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尾道松江線が開通したので尾道をブラブラしてみた(後編)

 中国横断自動車道 尾道松江線が全線開通した翌日の3月23日に散策した尾道。前編では尾道駅から細い小路を通る古寺巡りや千光寺へ向かうロープウェイ、そして尾道~向島を結ぶ航路を陸から見てきた。後編は、記者が尾道水道沿いを歩いて尾道駅前に戻ってきたところからスタートする。

レンタサイクルを申し込み

レンタサイクルを使ってタダで因島大橋を渡る

 尾道駅に戻ったのは、レンタサイクルを借りるためだ。尾道と愛媛県今治市を結ぶしまなみ海道こと西瀬戸自動車道は、サイクリングコースが整備されており、この沿線の自治体で「しまなみ海道レンタサイクル」を設けている。沿線15カ所にターミナルがあり、例えば先の福本渡船で向島に渡った先にもターミナルが設けられている。しかし、どうせなら起点である尾道駅前で借りたいとの思いで、そちらへ向かったわけだ。

 レンタサイクルの料金は、通常の自転車が大人1日500円。電動アシスト自転車が4時間以内800円、タンデム自転車が1日500円などバリエーションがある。通常の自転車なら15カ所のターミナルのどこでも乗り捨て可能だ。ちなみに、レンタル時は1000円の保証料を支払う。これは同じ島内であれば返還されるが、異なる島へ乗り捨てると返還されない。考え方としてはレンタカーの乗り捨て料金を前払いすると言えばいいかも知れない。

 また、先ほど千光寺のロープウェイに乗ったが、実は、この乗車券を利用するとレンタサイクルが100円引きになる特典が付いている。今回はこれを利用し、400円で通常の自転車を借りた。

 今回レンタサイクルを利用したのは、因島大橋を渡りたかったからだ。因島といえば、村上水軍、ポルノグラフィティの聖地、2014年12月末まで視聴していた瀬戸内の島が舞台のTVドラマ「Nのために」の原作者である湊かなえの出身地などと、いろいろ知識だけはあった。

 ただ、今回は因島を訪れることが目的ではなく、吊り橋を自転車で渡ってみたい、そして、その吊り橋=因島大橋を自転車で渡る場合、「2015年3月31日までは無料で渡れる『しまなみサイクリングフリー』を実施している」という情報があり、これは行くしかないと決めた次第だ。

 ちなみに、記者が尾道を訪れたあと、しまなみサイクリングフリー期間は2016年3月31日まで1年間の延長が決まっている。

ずらっと並ぶ自転車の中から好きなものを選んで乗車
レンタサイクルの申込書。氏名、住所と携帯電話の番号を記入する程度
ロープウェイ乗車券の半券で100円引きとなる。このほかにも「尾道市立美術館」や「おのみち文学の館」などいくつかの施設での割引特典がある

 実は、ここまで結構のんびりと歩みを進めたため、自転車を借りたのは15時前後。尾道駅前のレンタサイクルターミナルは18時で閉まる。つまり、3時間で因島大橋を渡って、尾道駅前に戻ってこなければならない。

 これは、前日の夜にちゃんと下調べをした。ルートはこうだ。尾道駅前から出ている向島運航の船で向島に渡り、サイクリングルートを走って因島大橋を経由し、因島へ渡る。そして、生口島の瀬戸田港から因島の重井東港を経由して尾道駅前へ戻る船に乗る。因島重井東港~尾道駅前桟橋の船に17時29分発~17時49分着の便があり、これで戻ればキッチリ18時に返却できる計画だ。

 逆に言えば、2時間30分程度で尾道駅前から因島重井東港へたどり着く必要があるわけだが、レンタサイクルターミナルの方に確認したら「早ければ1時間ちょっとで行けるよ」とのことだったので、安心して旅の足を自転車へと切り替えた。

 レンタサイクルのターミナルから尾道駅前の船着き場はすぐ。ここから出る向島運航の船は、尾道~向島間の3航路で唯一クルマが乗れないのが特徴にもなっている。操舵室が和風とも中華風とも取れる独特のデザインが印象的な船だ。運航間隔は約12分。向島側では水路を少し上って富浜という港へ到着する。料金は大人100円。加えて自転車は10円が必要となり、今回は計110円を支払った。今回はバックパック1つだったので特に何も請求されなかったが、荷物もスーツケースなどを持っていると重量別に別途60円~180円の料金ががかかるようだ。

