トピック
橋本洋平のトヨタ「プリウス PHV」で精神修養の旅!?
「マンダラ2nd」のインドカリーで身体を、「臨済宗 妙心寺」の座禅で心を磨く
2017年5月15日 07:40
僕は今、「GAZOO Racing 86/BRZ Race」というレースのクラブマンクラスに参戦している。その模様はレースが行なわれるごとにCar Watchで連載しているが、トラベル Watchをご覧の皆さまにいきなりレースの話をしても理解しにくいだろうから、まず少しご紹介したいと思う。
86/BRZ Raceはトヨタ自動車の「86」とスバルの「BRZ」を使って行なわれている。実はこの86とBRZというクルマは、外観こそ少し違うが中身は一緒という兄弟車。メーカーの垣根を越えたコラボが行なわれたクルマである。そんなクルマを参加する全員が使い、ドライバーのテクニックだけで競い合うようにしたのが86/BRZ Raceだ。ちなみにクルマ自体はレース仕様となっているが、ナンバープレートを取得して公道でも走れる状態となっている。
そんな86/BRZ Raceの今季初開催となるレースで僕はトップを快走していた。だが、レース終盤に集中力が切れたのか、ミスを犯して3位に脱落。目の前に見えていた優勝を逃してしまったのである。テクニックを磨くというよりも、むしろ精神的な部分を見直さなければこの先はない。周囲にいる誰もが思っていた結論だった。プレッシャーに負けない強い心を持つためにはどうしたらいいのか?
そこで出された結論は精神修養を図ること。静けさ際立つ「プリウス PHV」に乗り、心を落ち着けてドライブする訓練。さらにはインドカリーで気合を入れて、その後は座禅を組んで心を静めようと編集部からアドバイスされた。……本当にそんなメニューで精神が強くなるのだろうか?
狐につままれたような気分で用意されたプリウス PHVに乗ってみる。実は試乗するタイミングを逃し、完全なるお初だったこのクルマ。フツーの「プリウス」とは顔つきも違うし、テールまわりも斬新! リアハッチのゲートにはカーボンを使うわ、そこに備わるガラスは中心部がえぐれている「ダブルバブルウィンドウ」を採用するわで未来感たっぷりである。クルマに乗り込めば清潔感溢れるなかに、11.6インチの縦型ナビゲーションシステムがどーんと鎮座している。でも、だからどうしてレースに役立つのさ!? 疑問符ばかりが頭に浮かんでくる。
だが、走り始めてそれは即座に理解できた。そのワケはとにかく静かだし、余計なことを気にせずドライビングに没頭できる空間がそこにあったからだ。満充電状態で東京・神保町にある編集部を走り出したプリウス PHVは、まったくといっていいほどエンジンがかかるそぶりを見せない。シーンとした空間が精神統一を図るにはもってこいというわけなのだ。
それを後押しするかのように、プリウス PHVの走りはなに一つ違和感がない。まさに手足のように操れるハンドリングと、乗り心地を展開している。プラグインではないハイブリッド仕様のプリウスよりもさらに直進安定性に優れ、荒れた路面でもまっすぐ突き進み、コーナーリングはTNGA(Toyota New Global Architecture)シャシーのおかげもあって爽快に駆け抜けてくれる。ハイブリッド仕様に対して150kgほど重くなっているが、それに対応したシャシーと、空力向上を狙ったダブルバブルウィンドウが効いているのかもしれない。どっしりゆったり、けれども走りを一切損ねないところが旨味。ダブルバブルウィンドウによって後方視界がさらに高まったところも好感触だ。
だからこそドライビングに集中できる。心は落ち着き、いつしか周囲のクルマの動きがいつでもどこでも先読みできるかのような集中力が身についていた。朝の混雑した首都高速道路をスイスイとロスなく駆け抜けることができたのは、間違いなく気が散らずに運転に没頭できたからこそだろう。結果として、東京湾アクアラインを経由して千葉に渡ったところまで電気だけの「EVモード」で走行できてしまった。早朝の1時間弱の時間ではあったが、ドライビングだけに浸れた環境はなかなか新鮮だった。プリウス PHVにこんな効能があったとは。ほかのことを一切考えずにいられた時間はかなり貴重だった。
