンクーバー線では、往復ともボーイング 787-9型機に搭乗した。シグネチャークラスと名付けられているビジネスクラスは30席を用意している。
ビジネスクラス搭乗客は、成田空港、バンクーバー空港ともにプライオリティチェックインが利用できるが、バンクーバー空港では入口近くに設けられているエア・カナダのプライオリティチェックインの専用カウンターを利用可能だ。また、3月14日にオープンした「シグネチャースイート」のほか、従来から設けられている「メープルリーフ・ラウンジ」で出発までの時間を過ごすこともできる。
エア・カナダのボーイング 787-9型機内は白とライトグレーを基調にした透明感のある雰囲気で、「シグネチャークラス」と名付けられているビジネスクラスは30席。1-2-1の全席通路にアクセス可能なレイアウトで、進行方向に対して席を斜めにした“ヘリンボーン”型と呼ばれる座席配置をとっている。
座席は上半身部分が隠れるようなデザインで、窓側の各1列と、中央側の2列とはほんの少しだが前後にずらして配置することで、隣の人の存在を感じないよう配慮されているようだ。
シートはフルフラット化が可能で、リクライニングやフラット化の操作はシート脇のタッチパネル式ディスプレイから行なえる。このタッチパネルからは、エアマットを利用したシートの柔らかさを変更することなどもできる。また、ボーイング 787型機のウィンドウシェードの明暗変更や、頭上の読書灯、足下のフットライトのオン/オフ、CA(客室乗務員)の呼び出しなど、さまざまな機能がこの1画面に集約されている。
シートは非常に長い印象で、普通の座位ではオットマンに足が届かない。脱出に影響がない範囲で、もう少しオットマンが長いと足が乗せられてラクなのにな、と思う。ちなみに、このオットマンはフルフラット時にはシートとつながり、長さに余裕のあるベッドを作るのに役立っている。
シートまわりは“収納”と呼べるスペースこそ限られているものの、サイドボードが非常に広く、ここに手回り品を置けるのが便利だ。
サイドボードの前方寄りには蓋付きの収納がある。収納スペースとしては500mLクラスのペットボトルが余裕で入り、ACアダプタとスマホを一緒に入れられる、わりと余裕のあるサイズだ。
この中にユニバーサルAC電源、USB電源、ノイズキャンセリングヘッドフォン用の音声出力端子が備わっており、蓋を閉じた状態で利用できるよう、ケーブルを通すためのすき間も設けられている。
シートモニターは18インチと大きめ。シート自体がタッチパネルに対応しているが、座席からは距離があるので、脇の収納スペースにある液晶付きコントローラを活用するのが便利だ。コンテンツによってはコントローラ側の液晶に表示できるものもあるが、基本的にはコンテンツ自体はシートモニターに表示され、コントローラで操作を行なうという使い分けになる。
コンテンツは映画、テレビ番組、音楽、ゲームと一般的なジャンルはカバーされているうえ、コンテンツ数はかなり多い。便利なのはコンテンツの絞り込み表示機能で、「残りの飛行時間内に収まるコンテンツ」「選択した言語に対応しているコンテンツ」のみを絞り込んで表示することができる。
このほか、機内エンタテイメントの観点で、Wi-Fiインターネットサービスを提供している点にも触れておく。自分のスマホなどから接続できるもので、速度が2段階となっており、低速の接続は1時間で9.25カナダドル(約720円、1カナダドル=約78円換算)、1フライトで27カナダドル(約2110円)、乗り継ぎ先でも利用できる1日プランで34.95カナダドル(約2730円)。高速の接続は1時間で11.5カナダドル(約900円)、1フライトで33カナダドル(約2580円)。このほかに低速接続を1か月利用できるプランが89.95カナダドル(約7020円)で提供されている。
成田~バンクーバーに限っていえば、ちょっと使いたいが1時間ではちょっと足りない、というのがプランを見た際の率直な印象で、他社でも多く見られる3時間というプランがあるとありがたいように思った。1フライトで2000円強という価格帯は標準的な価格帯であり納得できるものなのだが、もう一つ選択肢がほしいと思った次第だ。
アメニティは「WANT Les Essentiels」とコラボしたポーチに、バンクーバーに拠点を置く「VITRUVI」のスキンケア用品をセットにしたもので、日本発便、カナダ発便ともに同じもの。スキンケア用品は、VITRUVI VOYAGEのリップバームとハンドクリームが収められている。