自転車とともに船へ乗り込み出航
船上の甲板は1デッキのみで広々としている
操舵室。色味といいデザインといい、和風と中華風が混ざった独特のデザインだ
尾道水道の眺め。歩いた道を海から眺めて反芻できる
福本渡船の向島側乗り場を横目に水路へと入る
向島側の富浜乗り場。10数名がこの船を待っていた

 さて、ここからは、ひたすら自転車を漕ぐ。途中、写真映えする風景を見つけては足を止めることを繰り返しつつ進んでいたのだが、普段それなりには歩いているつもりでも、やはり自転車は使う筋肉が違う。正直少しつらかった。

 とはいえ、3月後半という時期もよかったのだろう。海沿いの道が続くので風は気持ちがよく、つらいなりにもサイクリングを楽しむことができた。そして、因島大橋のサイクリングロードは鉄骨のトンネルがまっすぐに伸びる美しい道だった。これを見られただけでも、やはり来てよかったと思える。

 そして、原付などであれば因島側にある料金所で支払いをして進むのだが、この料金所も面白く、遠目には灰皿にしか見えないただの箱が置かれているだけ。係員も常駐しておらず、防犯カメラがあるので未払いで通過しようとすると“何か”があるのかも知れないが、性善説に基づいているのであろうシンプルさが印象的だった。

 そして、レンタサイクルのターミナルで言われた「早ければ1時間ちょっと」なんてことはなく、最後は間に合うか不安なほど遅れに遅れ、2時間強をかけて因島重井東港へたどり着いた。

向島中学生による看板が出迎えてくれた
向島にある市民センター。ここにもレンタサイクルのターミナルがある
サイクリングロードは青いラインが引かれ、自動車とはっきり区別されるだけでなく、この線に沿って進めば大丈夫というナビにもなっている
クルマで因島大橋に乗るには国道317号を進むが、サイクリングロードは県道へ逸れて海沿いの道を進むようになっている
しばらく進むとL字に曲がるカーブがある。ここを曲がると岩子島との水道沿いの道へと風景が変わる
水道沿いではあるが、風が吹き抜ける気持ちのよい道を進む。向島と岩子島を結ぶ赤い鉄橋も青空に映える
橋の真下という空間は、どこかに眠っている子供心を覚ましてくれる
道中みかんなどの露店販売もある。疲れた体は欲していたが、1袋に大ぶりのみかんが4~5個入っていて1人で食べられる量ではなく、もったいないので諦めた
サイクリングロードの途中のマンホールもおしゃれ
途中、トイレのある休憩所のような場所があった。この先は海が開け、瀬戸内海沿いと表現しても差し支えなさそうな道へと表情を変える
地図の赤いラインがサイクリングロード。因島大橋へ入る道が何かおかしいのだが、ここでは気にせず進むことにした
途中、大林宣彦監督の新・尾道三部作「あした」のロケ地という看板を発見。大林宣彦作品をきっかけに尾道を訪れる人は多い
途中アップダウンが激しい道もあるが、そこを超えるたびに因島大橋が大きく見えるようになりテンションが高まる
因島大橋もどんどん迫ってくる
途中の自販機では、愛媛県産温州みかんエキス入りの水だけが売り切れていた。この地でこれを飲みたくなる気持ちは理解できる
因島大橋近くでは、歩道を自転車で走れるので気分がかなりラクになる
大きな吊り橋の下は疲れを忘れて興奮できるポイントだ
そんな興奮状態から再び疲れを思い出させてくれるのが、橋の下付近から「1.1km」も先にようやく橋への「入り口」があることを教える看板
「入り口」を指し示す看板
因島大橋と今回の相棒であるレンタサイクル
先ほどは「橋の下から入り口まで1.1km」、たどり着いてみれば「この先1200m」の看板
ひた……
すら……
坂を上がる……
ふらふらと坂を上がっていても、やはり橋の下の空間は気持ちが高ぶる
坂を上がりきり、ようやく因島大橋の入り口へ。ここは歩行者、自転車/バイクで車線が分けられている
いよいよ因島大橋の中をくぐるルートへ。整然と組まれた鉄骨で作られた無機質な空間を進む
橋の途中に「尾道まで10km」の案内。つまり、ここまで10kmを走破したということになる
橋の繋ぎ目も面白い場所
遠くに見えるオレンジの灰皿……ではなく集金ボックス
自転車通行料金無料は2016年3月31日まで延長された
因島大橋を通過
重力に身を任せてあっという間に坂を下り終えた
船の時刻に間に合わせるため、かなり急いで重井東港へ向かう。途中、恐竜のような生き物を見た気がするのだが、焦っていたのであまり覚えていない。きっと気のせいだろう