千葉に渡ったところでUターンして再びアクアラインを走り出すと、プリウス PHVは「ハイブリッドモード」に入った。だからといって急にうるさくなるわけでもなかったが、もちろんEVモードのときに感じたシーンとした世界はない。ならば、海ほたるPA(パーキングエリア)で充電を行ない、再びEVで走ろうということになった。
だがしかしである。撮影を行なったのが土曜日ということもあって、PA内はとにかく混雑していて、充電スポットにたどり着くのもひと苦労という状況だったのだ。もはや計画倒れ。EVモードだけで走って精神統一を図るんじゃなかったの? 困った。本当に困り果てた。予約をしているインドカレーと座禅のスケジュールは動かせない。そこで企画の主旨とは異なるが、ハイブリッドモードのまま先を急ぐことにした。
けれども、考えようによってはこうして臨機応変に対応できることも、またプリウス PHVのよさの1つではないだろうか? ガス欠ならぬ「電欠」したら動けなくなってしまうEV(電気自動車)とは異なり、エンジンを搭載しているからこそどうにでも動けるのだ。もちろん、ガソリンが残っていればだが、そんな風に状況変化に対応できる懐の深さもまたかなり魅力的に映ったのだった。なお、プリウス PHVにはハイブリッドモードの走行中に積極的にエンジンを使い、バッテリーに充電していく「バッテリーチャージモード」も備えられているが、今回は敢えてハイブリッドモードのまま走り続けることにした。
そんなこんなで、次なるステージとなる東京・新橋のインドカリー店「マンダラ2nd」に到着。ここの常連であるCar Watch編集者は、到着するや否や「マスター、マトンカリーのベリーベリーHOTスペシャルを頼むよ!」とオーダーを始めたのである。どうなることやら……。
すると、出てきたインドカリーはとにかく赤い!(笑)。「これを食べて気合を入れ、カプサイシンダイエットをしていただきます」とのこと。表面はカリッと、中身はモチモチに仕上がったナンを片手にそれを食べれば、とにかく辛い! けれどもやみつきになるコクもあり、大汗をかきながらではあったがペロリとたいらげてしまったのだ。ヨシ、気合は入った! これで座禅もイケる!
再びプリウス PHVに乗って、最終目的地となる東京都世田谷区野沢の「臨済宗 妙心寺」まで走る。ちなみに、ここまで走った走行距離は97.6km。EVモードとハイブリッドモードを併用して、EVモードでおよそ50km、その後はハイブリッドモードで走った結果、燃費は67.3km/Lという結果だった。
さて、最後に本題となる座禅である。今回お世話になるのは、臨済宗 妙心寺に隣接した「東京禅センター」だ。ここでは月に数回、座禅体験ができるプログラムが用意されている。シーンと静まり返った部屋に入ると、そこには座布団が所狭しと並べられている。ここで靴下を脱ぎ、いよいよ座禅のスタートである。
和尚様から座禅をするにあたって言われたことは以下のとおりだ。
「人間はさまざまな悩みや苦しみ、迷いを持ち、なんとかそこから答えを見つけようとします。必死に探しまわっても、ますます分からなくなってしまうことも多いでしょう。座禅というのは、まずは心を静め、自らと向き合うために行ないます。無心になる、なにも考えないようにしようと考えれば考えるほど、無心からは離れてしまいます」。
「例えて言うなら、池のなかに宝石を落としてしまったときのようなものです。必死に見つけようと手を入れて、もがけばもがくほど底の土がかき回され、水は濁り、ますます見つからなくなってしまいます。見つけるにはどうしたらいいのか。そーっと、できるだけ静かに、そーっと探す。そうすれば水は濁らず、宝石を見つけることができるでしょう」。
姿勢を正して、長い時間を掛けて息を吐いていく作業を繰り返す。静まり返った空間で、心のなかで「ひとーつ、ふたーつ、みっつ……」と数を数えながら呼吸を整えていくと、いつしか無心になり、心が静まってくる。そうするうちにレースでのさまざまな悩みは吹き飛び、心が落ち着きを取り戻してきた。
それはまるで、EV走行を続けていたプリウス PHVの空間にどこか似ていた。座禅に通じる心を静める乗り味がある、プリウス PHVとはそういうクルマだ。
そして今回の旅を通じて、この無心こそが勝利への近道かもしれないとも思えた。池のなかに落とした宝石と同じように、勝利を逃してしまった前回の86/BRZレース。無心でそーっとを心掛けて走れば、きっと勝利を手にすることができるだろう。いや、必ず勝てると信じている!
提供:トヨタ自動車株式会社