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尾道松江線が開通したので尾道をブラブラしてみた(前編)

 3月22日に中国横断自動車道 尾道松江線が開通したことはお伝えした通りだが、このあと1日だけ延泊し、翌3月23日に尾道市内をぶらぶらしていた。実は記者は、尾道はおろか、広島県に“上陸”するのも初めて。それだけに、1日で回れるだけ回ってやろうと決意した結果、欲張りすぎたと若干の反省を残す旅となってしまったのだが、その様子をお伝えする。

 ちなみに記者の広島県のイメージというと、厳島神社、カープ、語尾が「じゃけん」、前田、お好み焼き、海軍、「かばちたれ!」と怒られそうで怖い、達川、もみじ饅頭といったあたりだろうか。記者の広島県に対するイメージを形作る上で、重松清が果たした役割はあまりに大きい。

意外に交通機関に恵まれていない「尾道」

 さて、もう1つお断わりを入れておくと、はっきり言って今回の尾道巡りは下調べが不十分だった。そして、尾道へ向かう道程で、その洗礼を早々に受ける結果となった。尾道への交通アクセス事情の説明にもなるので、簡単にその話をまとめておきたい。

 尾道巡りをする3月23日の前日、つまり3月22日は三次市で行なわれる尾道松江線の世羅IC~吉舎IC開通式典を取材するためレンタカーを手配する必要があった。午前中からの取材予定があり、本来であれば前日のうちに借りておきたいところだったが、前日は前日で別の取材があったため、レンタカー営業所が閉まったあとの広島入りとなってしまった。

 そこで、前日は福山駅近くに泊まり、朝5時55分発~7時着の高速バスで福山から広島空港へ移動。福山駅前や尾道駅前の営業所よりも早く、7時に開店する広島空港近くのレンタカー営業所へ飛び込むことにした。

 広島空港近くのレンタカー営業所が朝7時から営業しているのは、朝7時35分に出発する飛行機に乗る旅客がレンタカーを返却できるようにするためだ。到着便は8時台以降しかないので、この時間に借りようという人はあまりいないのか、レンタル前日に「お客さん、朝7時って間違いじゃないですよね? どうやって来るんですか?」という確認の電話があったほど。

前日の尾道松江線取材でお世話になったレンタカー。そうそう、広島といえばマツダも忘れてはいけない

 ともかく、ここまでは十分に下調べをしたと自分では思う。おかげで慌てることなく取材に間に合った。問題はここからだ。

 取材を終え、なにも考えず広島空港近くの営業所へレンタカーを返却。空港へ送ってもらったレンタカー営業所の方に尾道への行き方を尋ねてみると、「えっ? お客さん、これから尾道行くんですか? なんで尾道の営業所に乗り捨てなかったんですか?」との回答。その顔には、なんとなく哀れみが混じっていたようにも思う。

 尾道へ行こうとする前の記者は、「尾道ぐらい名前が知られた土地なんだから、観光客のために広島空港からの直通バスがあるはず。だって、もっと遠い福山とのバス路線もあるんだし」と勝手に考えていたのだが、そんなものはなかった。

 広島空港から尾道へは、まずはバスで三原駅へ出て、そこから山陽本線で尾道駅へ向かう。尾道は“本線”ブランドのこの路線からも厳しい扱いを受けていた。三原駅から向かう場合、尾道の手前の糸崎駅で終点という便が多く、尾道へ行ける便は1時間に1~2本といったところ。その(わるい意味での)ピークが三原駅発13時台で、5本中4本が糸崎止まり。尾道へ行く場合、12時51分の岡山行きを逃すと、次は13時55分の福山行きまで待つ必要があるといった具合だ。

 ついでにおカネの話もしておくと、運賃は空港~三原駅のバスが820円、三原駅~尾道駅の運賃が240円で、計1060円。一方、今回利用したニッポンレンタカーの乗り捨て(ワンウェイ)料金を調べてみると、広島空港で借りて新尾道駅前で乗り捨てる場合の手数料はゼロ円。

 さらに、新幹線の新尾道駅は、山陽本線の尾道駅からはちょっと離れた場所に作られている上、1日2本の「ひかり」が停車する以外は「こだま」しか停車しない。

 尾道という広く知られた土地が、遠方からの旅客を運ぶ飛行機と新幹線でのアクセスに恵まれていないというのは、個人的に“まさか”の出来事だった。

 こんな話を社内の広島県出身者に話してみたら、「それは尾道のせいじゃなくて、後から作られた広島空港と新尾道駅がわるい」と反論されてしまい、結局、下調べしていなかった記者がわるいという結論に至ったところで、この事例を反面教師として参考にしてほしい。