 重井東港の船着き場も想像しない雰囲気だった。船の乗り場というとターミナルがしっかりしているイメージが頭にあったのだが、ここ重井東港は小屋が1つあるだけ。ローカル線の無人駅や寒冷地のバス停を想像していただくとよい。とはいえ、ここに時刻表などが貼られており、間違いなくここに船がやってくる来ることが分かる。海辺の風は強く、3月後半とはいえ、かなり寒かった。この小屋もなくてはならない存在だ。

重井東港の待合所(右)。左側はトイレ

 そして、定刻より10分強の遅れで、船がこちらへ向かってくることを確認できた。瀬戸内クルージングが運航する「シトラス」だ。船体は全身黄色、客室は全て座席で、1デッキ(フロア)のみという水上バスだ。重井東港~尾道間は大人550円。加えて自転車には300円が追加され、計850円の運賃を支払った。

 実は、船内での撮影許可を得るために重井東港から瀬戸内クルージングへ電話をかけておいたのだが、このことが船長に伝わっており、前方の眺めも見せてもらうことができた。しかし、この船は乗客用の座席の窓際の方が、水との近さを感じられて楽しい。船内にはTVも備え付けられており、このあたりは地元の足となっていることも感じられるが、観光という立場で乗ってもこの水際の迫力は思い出に残るだろう。

 さて、この船は17~18ノット程度の速度が出るそうだが、潮の流れによっては、遅れることも珍しくないらしい。実際、重井東港への到着は10分強の遅れであった。しかし、尾道駅前へ向かうまでにかなり挽回。17時50分過ぎには到着した。

 このあと、乗客の多くが自転車に乗ってレンタサイクルのターミナルへ向かった。考えることはみんな同じだ。重井東港から自転車を載せたのは記者だけだったので、しまなみ海道沿線の生口島瀬戸田港で乗った乗客が多かったということだろう。15台ほどの自転車の列に並んで、無事にレンタサイクルを返却した。

ものすごい勢いを感じる波を立てながら瀬戸内クルージングの船が近付いてきた
客席は3-3の6アブレストで7列が並ぶ
船の音が大きいので音声は聞こえにくかったがTVも備え付けられている。前方左側が船長の席
客席窓側の席では、水面が近く、船が立てる波をダイレクトに感じることができる
こちらは操舵席の右側にある船員用スペースからの眺め。クリアな窓から広く見渡せる
尾道駅前へ向かう船の上からは、自転車で見てきた風景や、自転車では見えなかった風景など、向島の違った顔を見ることができる
尾道駅前に着岸した「シトラス」

 このあとは、お土産物屋さんで購入した甘味で疲れた体に糖分を補給しつつ、再び山陽本線、三原駅を経由して広島空港へ。そして帰途に就いた。

 いろいろと反省はあるものの、尾道らしい小路から、向島と因島の海岸線、そして千光寺展望台から見下ろす尾道の街、船の上から見る尾道の街と、たった1日の滞在ながら、この土地のいろいろな顔を見ることができた。だが、入ってみたかった小路や商店街、乗ってみたかった船、もちろんレトロバスと、不完全燃焼気味でもある。いつか再び訪れて、次は1日と言わず、のんびりと時間をかけて巡ってみたいと思う街だった。

夜の尾道駅
駅のお土産物さんで購入した「マダムはにーのレモンケーキ」。レモンの風味の利いたチョコが甘さを和らげる絶妙な味わい
こちらは、にしき堂の「生もみじ」

編集部:多和田新也