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2人乗り超小型モビリティレンタルサービス「MICHIMO」が奈良県飛鳥地方で正式開業

専用iPadナビ「MICHIMOナビ」を使って、手軽に遺跡巡り

2015年4月17日正式開業

明日香村の稲渕棚田に停車中のMICHIMOの超小型モビリティ、日産自動車 ニューモビリティコンセプト

 明日香村地域振興公社とソフトバンクモバイルは4月17日、奈良県明日香村周辺地域を対象にした超小型モビリティレンタルサービス「MICHIMO(ミチモ)」の正式開業(グランドオープン)を記念した記者説明会を行なった。MICHIMOは、奈良県明日香村の飛鳥駅前で行なわれている、超小型モビリティ(日産ニューモビリティコンセプト)のレンタルサービスで、飛鳥時代の遺跡などが多数残る、飛鳥地方を訪れる観光客などをターゲットとして展開される。

 2014年10月以降行なわれていた試験開業では1日/8640円のレンタルプランだけだったが、今回の正式開業では、5時間/5130円、3時間/3240円と、より短時間のプランが用意され、手軽にレンタルしやすくなっている。また、レンタルする顧客向けに無料で貸し出されるiPadには「MICHIMOナビ」と呼ばれる専用の観光アプリが搭載され、観光地を巡るカーナビ機能や、iBeacon(アイビーコン)と呼ばれる近距離通信技術を利用して、観光地に近づくと自動でスポットに関する機能を表示するなどが用意されている。

試験開業でのフィードバックを受けて新料金プランを設定

 説明会の冒頭で挨拶に立った明日香村地域振興公社 業務執行理事 北浦敬教氏は「明日香村には飛鳥時代を代表する史跡が沢山あり、かつ自然にも恵まれ、多くの観光客に親しまれている観光地。これまでも観光客に向けたさまざまなサービスを提供してきており、今回のサービスも昨年10月より試験的に行なってきた。今回の正式開業にあたり、日産のニューモビリティコンセプトを8台から15台に、さらに三菱自動車のi-MiEVを2台追加するなど規模の拡充を行なっている」と述べ、MICHIMOは飛鳥地方を巡る観光客へのサービス向上を目的としたものと説明した。

 なお、質疑応答では稼働率などについても質問がでたが、試験期間中では3~4割程度の稼働率だったという。飛鳥地方での観光のハイシーズンはこれからということで、今後上がっていく可能性が高いとの見通しだった。また、顧客からのフィードバックで1日料金だけでなく、もうちょっと短く安価な料金が欲しいという意見が多かったことから、1日/8640円、5時間/5130円、3時間/3240円という3つのプランに拡充した。

 このほか試験期間中の課題として、道交法(道路交通法)上の問題もあり、車両を完全に密閉することができないため、降雨時に結構濡れてしまうというフィードバックがあった。そこで、降雨時にもある程度雨を避けられるようにファスナーで開くことができるビニル製の窓を取り付けるなどの改良を施した。

一般財団法人明日香村地域振興公社 業務執行理事 北浦敬教氏
降雨時の雨をある程度防げるようにビニル製の窓が取り付けられたのが正式開業に向けた改良

ソフトバンクモバイルの技術ソリューション例

 次いで登壇したのは、ソフトバンクモバイル ITモバイル開発本部 M2Mクラウド事業開発室 室長 山口典男氏。山口氏は「MICHIMOには、ソフトバンクモバイルとパートナー企業の技術が使われている、正式開業を非常に嬉しく思っている」と述べ、今回のMICHIMOの事業は、ソフトバンクモバイルが展開するさまざまな技術のショーケース的な取り組みだと説明した。山口氏によれば今回のMICHIMOで採用されているソフトバンクモバイルの技術ソリューションは大きく2つあり、1つがユビ電と呼ばれる認証機能付き充電器であり、もう1つがMICHIMOナビと呼ばれる観光客にインタラクティブなコンテンツを提供するiPadのアプリだという。

 山口氏によれば、ユビ電はソフトバンクモバイルが開発している充電器のソリューション。ユビ電は、自動車とクラウドが充電ケーブルを通じて認証しあうことが可能で、クラウド側から接続された自動車がどの個体なのかを認証することができるという。言ってみれば、クルマそれぞれがIDを持ち、特定のIDのクルマが来たときだけ充電するというような使い方も可能になるし、どのIDのクルマがどれだけ充電したかを記録するなどの使い方も可能になる。例えば、レストランのオーナーが自分のお店の駐車場にユビ電の充電ステーションを設置し、ある特定の会員のクルマだけ利用できるといった使い方が可能になるということだ。

