トピック

橋本洋平のトヨタ「プリウス PHV」で精神修養の旅!?

「マンダラ2nd」のインドカリーで身体を、「臨済宗 妙心寺」の座禅で心を磨く

トヨタ自動車「プリウス PHV」で臨済宗 妙心寺に隣接する「東京禅センター」を訪れた筆者。その理由とは
「充電できるプリウス」として2代目に進化したプリウス PHV。その静かな走りは座禅にも通じる!?

 僕は今、「GAZOO Racing 86/BRZ Race」というレースのクラブマンクラスに参戦している。その模様はレースが行なわれるごとにCar Watchで連載しているが、トラベル Watchをご覧の皆さまにいきなりレースの話をしても理解しにくいだろうから、まず少しご紹介したいと思う。

 86/BRZ Raceはトヨタ自動車の「86」とスバルの「BRZ」を使って行なわれている。実はこの86とBRZというクルマは、外観こそ少し違うが中身は一緒という兄弟車。メーカーの垣根を越えたコラボが行なわれたクルマである。そんなクルマを参加する全員が使い、ドライバーのテクニックだけで競い合うようにしたのが86/BRZ Raceだ。ちなみにクルマ自体はレース仕様となっているが、ナンバープレートを取得して公道でも走れる状態となっている。

 そんな86/BRZ Raceの今季初開催となるレースで僕はトップを快走していた。だが、レース終盤に集中力が切れたのか、ミスを犯して3位に脱落。目の前に見えていた優勝を逃してしまったのである。テクニックを磨くというよりも、むしろ精神的な部分を見直さなければこの先はない。周囲にいる誰もが思っていた結論だった。プレッシャーに負けない強い心を持つためにはどうしたらいいのか?

 そこで出された結論は精神修養を図ること。静けさ際立つ「プリウス PHV」に乗り、心を落ち着けてドライブする訓練。さらにはインドカリーで気合を入れて、その後は座禅を組んで心を静めようと編集部からアドバイスされた。……本当にそんなメニューで精神が強くなるのだろうか?

 狐につままれたような気分で用意されたプリウス PHVに乗ってみる。実は試乗するタイミングを逃し、完全なるお初だったこのクルマ。フツーの「プリウス」とは顔つきも違うし、テールまわりも斬新! リアハッチのゲートにはカーボンを使うわ、そこに備わるガラスは中心部がえぐれている「ダブルバブルウィンドウ」を採用するわで未来感たっぷりである。クルマに乗り込めば清潔感溢れるなかに、11.6インチの縦型ナビゲーションシステムがどーんと鎮座している。でも、だからどうしてレースに役立つのさ!? 疑問符ばかりが頭に浮かんでくる。

2月に発売されたプリウス PHV。2015年12月に発売された「プリウス」をベースとしつつ、フロントマスクに4灯式LEDヘッドライトを標準装備し、リアハッチにも立体的な「ダブルバブルウィンドウ」を採用して外観を大きく差別化。また、車内にも11.6インチフルHD静電式タッチディスプレイの「T-Connect SDナビゲーションシステム」(Sグレードを除く)を装備して先進性をアピールしている
満充電状態で編集部のある東京 神保町をスタート

 だが、走り始めてそれは即座に理解できた。そのワケはとにかく静かだし、余計なことを気にせずドライビングに没頭できる空間がそこにあったからだ。満充電状態で東京・神保町にある編集部を走り出したプリウス PHVは、まったくといっていいほどエンジンがかかるそぶりを見せない。シーンとした空間が精神統一を図るにはもってこいというわけなのだ。

 それを後押しするかのように、プリウス PHVの走りはなに一つ違和感がない。まさに手足のように操れるハンドリングと、乗り心地を展開している。プラグインではないハイブリッド仕様のプリウスよりもさらに直進安定性に優れ、荒れた路面でもまっすぐ突き進み、コーナーリングはTNGA(Toyota New Global Architecture)シャシーのおかげもあって爽快に駆け抜けてくれる。ハイブリッド仕様に対して150kgほど重くなっているが、それに対応したシャシーと、空力向上を狙ったダブルバブルウィンドウが効いているのかもしれない。どっしりゆったり、けれども走りを一切損ねないところが旨味。ダブルバブルウィンドウによって後方視界がさらに高まったところも好感触だ。

プリウス PHVは135km/hまでモーターだけで走行可能。バッテリー残量に余裕があるうちは高速道路を走ってもエンジンが始動することはない
モーター走行ならではの静かさに加え、TNGA(Toyota New Global Architecture)シャシーのおかげもあってコーナーリングも爽快

 だからこそドライビングに集中できる。心は落ち着き、いつしか周囲のクルマの動きがいつでもどこでも先読みできるかのような集中力が身についていた。朝の混雑した首都高速道路をスイスイとロスなく駆け抜けることができたのは、間違いなく気が散らずに運転に没頭できたからこそだろう。結果として、東京湾アクアラインを経由して千葉に渡ったところまで電気だけの「EVモード」で走行できてしまった。早朝の1時間弱の時間ではあったが、ドライビングだけに浸れた環境はなかなか新鮮だった。プリウス PHVにこんな効能があったとは。ほかのことを一切考えずにいられた時間はかなり貴重だった。

心を落ち着かせて先読みを駆使した結果、混雑した首都高速道路もロスなく走れた
アクアラインを使って千葉に上陸後、折り返しのアクアラインで充電のためエンジンが始動した

 千葉に渡ったところでUターンして再びアクアラインを走り出すと、プリウス PHVは「ハイブリッドモード」に入った。だからといって急にうるさくなるわけでもなかったが、もちろんEVモードのときに感じたシーンとした世界はない。ならば、海ほたるPA(パーキングエリア)で充電を行ない、再びEVで走ろうということになった。

