「賢者の石」は実在した？　錬金術師ニコラ・フラメルとパリ

　私は未見なのですが、「ハリー・ポッター」に出てくる魔法使いで錬金術師のニコラ・フラメルは実在した人です。今回はそのフラメルとパリのお話です。

　フラメルは1330年～1340年ごろ、パリの北西40kmくらいのところにあるポントワーズで生まれました。パリに移り住むと、さまざまな職業に就きます。そのなかでも写本師や文筆家として成した財で不動産業をし、裕福な未亡人ペルネルと結婚。1418年に亡くなるまで、多額の寄付や慈善事業をし続けました。

　そんなフラメルは一方で、寿命を延ばし、金属を金に変えるという「賢者の石」の秘密が書かれた本を、ユダヤ人のアブラハムという男から買って翻訳したと言われています。彼が残したもののなかに、賢者の石にまつわるシンボルを刻んだという噂もあります。

　さて、パリ4区にあるサン・ジャックの塔から始めましょう。パリの中心にぽつんと建っているようにも見えるこの塔、今はなくなってしまったサン・ジャック・ドゥ・ラ・ブシュリー教会の鐘楼部分です。

　教会本体はフランス革命などを経て破壊されましたが、1836年にパリ市が塔を購入。パリの気象観測台になったりもしましたが、2021年からは夏季限定で内部に入ることができるようになりました。私が上ったのは昨夏ですが、当日はガイドさんの説明を聞きながら、高さ52m、狭いらせん階段を300段ほど、1時間ほどかけて上り下りましたが、なかなか大変。でも塔の上に到着すると、パリの名所が一望に！

塔の下には「パスカルの定理」で有名なブレーズ・パスカル（1623～1662）の像が。1648年にパスカルがここで空気圧の実験をしたとされていますが、真偽は不明

狭いらせん階段をもくもくと上ります

塔の途中では、気象観測台だったころの部屋がそのまま残っています。当時のものと思われる謎の液体も

塔の上には、聖書の福音史家のシンボル（ライオン、牛、鷲、人）のほか、ガーゴイルたちがパリの街を見守るように置かれています。塔の上からはパリの観光名所を一望できます

　このサン・ジャックの塔というかサン・ジャック・ドゥ・ラ・ブシュリー教会とフラメルには深い関係があります。フラメルの住まいは教会のほぼ目の前にありました。また、教会の正面玄関は、フラメルによって建設されています。さらにフラメルは死後、財産を教会に遺贈し、教会の敷地に自身で用意した墓石とともに埋葬されました。この墓石は現在、クリニュー中世美術館に所蔵されています。

クリニュー中世美術館はその名のとおり、中世美術専門の美術館です

美術館にあるフラメルの墓石

　次は、「ニコラ・フラメルの家」（49 Rue de Montmorency, 75003 Paris）に行きます。裕福になったフラメルはいくつかの家を持っていましたが、そのうちの一つがパリ最古とされるこの家。フラメルの家があったとされるところから少し北上したパリ3区にあります。フラメルの家といっても貧しい人たちが住むためのもので、フラメルはおそらくここには住んでいません。古い家のアーチにあるシンボルを見ていると、言われているものとは別の意味があるのではないかしら、などとつい思ってしまいます。

現在ニコラ・フラメルの家の1階はレストランになっています

　彼が本当に錬金術師であったという証拠はなく、当時としては長生きをし、一代で裕福になったフラメルを見た人たちがいろいろな伝説を作った気もしますが、ロマンがありますよね。フラメルについての想像を膨らましながら塔、美術館、家を訪ね、パリをまた違う視点で楽しみました。