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「THAILAND TRAVEL MART 2016 PLUS」でタイ国政府観光庁 東アジア局長にインタビュー
“日本へ行くために日本語を勉強する人も多い”という親日国の観光事情
2016年6月17日 00:00
- 2016年6月8日~10日(現地時間) 開催
タイ国政府観光庁は、タイ北部のチェンマイにおいて同国最大の旅行商談会「THAILAND TRAVEL MART PLUS 2016(TTM+ 2016)」をを6月8日~10日(現地時間)に開催した。その会場で、タイ国政府観光庁で日本を含む東アジア全体を統括している、東アジア局長 ランチュアン・トーンルット氏にインタビューする機会を得たので、その内容をお伝えする。
なお、このインタビューは複数メディアが同席しており、以下の内容には他メディアの記者との質疑応答も含まれることをお断わりしておく。
――日本人は、タイへどのような目的で渡航する人が多いのでしょうか?
トーンルット氏:1番はもちろんレジャー、観光です。ゴルフなどのスポーツを目的とした訪問も多いです。次いで、MICE(会議・研修等)、そしてビジネスです。2014年は1年間で73%がレジャー、2015年の上半期(1月~6月)の実績では70%がレジャーになっています。
――日本人はゴルフのためにタイを訪れる人も多い印象があります。会期中に観光・スポーツ大臣からスポーツ・ツーリズムの振興の話がありましたが、スポーツ目的の誘客に向けての取り組みはあるのでしょうか?
トーンルット氏:日本人に人気のスポーツの一つにマラソンがあります。日本市場に向けたマラソンのプロモーションを強化しています。バンコク、プーケット、パタヤ、チェンマイなど、旅行会社と一緒にパッケージツアーを作って、タイへ来てもらおうという活動を行なっています。
東京、大阪のマラソンエキスポに、毎年誘致のために参加しています。この際には、どこか一つのマラソン大会をプロモーションするのではなく、例えばプーケットのラグーナ・プーケット国際マラソンや東北のコンケーン県、パタヤのマラソンの主催者が集まって、一緒にアピールをしています。
バンコクのマラソンには、夜中に走るバンコク・ミッドナイト・ランと、バンコク・スタンダード・チャータードバンコクマラソンという2つの大きな大会があります。
2016年6月に行なわれたラグーナ・プーケット国際マラソンには、日本から131名が参加し、日本人が優勝しました。
――日本からタイへの観光客を増やすうえで、どのような点を課題と考えているでしょうか?
トーンルット氏:そこまで大きな課題はありませんが、あえて一つ挙げれば、飛行機の座席数の問題があります。二国間の飛行機の便数は増加傾向にありますが、日本政府の訪日旅行客キャンペーンによって、タイの人が日本へ非常に多く行くようになりました。それにより座席供給数が追い付いていないのが現状です。タイ側としては日本の人に来ていただきたい、日本政府としてもタイから来ていただきたいというのはありますので、タイ政府として座席供給数をいかに増やすかが課題だと思っています。
――タイ国際航空に対しては、なんらかの要望は出しているのでしょうか?
トーンルット氏:タイ国際航空に対しても増便要請はしています。しかし、機材保有数の問題であったり、二国間のフライトの状況でこれ以上の増便ができない現状があります。そこで、日本側の航空会社、JAL(日本航空)やANA(全日本空輸)へもう少し働きかけて、主要路線はもちろんですが、チェンマイなど地方路線にも就航してもらえるように協力体制を作らなければならないと考えています。
タイ国際航空の話に戻ると、例えば東京、名古屋は深夜便なら座席の確保が可能なので、日中移動だけでなく、深夜移動でタイに行くというプロモーションをするなど、空いている座席を紹介していきたいと思っています。また、ビジネスクラスも余裕がありますので、企業関係者に対してビジネスクラス活用でのタイ訪問を働きかけていきたいと思います。
また、女性向けのキャンペーンでも訴求を行なって、時間帯をずらしたり、女性向けのパッケージを作ったりして需給バランスを考えていきたいと思っています。
――女性のLCC利用者が増えていますが、例えばスクートがドンムアン(バンコク)線を日本との間で飛ばすなどしています。LCCとはなんらかの取り組みを行なっていますか?
