旅レポ

彦根城築城410年祭に「おんな城主 直虎」で湧く彦根で美食とおもてなし旅(その1)

井伊家由来のエリアの美味しいと国宝を巡る

彦根城

 滋賀県は、11月30日から12月1日の2日間に渡り、彦根エリア周辺を巡るプレスツアーを開催。本稿はそのツアーへの参加レポートとして、2017年に築城410年を迎える彦根城やその城下町、2017年大河ドラマ「おんな城主 直虎」で盛り上がりを見せている井伊家にまつわる美食と国宝、魅力満載の同エリアを紹介していく。

彦根城から琵琶湖を一望。見て、体験できる国宝へ

 彦根といえば、やはりシンボルといえるのが国宝・彦根城。天下分け目の関ヶ原の戦いのあと、井伊直継公、井伊直孝公により築城され、天守が1607年に完成。2017年3月より築城410年祭が開催される。

 同城は、当時大坂城の豊臣勢に対して、徳川家康側の最前線の位置にあり、豊臣側を牽制するために建てられた。安土城や、長浜城、大津城などさまざまな城の石垣や材料が使われ、各所にドラマも含んでいる。お掘は内堀、中堀、外堀の三重。京都や大坂の敵に備えた構造で、城内も戦に備えた万全の作りとなっている。実際に訪れると天守に到達するのがいかに大変かが体感できるはずだ。

 まず、堀を渡ったところにそびえる登り石垣。全国的にも珍しい造りの石垣で、竪堀と組み合わせることで敵の動きを封じる目的で築かれたという。

 そして、天守へ延びる表門山道の石段は幅や角度がまちまちで、歩調が合わずすぐに息が上がる仕様。坂をようやく登りきったと思うと、戦いの際には落とすことができる廊下橋に、角度が急な石垣、そして天秤櫓となかなか天守にたどり着けない。

表門橋を渡った瞬間から、彦根城からの挑戦を受けることに。まずは登り石垣、そして不規則な表門山道の石段が行く手を立ちふさぐ
登りきると、廊下橋と両側に石垣が。戦いの際は橋を落とし、敵の侵入を防ぐ。上から攻撃されたらひとたまりもない
現在は橋脚が下まであるが、以前は石垣の途中に埋め込まれておりすぐに落とせる構造だった
左右で石垣の積み方が異なる。右が打ち込み「牛蒡積み」で築城当時そのままの姿。左は幕末に積み替えた「落し積み」となっている
廊下橋を渡ったところには、天秤櫓が建っている

 天秤櫓の格子窓をよく見ると格子部分がひし形で、内側から広い範囲が見えるようになっているのが分かる。また門の部分はまぐさなどが施され、戦の際に簡単に扉が上がらないような工夫がされていた。

 天守までの道すがら、江戸時代から現在まで鳴らされてきた音も聞くことができる。それが時報鐘だ。6時から18時までの3時間おきに鐘がつかれ、城下町に変わらず響き渡る音に想いを馳せることも。その先には太鼓門櫓。抜けるとやっと彦根城天守が見えてくる。

天秤櫓の格子窓はひし形となっており、中から見ると広角にまわりが見えるようになっている
門の部分は金具ではめているだけのため、まぐさなどを施し簡単には開かない仕様
江戸時代から変わらず城下町に時刻を知らせている時報鐘
ほかの城から移築され、彦根城の一部となった太鼓門櫓。元の城の名は現在も謎とのこと
美しい天守が見えてくる。井伊家の家紋である花橘があしらわれている

 実際に中に入ると、天守には82カ所の鉄砲狭間に矢狭間。隠し部屋に、鉄砲よけの二重壁に、60度、62度の階段などを見学できる。なお、戦を実際には経験することなく、廃城令も免れ、彦根城は今日に至っている。見るだけでなく、実際に国宝に触れ、時代を生きた人々の知恵や息吹を感じられる場所として、ぜひ訪れることをおすすめしたい。

 天守の3階から臨む景色の美しさも格別で、外堀までの距離の遠さに驚くのもよし、琵琶湖に浮かぶ島々や船を眺めるのもよし。もちろん大人気のひこにゃんとご挨拶もできるので、大満足のひと時が過ごせるはずだ。

 なお、2017年3月18日から12月10日まで「国宝・彦根城築城410年祭」を開催。「天秤櫓特別展」では「井伊家コレクションと江戸期の地球儀をタッチパネルで楽しむ 井伊家 家宝の魅力と江戸期の世界」、「西の丸三重櫓特別展」では「江戸期の城下町彦根 再現シアター プレイバック城下町彦根」、さらに「開国記念館特別展示企画」として特別展示企画NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」(仮称)など、多くのイベントを開催予定。2017年、築城410年のアニバーサリーイヤーで盛りあがる彦根城に足を運んでみよう。

彦根城

所在地:滋賀県彦根市金亀町1-1
TEL:0749-22-2742(彦根城管理事務所)
観覧時間:8時30分~17時(休園日なし)
観覧料:一般1000円、小・中学生350円(彦根城、彦根城博物館、玄宮園を併せて観覧する場合のセット券料金)
Webサイト:国宝・彦根城築城410年祭

天守の北側や多聞櫓内部の壁は二重で、鉄砲から守備隊を守るために厚めに作られている
いたるところに鉄砲狭間や矢狭間が作られている
60度、そして62度と角度がきつい階段をゆっくりと登る
天守の一番上に到着
最後の砦として隠し部屋も発見。中はかなりの広さ
彦根城を訪れる際はボランティアガイドによる解説も聞きたいところ。知ると知らないとではかなり彦根城訪問のおもしろさが違う。今回解説してくれた彦根ボランティアガイド協会の小林一恵氏
ひこにゃんとのグリーティングは1日3回実施。通称“モチ”の動きのかわいさをこの目で見てほしい(この日は時間が合わずパネルをパチリ)。ボードで時間もしっかりチェックしよう

