ニュース

最新欧州旅行は「コンテンツありき」「自然」がキーワード

JATAが「欧州旅行復活に向けた緊急フォーラム」開催

2016年6月24日 開催

 JATA(日本旅行業協会)は6月24日、都内で「欧州旅行復活に向けた緊急フォーラム」と題したセミナーを開催した。フランス・パリで2015年11月に、ベルギー・ブリュッセルで2016年3月にそれぞれ発生したテロ以降、大幅な減少が続く日本から欧州への旅行客を回復させるべく、旅行会社や航空会社など、さまざまな視点から現状分析と問題解決の方法を議論した。ここでは、各社から参加したパネリストのコメントをまとめた。

3割減の欧州旅行、旅行会社は「オンリーワン」をどう作るかが課題(JATA副会長 菊間氏)

モデレーターを務めた 株式会社ワールド航空サービス 会長、JATA副会長 菊間潤吾氏

 パリの旅客数を回復することが欧州全体を回復することと考え、JATAとしていろいろ活動してきた。フランス政府観光局も積極的に動いているが、現実としては厳しい。北欧とスイスの旅客は順調だが、フランスで7割減、ベルギー、オランダ、ドイツもかなり苦戦している。欧州全体でいうと3割減ではあるものの、OTA(Online Travel Agent:ネット上の旅行商品販売店)やダイナミックパッケージ(旅行先、航空チケット、宿泊先などを利用者が独自に組み合わせるもの)はそれほど売上を落としておらず、貢献している。パッケージツアーが思うようにいかない状況。

 ホテルのタリフ(宿泊料金表)がなくなり、混雑時は高く、そうでない時は安く、という値付けになってきている。これまでのように、このシーズンならいくらくらい、という値段設定が旅行会社としてもやりにくくなっている。

 そして、旅行に新鮮な付加価値を与えられていないのが問題。オンリーワンの旅行商品をどう作るかが課題となっている。例えばオーストリア・インスブルックに1カ月間滞在するという商品が売れている。コンセプトが受け入れられれば、どの街、どの国かは関係ないのだろう。ディスティネーション(旅行先)にかかわらないテクニックが求められてきているのではないか。

 JATAが選定した「ヨーロッパの美しい村30選」に関係する旅行商品はものすごく伸びている。一部、ホテルが十分にないところや、その国の政府観光局がフォローしていないところは弱いが、政府観光局が一緒に盛り上げてくれているところは伸びている。そういうこともあって、今後はヨーロッパのカントリーサイド(自然)へ、というキーワードでやっていく計画だ。

田舎や自然に観光客の目が向き始めた(ミキ・ツーリスト 櫻井氏)

株式会社ミキ・ツーリスト 執行役員 櫻井隆文氏

 パリのテロ以降、当社が取り扱う欧州旅行の商品では、2016年1~6月の同時期対比で、フランス2014年対比20%、2015年対比26%、ベルギーは2014年対比26%、2015年対比33%、テロと直接関係ないイタリアに関しても2014年対比50%、2015年対比65%と、非常に弱い。安価な価格訴求型パッケージツアーの落ち込みが非常に顕著だが、単体で申し込む個人旅行はそれほど落ち込んでいない。

 ホテルのキャパシティそのものの小ささと、スペース(日本の観光客に割り当てられるホテルの宿泊可能室数)確保も問題となっている。これについては、早めの事前予約、できれば1年くらい前から予約したり、1泊ではなく連泊でオーダーすると取りやすい。また、レベニューマネジメント(空いているときは安価で混雑時は高額という調整)を意識するなど、ホテル側との関係強化も有効と思う。

 テロ後は自然環境をテーマにしたコースや、スイスと北欧が好調。スイスは昨年対比122%、北欧は110%となっている。売れ筋としては、いままで商品化していなかったような小さな街を含んだコースや、例えばスコットランド、北イタリア、ポーランド、アイスランド、ポルトガル、マルタのような、観光大都市を含まない場所が好調。リピーター需要も落ち込んでおらず、都市型観光ではなく安全なイメージの自然環境の欧州が好評で、田舎や自然を楽しむデスティネーションに観光客の目が向き始めているといえる。

座席数不足と割当数の減少、業界が協力して事態の打開へ(スイスインターナショナルエアラインズ 岡部氏)

スイスインターナショナルエアラインズ 日本・韓国支社長 岡部昇氏

 航空会社の視点からは、グループ旅行から個人旅行へという動きが見える。そんなことは10年前から知ってる、という人もいると思うが、テロの前後を比較すると、グループ旅行からFIT(Foreign Independent Tour:個人で手配する海外旅行)へのシフトが非常に顕著。具体的には、グループに割り当てる座席のブロック数がどんどん減っている。反対に“インディビ”(Indivisual:個人)の座席は取りやすくなっている。また、日本人旅行客が減り、欧州からの旅行客が増え、しかしキャパシティ(航空座席の供給量)が業界として全体的に減っている。

 こういう状況で航空会社はどう対処すべきか。売れるか売れないか分からない、あるいは売れても1カ月前にキャンセルされるリスクのある(座席)ブロックを減らすこと。ネットで売れるインディビの座席はどんどん開いていくこと。ホテルのタリフ(宿泊料金表)がなくなってきていると同時に、航空会社もタリフがなくなってきている。つまり、座席が空いているときはどうぞ安く使ってください、座席が混んできたときは高く買ってください、これ以上の値段を出してくれないと売れません、という方向にすべての航空会社が向かっている。

