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JR西日本、金沢総合車両所を一般公開。521系の吊り上げとトラバーサー移動など実施

106年間の歴史がある在来線車両基地

2016年8月21日 一般公開

吊り上げられた521系電車

 JR西日本(西日本旅客鉄道)は8月21日、北陸本線の松任駅の北側に位置する金沢総合車両所(石川県白山市)の一般公開を10時から15時まで実施した。車体クレーン移動実演やトラバーサー移動実演では521系電車を移動させるなど整備の様子を一部再現した。

金沢総合車両所 所長 平出好宏氏

 公開に先立って行なわれた開会式では金沢総合車両所 所長の平出好宏氏が、1910年の金沢工場からスタートして以来106年の歴史があることや、在来線車両を扱う金沢総合車両所ではあるが、北陸新幹線開通後は移行した第三セクターの車両も引き続きメンテナンスをしていることを紹介「金沢総合車両所で、ゆっくり、我々の仕事を見ていただたい」と挨拶した。

白山市長 山田憲昭氏

 続いて来賓の白山市長の山田憲昭氏は「文化遺産的要素も備えた、金沢総合車両所を、ゆっくりと楽しんでいただきたい」と述べ、同じ市内にある新幹線の車両基地である白山総合車両センターが一般公開を開始したことにも触れて「新旧合わせて楽しんでいただければと思う」と挨拶した。

 一般公開のテープカットは、白山市長の山田憲昭氏、地元から松任地区町会副会長 車古邦夫氏、来場者を代表して親子連れ2組、JR西日本 執行役員金沢支社長の児島邦昌氏が行ない、一般公開がスタートした。

テープカットで一般公開がスタートした。左から西日本旅客鉄道株式会社 執行役員金沢支社長 児島邦昌氏、来場者代表、白山市長 山田憲昭氏、松任地区町会副会長 車古邦夫氏

車体クレーン移動実演

 一般公開のメインイベントとされるのが、車体のクレーン移動。今回は北陸本線で運行されている521系電車を使って行なわれた。車両所の建物と一体化した2機のクレーンを使い、車体を吊り上げ、仮台車へ載せ替えるという一連の作業を再現した。

 大きな車体が来場者の目の前で浮かび上がり、移動するという動きに来場者から驚きの声があがった。

これから吊り上がる521系電車
クレーンが吊り上げに使う黄色い門型車体吊り具(もんがたしゃたいつりぐ)を引っ掛けて車両に向かう
車両に当てないよう、スタッフが押さえながら移動
さらに車両に近づける
当てないように慎重に移動
反対側も同様に
近づけていく
門型車体吊り具が所定の位置まで移動したら、少し下げて爪を出す
引っ掛ける場所までさらに微調整
所定の位置に移動爪が車体にかかったら、少しずつ持ち上げ、車体が浮いた
さらに上へ
こちら側へ水平移動
見学者の近くまで移動、電車の裏側が間近に迫る
ここから右側へと移動していく。2台のクレーンの動作が合っていなければならない
工場の端まで移動する
ここで降ろして仮台車に載せる
再び戻ってきた
今度は台車の位置を微調整していく
慎重に車体を下ろしていく
こちら側も位置を合わせて下ろす
降りたら、爪を抜く
門型車体吊り具を移動させ、所定の位置までクレーンで移動する
所定の位置まで吊り上げられてきた
門型車体吊り具の収納スペースに戻す
このあと、連結器が付いたフォークリフトで車両を移動させ、トラバーサーに載せるのが本来の手順

 実演では元の台車(こちらも今回は仮台車)に戻されたが、本来の整備であれば、仮台車に載せて場内の線路を並行移動させる「トラバーサー」まで移動させて、その次の整備行程へと進められる。トラバーサーで移動後、必要な作業スペースに移動させる。

 トラバーサーの実演では、平行移動のほか、線路とのスロープの上げ下げなど、細かい動作も実演、場内を移動させるための、連結器が取り付けられたフォークリフト機も展示された。

金沢総合車両所のトラバーサー。車両工場や基地にはよく見かける設備で、車両を並行させて必要な作業スペースに移動させる
トラバーサーまで線路がつながっている
スロープ部分が上下する
スロープ部分が線路に密着
線路との結合部分のアップ
スロープをはね上げて移動する
安全のため、係員が付ききりで移動させる
移動中のトラバーサー
トラバーサーの途中には水が貯められ防火水槽となっており、水がないところは冬季は融雪スペースとして使われるという
クレーンとトラバーサーの手順が、手書きのイラストで紹介されている

工場内公開

 クレーン実演以外にも、工場内ではさまざまな展示が行なわれた。とくに安全を維持する車軸や車輪に関するものが充実、超音波で傷や亀裂を検査する様子なども詳しく展示された。

