井上孝司の「鉄道旅行のヒント」
停車時に一部の扉が開かない“ドアカット”とは? 開かないドアでパニックにならないために
2024年8月28日 06:00
路線バスでは「後乗り前降り」「前乗り中降り」などといった具合に、乗車に使用する扉と降車に使用する扉を使い分けることが多い。鉄道でも、以前に取り上げたようにワンマン運転ではそうしている。最前部の運転台にいる運転士が、運賃収受も行なわなければならないからだ。
それ以外は大抵、複数の扉がすべて一斉に開閉して、どこからでも自由に乗降できるのが一般的だが、ときどき例外が発生する。いわゆるドアカットである。
ホーム長が足りないのでドアカット
こうしたドアカットで何が困るかというと、「さあ降りよう」と思ったら扉が開かなくてパニック、という場面が起こり得ることだ。もちろん、駅の掲示や車内放送などで注意喚起はされるのだが。
例えば、前回の記事で取り上げた、北ウェールズのスランヴァイルプール駅。ホーム長が短く、3両編成の列車が半分ぐらいハミ出してしまう。そこですべての側扉を一斉に開けたら、ホームがないところに転落する乗客が出てしまう。
だから、乗務員に「スランヴァイルプールで降りたい」といったら「前の扉に来てくれ」といわれた。最前部の扉だけ、乗務員が手作業で開けて乗降させるためだ。
このように、ホーム長が足りない関係で一部の扉が閉め切られる場面は、日本でも散見される。
例えば東急大井町線の九品仏駅がそれで、列車は5両編成だが、ホーム長が4両分しかない。だから二子玉川方の先頭車は、この駅だけ扉が開かない。
駅の前後を踏切に挟まれていて、ホームを延長したくてもできなかったため、こうなっている。他線では、ホーム延伸に際して支障する踏切の移設まで行なった事例もあるが、九品仏では線路と並行する道路がないのでムリだろう。
横須賀線の田浦駅でも、ホーム長が足りないためのドアカットが行なわれている。11両編成に対してホーム長が10両分しかないのだ。この駅は前後をトンネルに挟まれており、ホームを延伸するのが難しいため、こうなっている。
そこで、久里浜に向かう下り列車は久里浜方の先頭1号車、横浜方面に向かう上り列車は横浜方の先頭11号車がドアカットの対象になる。
このほか、「増結するとホーム長が足りなくなるため、増結車だけドアカット」の事例もある。ただし近年ではめったに発生しないようだ。
ホームはあるけどドアカット
ホーム長は全車両をカバーできる長さを確保しているにもかかわらず、ドアカットが発生することもある。
それが、石北本線の特急「オホーツク」「大雪」。いずれも通常時は3両編成だが、繁忙期には4両または5両編成に増結されることがある。ところがその際に、途中停車駅でドアカットが発生する場合がある。その理由は車両とホームの兼ね合いにある。
「オホーツク」「大雪」の車両は2023年3月から、根室本線の特急「おおぞら」から転じてきた283系気動車に切り替わった。ところが283系は、その前に使われていた183系気動車と違い、出入台にステップがない。そのため、車両とホームの間の段差が大きくなってしまう。
そこで283系の導入に際して、白滝、丸瀬布、遠軽、生田原、留辺蘂、美幌、女満別の各駅でホームの嵩上げが行なわれた。ただし3両分だけである。通常は3両編成だからこれでよいが、増結すると足りない。
しかし、限られた期間の増結のために4~5両分の嵩上げ工事を行なう投資判断はできなかったのだろう。そのため増結が発生すると、途中停車駅で扉が開かない車両が発生することとなった。
東武伊勢崎線(東武スカイツリーライン)の起点・浅草駅では、1・2番線でドアカットが行なわれている。これは、ホームの幅が狭いとか、急カーブで車体とホームの間に大きな隙間ができるとかいった理由。問題になるのはあとから延伸された部分なので、北千住方の端でドアカットが行なわれる。
業務上の理由で(?)ドアカット
特急列車や座席指定制の通勤ライナー列車などで、一部の扉だけを用いて乗降させる場面もある。乗車時あるいは降車時に、正しい特急券を所持しているかどうかを乗務員が確認するため、という理由が多いが、必ず検札を行なっているわけでもないようだ。
例えば、東武伊勢崎線(東武スカイツリーライン)と東武日光線方面の特急は、途中の春日部、東武動物公園、久喜の各駅において、2・5号車の側扉のみを開閉している。
このほか、業務上の理由といえそうなものとして、可動式ホーム柵の開口と側扉の位置が合わないという理由でドアカットを行なう場面も出てきている。