トーンルット氏:スクートもそうですし、Air Asiaも日本に就航しています。その点では我々としてもLCC、フルサービスエアラインを問わず、座席を供給できるところとはどんどん協力していこうとしています。スクート、Air Asiaとも協力して送客に向けて取り組んでいます。
先ほど、LCCについては首都バンコクへの送客よりも、LCCを活用してもタイ国内への送客を考えています。タイ国政府観光庁として、「12 Hidden Gems(12の秘宝)」として、主要都市以外の12の都市をピックアップしていますが、そのような所への送客を図ろうとしています。Air Asiaに関しても、東北地方のルーイ県にはピーターコーン・フェスティバルという仮面のお祭りがあり、ウボンラーチャターニー県にはキャンドルフェスティバルがあります。こうした、お祭りに合わせての地方都市への送客を考えています。
――男性比率が高いとのことですが、女性の比率が低い、あまりタイに来ない理由をどのように考えていますか?
トーンルット氏:男性はビジネスの需要も多いことが一番の理由だと思います。女性は家庭や育児などで自由な時間が少ないと思いますし、タイが女性の旅行地に向いているというアプローチが不足していたことも理由だと思います。
そのアプローチが「Woman's Journey in Thailand」です。OLを含め、特にSNS(ソーシャルメディア)を使うほか、ダイレクトメールなどで直接その方たちに情報が届くような仕掛けを考えています。また、化粧品や宝石など女性が好むものを扱う企業と一緒になってアプローチしていくことを考えています。
――女性に向けてのキャンペーン、プロモーションの具体的な内容を教えてください。また、ここチェンマイではどのような部分を女性に知っていただきたいと思っていますか?
トーンルット氏:タイ政府としては、今年は特に世界中の女性の皆さんに訴求していきたいと思っています。タイは女性に優しい国というのを、よりキャッチフレーズとしていきたいのと、今年王妃が84歳を迎えられますので、それも記念して焦点を当てていきたいと思っています。
タイには女性向けのものが非常に多くありますが、チェンマイでいきますと、ここには700年の歴史があります。700年の歴史のなかに文化やいろいろな形で、歴史を背景に文化を体験していただけるよさがあると思います。
一つは経験、体験があります。チェンマイではアンブレラ・ペインティング(傘の絵付け)を見て体験することができますし、豊富な自然・文化・歴史を背景に絵を描いていただくのもよいと思います。芸術の街としてチェンマイがありますので、それを体感していただければと思います。
チェンマイだけでなく北部全体が独特の文化を盛っています。気候についても、北部は非常に過ごしやすい気候です。タイの冬といわれる10月~2月も温暖で、花が咲き乱れてきれいです。花に触れていただけ、2月の第1週にはフラワー・フェスティバルがありますので、北部全体が花に彩られます。ホテルは花輪の実演などの体験教室などが行なわれます。女性に向けてお花をテーマに触れていただくのもよいと思います。
また、体験型のもので忘れられないのはクッキングクラスです。各地方それぞれのクッキングクラスがありますが、北部は北部伝統の料理があります。例えばカレーラーメンと呼ばれる「カオソーイ」、挽き肉のサラダの「ラープ」、チェンマイでのカレーなど、来ることによって体験できます。
特に働いている女性の方をターゲットにすると、来るからにはリラックスしていただき、次への活力のための休暇をチェンマイでとっていただけると思います。そこで、「ランナースパ」、北部文化のスパを挙げたいと思います。ちなみに、チェンマイという地方は、昔、ランナー王朝と呼ばれており、その文化が残っています。そこで、北部の文化を表わすときにはランナーという言葉を使っています。
ショッピングも挙げられます。タイ北部においては、伝統・芸術の文化がありますので、その点で手工芸品が多くあります。銀製品や木製品、織物などの伝統的なものもありますし、新たな工芸品もあります。日本の皆さんだけでなく、タイ国内の女性も、チェンマイにわざわざ買いに来る人がいるので、世界中に訴求できると思っています。買い物の場所も、ナイトバザールがありますが、それだけではなく、チェンマイにはいろいろなウォーキングストリートとして散策できる場所が多くあります。そこでの買い物も楽しみの一つだと思います。
なにはともあれ、チェンマイに来て充電をしていただきたいと思います。来て、なにかをずっとするのではなく、この空気感のなかで、ゆっくりと過ごしていただきたいと思っています。おしゃれなカフェなどをちょっと巡ったりしていただきつつ、開放感のなかでエネルギーチャージをしていただけると思います。
――日本では学生や、若い方がなかなか海外旅行へ出かけないという傾向が出ています。若い方や、タイへ来たことがない方へ対してのアピールや施策はあるのでしょうか?
