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東京メトロと法政大学、学生による駅構内ボランティアの事前講習会を総合研修訓練センターで実施
「見守る目」を強化する取り組みの一環
2017年6月4日 06:00
- 2017年6月3日 実施
東京メトロ(東京地下鉄)と法政大学は、学生による駅構内でのボランティア活動を6月21日から飯田橋駅で実施する。これは、東京メトロ沿線にキャンパスを持つ法政大学が以前から学生センターに「ボランティアセンター」を設置し、学生によるボランティア活動を積極的に行なっていたことから同社が提案し、実現したもの。活動時間帯は10~16時。
実施に先立ち、ボランティア活動に参加する学生20名を集めて、東京メトロの総合研修訓練センター(東京都江東区新木場)で事前講習会を行なった。なお、定員20名のところ70名近い応募があったため、40名まで絞ったうえで6月3日と6月10日の2日間に分けて講習会を行なうという。その初日の模様が報道公開された。
総合研修訓練センターの詳細は本誌でも報じたが、東京メトロ職員の研修・訓練を行なうために2016年4月に開所した施設で、実際のものと同じ切符売り場や改札、ホーム、階段、線路などがあり、訓練車両が入線することもできる。学生たちはここでの座学とシミュレーションをとおして、活動にあたっての基礎や注意点、心構えを学んでいく。
講師を務めたのは公益財団法人日本ケアフィット共育機構の3人の講師陣で、カリキュラムは休憩を含む180分。講習会の最後にはペーパーテストを実施し、認定証の授与を行なう。
介助対象者への合理的配慮と「見守る目」
カリキュラム前半の座学では、まず2016年に施行された障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)を取り上げ、「障害者が何らかの介助を求める意思を示している場合、行政や事業者は負担が重くなりすぎない範囲で、その困難を取り除く努力をしなければならない」という合理的配慮について説明があった。
障害の内容・範囲は人によってさまざまであり、その都度異なる対応をする必要があるが、それでいて過度な介助を行なうわけではないという点にも言及していた。さらに学生たちに対して、介助不要と言われた、あるいは手助けが不要に思えたからといって放置するのではなく、声がけをして見守ってほしいと諭した。
この“見守る”というフレーズは講習会のなかで繰り返し使われた言葉で、ボランティア活動における介助対象者との距離感を象徴しているように感じられた。さらに教室では、筋肉の衰えや白内障といった加齢による肉体の変化について学び、高齢者・認知症患者への接し方、聴覚障害者とのコミュニケーションの図り方などが解説された。
このあと20名は2班に分かれ、車椅子使用者との接し方、視覚障害者との接し方を実際に体験した。
今回の取り組みは活動にあたるのが学生のため、2018年3月を一旦の区切りとしているが、今後の活動や参加希望者などの様子を見て来年度以降の活動を判断するという。
講習会後には、受講した学生に話を聞く時間が設けられた。以前に視覚障害者を駅で案内した経験があるという高畑桃香さん(経営学部3年生)は、シミュレーションで「被介助側を体験して見えないことの怖さを実感した」「ほんの少しの段差でとても不安になる」として、その気持ちを今後のボランティア活動に活かしたいと話した。
留学生の王操さん(文学部1年生)は、中国ではバリアフリー・ユニバーサルデザインが日本ほど進んでいないため、日本の介助サービスに興味があってボランティアに応募したという。鉄道会社を志望しているという峯村広大さん(経営学部3年生)は、「目が見えないと普段自分が感じている世界とまるで違う」「一歩間違うと命を落としかねない」と感想を述べ、「自分が声がけをすることでお客さまに安心してほしい」と意欲を見せた。
さらに、東京メトロ 鉄道本部 営業部 営業企画課 課長補佐 梅川勇太氏と法政大学 市ヶ谷ボランティアセンター 南雲健介氏が囲み取材に応じた。今回の提案を受けたことについて南雲氏は、「以前から本学はキャンパス周辺の清掃や近くの商業施設でイベントを行なっていますが、学生から『地域の人と日常的に触れ合えるボランティアをやってみたい』という声があり、そこに今回の提案がありまして、実現に向けて本日まで打ち合わせを重ねてきました」と契機について説明。「学生がまわりを引き込む力というのは大変強いので、今回の活動が注目を浴びて、参加していない学生にも輪が広がれば」と期待をのぞかせた。梅川氏は「当社職員も『見守る目』ということで声がけを行なっていますが、学生の方がボランティアをしている姿を見て、ほかのお客さま同士でも声がけできるような雰囲気を醸成していきたい」と活動の広がりに期待を込めた。