藩主気分で庭園を愛でる、井伊家の美が詰まった彦根城博物館

「彦根城博物館」は表門橋を渡った先にある

 天守は戦用、ならば普段の生活を藩主はどこで? という疑問を解決してくれるのが彦根城の表門橋を渡った先の「彦根城博物館」だ。ここは、元々「彦根城表御殿」があり、明治時代までは藩主の住まい、そして彦根藩庁としての機能を持っていた場所。絵図や古文書をもとに当時の建物を1987年に復元。現在博物館として使用している。

 井伊家にまつわる歴史資料や書物、美術工芸品を約4万5000点収蔵。そのなかには、マスコットキャラクター「ひこにゃん」のモチーフとなっており、美しく堂々としたビジュアルで見た者をとりこにしてしまう「井伊の赤備え」の甲冑も展示している。取材時は、第2代藩主井伊直孝の「朱漆塗紺糸威縫延腰取二枚胴具足」が飾られていた。

 なお、同博物館は、井伊家歴代甲冑や子弟用の25領所蔵。今回見ることのできた甲冑は、金箔押しの天衝が見事な1領。脇から角が出るのは藩主のみ許されている形状で“天衝脇立”と呼ばれる。ひこにゃんも藩主と同じ兜を実はかぶっている。

「井伊の赤備え」として有名な朱色の甲冑も展示。ひこにゃんも天衝脇立の藩主と同じデザインの兜をかぶっている。采配も展示

 現在、常設展として「“ほんもの”との出会い」を開催中。井伊家の象徴でもある朱色で統一した武具をたっぷり鑑賞できる「武家の備え」、第15代当主井伊直忠により、コレクションされた能面や能装束を展示する「幽玄の美」。そして、井伊家伝来の茶道具を展示、茶の精神が垣間見れる「数奇の世界」、大名家には珍しい雅楽器コレクションを楽しめる「雅楽の伝統」などをはじめとする6つのテーマに分け、工芸の美と歴史を学ぶことができる。1~2カ月ほどで展示内容が入れ替わり、行くたびに新しい発見と出会える。

武士が教養として身につけておくべき茶の湯関連の収蔵品も多い。井伊直弼公は、茶を愛する人だったそうだ
「井伊直弼書状 三居紫水軒宛」など井伊直弼公の書状も多く所蔵している。意外と筆まめだったそう

 同博物館では、政治や各行事が行なわれる“表向き”とともに、藩主の生活圏であった“奥向き”と呼ばれるプライベートエリアも復元。藩主が公務の合間にホッと一息いれるための“御座之御間”やお茶室“天光室”などを間近に見ながら、当時の生活や藩主たちが見た景色も楽しむことができる。なお、庭も江戸時代の絵図を元に造られており、彼らが見ていたと思われる四季折々の風景が広がっている。冬の時期は若干空いているのでこれからのシーズンはゆったり鑑賞できるチャンス。

木造の“奥向き”は藩主に近しい人のみが入ることのできた場所
御座之御間から見た景色。藩主が見たと思うと感慨深いものがあった
館内に生けられた花たちも風情があり、景色と馴染んでいた

 そして、“奥向き”を進み高御廊下を越えるとさらにプライベートな空間へ。ここから先は、藩主が特に大事な客をもてなす際に使った“御客座敷”や、特に仲がよかった者しか入ることのできない場所が広がる。現在、“御客座敷”は夏休みなどに子供向けのお茶体験会でも活用されている。最後は2階建ての“御亭”へ。見晴らしも風通しもよく、ゆっくり藩主がくつろぐことのできる空間となっていた。

接待に使われた“御客座敷”。夏休みの課外学習などでも使用されている
高御廊下は選ばれし者しか越えられない場所だった
藩主がくつろいだ“御亭”。ずっとここで庭を眺めていたいほど落ち着いた雰囲気
館内について解説してくれた彦根城博物館 学芸史料課の青木俊郎氏

 また、博物館の中央には能舞台も配置されている。1800年に造られたもので、現在も興行中はガラスが開けられ、江戸時代そのままの空間で能を楽しむことができる。蛙股には、井伊家の家紋“橘紋”があしらわれているのも特徴。

 なお、能舞台の下に漆喰で大きな空間を作り、音の反響をよくする手法が採られているなど珍しい造りとなっている。藩主が観たであろう場所は、正面やや右寄りの場所だそうだ。

 なお、同博物館では大河ドラマの放送に合わせ2017年10月21日から11月28日の間、2017年NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」特別展「戦国!井伊直虎から直政へ」を開催予定。井伊家の繁栄を導いた直政と戦国時代に男の名で家督を継いだ井伊直虎の生涯を軸に、どう乱世で生き抜いたのかを解き明かす展示となる予定だ。

 落ち着いた空間で美術品を楽しんだり、藩主のプライベートスペースで江戸時代にタイムスリップをしたような感覚も味わえる「彦根城博物館」。彦根城見学とともに訪れれば、もっと井伊家について知りたくなるはずだ。

彦根城博物館

所在地:滋賀県彦根市金亀町1-1
TEL:0749-22-6100
観覧時間:8時30分~17時(入館は16時30分まで、※3月8日~9日ほか臨時休館あり)
観覧料:一般1000円、小・中学生350円(彦根城、彦根城博物館、玄宮園を併せて観覧する場合のセット券料金)
Webサイト:彦根城博物館

