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JR東日本、夏休みツアーで小学生が本物のシミュレータやみどりの窓口を体験

水戸支社が「めざせ!! 未来の運転士!! JR東日本訓練体験ツアー」実施

2015年8月22日~23日 実施

水戸総合訓練センター
イベントなどで使用されるというE657系のモックアップ

 JR東日本(東日本旅客鉄道)水戸支社は8月22日、23日に、鉄道をテーマにしたキッズ向けのイベントツアー「めざせ!! 未来の運転士!! JR東日本訓練体験ツアー」を実施した。このツアーは2014年に引き続き2回目の開催となるもので、夏休みの自由研究などに活用してもらおうと企画されたもの。募集は小学4年生~6年生の児童と保護者の2名1組、20組40名限定だったが、22日が18組36名、23日は満員御礼と両日とも盛況となった。参加費用は親子で1万2000円。

 8時30分に水戸駅に集合した参加者は、スタッフとともに徒歩で駅近くにある水戸総合訓練センターへ。同センターはJR東日本が“安全元年の年”とした平成元年に「鉄道輸送に関わる安全体制の強化を図るため、運転業務に従事する社員に対して、安全で安定輸送の確保を図るため、実設訓練を重点に実施し、正しい運転取扱と異常発生時に自信を持って行動し、対処できるよう体を使って覚えさせることを目的」として設立されたもの。シミュレータや訓練線、信号扱訓練室などを備えており、まさに「習うより慣れろ」を地で行く施設となっている。

開校式

 訓練センターに到着した参加者はまず開校式に出席。登壇したJR東日本 水戸支社 水戸総合訓練センター 所長 仁平俊一氏は「当訓練センターではJR水戸支社で働く社員、電車の運転士、車掌、駅員、信号などが訓練、勉強を行なう学校です。ここで日々の仕事の勉強、異常時に適切な行動がとれるよう実際に体験をしながら訓練をしています」と施設を紹介。続いて「シミュレータで運転士や車掌の、信号炎管や手旗の合図といった体験、研修センターでは切符の発券体験も行ないます。いろいろJRで仕事をしている作業を皆さんに同じように体験していただきます」と、当日のカリキュラム説明を行なった。

 次いでJR東日本 水戸支社 水戸駅長 佐藤浩美氏が登壇。「皆さんが憧れる運転士、車掌のほかにもたくさんの仕事がJRにはあります。電車を走らせるためには線路を作る人、維持する人、電気を送る人、設備を守る人、信号に関する人などがおり、また終電の合間に点検や工事をしながら日夜鉄道に対する安全を高めています」と鉄道員の仕事を紹介。さらに1日に1800件程度の工事が行なわれ、JR東日本の駅利用者は1700万人、運転士は信号の確認を120万回(水戸エリアで6万回)、車掌は600万(水戸エリアでは27万)ドアを開閉、踏切の開閉が70万回(水戸エリアでは3万回)行なわれると数字で説明。「毎日の点検を怠りなくすることで安全が守られている」と多くの仕事が持つ重要性を解説した。

 開校式のラストは子供たちが自己紹介。それぞれ将来の夢は「JRに入ること」「運転士になること」「鉄道関係の会社に入ること」「東京駅の駅長になること」など希望を語った。

 開校式が終わると参加者は5組ずつ4班に分かれてカリキュラムがスタートした。今回の内容は大きく分けて「シミュレータ体験」「ミニ電車体験&踏切安全教室」「みどりの窓口体験」「手信号体験」の4つ。各項目ごとに1時間30分ほどの時間が確保されており、ひとりひとりが余裕をもってたっぷりと訓練を受けることができるようになっていた。

JR東日本 水戸支社 水戸総合訓練センター 所長 仁平俊一氏
JR東日本 水戸支社 水戸駅長 佐藤浩美氏
23日の参加者は20組40名。自己紹介では全員が将来鉄道関係の仕事をしたいと話した