 また、サスペンションのスプリング、整備中の台車、ディーゼル機関車のエンジンや変速機、電車のモーターなども展示された。

台車のスプリングの展示
ベアリングの入った軸受けの展示。手で回して試すこともできた
連結器の展示
ディーゼルカーの逆転機
車輪、車軸関係の検査機器や大がかりな工作機械が並ぶ
これは超音波で内部を検査しているところ
超音波検査の説明
蛍光剤とブラックライトで亀裂を確認する作業
681系の車輪
車輪の軸にはめ込む機械
電車のモーターを展示
681系、683系のモーター
EF81形のモーター
比較的古い急行型電車に使われたモーター
整備中の台車を展示。パーツをほとんど外しているがDT21B台車
整備前の681系の台車
整備が終わった521系の台車。今回、吊り上げた電車のもの
DE15形ディーゼル機関車のエンジン
DE15形ディーゼル機関車のトルクコンバーター
DE15形の雪かき部
プレートもエンジンもカバーも台車も付いていないがDE15形1532号機とのことだ

線路の保守なども展示

 金沢総合車両所は車両の整備工場であるが、この日は線路や架線の保守装置や車両も展示。線路も道路も走行できる軌陸車を展示したほか、橋梁の枕木を交換するよう特殊な装備が取り付けられたショベルカーの枕木交換の実演なども実際された。

橋梁用の枕木交換用車両。横から枕木を差し込めるようになっているほか、ブームを回した際に転倒しないようレールをつかむこともできる
公開では枕木を横から抜いて差し込む実演と、短い枕木を積み木のように積み崩しをやってのけた
軌陸車の展示もあった
架線関係の保守管理用で、線路も走れる車輪がある
この軌陸車は黄色いストッパーを外して車輪の幅を切り替え可能ないわゆる“フリーゲージ”。新幹線と在来線のどちらも走行可能
架線の種類を展示
踏切の非常ボタンを押せる展示。なかなか押せるボタンではないが「万一の際はしっかり押してね」と子供たちに説明
軌道自転車走行体験。エンジン付きで構内の線路を走らせてくれた
軌道検測装置を自ら押す体験。ドクターイエローのような検査車が入れないような細かな線路はこれで計測するとのこと
レール探傷器のデモ。下のレールには穴と亀裂があり、上を走らせると表示波形が乱れて異常が分かる

運転台見学など

 特急用の681系が展示され、運転台見学や車掌体験に使われた。一般公開の入場には事前予約などは不要だが、このイベントだけは事前申し込みをして当選した人だけ参加できる。

 運転台見学では、本物の運転台に座ることができたほか、車掌体験では実際に車内放送設備を使ってアナウンス。展示された3両編成の681系は、運転席に未来の運転士が座り、車内には未来の車掌のかわいいアナウンスが響いていた。

3両編成に仕立てられた681系
架線がないところだが電源は別途接続されて冷房や放送装置などは稼働。さすが工場だけになんでもできるようだ
先頭部分で記念写真が撮れるようになっていた。制帽も貸してもらえた
時間を区切って幕回しタイムを設定、回っている間はカメラを手にした人だかりができた
事前申し込みをした人は運転台見学ができる
説明を受けながら運転台に座ることができた

そのほかの展示

 そのほか、除雪車の展示や、金沢総合車両所で整備を受け持つIRいしかわ鉄道の521系、電気機関車などを展示。除雪車も複数あり、最新のキヤ143形や従来ながらのラッセル車も間近に見ることができた。一般公開は暑い夏だが、ここは北陸の雪国であることを感じられる。

キヤ143形の展示
除雪部分も間近で見れた
ミニ新幹線の走行体験。金沢総合車両所には実物がない新幹線W7系。小さい子に人気があり長蛇の列
七尾線の観光列車「花嫁のれん」の撮影ブース。実物は金沢総合車両所で改造して誕生したが、好評で稼働中のためか今回実写展示はなし
ペーパークラフト教室も開催。さまざまな車両のペーパークラフトが用意され、自分で作ることができた
工場の一部に煙が充満しているのは、屋台ブースを特設したため、焼き鳥などいい匂いが工場内に漂っていた
縁日風のコーナーもあり、工場の“祭り”である
グッズコーナーにはE7系ではなくW7系のグッズが並ぶ、北陸を走る列車のヘッドマークピンズがカプセル自動販売機で販売
サボなどの鉄道用品販売もあった。開場から列をなしていて、これはだいぶ売れたあとの状態
屋外には電気機関車の展示もあり。トワイライトエクスプレス塗装のEF81形
雪国だけに除雪のラッセル車の展示もあり
SL展示は運転席に入ることができたが、これにも行列ができていた
IRいしかわ鉄道の521系を展示
撮影ブースやグッズ販売も出展

資料室もこの日に一般公開

 金沢総合車両所は、1910年に金沢駅隣接の金沢工場の時代から106年間の歴史がある。1935年に現在の地に移転してから、松任工場、金沢総合車両所と名称を変えてきた。資料室が公開される機会は少ないが、今回の一般公開ではゆっくりと見ることができた。

資料室前に展示された特急電車のヘッドマーク
サンダーバードの1/20模型
運行表示板など
過去の時刻表
戦時中の銅不足により、ご下賜された銅の花瓶から作成した貴重な安全弁。乗務員がこれを装着した機関車に最敬礼をしていたとの話を紹介
過去の車両の資料
修繕記録など
工場の記念品など
金沢工場時代の平面図
現在地に移転したあと、1950年の平面図。今とあまり変わっていない
資料室では鉄道模型の走行も実施