入り口を入ると、ガラスの向こう側に能舞台が見えてくる。現在も年数回、能や狂言が上演されている
藩主は、向かって右側に座ったという
蛙股には、井伊家の家紋“橘紋”があしらわれている
能舞台を見ながらお茶席で一服することもできる。薄茶一服(季節の生菓子付き)500円

 なお、交通機関として近江鉄道バス、湖国バスの「彦根ご城下巡回バス」もおすすめ。ちょうど彦根城周辺で見ることができたのが、「ひこにゃん」ボンネットラッピングバス。彦根駅から彦根城や夢京橋キャッスルロードなどをまわっており、朱色のボンネットバスはレトロ感満載。

 運行期間は季節によって変わるため、乗車したい場合は必ずWebサイトをチェックしておこう。1日利用券が300円、1乗車210円となっており、1日券は彦根城の入場料の割り引きなど特典も。迷わず1日券を購入したいところ。

近江鉄道バス・湖国バス 彦根ご城下巡回バス(ボンネットバス)2016

所在地:滋賀県彦根市古沢町181
TEL:0749-25-2501(湖国バス株式会社 彦根営業所)
Webサイト:近江鉄道バス・湖国バス 彦根ご城下巡回バス(ボンネットバス)2016

レトロ感たっぷりの「ひこにゃん」ボンネットラッピングバス

 さらに、「~ゆらっと周遊~彦根城お堀めぐり」では朱色がポイントの江戸時代の絵図面や古い写真から復元したお殿様の屋形船に乗り込み、お堀をゆったりとお散歩できる。玄宮園前船着場から出発し、大手門などをくぐり、折り返して往復約3km、45分の旅だ。解説を聞きながら、石垣や櫓などがいつもとは異なる視点で楽しめる。ただし、12月~3月は予約運行となるので連絡を忘れずに。料金は、大人1300円、子供600円。

彦根城屋形船

所在地:玄宮園前船着場
TEL:080-1461-4123
乗船時間:平日10時~15時、土日祝10時~16時、1時間に1便(年末年始休み)
Webサイト:彦根城屋形船

朱色の屋形船がゆ~ったりお堀を進んで行く

城下町で美味しい散歩。彦根の美食は「夢京橋キャッスルロード」で

 彦根城を満喫したあとは、城下町である「夢京橋キャッスルロード」へ。彦根城から徒歩5分ほどで到着。白壁に格子窓の町屋風の景観が350m続き、江戸時代を思わせる美しい街並みだ。彦根城の築城とともに1603年にこの本町から町割が始まった歴史ある場所でもある。

 1999年に街路整備が完了し風情を残しつつリニューアルした。井伊家ご用達のスイーツや、近江伝統野菜を扱った漬物店。そして琵琶湖名物の鮎や近江牛、近江米まで、彦根の美味しいが大集合。街歩きがてら気軽に味わえると人気のスポットだ。彦根城を訪れたのならば必ず立ち寄っておこう。

「夢京橋キャッスルロード」は彦根城の京橋を渡るとすぐの場所にある
風情ある建築物で街並みが揃えられている。タイムスリップしたような気分に

「夢京橋キャッスルロード」に足を踏み入れるとまず見えてくるのが新鮮な近江伝統野菜を使った近江漬物を味わえる「山上」だ。店頭には丁寧に作られた漬物がたっぷり。試食も思う存分できるため、お気に入りの味を時間をかけて探すこともできる。800年以上の歴史を持つ日野菜や、旨味がぎっしり詰まった下田なす、近江かぶら(大かぶら)などの形を活かしたご飯のお供が揃っており、ちょっとした手土産としても喜ばれること間違いなし。

「山上 金亀城町店」は近江漬物を取り扱う専門店
ご飯のお供が店内にはぎっしり並べられている。試食もふんだんに用意
店長の谷口清春氏。彦根周辺は豊かな水と土地のおかげで美味しい近江野菜が収穫できると教えてくれた
近江伝統野菜も並べられており、実際の大きさや色合いを見ることができる

 おすすめは野菜丸ごと漬けられた「日野菜 姿漬」(750円)や、食べやすく刻んだ「扇日野菜」(540円)。しゃっきりした味わいに、ぴりりと辛味も利いており、食卓に1品置くだけで食が進む。

 また、近江産大かぶらの美味しい部分を2~3cmの厚さに輪切りにし、柚子入りの甘酢で漬け込んだ「琵琶満月」(580円)も人気。柔らかな味わいで、ほんのり柚子の香りが漂う爽やかさが◎。使用部分は1個の大かぶらから5枚ほどしか取れないとのことだ。

 なお、通年で味わえるしゃっきり食感でご飯に乗せるだけでごちそうになる壬生菜の茎を使った「みぶな漬」(380円)もおすすめ。玄米やご飯に乗せるとグリーンが映え、彩りの1品としても優秀。ほかにも「柚子大根」(430円)や「白菜大葉の重ね」(580円)もぜひ味わってほしい。

「日野菜 姿漬」(750円)は程よい塩気でしゃきしゃき食感で葉の部分の苦味もアクセントになっている。「扇日野菜」(540円)は辛味もあり、ご飯に抜群に合う。「琵琶満月」(580円)はやわらかな食感で、優しい味わいがクセになる。「みぶな漬」(380円)は載せるだけでご飯がごちそうに

