欧州28カ国の鉄道などを自由に乗り降りできるユーレイルパスを利用して、JATA(日本旅行業協会)が選定した「ヨーロッパの美しい村30選」のうち6カ所を巡る旅の第3回。今回はイタリアのトリエステから北西のウディネへ向かい、ウディネからはアルプス越えの夜行列車に乗ってオーストリアのウィーン、そしてハンガリーのショプロンを訪ねる。
ユーレイルパスでもっとトクする使い方
今回のルートは、トリエステを20時40分に出発したあと、ウディネで22時47分の夜行列車に乗り換え、翌朝7時55分着となる終着駅のウィーンへ。さらにウィーンからウィナーノイシュタットへ行き、もう一度乗り換えて、最終目的地のショプロンに9時過ぎに到着するというもの。
予定では計12時間半ほどの長旅だが、夜行列車が遅れに遅れ、2時間の遅延が発生したうえに、ウィナーノイシュタットではたまたまオーストリアの祝日のためショプロン行きの列車が減便していたことから、結局到着したのは出発から15時間半後の昼12時過ぎ。ショプロンでのプログラムはかなり圧縮されることになってしまった。
ローマ行きのインターシティに乗ってウディネへ。トリエステで動力車を連結していた シングルルームとして予約した寝台車のコンパートメント ベッドの大きさは身長177cmの筆者が寝そべってギリギリ。180cmを超える人は足を折り曲げるか斜めになる必要がありそう 袋の中身はタオル、スリッパ、スナック、水、石鹸、ウェットタオルに耳せん。揺れは多少あるが、走行音は大きくなく、耳せんを使わなくても熟睡できた テーブルの上の部分を持ち上げると洗面台が現れる。シャワーなどは備えていないので、タオルで思う存分身体を拭けるのはありがたい 朝食の注文カード。欲しいものに6つまでチェックを入れて検札の際に車掌に渡す。7つ目以降は追加料金が必要で、1つ1ユーロ(約123円、1ユーロ=123円換算) ホットココアとフルーツ・シリアル入りヨーグルトのみ頼んだ 車窓から眺めた早朝のオーストリア。朝起きると、列車はすでに2時間遅れとなっていた ウィーンから南のウィナーノイシュタットへ向かうレイルジェット。車内はきれいでゆとりがある ウィナーノイシュタットに到着。1両編成の私鉄でショプロンへ。オーストリアの祝日のため減便しており、ショプロンへの到着はさらに遅れた これは翌日乗車した際に計測したもの。Wi-Fiの下り速度は0.76Mbps余りだが、Webブラウジング程度でも厳しく、実用には向かなかった ところで第1回の記事で紹介したとおり、ユーレイルパスには乗車日を事前に必ず記入しなければならない。5日間や10日間有効のフレキシータイプのユーレイルパスでは、日付を記入する欄がその日数分しか用意されていないため、当日だけでなく翌日も乗ると仮定すれば貴重な10日間分のうち2日分を消費してしまうことになる。
しかし夜行列車については特例があり、19時以降発で、かつ翌朝4時以降着の列車に乗る場合は、出発日ではなく翌日の日付を記入してもよいことになっている。その日初めてユーレイルパスを使って夜行列車に乗るのであれば、1日分だけ“トク”できるのだ。
夜行列車では寝台指定券も必要になるとはいえ、今回ウディネからウィーンまで利用した夜行列車「ユーロナイト(EuroNigit)」は、シングルルームで追加が109ユーロ(約1万3407円、1ユーロ=123円換算)。コンパートメント内に洗面台があり、ウェルカムドリンクとスナックに加え、タオル、スリッパなどアメニティが比較的充実し、軽い朝食がついてくることも考えれば、コストパフォーマンスの高い長距離列車の旅といえるのではないだろうか。
指定席を購入する際は左下の「BUY YOUR TICKET」を選択 ワイン1杯数十円で飲める、小さな中世の街