 とはいえ、このように“尾道を訪れるならばクルマが便利!”と言える交通事情は、尾道にとってクルマという交通手段が及ぼす影響が小さくないことを示している。3月22日に開通した中国横断道 尾道松江線の全線開通という、クルマのための交通インフラの整備が、この地にとっていかに重要であるかも分かるというものだ。

 ともかく、下調べせずに楽しめるほど尾道は甘くない。その夜は、ホテルのロビーでもらった観光パンフレットとネットで猛勉強をし、散策プランを立てた。もちろん突貫工事で作ったものではあるのだが。

まずは古寺を巡りつつロープウェイ……もとい「千光寺」を目指す

 そして、(たぶん)楽しい1日の始まりである。散策は尾道駅を起点に始めるが、まずは、長めの出張だったために持っていたトロリーバッグを片付けておきたかったので、駅の横のコインロッカーへ直行。大・中・小とサイズがあり、料金は600円、400円、200円という普通といって差し支えないロッカーだ。

 ちなみに、あとで知ったことなのだが、尾道の町中には、お土産物屋さんなどでスーツケースを預かってくれるところが何カ所かある。例えば、後述する千光寺ロープウェイ乗り場から海の方へ歩いたところにあるお店に「荷物預かります」の貼り紙を見つけたので尋ねてみたところ、1日300円でサイズ問わず預かってくれるとのこと。このあたりの情報も事前にネットで調べておけばよかったと、今回の旅で反省したことの1つだ。

山陽本線の尾道駅
尾道駅前の歩道橋に上がると、さっそく尾道水道が目に飛び込んでくる。しまなみ海道の新尾道大橋も遠目に見える
コインロッカーは駅の西側にある

 さて、尾道はやはり観光地だと思えたのは、地図に困らないことだ。駅前はもちろん、古寺巡りコースの途中などにも地図が掲示されている。記者はホテルのロビーに置かれた地図をもらったが、駅の観光案内所などでも手に入る。旅の目的にもよるだろうが、1日~2日の滞在で散策したいぐらいのゆるい観光なら十分すぎる地図だ。歩いた限り、観光客が歩いていることに違和感のない広さの道は、ほぼ網羅されていた。

 紙1枚の地図では不安、というならネットを活用するといいだろう。尾道市内にはフリーのWi-Fiが整備されており、無料で接続できる。試したところ下りの速度は1Mbpsと十分ではないが、Google Mapsで現在位置を確認するなどの実用には耐える。また、パケット使用量を抑えてアクセスできることには意味がある。

 というのも、観光案内所などで配布している各種地図やガイドマップは、実は多くをPDFでダウンロードできるからだ(http://www.ononavi.jp/fan/download/)。紙の地図を持って歩くのは煩わしいと思う人は少なくないだろうが、スマホやタブレットがあれば、それと同じ物をデバイスに入れて持ち歩ける。紙で目の前にあるものなので、ピンポイントで必要と思うものだけダウンロードすればよく、例えば、紙の地図を見ながら行動プランやルートを検討しつつ、フリーWi-Fiを使って(パケット使用量を気にすることなく)ダウンロード。実際の散策・観光中はタブレットなりスマホなりで見る、といったスタイルがよいのではないだろうか。

駅構内に観光案内所、駅前には観光案内地図。今回記者がメインに使った(ホテルのロビーでもらった)地図は、この観光案内地図に似たものだった
今回使った地図。あとはスマホでGoogle Mapsを何度か見た程度
尾道市内のフリーWi-Fi。SSIDはいろんなところで案内されており、簡単に接続できる
速度は十分とは言えないが、使い方次第だろう

 身軽になったところで、いよいよ散策開始だ。まずは尾道駅から、古寺巡りをしつつ東へ進み、ロープウェイを使って千光寺へと至るルートを歩くことにした。なお、古寺巡りといってもキッチリ回っていては、それだけで1日が終わってしまう恐れがある。あくまでロープウェイに至るルートにあるお寺だけ見て、気分を味わうだけである。