 山口氏によれば充電の方式(例えばCHAdeMO[チャデモ]なのか、Combo[コンボ]なのか)などは問わず、後付でも認証システムを入れることが可能だという。今回のMICHIMOで利用している日産自動車のニューモビリティコンセプトでも、日産が提供している段階ではユビ電には対応していないが、ユビ電を利用できるように組み込んだ。「どこか特定の自動車メーカーと組むということではなく、現時点ではソリューションとして提案していきたい」(山口氏)と、ソフトバンクモバイルとしてはユビ電の提案例の1つとしてMICHIMOに取り組んでいると説明した。

ソフトバンクモバイル株式会社 ITモバイル開発本部 M2Mクラウド事業開発室 室長 山口典男氏
ユビ電が導入されていることがMICHIMOの特徴
MICHIMOの充電に利用される電力はクリーン電力として発電された分を確保しているという。写真はその証明書

 また、ソフトバンクモバイルの関連会社であるクレメンテックが開発したコンテンツプラットフォームを利用したナビアプリ「MICHIMOナビ」を搭載したiPadが、レンタル時に同時に貸し出しされる。山口氏によれば「すでに明日香村の方で、バーチャル飛鳥京(3Dコンテンツとして明日香村の遺跡を見ることができるコンテンツ)や音声案内などを用意しており、それをクレメンテックのコンテンツプラットフォーム上に載せてソフトウェアを作成した。また、アップルの提供するiBeacon機能に新たに対応し、遺跡近くで自動で案内が始まる仕組みなども導入した。弊社としては技術を技術として見せるのではなく、一般の方にも技術を楽しんでいただける仕組みが必要だと考えてこのような形にした」と述べ、ソフトバンクモバイルが開発するさまざまな技術を、一般の観光客にもアピールする仕掛けとしてiPadのアプリという形で導入している。

 なお、このMICHIMOナビはMICHIMO専用となっており、一般のユーザーが自前の端末にインストールして利用することはできない。飛鳥地域の紹介を行なうコンテンツとして「あすかナビ」(http://www.kitemite.me/asuka/)というコンテンツを用意しており、そちらを参照してほしいということだった。

レンタルしたドライバーにはiPadが貸し出され、専用のMICHIMOナビというアプリを利用してさまざまなサービスを楽しむことができる
iBeacon(プッシュ型の近距離無線通信)を利用すると、このように必要な情報が自動でタブレットに表示される
ナビゲーションとしても使えるが、音声案内はない

特定のエリアだけを走ることができる超小型モビリティ

 MICHIMOで利用されているのは、前述したように日産ニューモビリティコンセプトで、ボディサイズは2340×1230×1450mm(全長×全幅×全高)、重量は470kg(ドアなし)ないし500kg(ドア付き)。軽自動車よりもさらに小さく軽くなっており、前後2名乗車の4輪車となる。現時点では法的な課題もあり、個人向けには販売されておらず、特別に規制が緩和されている地域向けに業販の形で提供される自動車となる。

 日産ニューモビリティコンセプトのパワーユニットはモーターとバッテリで構成されており、ガソリンエンジンは搭載されていない。従って分類としてはEV(電気自動車)となる。しかし、モーターの出力は定格8kW, 最高15kWで、最高速は80km/hと高速道路を走るには不十分だが、一般道路であれば十分な性能を持っている。満充電時の航続距離は約100kmで、200V普通充電であれば約4時間でバッテリ充電が完了する。

 ナンバーは黄色ナンバーが付けられており、道路運送車両法では軽自動車に分類される車両となるが、道路運送車両法の基準緩和を活用した特例として、この飛鳥地域だけを走れることになっており、走行可能なエリアはあらかじめ規定されている。仮にレンタルしたドライバーがその地域を外れようとすると、コックピットに設置されたiPadがそれを検知してドライバーに通知する仕組みになっているという。公社の関係者によれば、今のところエリアから大きく逸脱するという問題は起きていないとのことだった。

前後2人乗りの日産ニューモビリティコンセプト
充電は前部に格納されているケーブルで行なうが、貸し出し時には満充電になっているので基本的ユーザーが充電する必要はない
暗くなっても走行できるようにヘッドライトも用意されているし、ウインカーなどもきちんと用意されている
コックピット部分
通常の日本車なら右側にあるウインカーが左にある
ペダルは2ペダル

飛鳥地方の魅力を手軽に楽しめる

 MICHIMOのレンタルは、MICHIMOのWebサイト(http://michimo.jp/)から予約が可能で、予約後、近鉄吉野線 飛鳥駅のロータリー近くに設置されているMICHIMOのステーションで手続きを行なう。もちろん、走れる地区が限定されているとはいえ黄色ナンバーの車両で一般公道を走ることになるため、ドライバーは運転免許が必要になる。