 滋賀県産の豚と近江牛を贅沢に使った「近江味噌漬 武宗」の「味噌とん」(860円)や「近江牛」(1600円)も極上の味わいだ。その昔、江戸に運ぶ際も味噌につけて運んでいたそうだ。

 調理方法は簡単、ホットプレートやフライパンなどにそのまま入れじっくり煮詰めるだけ。一緒に滋賀名物の下田なすを入れると肉と味噌の旨味がじんわり染み込み、とろける美味しさに。旨味たっぷりの弾力のある肉の旨味がアツアツ下田なすと絡んで、ご飯がもう一杯ほしくなる。

山上 金亀城町店

所在地:滋賀県彦根市本町2丁目1番5
TEL:0749-26-0205
営業時間:10時00分~17時00分
Webサイト:山上 金亀城町店

「味噌とん」(860円)や「近江牛」(1600円)は、下田なすと一緒に煮詰めるのが美味しさのポイント
店舗の奥の「近江味噌漬 武宗」エリアで購入ができる
店頭ではグツグツ、とろっとろな「味噌とん」を試食できる場合も。漬物と合わせて食べたくなる

 続いては、琵琶湖名産の鮎を味わえる「あゆの店 きむら」へ。琵琶湖から朝一番に揚がった鮮度抜群の小鮎を、じっくり時間をかけて釜で炊いて作り上げる甘露煮は格別の味わい。職人が直径50cmの小ぶりな釜につきっきりで直火で仕上げるため、ふっくらで味も均一。“どこから食べても必ず美味しい”を実現している。

 一番人気はやはり「小あゆ煮」(80g/972円)。地醤油と地酒をたっぷり使い、ここでしか味わえない美味しさだ。アツアツのご飯に載せ、味が染み込んでから頬張ると思わず笑顔になってしまうほど。びわますなどの貴重な琵琶湖の味も提供しており、本物を食べたいならば迷わずここを選びたい。

あゆの店きむら 彦根京橋店

所在地:滋賀県彦根市本町2-1-5
TEL:0749-24-1157
営業時間:9時30分~18時(冬季は17時30分まで、火曜定休)
Webサイト:あゆの店きむら 彦根京橋店

「あゆの店きむら 彦根京橋店」。季節によっては鮎の塩焼きも店頭で販売している
味わい豊かで一番人気の「小あゆ煮」(80g/972円)
鮎の姿煮「大あゆ 袋」(810円)の入った小さな釜は炊くときに使用する直径約50cmのもの
近年は獲れる量も少なくなってきた貴重なびわますも味わえる。「びわますスモーク 70グラム」(1080円)
スタッフの高橋氏は「ひと釜、ひと釜丁寧に直火で炊いていることと鮮度のよさがポイントです。美味しさが詰まっていますよ」と話してくれた
「稚あゆ」(65g/756円)はご飯に少し載せるだけでも、主役級の美味しさに。混ぜておむすびにしたり味わいかたは無限大

 城下町の街並みを楽しみながら数分歩くと、近江牛を存分に味わえる「近江牛せんなり亭 伽羅」が見えてくる。彦根と牛の関係は古く、特に彦根藩は、毎年陣太鼓を作るために牛皮を献上するため、当時家畜として大事にされていた牛を正式に屠殺することが許されていた。薬として出まわったり、密かに味わわれており、それが近江牛のルーツだとか。将軍家へ牛肉を献上した記録も残っているなど、その効能と美味しさはお墨付き。

 暖簾をくぐると、奥まで延びる小道が目の前に現われる。街の喧騒を離れ、ゆったりと時を過ごせる心遣いがうれしい。そして、お店の中へ。予約をすれば、築300年の江戸時代に建てられた蔵を改装した静かな部屋で存分に近江牛の味わいに酔いしれることもできる。

通りに面した暖簾をくぐると小道が現われ、その先にお店の入り口が見えてくる
築300年の蔵を改装した特別室。利用したい場合は予約を忘れずに
蔵の中は、ゆったり落ち着ける空間となっている

 今回味わったのは「会席風 伽羅御膳」(4380円)。赤梅酒のソーダ割りに、滋賀県名物赤こんにゃくを使った小鉢、季節の一品に、近江牛のローストビーフの造里。そして近江牛ロースステーキに、サラダとデザートがセットとなっている。とにかく近江牛が楽しめる内容で、ローストビーフは冷製ながらその柔らかさとジューシーさで1口目から近江牛のよさが十二分に感じられる。

「会席風 伽羅御膳」(4380円)はまさに近江牛づくし
梅酒のソーダ割りは口の中をさっぱりにしてくれる
旨味ぎっしりの近江牛のローストビーフ。そのままでも、さわびを付けてもいける

 近江牛ロースステーキは肉汁がじゅわっとあふれ出しそのままでも絶品。特製の大根おろしと自家製ソースを絡め、ほっかほかの近江米と合わせて食べるとさらに美味しい。

 小鉢は滋賀名産の赤こんにゃくと味がじっくりしみたサトイモなどでほっとできる味わい。赤こんにゃくは「井伊の赤備え」になぞらえているなど諸説ある。

 梅酒はさらりと脂を流してくれ、口の中をさっぱりにしてくれる。デザートは自家製のなめらかな栗ムース。

 数量限定の「近江牛トロ握り」(2貫980円)と「近江牛たたき握り」(2貫880円)もオーダー。「近江牛トロ握り」は名前のとおりにトロのような口どけながら、あっさりした美味しさが口の中に広がる。

