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日本旅行業協会、田川会長が新春会見。「国際観光旅客税」の使途や「てるみくらぶ」事件再発防止策を語る

「『ツーリズムEXPOジャパン』を世界3大観光イベントに」

2018年1月10日 開催

一般社団法人日本旅行業協会 会長 田川博己氏

 JATA(日本旅行業協会)は1月10日、東京・霞ヶ関の本部で新春記者会見を開催。

 会長の田川博己氏が年頭所感を述べた。

観光の存在感はますます大きくなり、インバウンドの伸びは継続

田川会長:2017年を振り返ると国際観光ではポピュリズムの台頭や相次ぐテロ事件にもかかわらず、安定した経済に支えられ、UNWTO(世界観光機関)の発表では2017年1~10月で7%の伸びを示しました。

 2016年の国際観光旅客数は12億3500万人、観光が占める世界のGDPへの貢献は10%、10名に1人の雇用を生み出すまでになり、観光の存在感はますます大きくなっています。

 日本国内を振り返ると海外旅行はさまざまな事件やリスクにかかわらず伸び、1800万人前後となり、国内旅行も回復傾向に入ってきました。インバウンドは3000万人に迫る勢いで、この明るい兆しは2018年も継続すると考えています。

 旅行会社の取り扱いを振り返ると50社統計の2017年1~9月では、旅行会社の取り扱いの海外旅行が、市場の伸びを上回りました。海外旅行が好調な要因は、「1.ヨーロッパの復調」「2.中国の伸び」「3.韓国が北朝鮮問題があるにもかかわらず前年並みに踏みとどまった」以上のことが考えられます。

「国際観光旅客税」の使途は日本人も恩恵が感じられるものに

田川会長:2018年を漢字一文字で表現すれば「備」ではないでしょうか。我々はかつての旅行業法改正に匹敵する「変革の時代の幕開け」を迎えています。これは今後日本のツーリズム産業が責任を持って持続可能な発展をするための変革であり、旅行業界もしっかりと対応したいところです。

 まず何より2019年から導入予定の「国際観光旅客税」があります。双方向交流をキーとした「交流大国こそ観光先進国」であるとの観点で、海外旅行の促進策や次世代の観光立国を実現させるための政策提言をしていきたいと思っています。

「国際観光旅客税」は2019年1月からの導入となり、各社システム改修やパンフレットの準備など、限られた時間で円滑な導入に向けて準備を進めていかなくてはなりません。

 また、税の使途については観光に限って目的税的に使用することが実現できそうで、一安心しているところです。また、補正予算や2018年予算において「旅行安全等に関する情報プラットフォームの構築」予算が組まれました。海外旅行における「安心・安全」に関する事案で、旅行会社がかかわる仕組みに予算がついた、画期的な出来事であります。2019年予算では、若者の海外旅行を増やす案件や、二国間交流の活発化などに向けて働きかけていきたいと考えています。

「てるみくらぶ」のような悪例を再び起こさないために

田川会長:2017年に発生した「てるみくらぶ」の事件については、再発防止を目指すガバナンスの強化策や、弁済制度の改正があります。事後処理より事前防止に重点を置いて、業界の信頼回復を図りたいと考えています。

 2017年12月22日に、「てるみくらぶ」事件の債権者への弁済金の振り込みが完了しました。このようなことが再び起きないように、観光庁と打ち合わせをしてきました。業界の自主ルールとして、原則旅行の申し込み金は全額の20%以内、残金は旅行日の2カ月前を過ぎてから収受という厳しいガイドラインを作りました。これも事前に多額を集金するてるみくらぶの悪例を再び起こさないためです。このルールを定着させるために、通報制度も4月から始めます。

 また、この機会に「ボンド保証制度」(通常JATAに支払う弁償金以上の保証金を旅行会社が供出し、旅行者を保護する制度)を普及させたいと考えています。海外募集型企画旅行の1%相当を積むという制度で、弁済制度を補う消費者保護の制度として高く評価されており、JATAとしてもPRしますので、各社もパンフレットなどでより大きくアピールしてほしいです。これをお客さまが旅行企画を選ぶ際の基準の一つにしていただきたい。

「ランドオペレーター」や「通訳案内士」の制度を改定し、インバウンドビジネスを充実

田川会長:旅行商品内の宿泊先や交通手段の手配などを行なう「ランドオペレーター」の登録制度や、「通訳案内士」の制度が改定されましたが、これはJATAがこれまで要望してきたことであり、我々が運用している品質認証制度と合わせて質・量の両面を充実させる改革です。

 JATAではこれまでランドオペレーター業務が無法地帯であったことに警鐘を鳴らしてきました。2013年からはツアーオペレーター品質認証制度を開始し、現在51社が認証を受けています。この審査にはプライバシーマークの取得が義務付けられ厳しい審査を合格したうえで認証されています。

 制度改定によって登録と管理責任者の選任・研修が義務付けられたことは、リピーターが増え、個人化や地方分散が進みつつある今だからこそ、重要と考えています。

 通訳ガイドの不足、ガイドニーズの多様化に対応すべく改定された通訳案内士制度と合わせてインバウンドビジネスを充実させるものであり、定着化に向けて全面協力していきたいです。