 だがしかしである。撮影を行なったのが土曜日ということもあって、PA内はとにかく混雑していて、充電スポットにたどり着くのもひと苦労という状況だったのだ。もはや計画倒れ。EVモードだけで走って精神統一を図るんじゃなかったの? 困った。本当に困り果てた。予約をしているインドカレーと座禅のスケジュールは動かせない。そこで企画の主旨とは異なるが、ハイブリッドモードのまま先を急ぐことにした。

 けれども、考えようによってはこうして臨機応変に対応できることも、またプリウス PHVのよさの1つではないだろうか? ガス欠ならぬ「電欠」したら動けなくなってしまうEV(電気自動車)とは異なり、エンジンを搭載しているからこそどうにでも動けるのだ。もちろん、ガソリンが残っていればだが、そんな風に状況変化に対応できる懐の深さもまたかなり魅力的に映ったのだった。なお、プリウス PHVにはハイブリッドモードの走行中に積極的にエンジンを使い、バッテリーに充電していく「バッテリーチャージモード」も備えられているが、今回は敢えてハイブリッドモードのまま走り続けることにした。

海ほたるPA(パーキングエリア)に立ち寄ってはみたものの、混雑していて充電スポットを利用できそうもない。ということで、記念撮影だけして再スタート。EV(電気自動車)なら待つしかないシチュエーションだが、こんな臨機応変さもプリウス PHVの大きな魅力
インドカリー店「マンダラ2nd」(東京都港区新橋6-7-2)で身を引き締める

 そんなこんなで、次なるステージとなる東京・新橋のインドカリー店「マンダラ2nd」に到着。ここの常連であるCar Watch編集者は、到着するや否や「マスター、マトンカリーのベリーベリーHOTスペシャルを頼むよ!」とオーダーを始めたのである。どうなることやら……。

 すると、出てきたインドカリーはとにかく赤い!(笑)。「これを食べて気合を入れ、カプサイシンダイエットをしていただきます」とのこと。表面はカリッと、中身はモチモチに仕上がったナンを片手にそれを食べれば、とにかく辛い! けれどもやみつきになるコクもあり、大汗をかきながらではあったがペロリとたいらげてしまったのだ。ヨシ、気合は入った! これで座禅もイケる!

インドカリー店「マンダラ2nd」で「カプサイシンダイエット」に挑む。料理ができるまでの時間に、窯でナンなどが焼き上がる様子を見学できるのも楽しい
赤くて辛い「マトンカリー ベリーベリーHOTスペシャル」
カプサイシン大盛りでとにかく辛い! でも、やみつきになるコクでもりもり食べ進められる

 再びプリウス PHVに乗って、最終目的地となる東京都世田谷区野沢の「臨済宗 妙心寺」まで走る。ちなみに、ここまで走った走行距離は97.6km。EVモードとハイブリッドモードを併用して、EVモードでおよそ50km、その後はハイブリッドモードで走った結果、燃費は67.3km/Lという結果だった。

臨済宗 妙心寺に隣接する「東京禅センター」(東京都世田谷区野沢3-37-2)が最後の目的地

 さて、最後に本題となる座禅である。今回お世話になるのは、臨済宗 妙心寺に隣接した「東京禅センター」だ。ここでは月に数回、座禅体験ができるプログラムが用意されている。シーンと静まり返った部屋に入ると、そこには座布団が所狭しと並べられている。ここで靴下を脱ぎ、いよいよ座禅のスタートである。

座禅に入る前に和尚様から心構えを聞く

 和尚様から座禅をするにあたって言われたことは以下のとおりだ。

「人間はさまざまな悩みや苦しみ、迷いを持ち、なんとかそこから答えを見つけようとします。必死に探しまわっても、ますます分からなくなってしまうことも多いでしょう。座禅というのは、まずは心を静め、自らと向き合うために行ないます。無心になる、なにも考えないようにしようと考えれば考えるほど、無心からは離れてしまいます」。

「例えて言うなら、池のなかに宝石を落としてしまったときのようなものです。必死に見つけようと手を入れて、もがけばもがくほど底の土がかき回され、水は濁り、ますます見つからなくなってしまいます。見つけるにはどうしたらいいのか。そーっと、できるだけ静かに、そーっと探す。そうすれば水は濁らず、宝石を見つけることができるでしょう」。

 姿勢を正して、長い時間を掛けて息を吐いていく作業を繰り返す。静まり返った空間で、心のなかで「ひとーつ、ふたーつ、みっつ……」と数を数えながら呼吸を整えていくと、いつしか無心になり、心が静まってくる。そうするうちにレースでのさまざまな悩みは吹き飛び、心が落ち着きを取り戻してきた。

和尚様の言葉に従い、心を落ち着けていく。いつしか無心になってレースでのさまざまな悩みが吹き飛んでいった

 それはまるで、EV走行を続けていたプリウス PHVの空間にどこか似ていた。座禅に通じる心を静める乗り味がある、プリウス PHVとはそういうクルマだ。

 そして今回の旅を通じて、この無心こそが勝利への近道かもしれないとも思えた。池のなかに落とした宝石と同じように、勝利を逃してしまった前回の86/BRZレース。無心でそーっとを心掛けて走れば、きっと勝利を手にすることができるだろう。いや、必ず勝てると信じている!

橋本洋平のトヨタ「プリウス PHV」で精神修養の旅!?

提供:トヨタ自動車株式会社

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、ジムニー(JB64W)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34・納車待ち)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学
Movie:石岡宣慶