シミュレータ体験

シミュレータルーム

 シミュレータ体験は実車の標準的な運転台と大型スクリーン、客室&ドア、車掌室が一体となった大掛かりなもの。加えてモーター音などの音響、加減速の振動などが再現されており実車感満点。外を見ずにいると本当に乗っているような錯覚を覚えるほどリアルなデキだ。

 多くの子供達にとって初めての体験だったはずで、手こずるかと思いきや講師を務めた職員から「上手いね~」と感嘆が漏れるほど見事な運転を見せていた。一方の車掌業務はアナウンスだけでなく運転指令とのやり取り、駅停車時の確認項目など、思っていた以上に作業が多かったようで、少し手こずっていた様子だった。

シミュレータ前部。「三菱プレシジョン」のマークが入っている。1セット数億円とか
運転席。以前は2ハンドルタイプだったが改修で1ハンドルタイプに変更されたとのこと。前方映像は架空の路線
ワンマン運転の水郡線の列車を想定して扉開閉スイッチが追加されている
客室内から。踏み板から前が走行状態に応じて動くようになっている
振動を生み出す下まわり
非常停止時の訓練用に車止めが別途用意されている。写真は片側だけセットしたところ
サイドにも進行方向を見ることができるスクリーンがある
制帽と制服を着て挨拶
運転台で説明を受ける
細かな説明を受けなくても手慣れた感じで操作を行なう
嵐をシミュレートした状態。雪を降らせることもできる
こちらは車掌の体験
ドア側灯やレピーター(前方信号)の確認など仕事が多い
運転指令と無線を使って会話を行なう場面も。車掌室のスクリーンでは後方の風景が表示される
子供達の後に保護者も体験。子供に「次はこう」「それ押して」などアドバイスされまくり
終了時の挨拶も大事な訓練の1つ

ミニ電車体験&踏切安全教室

訓練線を使ったミニ電車体験

 常磐線の本線横にある訓練線を使ってのカリキュラム。ミニ電車体験ではバッテリを搭載したミニ電車を使い、訓練線を2往復できる。速度は自転車で走る程度とそれほど速くないものの、本物の線路や信号といった鉄道施設に加え、真横を常磐線の営業列車が通過していくというシチュエーションは、シミュレータとはまた違った体験だ。

 続いて訓練線に用意されている踏み切りと転轍機(線路の進路を切り替える機器)を使用。前者では非常ボタンやレーザーを使った障害物検知装置を、後者は電源がロストした際の手動切り替えを体験した。どちらも縁の下の力持ち的な存在だが、身近なものかつ普段触ることができない部分なだけに、興味深そうに操作を行なっていた。

すぐ横を営業列車が通過していく
鹿島臨海鉄道のこんな列車も通過していく
運転台。1ハンドルタイプだ
以前はエンジンを積んだ車両だったが今はバッテリ式。AC 100Vで充電できる
踏み切りでは非常ボタンを体験
緊急ボタンを押すと特殊信号発光機が点灯し運転士に知らせる。これはLEDタイプ
こちらは従来型。赤色がぐるぐる回りながら点灯する
レーザーを使った障害物検知装置。本来は線路と弊校に設置される
転轍機の体験
クランクを回して切り替える
従来のダルマタイプ。水戸駅付近には数カ所残るだけという

みどりの窓口体験

 昼食を挟んで行なわれたのがみどりの窓口体験だ。切符の基礎知識や時刻表の使い方などを簡単に学んだ後、実際に駅で使われているシステムを使用して切符の発券を体験した。

 切符の用紙は訓練用を使用するものの、予約自体はセンターにオンラインで繋がった実在のデータを利用したホンモノ。端末の操作はタッチパネルで視覚的に使うことができるようにできているものの、発着駅を始め利用列車や座席の位置、複雑な経路の入力など、鉄道の知識がないとなかなか難しい。