記念の年を迎えるフランス、ロシア、スペインなどとの二国間交流に尽力

田川会長:市況は堅調とはいえ、市場は成熟化し、販売チャネルも多様化しています。このような変化する環境に対し、海外旅行は2年目を迎えるアウトバウンド促進協議会の活動を進めていきたいと考えています。

 企画プランナーのためのセミナー、各部会ごとの活動などです。ヨーロッパ部会では「美しい街道」、東アジア部会では「世界遺産級台湾30選」などで成果が出始めています。

 2018年は日本との関係が深い国々が記念の年を迎えます。日仏友好160周年、ロシアにおける日本年、スペイン外交関係樹立150周年、メキシコ外交関係樹立130周年、日中平和友好条約締結40周年、インドネシア外交関係樹立60周年などです。こういった二国間交流にもJATAとして尽力してきたいと思います。

地方自治体やDMOとの連携を一層強化

田川会長:国内旅行では、地方自治体やDMOとの連携を一層強化し、観光資源の磨き上げや、受け入れ体制への参加など、旅行会社ならではの価値づくりを進め、国の重要政策の一つである地方創生に貢献していきます。

 DMOは157の候補のうち、41法人が正式に登録されました。これらDMOが自立して活動できることが地方創生のカギと考えています。

ツーリズムEXPOジャパンを名実ともに世界3大観光イベントに

田川会長:世界最大級の旅イベント「ツーリズムEXPOジャパン2017」では主催者にJNTO(日本政府観光局)が加わり、新たな段階に入りました。実行委員長として3つのことを心がけたいと思っています。

 1つ目は観光を取り巻く時代の変化や、観光の裾野の広がりを見える化した、文字どおりの「観光博覧会」にすること。2017年は日経新聞社との共催で「インバウンド・観光ビジネス総合展」を開催し、インバウンドの新しい技術の数々を紹介しました。環境省とエコツーリズムの関係者で、国立公園についてVRを利用したコンテンツも評判でした。産業観光は各地で有力な誘客のコンテンツにもなってきていると感じます。

 また、パラスポーツの体験コーナーも非常に好評でした。2019年のラグビーワールドカップ2019、2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会、2021年のワールドマスターズゲーム2021関西と続くスポーツのゴールデンイヤーを控え、スポーツツーリズムのカタチも見せられたらと。

 2つ目は経済効果。世界最大級の展示商談会を核とするB to Bの完成を行ない、来年以降の地方開催につなげる年とします。地方での開催での経済効果は、商談を除いても25億円あるという説明をしています。何より旅行会社、観光関係者にビジネスの場、商いの場であることを実感できるように作っていきたいです。2日間の商談展示会を完成させることが極めて重要です。

 3つ目に名実ともに世界3大観光イベントとすること。2017年の各国観光大臣会合を開催し、成功させたことが大きいと感じています。UNWTOの2018年のイベントカレンダーにもツーリズムEXPOジャパンは掲載されています。

 2月に山形で開催される「UNWTO雪と文化の世界観光会議」とも協力して、世界のツーリズムと日本をつなぐ役割を果たしていきたいです。JATAではこれまで培ったUNWTOやWTTC(世界ツーリズム協議会)、PATA(太平洋アジア観光協会)などと連携して、民間主導で国際活動を牽引していきたいと考えています。

 2019年は年明けに国際観光旅客税が開始。春には統一地方選挙、7月に参議院選挙、平成の年号も変わります。日本初のG20、アフリカ開発会議など、対処すべきイベントが山積みの年が控えています。ツーリズムEXPOジャパンも初めての地方開催となります。これら大きな変化の潮流に備え、「攻めのディフェンス」を展開する。それが2018年の「備」だと思います。「国内」「海外」「訪日」を三位一体で進めるためJATAに期待されることは大きいと思います。その期待に応える年にしたいと考えています。

若者の海外旅行や留学の減少に危惧

 田川会長が年頭所感を述べたあとには、質疑応答の時間が設けられた。

 国際観光旅客税については1人1000円ということで、現状だと約4000万人で概算400億円が観光分野に使われる。これについてはインバウンド施策はもちろん大切としたうえで、やはり日本人も恩恵を感じられるような、例えば海外旅行に出かけたときの安全や安心感につながる使途になれば、あとは若者の海外旅行促進のためになればと答えた。

 合わせて若者の海外旅行離れについても言及。若者が海外旅行に出かけないことも問題だが、留学生が激減していることに危機を感じると述べた。アメリカのとある大学教授と話した際、アジアからの留学生が10人いると、5~6人が中国人、3人ぐらいが東南アジアから、日本人は1人いるかいないかという状況だという。これまではノーベル賞で日本人の名前を見ることも多い歴史があるが、将来の日本のために、人材育成・人材交流のためにも若者が海外に出ることの重要性、それが翻って重要なマーケットになると述べた。

 日本の観光地はナイトエンタテイメントが弱いのではという意見には、もちろん風営法などもあるが、例えば商店街が通常の営業時間を終えたあとに、別のスタッフが別の業種で夜に営業して成功している例などもあり、「旅行者の遊ばせ方」について地方創生とセットでMICE(「Meeting」「Incentive tour」「Convention/Conference」「Exhibition」)やIR(統合型リゾート)などと合わせて考えていくべきと話した。

質疑応答に対応する田川会長(左)と理事・事務局長の越智良典氏(右)