トーンルット氏:我々は学生も大きなターゲットとしています。以前は修学旅行も含めて学生向けに多くのプロモーションをして、それによって多くの学生にお越しいただいた時期がありました。情勢なども含めて学生さんの足が遠のいたのを感じていますので、学生さんだけでなく、その親御さんも含めて説明しながらプロモーションしなければならないと感じています。
修学旅行も含めて、学生が多く来ていて、それが減少傾向にあります。日本全体もそうですが、海外旅行の減少の原因究明をしなければなりませんが、現段階においては、その若い層から少し上げた学生層、大学生に対して訴求したいと思っています。大学生には学生間交流を一つ軸に置いていますし、学校に訪れることで学生交流や、そのなかでの伝統文化交流、例えば舞踊の体験などをしていきたいと思っています。学生に関しても、ホテルの供給に関してはチェンマイをはじめ、十分にありますので、大型ツアーで学生さんにもお越しいただけますし、予算に合わせたカテゴリも用意できると思っています。
学生は交流をしたときの成果がより大きく、今後の社会経験に役立つと思っています。バンコクだけでなく地方都市も含めて、社会貢献型として活性化させたいと思います。例を挙げますと、来週、台湾から200名規模で学生が来て、チェンマイを拠点に郊外へ行って交流する事業がありますが、これも一つの社会貢献型の交流だと感じています。そういう点を日本市場にも当てはめていきたいと思っています。
我々としても、ターゲット層の一つです。体験型でいうと、女性向けのものと重なる部分もありますが、芸術面や陶磁器の焼き物も含めてアピールできると思います。交通インフラも、ホテルも十分ですし、予算に応じて、ユース系のホテルもあります。予算削減もできます。そのグループ、層に対してのの訴求ができると思っています。
交流の際に語学の問題をよく言われますが、もちろん英語の交流は問題ありませんし、日本語ができるガイドだけでなく、タイの学生自身も日本語をできる人が多くいます。
――チェンマイのロングステイについて、チェンマイならではのロングステイ(長期滞在)の特徴や、今後の取り組みを教えてください。
トーンルット氏:我々としても、来週、長期滞在向けのセミナー、フォーラムをチェンマイで日本の皆さん向けに行ないます。その点も含めて、チェンマイは長期滞在に適していると思っています。気候もそうですが、交通インフラもあります。こちらに来たあと、生活面においても充実しています。万が一の病院も日本語対応ができます。スパなど、来たことによってリラックスできる要因がたくさんあると思います。
もう一つ、長期滞在をされる方については、ただ滞在するだけ、余暇を過ごすというのはもちろんですが、ボランティア活動に参加していただく要素もあります。長期滞在をされる方の経験を活かして、日本語を学校で教えたり、絵や焼き物を教えたり、病院でのアシストしたいなど、社会へ参加する場所が多くあります。チェンマイが、20年以上、ロングステイの場所として人気がある理由の一つだと思います。
我々もいろいろな都市で長期滞在できると思いますが、その一つとしてのチェンマイを積極的に広報していきたいと思います。
――「12 Hidden Gems」、日本では「12の秘宝」としてプロモーションしていますが、今後のプロモーション計画を教えてください。
トーンルット氏:2015年に12 Hidden Gemsは成功しました。今年は12 Hidden Gems Plusとしてプロモーションし始めています。日本では、メディアやブロガー、セレブと呼ばれる方たちにタイに来ていただいて、12 Hidden Gemsの都市を紹介してもらうような取り組みをしてきました。また、日本のサプライヤーにも紹介することを行なっており、そのような取り組みを進めたいと思っています。
いままで12 Hidden Gemsは観光庁として十分に知ってもらうように取り組んできたが、今後は、実際にパッケージツアーを作るなどして、タイに来てもらう取り組みを考えています。日本の方たちが新しいところを求めていると思います。
FIT(個人旅行者)についても、SNSを使った最新情報の提供などと同時にパッケージを使って行っていただけると思っています。FIT市場に関しては、Air Asiaが地方にもいろいろ飛んでいますので、実際にAir Asiaと協力したプロモーションを行なっています。
――地方への誘客を図るにあたって言語の問題があると思いますが、その対策はなにか考えていますか?
