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JR西日本、「ATACS」をベースにした無線式車上主体列車制御システムの走行試験を公開

沿線から信号機が不要になり、保安機器の安全で効率的な保守が可能に

2015年10月15日 実施

無線式列車制御システムの走行試験に使用された「クヤ212 1」。瀬戸大橋線用だった「クロ212 1」を改造した車両

 JR西日本(西日本旅客鉄道)は10月15日、試験列車「U@tech」を使用した無線式列車制御システムの走行試験を報道陣に公開した。この新システムは現在JR西日本が「鉄道システムオペレーションのシステムチェンジ」をテーマに掲げ取り組んでいる技術の1つで、今回はその実用化に向けた検証を行うためのものでJR嵯峨野線 京都駅~園部駅間で公開された。

無線式列車制御システムの走行試験に使用された在来線用試験列車「U@tech」。「クヤ212 1」「サヤ213 1」「クモヤ223 9001」で構成された3両編成
京都駅に停車中のU@tech
走行試験は京都駅を出発し園部駅まで運行
報道陣向けに説明用モニターが設置された車内

 現在開発中の本システムは、すでにJR東日本の仙石線で運用されている列車制御システム「ATACS」をベースとしたもので、列車と地上の様々な設備を無線で情報を交換し走行を制御する。

 具体的には、先行する列車が自らの走行位置を検知し、無線で地上装置に位置情報を伝え、地上装置はその情報をもとに決められた後続列車の適正な運転間隔の位置情報を送信。後続車は受け取った情報と速度制限箇所の情報をもとに今度は地上装置ではなく列車自らが制限速度を計算しそれを超えないようブレーキを制御する。

 現在使用されているATS(自動列車停止装置)は、線路上に設置された「地上子」と呼ばれる装置から車両へ送られる信号により、列車のブレーキを自動的に動作させる安全装置であり、その進化型である「ATS-P」では、一部双方向のやりとりは行われているものの、基本的には地上子が設置されている「点」から車両への情報伝達に過ぎない。それに対し、無線式のシステムは連続的に双方向の情報交換が常時行なわれるので、線路上を走る列車の位置や速度が連続的に把握でき、運行の安全上大きなメリットがあるという。

 また今まで軌道内に設置されていた地上子は、より細かい制御をするためにはより多く設置する必要があったのに対し、開発中のシステムは1.5~3kmおきに軌道の外側にアンテナを設置するだけとなる。また、列車信号も新幹線のように運転席のパネルに表示することが可能となるため、沿線に設置する必要がない。本システムの導入により、今まで沿線に配置していた信号機などの多くの機器を沿線外に集約する事ができ、保安機器の安定した動作と安全で効率的な保守が可能になるという。

対面配置のシートは、グリーン車時代の名残。今は打ち合わせスペースとして利用されている
さまざまな試験用の機器が並び、コードが這う「クヤ212 1」の車内
架線柱に設置されたコンパクトな新システム用のアンテナ
ATS-Pの地上子
無線からの情報により計器に直接信号が表示されるので新システムでは線路脇に設置されている信号機も不要となる
新システムの概要

 本システムは、2008年度より開発がスタートし、吹田総合車両所構内で基本機能の試験を実施したのち2012年度よりJR嵯峨野線 亀岡駅~園部駅間(約14km)で「U@tech」を使用し走行試験を実施している。今回報道陣に公開されたのもこの区間で、京都駅に入線した「U@tech」は亀岡の1つ手前の馬堀駅まで回送し、その後園部駅までの試験運転に入った。なお、この路線が試験区間に選ばれたのは山や川、トンネルが多く一般の平地より無線の対応が難しい場所であることと運行本数が少なめで、臨時列車が入れやすいとの理由によるものだそうだ。

 試験内容としては現在使用しているATSと新システムの自動切り替え試験をはじめ、駅のホーム非常ボタンや踏切の非常ボタンによる緊急防護、固定速度制限、臨時速度制限(風規制+踏切故障)、列車間隔制御、誤通過防止など、その項目は短い区間でありながら多岐に渡った。

既存のATS区間と新システム区間にはオーバーラップした区間があり、ここで試験用地上子を通過する事により保安装置が新システム(ここではATCと表記)に自動的に切り換えられる
14kmの短い区間だが試験項目は多岐にわたる
無線異常などさまざまな状況により試験区間では何度も非常ブレーキが作動する
運行速度やノッチの状況、保安装置状態などを表示
山や川、トンネルが多く一般の平地より無線の対応が難しい場所が試験区間に選ばれた

 安全性の向上、設備数量の低減、保守作業の省力化を目指す今回公開された新システムへの取り組みは、JR西日本の「中期経営計画2017」の最終年度である2017年度までに実用化に目処をつける事を目標としているが、完全自動化ではないので、技術開発と同時に運転士がどこまでの領域を作業し、どこまでを機械に任せるかなどのさじ加減も大切なファクターになるという。また現段階では、具体的な投入路線は決定していないとのことだが、施設側だけではなく車両側の設備の変更も必要になる。

(高橋 学)