 だが、参加した子供達は最初こそ講師からサポート受けていたものの、すぐに自分だけで扱えるように。タッチパネルに慣れている世代と言うこともあるだろうが、子供達の吸収力の早さには驚きだ。最後に余った時間を利用して「鉄道クイズ」が行なわれたが、難しい問題もすらすら。ただ「品川駅のタイルの絵柄は?」という問題では、「ニューヨークヤンキースにもいた……」とのヒントにもちょっとピンとこなかった様子。ジェネレーションギャップを感じたものの、ちょっとホッとした瞬間でもあった。

みどりの窓口体験
切符のロール。これは訓練用なので無地で券面も白
ロール紙をセット
切符用のプリンタ
みどりの窓口にある端末そのもの
切符の種類を勉強
参加者に配られた用紙
子供自ら時刻表を“読んで”記入中
端末を操作していく
片道最長切符に挑戦する強者(つわもの)も。経路が大変なことになっているが設定できる数に上限があるため機械での発券はできないとのこと
経路を妥協した乗車券の金額(子供用)
発券された切符。端末のディスプレイには「経路はプリントアウトできないため職員が記入する」旨の注意書きが表示された
鉄道クイズ。このほか「JR3社がまたがる唯一の県は?」「東海道本線、関西本線、福知山線にある柏原駅。それぞれの読みは?」などの問題に子供達は即答!

手信号体験

 最後は建物前の広場で手信号体験。最初は「携帯用信号炎管」(発煙筒のようなもの)を使った列車抑止の体験。最初は人前で大きな声を出すことに恥ずかしさがあったようだが、講師から「事故の際に慌ててしまわないためにも、大きな声を出して発声して確認することが大事」と教えられると、しっかりと大きな声で動作確認を行なっていた。

 その後、手旗や信号灯、列車無線を使っての誘導を体験でも、「駅で見た」と話しつつ一所懸命に練習。こうした誘導は水戸駅でも毎日のように行なわれているとのことで、目的や意味を理解することで一層興味深く見ることができるようになるはずだ。

広場での手信号体験
携帯用信号炎管(の模型)を使った列車抑止。実際は600m走るとのこと
携帯用信号炎管(ホンモノ)
講師役の職員による実演
手旗信号
旗は絞って使うこともある
夜間などに利用する信号灯
上部のスイッチで白、青(緑)、赤と切り替えが可能
使い方の実演
脱出用のラダー。これはスーパークイックラダーと呼ばれる職員が背負って運ぶもの
こちらは列車内に設置されているタイプ
実際に使って列車(と同じ高さ)から脱出。「高くてけっこう怖い」とのこと

閉校式

 すべてのカリキュラム後は閉校式を実施。開校式で挨拶を行なった二瓶氏が再び登壇し「皆さんが生き生きと体験する姿を見させていただいて、すごく感動いたしました。将来JRに入って私たちが行なっている仕事を受け継いでいただければと思います。ここでは毎日の仕事が安全に行なえるように勉強して、異常なことが起こった場合に適切な対処ができるよう研修を行ない、一人ひとりが究極の安全を目指して仕事をしております。ぜひともいろいろなことにチャレンジして、JR水戸支社の仕事についていただければと思います」と締めくくった。そして、最後に参加者全員に訓練体験修了証を渡して解散となった。

 小学生にとってはかなり長い時間のカリキュラムとなったが、子供達は最後まで楽しそうな笑顔だった。これは十分な体験時間が用意されていたほか、職員の方々による飽きないようにする工夫、そしてなにより「好きなこと」に対する貪欲さがあってこそと思われる。2016年の開催は未定とのことだが、ぜひとも継続して実施してほしいと思われるイベントツアーだった。

閉校式では訓練体験修了証が手渡された
最後に水戸支社のゆるキャラ「ムコナくん」と記念撮影。ムコナくんは特急ひたちなどに使われる「E657系」をイメージしておりゆるキャラグランプリにも参加中
講師を務めた職員の方々

(安田 剛)