井上孝司の「鉄道旅行のヒント」

鉄道旅行の荷物は少ないほうがいい? まとめ方・持ち歩き方の話

武雄温泉駅における、西九州新幹線「かもめ」と「リレーかもめ」の対面乗り換え。同一平面上の移動なら負担は少ないが、それでも大荷物を抱えていれば機動力は落ちる

 よく「旅慣れている人は荷物が小さい」といわれる。確かにそういう傾向はあるが、単純に当てはめてしまうのも乱暴な話ではある。とはいえ、ことに鉄道に乗ること自体が目的のお出かけでは、荷物をいかにしてコンパクトにまとめるかは重要な問題だ。なぜか。

機動力が重要

「あくまで、鉄道はA地点からB地点まで移動する手段」ということであれば、1日に乗る列車の本数は、それほど多くならないだろう。

 ところが、「鉄道に乗る」こと自体が目的になれば話は別。行程次第では、1日に乗る列車の本数が十数本、となることもある。すると、機動力が大事になる。大荷物を抱えていれば機動力が落ちて、列車同士の乗り換え、あるいは駅の内外における移動に要する時間が増えるうえに、疲労もたまりやすくなる。

 特に、18きっぷを活用して普通列車を次々に乗り継いでいくような場面がそうだ。長大幹線でも系統分断が定着しているから、短区間の列車を何本も乗り継ぐのが普通だ。そのたびに駅構内での移動が発生する。

 筆者自身がお出かけしたときに周囲の人を観察していると、キャスター付きのトランクを持ち歩く人が多数派のようだ。キャリーバッグとかキャスター付きバッグとかいわれている種類のものである。ゴロゴロ転がして移動できるので、身体にかかる負担は少ないかもしれない。だが、機動力という観点からすると、どうだろうか。

 バリアフリー対策が進んで、エスカレーターやエレベーターが整備されている駅が多くなった。しかし、それでも依然として、階段を上り下りしなければならない場面はある。また、エスカレーターやエレベーターがあったとしても、場所が遠いこともある。すると、エスカレーターやエレベーターがないと移動に不便をきたすような荷物は、機動力を下げてしまう。

大都市圏や主要駅ではバリアフリーの関係でエレベーターやエスカレーターの整備が進んでいるが、ローカル線の小駅になれば話は別。階段しかない場合も少なくない。写真のように積雪があると、さらに機動力が落ちる

 また、大荷物を持ち歩いていると、列車に乗ったあとも困ってしまうことがある。例えば、荷棚に載らないようなサイズになると、扱いに困る。荷棚の奥行きや高さには限りがあるからだ。ときどき、荷棚からはみ出しそうな大荷物を強引に載せている場面が見受けられるが、上げ下ろしの際に手が滑ったり、あるいは列車の揺れが原因で落ちたりしたら事故の元である。

車内では窓上に荷棚が設けられているのが通例だが、載せられる荷物のサイズ・重量には限界がある。これはHC85系のもの
HC85系の荷物置場。近年、こうした大型荷物置場を客室端部に設ける事例が増えている

 特急列車や新幹線では、車端部に荷物置場を設置する車両が増えてきている。しかし、乗降のたびに荷物置場と自席の間を行き来するのは手間がかかるし、盗難が心配ということもあるだろう。そのほか、東海道・山陽新幹線みたいに「一定サイズを超える大荷物は、特大荷物スペースを使ってください」となっていることもある。そうなると「特大荷物スペース付き」の席を確保しなければならないから、指定席を確保する場面にまで影響がおよぶ。

 逆に、荷物置場どころか荷棚すらないこともある。例えば、JR東日本が首都圏各線で走らせている二階建てグリーン車では、荷棚があるのは車端部の平屋席(いわゆるフラット席)だけである。札幌の地下鉄も、荷棚がないことで有名(?)だ。

E531系の二階建てグリーン車(階上席)。車体の寸法に関する制約が原因で、ご覧のとおり、荷棚がない
同じE531系のグリーン車でも、車端部の平屋席は荷棚がある

機内持ち込み荷物が1つの基準

 そうした事情を勘案すると、「ショルダーバッグかバックパックで、サイズは国内線の旅客機・機内持ち込みサイズ」が1つの基準になるだろう。ただしこれは「100席以上の機体」と「100席未満の機体」で数字が異なり、前者は三辺の長さの合計が115cm以内(55×40×25cm以内)、後者は同じく100cm以内(45×35×20cm以内)となっている。

 荷物を機内持ち込みが可能な規模にまとめておけば、行程の途中で飛行機を利用することになっても、いちいち荷物を預ける手間が省ける。すると、特に降機したあとの移動が迅速になる利点もある。荷物が出てくるのを待たなくても済むからだ。

 それに、機内持ち込みが可能なサイズの荷物であれば、列車の荷棚に載せる際にも問題はないことが大半だ。小田急ロマンスカーの70000形GSE車みたいに、腰掛の下に機内持ち込み可能サイズのトランクが収まる空間を設けた事例もある。

筆者はカメラ機材をいろいろ持ち歩くので、カメラバッグに荷物をまとめている。これはシンクタンクフォトのバックパック「エアポート・エッセンシャルズ」で、100席未満の旅客機でも機内持ち込みが可能なサイズ
小田急ロマンスカーのうち70000形GSE車は、腰掛の下、脚台の両側に荷物を置けるスペースを確保している

 あとは、そのサイズの範囲内に荷物をまとめられるか、という問題になる。ところが、これは事情が人それぞれであり、単一の解にはまとまらない。服をどれだけ持って行くか、PCやスマートフォンとその周辺はどうか、カメラ機材をどれだけ持っていくか、などといったあたりで大きな差が生じてしまう。えてして、男性より女性の方が持ち歩く小間物が多く、荷物が増える。

 もっとも、さまざまな事態を想定して「あれもこれも」と詰め込んでみたら、実際には使いませんでした。ということも間々ある。ものによっては「現地調達すればよい」と開き直ることも必要だろう。「鉄道に乗る」ことが主目的の旅行であれば、人跡未踏の場所に踏み込むことはないだろうから。

 また、旅先から宅配便で自宅に、あるいは事前に自宅から宅配便で宿泊先に、荷物を送ってしまう手もある。

チケット類はまとめておく

 チケットレス化の事例が増えつつあるものの、鉄道旅行というと紙のきっぷが付き物である。しかも、これを紛失したら目も当てられない。特に繁忙期、せっかく苦労して指定席を確保したのに、その指定券がどこかに消えてしまった、なんてことになったら……。

 また、旅程表、飛行機に乗る際の「eチケットお客様控え」、予約確認書、各種パンフレットなど、ペーパー類の持ち歩きは意外と発生する。すると、小物のチケット類は小さめのケースか袋に、そのほかのペーパー類はA4版のクリアファイルにまとめておくのが賢明だ。クリアファイルを使うと、紙が折れてぐしゃぐしゃになる事態を避けられる利点もある。

 なお、「移動中に頻繁に出し入れするもの」と「そうでないもの」を分けて、前者だけ、別に小さなバッグ類にまとめるのも一案だ。カメラやモバイルバッテリー、チケット類などが該当するだろうか。こうすると、大きな荷物をコインロッカーに入れたり宿のフロントに預けたりできるので、さらに機動力が向上する。

筆者の必携アイテム。ペーパー類をまとめるためのA4クリアファイルと、チケット類をまとめておくための袋