「近江牛たたき握り」は外側が少しあぶってあり、香ばしさも感じる味わい。食べ比べてみるとそれぞれの美味しさの違いに驚くはずだ。ゆっくりと美味しい食材を時間をかけて味わう楽しみも近江牛のよさとともに感じられるはず。

近江牛せんなり亭 伽羅

所在地:滋賀県彦根市本町2-1-17
TEL:0749-21-2789
営業時間:11時30分~14時30分、17時~22時(火曜定休)
Webサイト:近江牛せんなり亭 伽羅

近江牛ロースステーキは、まずは何もつけずに味わって肉の美味しさを堪能しよう。次に大根おろしや、ソースをつけて召し上がれ。まさにとろける美味しさ。近江米も一緒に頬張ろう
「近江牛トロ握り」と、「近江牛たたき握り」。通常はそれぞれ2貫ずつの提供となる
赤こんにゃくは井伊家の甲冑に関係あるなど諸説ある滋賀の伝統食品の一つ。煮物は季節により変わるとのこと
酸味のきいた、つるりと喉越しのよいもずく
サラダもシャッキリ。お肉を味わう合間にいただきたい
デザートは、栗のムースと季節の果物など。栗の濃厚な風味がたまらない

 食後の一服には、お茶菓子もほしいところ。ならば、創業200年の老舗「いと重」へ。彦根藩最後の藩主である井伊直憲公が贈答品として愛用していた「益寿糖」をもとにした「埋れ木」が味わえる。「益寿糖」予約販売となっているので、井伊家の愛したお茶菓子を体験したい場合は連絡をしておこう。ギャラリーでは、井伊家の家紋「彦根井筒」と「彦根橘」の木型も展示され、そのつながりも感じられる。

 いと重菓舗の代表取締役の藤井武史氏にこだわりについて聞いたところ「自家製餡」と教えてくれた。名物の「埋れ木」(2個入り324円)は豆から管理し、炊きたての美味しさをそのまま餡にしているそうだ。湿気に弱く、扱いも難しい抹茶と和三盆をいかに美味しい状態で提供するかも試行錯誤をしたとのこと。

 なお「埋れ木」は第15代藩主井伊直弼公が若い頃に過ごした「埋れ木舎」にちなんで名付けられており、ほかにも井伊直弼が作った狂言「狸の腹鼓」(通称:彦根狸)からインスピレーションを受けて生まれた黒糖蒸しどら「はらつづみ」(194円)など、井伊家にちなんだお菓子が並んでいる。

「埋れ木」を味わってみたが、やはり抹茶と和三盆のハーモニーが絶妙で、渋茶やお抹茶と一緒にいただくとちょうどよい。「はらつづみ」も黒糖の風味がカステラを頬張ると口に広がり、餡と栗の相性も抜群。散策で一休みしたいときにもぴったりだ。

いと重 ギャラリー店

所在地:滋賀県彦根市本町1-7-41
TEL:0120-21-6003
営業時間:10時~17時30分(火曜定休)
Webサイト:いと重 ギャラリー店

「いと重 ギャラリー店」は「夢京橋キャッスルロード」に面しているが、本店もほど近い場所にある
井伊家の家紋「彦根井筒」と「彦根橘」の木型も展示
「こだわりは自家製餡」と話してくれた代表取締役の藤井武史氏
抹茶と和三盆をたっぷりまぶした「埋れ木」(2個入324円)。白餡と求肥の相性も抜群
狂言から名前を付けた「はらつづみ」。黒蜜入のカステラ生地部分は蒸してあるため軽やか。餡には栗も入っており季節感もたっぷり

 もう一品、必ず味わっておきたいのが「菓心 おおすが」の「三十五万石(求肥餅入)」(130円)。「夢京橋キャッスルロード」にもお店を構えているが、クルマで数分の本店を訪れてみた。通りには、懐かしい雰囲気の看板があるが、お店自体はおしゃれなガラスを全面に使い、モダンな雰囲気。ガラスケースには静かに和洋菓子が並んでいる。代表取締役の大菅良治氏にこだわりについて聞いたところ「本物を作り、届けたい」との強い思いを話してくれた。

 また、「三十五万石(求肥餅入)」とその最中部分を使った「35」(151円)についてのエピソードについても、なぜ最中を半分だけ使っているのか? との質問には、「まだ先代に比べると、自分自身はまだ半人前。だから最中を半分だけ使っています」と答えてくれた。なお、「35」はさっくり最中にアーモンド風味の生地を詰めたお菓子。きな粉とシナモンの2種類あり、和洋が混ざり合う新しい味わいだ。看板商品である「三十五万石」は北海道産の小豆を贅沢に使い、近江米の求肥を包み、香ばしい最中で挟んでいる。米俵型の最中のいい香りと味わい、そして餡の美味しさは格別。

「菓心 おおすが 本店」はモダンな佇まい。ケースも1枚ガラスで美しい
外に出ると、懐かしげな看板もあった
代表取締役の大菅良治氏。本物を作ることへの強い思いを話してくれた
「三十五万石(求肥餅入)」(130円)
最中を半分使った「35」(151円)

 なお、今の季節のおすすめは「和三盆くるみ」(780円)。オーガニックのクルミを丁寧にローストして、キャラメリゼ。甘さの奥に苦さもあり、カリッとした食感もたまらない。また、人気のひこにゃんシェイプの「人形焼」(130円)も必ずチェックを。もっちり&しっとり生地に小豆鹿の子が散りばめてあり、一口目から幸せが広がる。見た目もキュートでお土産にもぴったりだ。