ショプロンはハンガリーの北西の端、オーストリアに食い込むような形で突き出た、国境まで目と鼻の先のエリアにある。駅から約1km離れた中心部にはかつて城壁に囲まれていた旧市街が残っており、わずか約500×300メートルの楕円形の敷地内に多くの住宅や教会、あるいはホテルや店などがひしめく。
オスマン帝国の攻撃から逃れ、中世を思わせる古都の姿を維持している欧州でも数少ない街だ。その旧市街を一望できるだけでなく、市街の360度全体を見渡せる「火の見の塔」はぜひ登っておきたい(入場料1150ハンガリーフォリント=約449円、1ハンガリーフォリント=0.39円換算)。
たびたび修復されているのか、色彩豊かな建物が美しい 火の見の塔の内部。ローマ時代の遺跡の上に建てられており、屋内ではその遺跡を間近で見ることができる ある人の飼っていたヤギが財宝を見つけ、それを寄付して建てられたことから名付けられたという「山羊教会」 旧市街と外側の市街地を行き来できる近道。もちろん公道から入ることもできる ハンガリーはワインの名産地としても知られる。ショプロンの旧市街にはいくつかのワイン酒場があり、100ミリリットルで数十円と、破格の安値で飲めるのがうれしい。ただし、店によっては現地通貨のハンガリーフォリントしか使えず、ユーロやクレジットカードは使えないこともある。注文する前に店員に確認しておくといいだろう。
山羊教会の向かいにある酒場「Gyogygodor(健康の穴倉)」。ここはユーロを使えた 「美しいオーナー」が経営するワイナリーとエステルハージ宮殿
ショプロンの郊外には、2004年のボルドーワインコンクールで金賞に輝いたワイナリー「ルカ」がある。わずか2人で3ヘクタールの畑のブドウを育て、年間6種類、1万本のワインを生産しているとのこと。2015年にはブダペストの星付きレストラン「Onyx(オニックス)」に卸し始め、寿司店「Nobu」にも提供しているという。
ショプロンから6kmの郊外にあるワイナリー「ルカ」 忙しいなか温かく迎え入れてくれたオーナーのルカ・エニクーさん(ルカが姓。ハンガリーでは日本と同じく姓名の順に呼ぶ) 最初に出されたロゼワイン。息子が生まれた4年前に作り始めたことから、ラベルのイラストは毎年の息子の姿を描いているという。ワイン自体は地元のブドウ種を用いたもので、ラードと肉をのせたパンに合う、すっきりした味わい 昨年からOnixに卸し始めたワイン。少し渋味が強く、甘いチョコレートによく合う 「ケークフランコシュ」というハンガリーの代表的なブドウ種を使ったワイン 2004年のボルドーワインコンクールで金賞に輝いた「ピノ・ノワール」を通過ったワイン。受賞をきっかけにルカが広く知られるようになった記念すべきワインでもある。現在はNobuにのみ独占的に供給している 「カベルネ・ソーヴィニヨン」を使ったワイン(写真右) こちらはショプロンの郊外20km以上のところにある観光の名所「エステルハージ宮殿」。入場料は大人1人2000ハンガリーフォリント(約780円) フランツ・ヨーゼフ・ハイドンが楽長として通ったとされる音楽室 全体で128部屋あり、そのうち見学できるのが十数部屋、さらにホテルとして10部屋を開放している。宿泊料金は1泊2~3万円程度と高くはないものの、常に予約で一杯だという 調度品の見事さに目を奪われるが、パステル調の天井画や壁の模様、像など、全体的な色彩は女性が好みそうな爽やかな雰囲気だ 銀をふんだんに用いた椅子。こうした家具や絵画などはかつてロシア軍に接収または破棄されてしまい、現存するのはごくわずか。いまはさまざまな国に散逸してしまったそれらの調度品を買い戻しているところだという 結婚式に使われることもある「夏の食堂」と名付けられたホール 18世紀、中国から買い付けたという絵画。当時は金銭ではなく“牛”で取引したのだとか 次回はショプロンからいったんウィーン方面へ戻り、プラハを経由してチェコのリゾート地「マリアンエスケー・ラーズニェ」へ向かう。