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連節バスのメルセデス・ベンツ「シターロ G」の新型を日本初公開

ユーロ6に対応した環境対応、大量人員輸送が可能

2016年10月13日 発表

新型連節バス、メルセデス・ベンツ「シターロ G」

 ダイムラーグループの三菱ふそうトラック・バス(以下、MFTBC)とドイツのエボバスは10月13日、新型連節バス、メルセデス・ベンツ「シターロ G」の右ハンドル仕様の日本発売を発表した。同日、MFTBCの喜連川研究所において車両を公開するとともに、車両の概要を説明した。

 連節バスとは、2つ以上の車体を途中で折れ曲がらせる継手でつなぎ、大量人員輸送のできるバスのこと。分割ができず、運転士にも相応の運転技術が求められるが、折れ曲がることで単車のバスに近い小回りがきく。

 シターロ Gはすでに2008年から国内で営業運行を行ない、千葉市の幕張エリアなど全国で31台が運行されている。ちなみにシターロ Gの「G」はドイツ語で連節を意味するゲレンクの「G」。シターロ・シリーズの連節バスという意味。

 新型は、欧州排出ガス規制のユーロ6に適合した右ハンドル仕様で、これから国内で販売を展開していく。

都市に必要な大量輸送ができて環境にも対応したバス

ダイムラー・バス 開発本部長 グスタフ・トゥッシェン氏

 ダイムラー・バスの開発本部長 グスタフ・トゥッシェン氏は、世界は都市化が進んでおり、現在は全世界の人口の半分以上が都市に住み、2050年には2/3が都市部に住むことになるとし、公共交通の確保にバスが不可欠と訴えた。

 そのうえで都市交通には安全&自動化と、排ガス排出のない運転が必要とした。ダイムラーグループでは、自動化が進むアムステルダムのBRT路線にバスを導入していることや、ダイムラーグループが安全分野でリードしてきた実績を紹介。また、「排ガスなし」は電気で走行するシターロで実現、「ほぼ排ガスなし」は、ユーロ6に適合した新型で燃料消費の削減やCO2削減などを実現するとした。

 なお、新型では、ユーロ6に対応したことでさらに燃費を改善、日本で使われている従来型に対して燃費を15%改善しているほか、さまざまな改良が加えられているという。

2050年には全世界人口の2/3が都市部に住むといわれる
安全&自動化と、排ガス排出のない運転
アムステルダムのBRTで自動運転
ダイムラー・バスが安全分野でリードする実績
排ガス排出のない運転を重要視
シターロ Gの概要

連節部は新開発の連節角度制御システムで挙動が安定

ダイムラー・バス マーケット・マネージメント部長 ベルント・マック氏

 ダイムラー・バスのマーケット・マネージメント部長のベルント・マック氏は、右ハンドル仕様の新型シターロ Gは、今回が「ワールドプレミア」だと紹介。特徴としては、環境対応のほかは操作性やドライバビリティを挙げ、仕様により異なるものの「160名が乗れる」と最大の特徴である輸送力を強調した。

 また、これまでメルセデス・ベンツのブランドで約1万7000台の連節バスを世界で販売した実績を紹介、「過去数年間、かなり需要が増えてきた」と最近の状況を説明。安全性も強調し、新型では新開発の連節角度制御システム(ATC)を採用、連節バス特有の車両の挙動を安定させるとした。

 車体の大きなクルマでは不安定になりがちなスラローム走行の様子を紹介して無事走行できることや、シターロ Gの駆動輪は最後部となる3軸目のみだが、雪上でも安定して走行できることを紹介した。運転士の安全についても、1.5トンのおもりを3mの高さから振り下ろして前面ガラスにぶつける振り子衝撃試験の様子を紹介、運転士の衝突保護も重視していると述べた。

 さらに、運行コストの削減にも触れた。燃費のほかにもサービスインターバルの長期化や、路線バスによくある路面衝突のアンダーガードの交換のしやすさを示し、TCO(総所有コスト)の削減も実現したとした。

 一方、マック氏はアフターセールスについても触れた。製造するエボバスとは別にアフターサービスブランド「オムニプラス」を立ち上げるなど、パーツ供給体制の充実ぶりを挙げた。94%の部品を保持し、日本にも供給できるという。

