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阪神高速、3月29日に全線開通する6号大和川線を報道公開。関西初採用のすべり台式非常口など長大トンネル内部を紹介

2020年3月17日 公開

2020年3月29日 16時開通

6号大和川線のすべり台方式の避難経路。関西エリアでは初導入

 阪神高速道路は、6号大和川線のうち、未成区間だった7.7kmを3月29日16時に開通する。これにより、松原市域と堺市域で既存の阪神高速道路と接続し、大阪都心部における新たな環状道路「大阪都市再生環状道路」の一部が形成される。開業に先立つ3月17日には、新規開通区間の防災対策や緊急時の避難方法などを報道陣に公開した。

 阪神高速 6号大和川線は、松原市と堺市を東西に結ぶ路線。延長約9.7kmのうち、三宝JCT(ジャンクション)~鉄砲出入口の約1.4kmと三宅西出入口~三宅JCTの約0.6kmはすでに開通しており、今回の開通は鉄砲出入口~14号松原線三宅出入口までの約7.7kmである。

 出入口は、鉄砲(国道26号と接続)、常磐(府道28号大阪高石線)、天美(府道26号大阪狭山線)に新設する。

 この大和川線が完成すると、4号湾岸線と14号松原線がほぼ直線で接続され、堺浜から松原JCT(ジャンクション)間の所要時間は現在の約45分から約16分と、30分程度縮まることになる。また、大阪都心部を迂回するルートの完成で、都心部の交通渋滞の緩和も期待できる。

【お詫びと訂正】初出時、距離や道路名などに誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

今回開通区間、阪神高速 6号大和川線 鉄砲~三宅西
開通区間の概要
新設出入口の詳細図
通行料金
整備効果

換気所

 長大トンネルには、換気のための設備は不可欠。6号大和川線には5か所に換気施設がある。そのうち「遠里小野換気所」を取材した。

 トンネル内の空気には、自動車から排出されるガスや粉塵などが含まれており、視界の悪化などを招くおそれもある。そこで排風機を使用してトンネル内の空気を強制的に排出するのが換気所の役割だ。

 ファンによってトンネル内の空気は換気所に流れ、集塵機によって粉塵を取り除き、消音装置によってファンの運転音を大幅に下げたうえで、換気所から上空に吹き上げられる仕組みである。

周囲の景観にも配慮された外観の遠里小野換気所
電気集じん機。排気中の粉塵などはこの装置で取り除く。この部屋は秒速12mで空気が流れるという
電気集じん機の説明。職員が持っている説明板の赤い部分にあたる。遠里小野換気所はこれを4基設置している
静電気を流して粉じんを吸着させる仕組みだ。吸着した粉じんは交通量の少ない時間帯などに自動で水洗される
粉じんを取り除いた空気を、天井のファンで垂直に吹き上げる
円筒のなかにファンが入っている。モーターで駆動する。出力はトンネルの構造により上下線で異なるそうだ
ファンを上部から覗き込んだところ
トンネルから吹き上げられた空気は、ここで左向きに方向を変える
巨大な消音装置。ここで音を約25dBに低減させる、周囲の環境への配慮だ
消音装置を通った空気は再び垂直方向に曲げられ、そのまま建物の上部から大気に放出される

トンネルの構造

手前の丸い断面が「シールドトンネル」、奥の四角の断面が「開削トンネル」

 6号大和川線の大半の区間が地下トンネルで、断面が四角形の開削トンネルと、円形のシールドトンネルの2種類のトンネルでできている。

「開削トンネル」は地上から地盤を掘り下げ、そのなかに鉄筋コンクリートでトンネルを作り、最後に開削部に土をかぶせて埋め戻す工法で、地表付近の浅いトンネルや、トンネルの幅が変わる出入口付近の工事に向いている。

開削トンネル。都市部の比較的浅い地下トンネルなどに採用されることが多い

 また、「シールドトンネル」は円筒状のシールドマシンと呼ばれる機械で地盤を直接堀り進め、同時に鉄筋コンクリートのセグメントと呼ばれるものを組み合わせて真円のトンネルを作る工法。こちらは地下深いところや、地上への振動などの影響を抑えたい場合に向いている。

 真円の断面となるため道路の下に空間が生まれ、避難通路なども設置しやすい。大和川線では全体の約4割がこのシールドトンネルとなっている。また、トンネル内3か所の地盤の弱い部分などに、大規模地震の発生時に適切に破壊されることで全体の崩壊を防ぐ「損傷制御型鋼製セグメント」を採用している。

シールドトンネル。大深度地下や山をくりぬくトンネルの大半はこのタイプ
白い輪のような部分は「損傷制御型鋼製セグメント」

 なお、大和川線の常磐出口(東行き)には「矩形シールドトンネル」が採用されている。地下空間に余裕がない場合に有効な工法で、四角に掘り進められる矩形シールドマシンを使用する。この工法でつくられた道路トンネルはこの大和川線の常磐出口のみ。

左側の「常磐出口」のトンネルは矩形シールドマシンで掘削した
奥行き25mほどのやや白い部分は矩形シールドマシンの外殻がそのまま残されている
この鉄の部分が役目を終えたシールドマシンの証。掘削装置そのものは分解し搬出されている

防災設備と避難方法

シールドトンネル内の非常口。すべり台で道路の下に避難するもので、関西では初導入

 トンネル内には50mごとに消火器と消火栓を設置している。また非常電話は100mごと。初期消火にはこれらの設備が使用できる。また、水噴霧装置(スプリンクラー)は5mごとに設置してあり、火災時にはトンネル内にまんべんなく放水が可能。これによって火勢を抑制する。

50mごとにある消火栓、扉を開き、ホースを取り出して、放水レバーを倒すと水が噴き出す
水噴霧装置(スプリンクラー)作動の様子。公開時は30mほどの区間のみ作動したが、反対側が見えないほどの水勢だった
ジェットファンも実演。通常時はトンネル内のガスが外に流れることを防ぎ、火災時は排煙を制御する

 火災などの非常時には、トンネル内の電光掲示板や放送により避難指示が出る。その指示に従ってクルマを左側に寄せて停め、サイドブレーキをかけ、エンジンを切り、キーは付けたまま、徒歩で非常口に向かう。

 非常口からの避難方法は、開削トンネルとシールドトンネルにより異なる。地表に近い開削トンネルは、非常口から地表に上る階段があるので、そのまま登って避難する。

 シールドトンネルの場合は、道路の真下に避難通路があり、すべり台を使用して降りる。避難通路を進むと非常階段があり、そこから地上へ避難する。いったん火災現場より地下深いところに降りることに心理的な抵抗感があるかもしれないが、避難通路は道路よりも気圧が高く保たれており、煙が進入してくることはない。緊急時には落ち着きが大切なので、慌てず行動したい。

非常口のカバーはスライドして開くようになっている
道路の下につながるすべり台がある
トンネルの断面形が分かる角度で撮影。道路の下の空間を有効に利用している
避難通路にも非常電話が備えられている
すべり台と避難通路は隣接。道路部分よりも気圧が高く、煙は入らない構造だ
各所に避難方向が描かれており、避難時に迷うことはない
避難通路。やや薄暗いが遠くまではっきりと見える
天井には監視カメラがあり、非常時には避難の様子もモニターしている
避難通路を進むと合流点があった。左が地上に脱出する経路で、右は反対車線からの避難通路だ
あとは非常階段を上れば地上に出られる
開削トンネルの非常口出口。写真中央の手前から奥に向かって道路が走り、その左右に出口(緑の屋根の小さな建物)がある