菓心 おおすが 本店

所在地:滋賀県彦根市中央町4番39号
TEL:0749-22-5722
営業時間:8時~18時(木曜定休)
Webサイト:菓心 おおすが 本店

「和三盆くるみ」(780円)は甘さと苦さが同居した大人の味わい
「人形焼」
もっちり食感がポイント。人気のひこにゃんシェイプの「人形焼」(130円)
「お菓子の保存缶」(各2160円)もおしゃれ

井伊家の願いが宿る西明寺で緑と赤のコントラストを楽しむ

 次に訪れたのは、井伊家ゆかりの品が寄進されたお寺。長い参道をゆったり歩きながら、紅葉の赤や、苔の深い緑を楽しんでいると、山の頂に西明寺の本堂、三重塔が見えてくる。同寺は834年平安時代初期に仁明天皇の勅願により開山したと伝わっており、戦国時代に荒れ果てたものの江戸時代中期に再興。現在は紅葉の名所として有名だ。天皇により作られたため檀家はおらず入山料のみで、運営しているという。

惣門をくぐると深い緑と紅葉の赤に彩られた参道が広がる
苔生しており、紅葉の赤と相まって美しさが際立っていた
西明寺の住職である中野英勝氏。「本尊御前立・寅薬師如来立像」、「十二神将」などついて丁寧に解説してくれた

 本堂は鎌倉時代初期に建立された純和風建築で国宝第1号に指定。同じく総檜で作られた23.7mの三重塔も国宝だ。第4代藩主の井伊直興公により寄進された「本尊御前立・寅薬師如来立像」が収められた厨子が本堂に納められており、多くの参拝者を迎えている。なお、通常は厨子の扉が閉められており、その扉には井伊家の家紋である橘紋と井筒紋が描かれている。また、扉金具にも橘が施されているなど、造形だけでも見る価値はある。

 なお、「本尊御前立・寅薬師如来立像」は、寅の生命力で難病を退治してもらいたいという思いが込められており、薬師寺如来が寅の台座に乗る珍しいデザインとなっている。高さは約20cmほど。なぜ、寄進したのかについては、彦根城に落城した佐和山城の石垣をそのまま持ってきたのだが、その石の中に霊が宿っており、お家騒動や変死が続くのは石田三成の霊の仕業ではと思われていたという。そのため、「本尊御前立・寅薬師如来立像」と源平合戦の絵馬も奉納し、石田家の菩提を弔ったことなども、同寺の住職・中野英勝氏が解説してくれた。また、「十二神将」と呼ばれる干支を乗せた十二の神が各7000の家来とともに薬師如来を守っている。本堂内は撮影禁止のため、実際に自身の目でその造形を感じてみてほしい。

湖東三山 西明寺

所在地:滋賀県犬神郡甲良町池寺26
TEL:0749-38-4008
拝観時間:8時~17時(入山は16時30分まで)
入山料:大人600円、中人300円、小人200円
Webサイト:湖東三山 西明寺

鎌倉時代初期に建立された国宝第1号指定の本堂
国宝の三重塔。総檜で作られている

明治2年創業の老舗旅館で本当のおもてなしの心に出会う

 彦根城周辺で贅沢な時間を宿泊先でも味わいたいならば、1869年に料亭として創業した老舗「料亭旅館 やす井」へ。「やす井」の“井”は井伊家から取られた名前だそうだ。広々とした客室を全9室を用意しており、部屋から手入れの行き届いた日本庭園を眺めたり、くつろぎの時間が過ごせると人気だ。

 旅館に到着し、暖簾をくぐるとまずは、30mほどの石畳の小道と美しい庭が出迎えてくれる。そのまま進みエントランスへ、ガラリと扉を開くと天井の高いロビーへ到着。全館廊下は畳敷き。一段上がり、客室へと向かう。

大きな暖簾をくぐると、石畳の小道と庭園が出迎えてくれる。昼間はもちろん夜も趣があり美しい
庭には、小さな盆栽も多数あり、眺めているだけでも楽しい
エントランスを抜け、ロビーへ。屏風が飾られており、その広さが分かるはずだ

 今回宿泊したのは「富貴の間」。12.5畳の本間と7.5畳の次の間に踏込。檜風呂付きの客室だ。踏込には箪笥が置かれているが、それを感じさせないほどの余裕がある。一段上がり、縁側方面に向かうと職人による日本製の曲線の美しい椅子と机のセットが並ぶ。

 そして本間へ。本間と次の間合わせて20畳の空間が目の前に。初めて訪れたのに、なぜだか家に帰ってきたような安心感があった。静かにくつろぐには十分すぎるほどの広さだ。お茶はほうじ茶と緑茶の2種類が用意されており、ポットには湯と氷入りの冷水。なお、木製の小箱の中には、レターセットや宅急便の配送票が入っていた。屑入れや、ティッシュカバーも同じデザイン。裁縫セットもあり、もしものときのためにうれしい配慮だと感じた。

今回宿泊した部屋は「富貴の間」
広々した踏込
踏込を一段上がり、少し進むとモダンな椅子と机が置いてある
本間と次の間合わせて20畳ほど
茶筒が2つあり、それぞれ緑茶とほうじ茶。自室でホッとしたいときにぴったり
折り鶴部分に布を使ったデザインの懐かしさ溢れる木箱の中には、レターセットなどが入っていた
テレビなどはポットなどの近くにある。新聞も部屋の前に置かれ、毎朝提供される
裁縫セットも用意され、心遣いを感じた
セーフティーボックスは襖の奥に。洋服掛けやミニバーと同じ場所にある