これまでのシターロの沿革
世界中で走るシターロ
連節バス以外も含むシターロのこれまで
世界中で走るシターロ
シターロ Gとその前身を含む連節バスの歴史
安全性を強調
雪上でも安定して走行
傾いた姿勢でも安全を保つという
TCOの削減
アフターサービスも重要
シターロの強み

三菱ふそうトラック・バスが積極的に関わる体制に

三菱ふそうバス製造株式会社 取締役社長 菅野秀一氏

 三菱ふそうバス製造の取締役社長の菅野秀一氏は、国内の取り扱い開始を説明。MFTBCは大型バスから小型バスまで揃っているが、「我々に欠けているラインアップが連節バス」と、関心の高い商品であると紹介した。

 これまで、シターロ Gを国内導入する場合、ユーザーであるバス事業者が直接本国から購入し輸入する形となり、MFTBCは導入時のサポートやアフターサポートの関わりとなっていた。今回の新型からはダイムラーグループとして、MFTBCが販売する形となり、全面的な窓口となって展開する。

 また、菅野氏は国内でのBRT展開について「ダイムラー・バスにはBRTの専門コンサルタントチームがあり、そのチームが関わることも可能。バスだけでなく、BRT構想のサポートもできる」と述べたほか、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの輸送などについて、具体的な話はまだしてないとしたもののの、「参画するチャンスがあればやっていきたい」と意欲を示した。

新型シターロのデモカーを公開

新型 シターロ G

 MFTBCの喜連川研究所では、現在、1台のみ国内に上陸している新型シターロ Gを公開した。

 新型のシターロ Gのサイズは1万8175×2550×3120mm(全長×全幅×全高)で、最小回転半径は9.6m。エンジンは「OM470」で直列6気筒、排気量は10.7リッター、出力は265kW(360ps)、最大トルクは1700Nm。トランスミッションは4速ATが組み合わされ、最後部の3軸目を駆動する。

 車内は低床となっているほか、エンジンは最後部に搭載、左側半分に置かれるため、日本のノンステップバスのように後部の床が極端に高くならないことが特徴。シート配列は運行するバス事業者の求めに応じて変更できる。

 また、旧型同様に右側には非常口はないが、非常時にはガラスを割って避難できるよう数カ所にハンマーが備え付けられている。このハンマーは伸縮式のワイヤーで固定されるほか、ホルダーから取り外した場合には運転席にアラートが出るため、ハンマーの紛失や悪用がしにくい構造となっている。

 運転はATということあり、走り出しから極低速走行もスムーズで、アクセルを踏むに従ってほとんど息継ぎなく加速する。乗客側から見ても強めの加速でも変速ショックは弱く、スムースに加速していく印象だ。

 連節バスのため、カーブの際には車内が折れる。電車のようなものだが、カーブによってはさらに折れ曲がる。デモ走行では最小回転半径近くまで折り曲げたが、電車よりもさらに角度は付いていた印象だ。カーブ時には連節角度制御システムの制御をしているアクチュエータの音がわずかに車内に漏れてくる。

 ドライバーから見れば、カーブ時は内輪差が通常の単車の大型バスよりも大きくなり、ワンテンポ遅れて3軸目が内側に寄っていくトレーラーと同様の挙動がある。左折時の後輪のライン取りが異なるなど運転感覚は別のものが必要だが、ステアリング操作に対して素直に前部の車体が向きを変えていくことなど、通常の大型バスに比べると操作しやすい一面もある。マック氏が運転のしやすさを強調していたが、単車の大型バスから移行もしやすい一面を持っている。

 ただし、連節バスの構造上、後退にはトレーラーと同じステアリング操作が必要となる。後部車が一般的なトレーラーよりも短いため、比較的「折れ」の角度がつきやすく、バス営業所内など狭いスペースでの車庫入れには十分なトレーニングが必要と思われる。

リアまわり。エンジンは左側に入っている
スラロームを走行中
前ドアから車内に入り、後方を見たところ。普通のバスよりも長い
連節部から後方を見たところ。後部車両も十分な長さと座席がある
連節部分。中央部に立っていても問題がないが、後方車両側のカーブの部分が回転部分で床がずれる
シターロ Gの運転席。左側にシフトレバーがないので極めてシンプル。実際に営業運行する際は、料金箱をはじめさまざまな機器が設置される
車体が折れ曲がり、旋回中の車内。先頭部分が横の窓から見えている。バスなのに不思議な気分になる