そのほか、アイマスクや靴下、歯ブラシセット、耳せん、クロスがセットになっている。クロスは空港の3レターコードが描かれた旅好きには響きそうなアイテムだ。余談だが、クロスにはHND、NRT、KIXのほかにNGOも記載があり、2019年は夏季も運航されなかったセントレア便の再開にも期待したいところだ。
さらに余談だが、ラバトリーのハンドソープにも「VITRUVI」ブランドの品が使われている。ラバトリーはカナダらしいメープルリーフが壁面に描かれるほか、窓も付いていて、ここも興味を引く空間となっている。
このほか、搭乗時にスリッパ、寝具が用意されている。寝具は枕、マットレスパッド、掛け布団の3点。マットレスパッドは用意していない航空会社も多いが、椅子のための生地と、布団のための生地は違うということを、ほんの1枚の差で認識させられ、心地よさを高めてくれる。
生地以外の寝心地の点では、このシートは極端に横幅が広くなく、寝返りなどにはやや狭さを感じる一方で、適度に包み込まれる感じがあって落ち着く空間でもある。このあたりは使う人の好みもあるように思う。このほか、身長177cmの記者でも足下はまだかなりの余裕があり、長さ方向での窮屈さを感じる人はかなり長身な人に限られるだろう。
シートテーブルも使い勝手がよい。通常は折りたたまれた状態でシートモニター近くに固定されており、テーブル底面側のレバーでロックを外して手前に引き出す。そして折りたたまれている板を開けば、かなりの大きさとなる。
テーブルの位置は多段階で調整が可能なので、シートのリクライニング角など利用状況に応じて位置を調整可能だ。また、一番奥に押し込めば、開いた状態でも通路へ出入りできる程度のスペースが生まれるので、食事やノートPCなどをテーブルに置いていても、片付けることなくトイレなどへ行くことができる。
機内食は、成田発便は出発直後にボリューム多めの夕食、着陸直前に朝食としてブランチを提供。バンクーバー発便は出発直後にボリューム多めの昼食、着陸直前に軽食を提供するのが基本となる。ただ、乗客の機内の過ごし方に合わせてくれるので、例えば出発してすぐ寝たい人はボリュームの多い機内食をあとで提供してもらうといったことが可能だ。
今回の成田発便では、1食目に和食、2食目にオムレツをチョイスした。1食目はほかに牛フィレ肉や鶏肉のメニュー、健康志向のメニューなどを選択できる。
和食は日本のケータリング会社が担っているだけであって、しょう油の風味がしっかりと付いた普通の和食。金目鯛の煮付けは味もしっかりしており、しっとりと炊き上がったお米とよく合う。小鉢もヘルシーな和食らしい品物が並んだ。
2食目の軽食は、オムレツのほかにチキンカレーを選べ、チキンカレーは機内によい香りを漂わせていたのだが、1食目にボリューム十分の食事をいただいたあと4~5時間後の食事(しかも日本時間の体だと深夜の時間帯)だったので、カレーに手を出せるほど、お腹の元気が残っていなかったのが悔やまれる。フライト時間の短さがデメリットになる数少ないシチュエーションかも知れない。
バンクーバー発便は、モントリオールを拠点にするオーナーシェフ、アントニオ・パーク氏による「和風料理」(メニューにこう書かれていた)が提供されている。一方で、洋食メニューでは、新たにオープンした「シグネチャースイート」の料理監修を務めているデイビッド・ホークスワース氏特製料理も提供されており、有名シェフによる和洋メニューを楽しめる贅沢な内容となっている。
今回は、アントニオ・パーク氏による和風料理を頼んでみた。ちなみに、パーク氏監修の和風料理は2食目の軽食でも選択できる。
いずれも、“和食”のイメージで口にしたので、最初は違和感があった。ただ、和食を作ろうとしてるけどなにかが違う“なんちゃって和食”のような感じではなく、違うジャンルの食事として素直に美味しい。
例えば、和食というとしょう油や味噌のような発酵した調味料が使われ、パーク氏の料理でもこれらが使われているのだが、口にすると舌には味噌やしょう油の味が残るが、発酵食品のそれではあり得ないスッキリとした風味が鼻を抜けるように味付けしている。焼きそばにしても日本で使うようなソースではなく、こちらは逆にしょう油をベースにしたもので、どちらかというとすき焼きの最後にうどんを入れた状態を、少し爽やかかつ上品な味にまとめた感じだ。
このあたりが、「和風料理」と表現するゆえんなのかなと思う。言ってみれば、コンテンポラリーなレストランで出てきそうな、新たなジャンルの日本風料理という見方をするとよいのだろう。新しい世界に出会ったようであり、パーク氏が作るほかの料理にも興味をかき立てられている。