 バスルームは檜風呂付き。檜の香りに包まれながら、日頃の疲れを癒すことができる。また洗面所には、女子向けにドクターシーラボのスキンケアセットが朝用と夜用があり、手ぶらで来ても安心。コットンセットやシャワーキャップ、ヘアブラシに歯ブラシセットなどがアメニティとして提供されている。ドライヤーは備え付けと手持ちの2つ。起床時間が被っても大丈夫だ。お手洗いは、温水洗浄便座を完備。1畳あるかと思うほどの空間には、生花が生けられていた。宿泊価格はプランによって変動するためWebサイトで確認を。

 なお、夕食が終了するタイミングで本間には布団が敷かれる。ふんわりした清潔感あふれるベットメイキングがされており、上質な睡眠への期待が高まる。枕元には、緊急避難用の靴や懐中電灯も置かれ、もしもの時の対策も抜かりない。なお、部屋着として花菖蒲が描かれた浴衣と羽織、そして足袋風のソックスが使える。ソックスのみ持ち帰り可能だ。

檜風呂に肩まで浸かって日頃の疲れを癒せる
アメニティ類は手ぶらで来ても安心なスキンケアセットなどが揃う
2人で使用しても快適な大きさの洗面所。ドライヤーも2つ設置
トイレはウォシュレット完備。スペースも広い
浴衣など一式。硬めの枕も一緒に並べられ、お好みで使える。緊急時用のスリッパはベッドメイキング後に枕元に置かれる
夕食から戻るとベッドメイキングがされている。2部屋あるため最大5名まで1室に宿泊可能
部屋から見た庭の様子。紅葉が美しい

 客室の檜風呂とともに浸かりたいのが2つの大浴場と露天風呂。地下300mからくみ上げた軟水は、お肌に優しくしっとり仕上がる。「紫陽花」には木材をふんだんに使った風呂と露天風呂が隣接、木々を眺めながら開放的な気分で湯が楽しめる。

「紫雪英」は石造りでどっしりした印象。どちらも味わいがあり、つい長風呂してしまう。シャンプー類もアロマの香りで爽やか。利用時間は6時から9時、15時から24時まで。露天風呂は男女で入れ替えとなり、男性が15時から20時。女性が20時30分から翌朝9時までとなっている。

「紫陽花」は木材をふんだんに使った湯船が特徴
「紫陽花」に隣接する露天風呂からは桜なども時期により楽しめる
「紫雪英」はどっしりと落ち着いた雰囲気

 脱衣所には、マッサージ機やアメニティとしてバスタオル、綿棒、コットン、シェービングフォームやシャワーキャップ。化粧水類やドライヤーも完備しているので、替えの下着以外は何も持たずにそのまま大浴場へ行ってもOK。入口付近には風呂上がりの一杯が楽しめるようひんやり麦茶が用意されていて一休みができるのもいい。

脱衣所の様子。マッサージ機は、体全体と足の2種類
男湯と女湯の間には、麦茶を飲んで一休みができるスペースもある
「料亭旅館 やす井」の女将・安井ちなみ氏

 なお、一番人気の特別室「囲炉裏」もご紹介しよう。こちらは本間10畳に次の間8畳。寝室8畳に囲炉裏と檜風呂付き。部屋というよりも家屋といった方が正しい造りとなっている。

 日本庭園を臨む2つの和室に、暖をとるための囲炉裏。寝室はセミダブルのベッドを2つ配置。和と洋がミックスされ使いやすいような工夫が随所に見られる。最大で5名まで利用が可能で、2名利用時は3万8800円から宿泊可能だが、時期により価格も変動するため確認を。女子旅や女子会から親子や夫婦、家族連れまで幅広い層が宿泊されるとのこと。住むような感覚でのんびりしながら、最高のおもてなしが受けられる部分が人気の秘密だろう。

 女将の安井ちなみ氏に伺ったところ「極力、日本の文化、和の部分を大事にすることを客室をはじめ意識しています。例えば椅子、テーブルもありますが日本製の手作りのもので和室に合うように、そしてお客さまのご希望にあった形でご提供できたらと考えています。そして、お料理もすべて手作り、今は鴨のお鍋がおすすめです。琵琶湖の味もふんだんにご用意していますので、ぜひゆっくりくつろいでいただけたら」と話してくれた。

一番人気の「囲炉裏」は入口を入ると庭に面した廊下があり、その先に囲炉裏がある
寝室はセミダブルのベッド
和室も2部屋あり、家族で宿泊しても広々使える
檜風呂もスペースがたっぷり。洗面所もグリーンとブラックを基調とし、落ち着いた雰囲気。お手洗いスペースも大きめ

近江の美味しいがぎっしり。こだわりの料理に酔いしれる

「料亭旅館 やす井」のもう一つの魅力は“料理”だ。旬の食材や琵琶湖ならではの味が存分に楽しめ、食事を目当てに訪れる宿泊客も多い。客室、または別個室でゆったり御給仕してもらいながら、自分のペースで美食を頬張れるため、2時間ほどかけてゆっくりと夕飯を味わうのもおすすめだ。

 今回は冬の時期のみ提供の「鴨鍋プラン」(1万2000円+消費税、サービス料15%)を選択。先附・造里・鴨鍋・酢の物・御飯・水物がセットとなっている。食前酒にはおめでたいときに出される純米吟醸「福のしずく」を。食中酒としてもよく、口当たり柔らかでしっかりした旨味が特徴だ。