トーンルット氏:私たちの国には日本語を話せる人が多くいます。5~6年前までは、タイへ訪れる外国人渡航者の1位が日本でした。日本語を勉強している若い人、学生もたくさんいますので、あまり問題ないと思います。
日本でも、ASEANセンターとも協力して日本語を教育をできるようにしています。
――現在、タイでも中国人旅行客が急増しているようですが、そのような市場で日本語を勉強する人の数に変化はないのでしょうか?
トーンルット氏:これまでどおりです。「日本へ行きたいタイ人」が多いからです。もちろん中国語を習う人も増えてはいますが、日本語も変わらずに勉強する学生がいます。
――タイの方から見て、日本人旅行者は、ほかの東アジアの国の旅行者と異なる部分はあるのでしょうか?
トーンルット氏:非常に規律正しく、きちんとされている印象です。もちろんタイ側としては全世界の皆さんにウェルカムですので、どの国がよい・わるいというのはありませんが、日本の皆さんの旅行に関しては、質は高いものがあると思います。清潔感もあり、きちんとしています。タイの人が親日をより抱かせるような行動をされています。ただ、日本の皆さんは日本語での旅行をしたいと思うのですが、我々もなるべく対応できるようにしたいと思っています。
2016年は日本からタイへの渡航客数150万人を目指しています。前年より増やさないといけないので、その取り組みをする必要があります。男性率が非常に高く、75%近くが男性です。その点では、重複になりますが、女性向けの取り組みを強化することで、女性率を高めたいと思っています。
日本政府が訪日の取り組みで、非常に成果を挙げている国がタイだと思います。タイから日本を訪れる観光客は100万人を突破するのではないかという成功を収めています。その点では、タイの人が訪れたい国の一番が日本です。そういう親日の国ですので、日本の皆さんをこちらタイでお迎えするのもうれしい限りです。日本人の行動を見ていると、タイ人が受ける印象がよいからこそ日本に行きたいという裏返しだと思います。そして、日本の皆さんにとっても行きたい国ナンバーワンがタイになればよいなと思っています。
――Airbnbなど民泊の利用が世界的に進んできていますが、法整備も含めてどのような意見をお持ちですか?
トーンルット氏:タイにも民泊はありますが、タイ政府観光庁としてはホテルへの宿泊をお勧めしています。なぜなら、タイには3つ星から5つ星のホテル、ヴィラタイプまで幅広く揃っていて、宿泊施設が十分にあり、供給が追い付かないという状況が起こっていません。
例えば、若い方の研修旅行としてホームステイをすることもありますが、それは農業や文化を学ぶために行なうもので、民泊とはセグメントが異なるものです。普通の旅行者にとってホテルの部屋は本当にたくさんあるので、選んで宿泊してください。
――LyftやUberのようなカーシェアサービスについてはいかがでしょうか?
トーンルット氏:他国での問題も目にしますが、タイでもきっちりとルールができているわけではありません。タイでは、タクシーを運営するにあたって許可が必要ですが、Uber等が取得したという話は聞いていません。タイではタクシーの供給は十分ですし、料金も安いので、他国の需要とは少し違うかも知れません。