 古寺巡りも、やはり所々に付近に地図が掲示されているほか、道しるべも多数あることから、ルートに迷うことはない。初めての場所(しかも下調べ不十分)でも道の心配をしなくていい安心感は、なによりありがたい。

 さて、この古寺巡りルートは、坂のある狭い小路を延々と進む。尾道と聞いて、この小路をイメージする人も多いだろう。やはり、ここを歩かないことには、尾道に来た気がしない。正直言うと、古寺巡りが目的というよりも、この道を歩くために、このルートで進むことにしたという方が正解だ。

 この小路は、石畳あり、タイル畳あり、そして坂に家を建てるために積まれた石垣あり。尾道という独特の世界観に包まれる。だが、時折漂ってくるお味噌汁やカレーライスの香りが、そんな浮き世離れした感覚を正気に戻してくれたりもする。忘れてはいけないのは、ここにある多くは現役の住宅であり、そこには人の生活があるということだ。観光資源として“維持”をしようとはしているかも知れないが、決して観光のために“作られたモノ”ではないことが、この景色の価値を高めている。

尾道駅から東へ伸びる道を進み、最初の踏切を渡ると古寺巡りのコースへ行ける
坂も急で、踏切をまたぐ横断歩道も片側は階段がない
古寺コースの出発点。やはり地図があってありがたい
ちょっと綺麗すぎるのが玉に瑕だが、道しるべも随所に設置されている
尾道といって思い浮かべる人も多いであろう小路
古寺巡りコースの途中には、このような休憩所も。アップダウンの激しい道なので、足腰のオアシスだ
屋根付きの休憩スペースも用意されているのだが、正直言ってそこからの眺めがちょっと惜しい
最初に訪れた「持光寺」。桜には少し早い季節だったが、コブシかモクレンがほどよく咲いており目を楽しませてくれた
続いて訪れた「光明寺」。江戸から明治にかけての第十二代横綱「陣幕久五郎」の手形が石碑として残されていた
「吉備津彦神社」と「宝土寺」はほぼ隣接した位置にある。それほど高い位置からではないが、このあたりから尾道の商店街を見渡せる
この宝土寺の先の坂を下りてみると線路との距離がやたらと近いトンネルを発見。ちょうど貨物列車が通過したが、かなり迫力がある。ヤマト宅急便のコンテナを見て、TV CMを思い出す人もいるだろう

 さて、お寺まいりもそこそこに、千光寺へ至るロープウェイ乗り場へと到着。この記事が載るころには、すっかり桜も散っているだろうが、この地を訪れた3月23日は、“桜には少し早いかも知れないけれど、1分でも2分でも咲いていたらうれしいな”と一抹の希望を持って登ることにした。

 ロープウェイを使わず徒歩で行くことも考えたが、千光寺へ伸びる階段は急峻で、アラフォーのおっさんにとって往復500円には相応以上の価値があると判断した。ちなみに、ズバリ往復料金を記載したが、実は片道320円/往復500円の料金表を見て往復とも使うことを決断している。

 ロープウェイを登った先の、千光寺山ロープウェイ山頂駅の目の前には千光寺公園展望台がある。ここからは尾道の中心街から尾道水道にかけての景色を一望できるのはもちろん、しまなみ海道の新尾道大橋や向島、因島までも望むことができて壮観だ。

 ついでに売店で見かけた、尾道観光協会オリジナルという「瀬戸内みかんソフトクリーム(果汁入り)」を食してみることにした。コーンの色と若干同化気味なほどにオレンジ色のソフトクリームは、思ったよりもミルキーな風味で、しっかりとソフトクリームの味わいを堪能できる。しかし、みかんの風味もしっかりと口の中に広がり、(ロープウェイで多少ラクをしたとはいえ)坂道を歩いて疲れた体を癒やしてくれた。

 ただし、桜はつぼみのまま。この展望台から千光寺までは少し歩くのだが、桜の状態を見て、今回は踵を返すことにした。いやいや尾道観光と言いながら千光寺へ行かないなんて……というツッコミも覚悟しているが、個人的に千光寺へ行くこと以上に、千光寺と桜を一緒に見ることに重きを置いていた。このあたりは、人それぞれの楽しみ方ということでお許しいただきたい。