客室、または別個室で食事を味わうことができる
食前酒は純米吟醸「福のしずく」

 先附は自家製の鮒鮨。壬生菜とヒラタケのおひたしと甘エビに味噌と卵のソースがけ。さっぱりおひたしと上品な味わいの鮒鮨がうれしい。造里は鮒の子付き、刺身湯葉にトンブリが添えてある。酢味噌で味わうのがおすすめだが、生姜醤油も用意。好みで味わおう。

先附は自家製の鮒鮨に、壬生菜とヒラタケ、甘エビを使ったおひたし
造里は鮒の子付きと刺身湯葉

 メインの鴨鍋は、まずはつみれから。首部分を骨ごと叩いた肉を最初にお鍋に入れ出汁を出すのがポイントだ。鴨は新潟産の脂ののった野鴨を使用。ロース、肝、心臓などは沈めるが、鴨肉は色が変わり柔らかいうちに味わうのが美味しい。使い丸ごと1羽を使っているため、まさに鴨三昧だ。かんずりをつけてピリッとさせるのもいい。

 つみれなどを沈めたら、次にネギや田ゼリなどの野菜を美しく鍋に入れ、丁字麩に豆腐なども並べる。なお、3度ほど繰り返し鍋が味わえるほどの量が提供されるが、1回1回すべて食べてから、また1から鍋を始めた方が美味しく味わえるとのこと。最後に焼き餅を入れて、大満足。

 しかし、ここで終わらないのが鴨鍋。出汁にとろみを少し付け、そばを入れて食べるのだ。鰻をメインにし、錦糸卵やシャッキリ食感の胡瓜が味わえる酢の物を食べ終わった頃に、締めのそばが登場。料理長自ら打った蕎麦が鴨の骨で出したお汁と絡んで、一口目から笑顔に。

 デザートは酒粕を使った和スイーツ。ラフランスとの相性も抜群で、ミントも一緒に食べると爽やかさが口いっぱいに。

鴨鍋はまず、つみれを出汁の中へ入れ、次にレバー、心臓などの部位を入れる
次に野菜や豆腐類を並べる
お鍋がいい塩梅になってきたところで鴨のロースをさっとしゃぶしゃぶ
かんずりをつけて食べるとピリッとしたアクセントも楽しめる
何度か鍋を作っては食べを繰り返し、お餅も投入
合間に酢の物で口の中をさっぱり
締めは料理長が打った特製そばととろみのついたお汁をどうぞ
デザートは酒粕を使ったアイスクリームとフルーツ
料理長の櫻井泉氏。山が好きで山菜採りによく出かけるとのこと

 すべての料理を手がける料理長の櫻井泉氏に話を聞いたところ「彦根は野菜がとても美味しいのが特徴です。そのため新鮮なものをふんだんに使うようにしています。また、野山に山菜採りに行けるため、採りたてのものを料理に使っています。なお、今の時期はやはり鴨が一押しです。田ゼリが美味しくなると鴨が美味しくなると言われているので、一緒に味わえるようにもしています」と話してくれた。実際に先附にデコレーションされていた葉は料理長自らが採りに行ったものだとか。1皿1皿心を込めて生み出していることが、見た目や味を含めてすべてから感じられた。

 なお、1日の始まりには欠かせない朝食もこだわりがたっぷり。炊きたての近江米に鮎の甘露煮など滋賀の美味しいが揃っている。女将こだわりのだし巻き卵に、干しと生の間のジューシーなホッケ。小松菜とあげの煮びたしに、きんぴらなどの小鉢。さらに湯豆腐にかしわや、切り漬けなど、どれから味わおうか迷うほどの品数。量が多いかも!? と驚くかもしれないが、その美味しさでいつの間にか完食できているのでご安心を。近江米もおかわりができるので思う存分頬張れる。

 デザートのフルーツ&ヨーグルトのあとは、コーヒーまたは紅茶でホッと一息。時間をかけて味わえるため、食べているうちに目も覚めてくる。きちんと朝ごはんを食べてエネルギーチャージして、彦根を元気に歩きまわれそうだ。

料亭旅館 やす井

所在地:滋賀県彦根市安清町13-26
TEL:0749-22-4670
Webサイト:料亭旅館 やす井

朝食も近江の美味しいがたっぷり。見た目も美しい
女将こだわりのだし巻きは海苔が中央に。ホッケもジュシー、皮はパリッとすべてが食べられた
小鉢3種には、鮎の甘露煮や煮びたし、きんぴらなどが並んでいた
シャッキリした歯ごたえのサラダと切り漬けなども揃っている
土鍋で提供される近江米は炊きたて。おかわりもできる。味噌汁にはシジミ
あったか湯豆腐とかしわ
デザートはフルーツのヨーグルト和え、食後のコーヒーでまったり

 彦根城をはじめ、城下町、井伊家にまつわるスイーツや名産をはじめ、おもてなしの心を隅々にまで感じる老舗旅館と魅力満載の同エリア。一度訪れたならば、もっと知りたい! もっと味わいたい! と、もう一度足を運びたくなること間違いなしだ。

 さて次回は、井伊家の命により創業した酒蔵や、近江八幡周辺のスイーツや手作りアクセサリーショップ、琵琶湖にまつわるノート開発などをピックアップして紹介する。

相川真由美

フリーライター/鉄鋼業やIT系やエンタメ関連の雑誌やWeb媒体の編集者を経て、フリーの記者として活動中。海外は一人旅がほとんど。趣味は世界のディズニーのパーク&リゾート巡り。最近は年間パスポート片手に日々舞浜通い。うなぎとチョコレートが好物で、旅の基本は“出されたものは全部食べる”。激辛とうがらしから謎の木の実まで挑戦するのがモットー。