 そうすると、団体旅行を扱っている会社は厳しい。団体のなかでインディビのビジネスクラスを買いたいというお客さまがいたとき、もしくは団体のなかでちょっと日にちをずらしたいお客さまがいたとき、どうするか。航空会社と代理店、オペレーターが一緒になって解決しないとならない。スイスは122%で健闘しているという話はあったが、私どもの座席の割り当て数は増えていない。スイスへの旅客数と宿泊数は、ここ2年は減少傾向で、欧州に向かうお客さまは間違いなくシュリンクしている。

 ビジネスクラスはかなり売れるが、エコノミークラスは同じように売れない。ビジネスクラスシートは数に限りがあるので、何社かの代理店が売るとすぐ一杯になってしまう。しかし、若い旅行客が活発でないこともあってエコノミークラスが埋まらない。

商品企画の前に、どう仕入れるかが課題(JTBワールドバケーションズ 鈴木氏)

株式会社JTBワールドバケーションズ 欧米部長 鈴木浩之介氏

 一般コンシューマー向け商品を出している立場から見ると、高い商品ほど落ち込みは非常に小さいが、価格訴求型の低価格商品は振るわない。飛行機の座席でいうとCクラス(ビジネスクラス)が最も好調で、次が上級エコノミークラス、そしてエコノミークラスが非常に弱い。ビジネス、上級エコノミーは取りにくい状況で、チャーター機でもCクラスとYP(上級エコノミー)はかなりのウェイティング(キャンセル待ち)がつく。

 添乗員付きとなしでいうと、添乗員付きの方が売れ行きが鈍い。FITはまだなんとか前年比同程度の売上は維持していて、個人旅行のなかでもダイナミックパッケージの伸びがよい。したがって、価格に左右されづらいお客さまはまだまだ動いていると思っている。FIT化が進んでいること、OTAへの流れは数字的に見ても間違いない。

 目的をもったお客さまが増えている、というのはあるだろう。価格だけで動く層は有事に弱いと思うし、明確な目的がないので減っているのではないか。いまの数字は2003年、SARSが広まったときと同じくらい落ち込んでいる。団塊第一世代といわれる70歳以上のお客さま、つまり価格に左右されにくい層が、ロングホール(長距離旅行)から離脱している。南米も同じ特徴があるが、ロングホールは価格以外のところで勝負しなければならないのではないか。

 スイスと北欧は好調で、フランス、ベルギー、ドイツは非常に低調。スペインやイタリアはそんなにわるくないが、特にイタリアはいま、南部方面の商品が売れている。売れ方が徐々に変わってきている印象はある。団塊世代の売上が落ちてきているのは、ひととおり旅行したお客さまが、次に買う商品(行きたいと思う旅行プラン)が店になくなってきているのかもしれない。ハネムーンは有事にも強いといわれるが、その目的地の選択肢が欧州にはないのだろう。

 グローバルマーケットはインバウンドも含め伸張していて、すでに話があったようにホテルや航空座席が取りにくい。そういう仕入れができないと、旅行会社はそもそも商品を作れない。これからはいかによい商品を企画して作るかより、その前段として、どうやってきちんと仕入れるかという課題が出てきている。

 いろいろなデータを読みながら中長期的な商品展開を考えないとと思っているが、マーケットはここ何年かでものすごく早く変わってきている。欧州は添乗員付きがメジャーだったが、価格で訴求してお客さまを動かす手法は、なくならないにしても、それがマーケットの王道であり続けることもない。安かろうわるかろうという商品は生き残れないと思うし、お客さまは旅行で目的地に行くこと自体が旅行の目的ではなくなるだろう。

 どういう商品を展開していくか。どんな商品か考える前に、商品が作りづらくなっているという事実は把握しておきたい。明確な目的があるツアーがお客さまのモチベーションを上げ、支持を集めるのではないか。今後はどちらかというとアクティビティ、コンテンツありき。例えばテレビでいうと国内の旅番組の方が体験性があり、共感のできる番組作りができている、点と点をつなぐものが多いように思う。旅行も同じように臨場感を出せるような商品が支持されるようになるんじゃないか。

旅行会社はラーメン屋? 内容で勝負すべき(Team EUROPE委員長 古木氏)

株式会社グローバル ユース ビューロー 代表取締役会長、Team EUROPE委員長 古木康太郎氏

 欧州の観光者数減はテロの影響もあるが、社会情勢が変わってきている影響もあると思う。インターネットとスマートフォンの発達で、OTAやAirbnbで直接航空券やホテルを予約できるようになったこともあり、若い人はパッケージという一種の商品化されたものに参加しなくなってきている。

 旅行会社はラーメン屋に似ているという話を以前したことがある。ラーメン屋はごまんとあるが、全部の店で味が違う。旅行会社に一番大切なのは企業イメージ。消費者はその形のない商品に対して、なにをもって信用するのか。旅行会社がどんな姿勢で、どういう哲学で商品を売っているか。旅行会社が味付けをし、こういう方向性でやるんだ、という姿勢に惚れ込んで、お客さまはその安心感で商品を買うことになるのではないか。

 フランスはいま、よくないが、(テロがあってイメージが損なわれているからといって)みんなそこから逃げていてはいつまでもフランスはよくならない。我々は、2016年11月にパリで歌手の加藤登紀子さんのシャンソンツアーを行なう予定。価格が安いから行く、というのではなく、内容によって参加してもらえるのではないかと考えている。

「ヨーロッパの美しい村30選」に入っているポルトガル・モンサントを訪れたとき、休日だったのに知事らがわざわざ出迎えてくれて、なんでも協力すると言ってくれた。旅行会社の人に言いたいのは、意外に(担当者が)海外に出ておらず、商品作りに熱心に取り組んでいないんじゃないか、ということ。自分の目で見ないと魅力的な旅行商品は考えられない。みなさん海外に出てほしいと思う。