荒木麻美のパリ生活

生まれ変わったパリ造幣局「モネ・ド・パリ」を訪ねる

世界最古の造幣局では日本人職員も活躍中

「Monnaie de Paris(モネ・ド・パリ、パリ造幣局)」は、シャルル2世により864年に創設されました。財務省の管轄機関ですが、2007年から法人化されています。

 モネ・ド・パリはフランスに2か所あるのですが、そのうちの1か所はボルドーに近いペサックにあり、1973年から造幣のほとんどはペサックで行なわれています。もう1か所は今回訪ねたパリのセーヌ川沿い、ポン=ヌフ近くにあり、コインやメダル、勲章、美術品や宝飾品を製造しています。国内だけではなくて、海外からの注文も多いそうです。

 パリのモネ・ド・パリが稼働を始めたのは1775年ですが、ここは歴史的建造物としても大変価値のあるもの。2017年9月末には大規模な改修工事が終了し、建物内の多くの場所が一般に公開されるようになりました。

ネオ・クラシック様式の見事な建築です

 敷地内にはカフェ、3つ星レストラン「ギー・サヴォワ」、ブティック、博物館などがあります。無料で入れる中庭では常にモダンアートなどの展示がありますし、そのほか、最近では雑誌「VOGUE(ヴォーグ)」、高級宝石店「ブシュロン」や「ヴァン クリーフ&アーペル」とのコラボ企画、カルティエやエルメスのファッションショーも行なわれました。

ブティックではオリジナル限定コインなどが売られており、お土産によさそう。一部オンラインで買うことも可能です
2018年サッカーW杯でのフランス優勝記念コインも、ブティック前の自販機で売られていました
私が訪ねたときはドイツのアーティスト、トーマス・シュッテの作品が中庭に展示されていました

 敷地内をざっと見たあとで私が向かったのは貨幣博物館「11コンティ」。ここには通貨やメダルの製造工程の変遷や、世界中の貨幣などが展示されています。実際に職人さんたちが働くアトリエを窓越しに見ることもできます。予約が必要ですが、さまざまなテーマに沿ったガイドツアーや、家族向けにオリジナルコインを作るアトリエも開催されています。

 せっかくなので、ある特定のテーマについてのガイドツアーに参加してみました。今回のテーマは「貨幣鍛造機」ということで、約45分間ずっと、手動の貨幣鍛造機についてガイドが話し倒すという、私にはちょっとマニアックな内容でしたが、ツアーの参加者には休憩時間を利用したモネ・ド・パリの職員さんも多くいて、熱心にガイドの話に耳を傾けていました。

ルイ14世などの極印コレクション。これを貨幣用材に乗せてハンマーで叩きます
日本の古い通貨も
この日はペサックのモネ・ド・パリについての紹介ビデオが流れていました
製造現場を窓越しに見ることもできます
博物館内には「富の女神」がありました

 さて、パリのモネ・ド・パリで働く日本人女性がいます。若林薫さん、ここに勤めて約1年になります。パリのモネ・ド・パリでは約300人が働いていますが、外国人国籍の外国人はおそらく若林さんだけだそう。せっかくの機会なのでお話を伺ってみました。

――これまでの職歴を簡単に教えていただけますか?

若林さん:もともとは日本でジュエリー職人に弟子入りして、ジュエリーを5~6年作っていました。その後、2000年に渡仏して、研修のためにストラスブールに1年間滞在しました。一度日本に帰りましたが、ストラスブールで知り合った今のフランス人の夫と結婚するために再渡仏してパリに住むことに。そのあとはパリ市のジュエリー講座や私立の専門学校で、さらなる技術を身に付けていきました。

 再渡仏後、数年かけてジュエリー制作、石留め、研磨のフランスの国家資格CAPを取得。そのあとはその資格をもとに「パリのヴァンドーム広場(老舗の超高級ジュエリー店が並ぶ)で売られるようなハイジュエリー作りに関わりたい」という目標を持って、いくつかの会社に勤めました。

――パリのモネ・ド・パリで働くことになった経緯を教えていただけますか?

若林さん:私も学んだことのあるジュエリーの専門学校のサイトに求人が乗っていたので、応募したら採用されました。2018年1月のことです。今は七宝の部門にいるのですが、本来なら経験者を募集していたものの、これまで学んだ技術・経験・やる気を買われたようです。

――具体的な仕事の内容はどのようなものですか?

若林さん:「シャンルベ」という技法なのですが、先輩たちに教わりながら、勲章を七宝で装飾する仕事をしています。今はさらに七宝で絵を描く技術を学んでいるところです。

 勲章は各分野で秀でた活躍をする人にフランス政府から授与されるものですが、軍人のように国のために命を懸けている人も含まれますし、十分に心して作っています。

(C)Kaoru Wakabayashi

若林さんの働いているアトリエで製作中の国家功労勲章、レジオン・ドヌール勲章、芸術文化勲章など(C)Kaoru Wakabayashi

勤続30年になる先輩のシルヴィーさん。新人時代は局長の公邸(現在は「ギー・サヴォワ」が入っている)の雑務から始まったとか(C)Kaoru Wakabayashi

――転職して1年ほどですが、どうですか?

若林さん:外国人だからといって困ることはないですし、ここの職人のレベルはとても高く、本物のプロフェッショナルが揃っているのですが、そのスキルを惜しみなく伝えようとしてくれるのでとてもありがたく思っています。ただ、工業技術分野はまだまだ男性が多い世界です。今後もっと女性が増えていくと、私もさらに働きやすくなるのかなとは思います。

 職員には内外部での研修制度も充実していて、私は現在、造幣所内でメダルを磨く技術も学んでいますが、必要であれば外部の学校などに通うこともできます。恵まれた環境で安定して働けることは私にとってとても幸せなこと。趣味が仕事みたいなものなので、できることなら70歳くらいまで働きたいですね!

先輩のヴェロニクさんにメダル研磨のお手本を見せてもらっているところ。バフ(研磨輪)のごう音、高速を恐れないことが大切だとか(C)Kaoru Wakabayashi

 若林さんにはお子さんも2人いて毎日がとても忙しそうですが、好きなことを仕事に、日々スキルアップしながら生き生きと働く様子がとても伝わってきました。

 モネ・ド・パリ周辺はノートルダム大聖堂やルーヴル美術館といった超有名な観光名所がたくさんあります。それらを訪ねる合間にでも、モネ・ド・パリもぜひ訪ねて見てくださいね!

モネ・ド・パリの最寄り駅であるポンヌフ駅のホームにも硬貨がたくさん!

荒木麻美

東京での出版社勤務などを経て、2003年よりパリ在住。2011年にNaturopathie(自然療法)の専門学校に入学、2015年に卒業。パリでNaturopathe(自然療法士)として働いています。Webサイトはhttp://mami.naturo.free.fr/