千光寺ロープウェイ乗り場。左側に急な階段が見えるが、これは出口側。乗車口用には右奥にエレベータがある
ロープウェイといえば最大の醍醐味は「すれ違い」であろう
こちらが山頂駅
山頂駅から伸びる階段。この先に展望台がある
左が展望台でらせん階段を上がると屋上に出られる。中央のガラス張りの部分はレストランになっている
展望台から東方向を眺めたもの。しまなみ海道の新尾道大橋もくっきり見える
こちらは西南方向で、向島の先の因島、生口島あたりまでが写っているだろうか
展望台の脇にある売店で2種類の観光協会オリジナルソフトクリームを発見。瀬戸内みかんの方を食べてリフレッシュ
残念ながら桜はつぼみのまま

平日に尾道を訪れる場合に注意しなければならないこと

 その後、ロープウェイで山を下り、そのまま道なりにまっすぐ海の方へ進み、尾道市役所を目指した。これは、バスを使って尾道駅へ戻ろうという狙いだ……った。その狙いをもう少し具体的に書くと、レトロバスの「好きっぷライン」に乗って尾道駅へ戻ろうとしたのだ……った。

 こんな残念な感じの過去形にしているのは、結論を言ってしまうと乗れなかったからである。好きっぷラインは、尾道駅を中心に市内を循環しているレトロバスの名称。運賃は140円と通常の路線バス並みで、お昼の時間帯を除いては30分間隔で運行しているのだが、土曜日と休日(日曜・祝日)限定であることを見落としていた。

 このように記者は残念な思いをしたが、それでは読者の皆さんに申し訳ない気持ちもあり、どのようなバスに乗ろうとしていたか、写真だけでもお楽しみいただきたい(こちら、http://travel.watch.impress.co.jp/img/trw/docs/694/001/html/055.jpg.html)。

 実は、このような“土日祝日限定”の乗り物はほかにも目に留まり、市役所の近くの十四日元桟橋から出ている鞆の浦行きのクルージング船も同様だった。また、3月21日から期間限定で実施している十四日元桟橋~尾道港桟橋(尾道駅前)を結ぶ「尾道水道 さくらクルーズ」も土日祝日限定。本音を言うと、後者に乗れなかったことは時期がぴったりだっただけに非常に残念に思っている。

尾道市役所
レトロバスの「好きっぷライン」の時刻表。さりげなく(でもないが)土曜休日のみ運行との記載が
こちらは市役所の脇から出る鞆の浦行きクルーズで、やはり土・日・祝日運航の文字
これは季節運航クルーズの「尾道水道 さくらクルーズ」。期間内の土・日・祝日の運航

 だが、ここから駅へ向かう尾道水道沿いの遊歩道にはいろいろな桜の品種が植えられており、少し早い桜を楽しめたのはよかったと思っている。また、尾道水道には、尾道~向島を結ぶ航路として尾道渡船、福本渡船、向島運航の3航路があるのだが、それぞれの船着き場を見ることができたのも楽しかった。

 特に福本渡船が運航するフェリーの乗り場に書かれていた運航時間「始発(向島)午前6時~ひんぱんに運航~終便(尾道)午後10時10分」は興味深い。「パターンダイヤの設定なんか不要! “行ける状態になったら行く”」の意気込みを感じる表現だ。このような、地元の足としてひたすら往復している乗り物が「船」であることも尾道らしさなのだろう。

尾道市役所から駅前へ戻る水道沿いの遊歩道には、いろいろな品種の桜が植えられており、早いものは葉桜になっていた
屋形船も停泊
尾道渡船が運航する「にゅう しまなみ」
日本一短い船旅を標榜する同航路。乗り場の写真を拡大して見ると、左後方に対岸の向島側に着岸していることを確認できる
福本渡船の「第拾五小浦丸」(船体には略字の“第”が用いられている)
福本渡船も航路はかなり短く、対岸を見ると向島側の桟橋が見えるほど。ダイヤは始発便と最終便の時刻だけが記載され、その間を“ひんぱんに運航”する
向島運航の「むかいしま-II」
向島運航の乗り場は尾道駅の目の前とアクセスは抜群。自動車は乗ることができず、航路は一番長い。一応12分間隔とされているが、乗り場には「終日ピストン運航しています」と貼り紙されている

 さて、古寺巡り、千光寺ロープウェイと堪能し、尾道駅へ戻った記者であるが、このあとは向島や因島へも足を伸ばす。続きは後編でお伝えする。

編集部:多和田新也