 料金は1日/8640円、5時間/5130円、3時間/3240円の3つが用意されており、予約時に選ぶことができる。なお、MICHIMOステーションの営業時間は朝9時~夕方18時(季節により変動する)となっているため、1日といっても最大9時間ということになる。なお、気になる保険は車両に対して掛けられており、対人賠償が無制限、対物賠償が無制限(ただし免責5万円)、車両が時価(ただし免責5万円)、人身傷害が5000万円となっている。事故の場合は、通常のクルマと同様に状況を確認し、警察に届けるなどの処置を行ない、その後ステーションに連絡してほしいという説明だった。

 運転前に、ステーションのスタッフから、操作方法などのレクチャーが行なわれる。通常は20分程度のレクチャーとなるようだ。ハンドル、アクセル、ブレーキなどは普通の4輪車と同じだが、大きく異なるのはギアシフトがないため、ドライブとパーキング、リバースの操作をスイッチで行なうこと、また、ウインカーとワイパーの位置が国産車とは逆になっているという点が注意点になる。

 それさえ覚えてしまえば、快適に運転をすることができる。最初はウインカーを出そうとして、ワイパーを動かしてしまうといったミスはお約束で、2、3回間違えれば慣れるだろう。運転した感じだが、アクセルを踏んでからパワーが出るまでは若干のタイムラグがあり、最初はそれにとまどった。最初からタイムラグがあると思えば、とまどうこともなくなるだろう。

 法律の問題もあり、この車両は密閉されず、窓もファスナーで止めるタイプなので、基本的にはオープンカーのような感覚だ。このため、陽気がよいときには、かなり爽快にドライブすることができる。上り坂などでは、頑張ってアクセルを踏まないと上らない感じだが、そのような坂でなければ法定速度まですぐに速度を上げることができる。もっとも、車両自体は速度を出すことを前提に設計されていないので、法定速度内での運転を心がけてほしい。

 今回は、この日産ニューモビリティコンセプトで、飛鳥地区の遺跡として著名な、飛鳥板蓋宮跡と稲渕棚田の2カ所をドライブした。飛鳥板蓋宮跡は皇極/斉明天皇の都として知られている。日本史では必ずといってよいほどでてくる大化の改新の発端となった645年の乙巳の変の舞台ともなった宮殿があった場所となる。乙巳の変とは、皇極天皇の息子である中大兄皇子(後に即位して天智天皇)と中臣鎌足(後藤原性を天智天皇より賜り藤原鎌足、藤原氏の初代)が、当時の権力者だった蘇我入鹿を暗殺した事件だ。もちろん、今では中心の一部だけが残っている状態で、礎石と思われる石だけがある状態だが、1400年近く前にここで日本の歴史を決定づけるような事件が起きたのだなぁと想像を巡らすと、ちょっと感慨深いモノがあった。

近鉄吉野線の飛鳥駅
駅舎を背にして右方向にMICHIMOのステーションがある
MICHIMOのステーションはレンタルサイクルのステーションも兼ねており、筆者が訪れた時も外国からの観光客が英語で電動自転車の説明を受けていた
取材時は全ての車両が充電済みで、充電ステーションは利用されていなかった
明日香村には数多く遺跡があるため、そこら中に遺跡の案内が……
高松塚古墳の壁画館。実際の壁画は修復のため取り出されており、そのレプリカなどが展示されている。大人250円で、内部は撮影禁止
美人画の壁画で有名な高松塚古墳。外見は普通の古墳と大きな違いはない

 もう1つの稲渕棚田は、日本の棚田百選に選ばれたほど有名な棚田で、古きよき日本というイメージの風景が広がっていた。ちょうどここにクルマを止めて写真を撮るなど存分に楽しめた。この棚田に来るまでには結構坂を上ってきており、仮に徒歩で来ようとするとかなり大変だと思うが、超小型モビリティであれば楽々上ってこれるのは魅力の1つといえる。

 今回は時間の都合で2カ所しか行けなかったが、イベント前には、壁画で有名な高松塚古墳を訪れたりと、短い時間だったが飛鳥の魅力をかなり堪能できた。飛鳥地区は、徒歩で回るにはちょっと広いし、意外と坂も多い。しかし、MICHIMOを利用すれば、その魅力を手軽に堪能できると感じた。奈良方面、特に飛鳥時代の歴史の痕跡をたどる際は、MICHIMOを利用することで、飛鳥地方の新しい魅力に迫れるかもしれない。

日産ニューモビリティコンセプトで一般公道にでたところ
オープンカーのような感覚で走ることができるので、風が入ってきて春や秋などは最高だろう
飛鳥板蓋宮跡に到着
飛鳥板蓋宮跡、もちろん宮殿などはなく、礎石などが残っているだけだが……
飛鳥板蓋宮跡の看板(木製)にiBeaconの出力機が設置されている
先行する日産ニューモビリティコンセプトが普通車とすれ違うところ。普通車に比べて小さく、すれ違うのも楽だ
日産ニューモビリティコンセプトと稲淵棚田
日本の棚田百選の1つ、稲淵棚田のパノラマ写真

笠原一輝