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エキナカの首都圏の「ハニーズバー」消滅へ。消えゆく「エキナカミックスジュース」各地の事情

JR大宮駅ホーム上の「ハニーズバー」

エキナカのミックスジュース「ハニーズバー」一斉閉店へ

 首都圏のJR主要駅構内で営業していたジューススタンド「HONEY'S BAR(ハニーズバー)」が、2023年8月末をもって、全店を一斉に閉店。17年間におよぶ歴史の幕を閉じる。

「ハニーズバー」の店舗は、2022年10月の時点で全19店舗。最小5坪ほどの店舗に数台のジュースミキサーを設置し、新鮮な果物と氷・牛乳などを投入し、注文から数秒で新鮮なミックスジュースを提供してくれる。パック・缶のジュースより濃厚で香りがよいとあって固定ファンも多く、毎日同じ時間に立ち寄り、キュッと一杯飲んで去っていく、という人も多かったという。

「ハニーズバー」のミックスジュース(左)、白桃ジュース(右)

 この「ハニーズバー」の源流とも言えるのが、京阪電気鉄道の子会社が運営する「ジューサーバー」だ。

 同店はもともと2000年に京阪本線・淀屋橋駅に1号店を出店し、3年後には大阪から首都圏に進出。その後、JR東日本系列の子会社がフランチャイズ契約で出店していた店舗の多くが、のちに独自ブランド「ハニーズバー」に転換、勢力を広げていった。

 両ブランドを中心とした「エキナカミックスジュース」店舗は、全盛期には合わせて50店舗以上の店舗数を擁していた。しかし「ハニーズバー」は全店閉店、「ジューサーバー」は店舗網を縮小。急速に姿を消しつつある。

「エキナカミックスジュース」は、なぜ短期間で急速に勢力を拡大し、なぜ今になって縮小傾向をたどっているのか。まずは、「ジューサーバー」が関西で急激に支持を集めた20年前に遡ってみよう。

京阪本線・京橋駅ホームの「ジューサーバー」

なぜ「エキナカミックスジュース」は広まった? 起源は関西にあり

 ミックスジュースは、もともと大阪・新世界の果物店(現在の「千成屋珈琲店」)が、戦後しばらくして提供したものが発祥とされている。その後、大阪でミックスジュースと言えば、高級な果物を扱える敷居の高い喫茶店か、もしくは阪神梅田駅のジューススタンド(現在の「梅田ミックスジュース」。1969年開店)という状態が続き、少なくとも安価に、近所の駅で飲めるものではなかった。

 そのなかで、気軽にミックスジュースを飲めるよう、2000年に「ジューサーバー」が開業。1杯150円(当時)という値段ながら、フランス料理のシェフに協力を仰いで果物の配合を決めるなど、出店の際には味にこだわりぬいたという。

サンガリア「みっくちゅじゅーちゅ」。写真はペットボトルタイプ

 ここで「ジューサーバー」に思わぬ追い風が吹く。関西ローカルの人気番組「ごきげん!ブランニュ」でミックスジュースを缶飲料として商品化する企画が高視聴率を記録。知られざる大阪名物として、その認知度が急上昇したのだ。

 しかも、番組企画の途中で「缶飲料の場合は、牛乳を混ぜていると『ジュース』として販売できない」という事実が判明。司会のトミーズ雅さんの「ほな、“みっくちゅじゅーちゅ”とかでええんちゃう?」という発言を商品名に冠した「みっくちゅじゅーちゅ」(製造元:日本サンガリアベバレッジカンパニー。扱いは「清涼飲料水」)は、3か月で売り上げ100万ケースを突破するほどの大ヒットを記録した。

 なお、「ジューサーバー」のように店頭で製造・提供する場合はこのルールが適用されず、堂々と「ミックスジュース」と名乗れる。こうして「みっくちゅじゅーちゅ」を飲んだ人が、「ホンモノはどこで飲める?」とばかりに「ジューサーバー」を探し当て、押し掛けたのだ。

 こうして、「ジューサーバー」は、「1日平均2000杯、年商1億2000万円、営業利益率約20%」という高収益業態に成長する。わずか5坪のスペースに出店できるとあって、駅スペースの有効活用を目論む鉄道各社からの出店要請も相次ぎ、フランチャイズ契約も増加。そして一部が「ハニーズバー」転換、首都圏で勢力を拡大……こうして、2つのブランドが競争・拡大を繰り広げつつ、「エキナカミックスジュース」はたった20年で全国区へと広がっていったのだ。

 各ブランドで徐々に競争が生じるなかでも、「ハニーズバー」は、川崎市菅地区の「のらぼう菜」、佐渡島の「おけさ柿」など幅広く食材を仕入れ、盛んに期間限定商品を発売。新たな支持層を掴んでいった。希少なご当地食材の情報を掴み、関東・東北・甲信越から幅広く仕入れを行なっていた「ハニーズバー」は、ある意味JR東日本らしい業態だったと言えるだろう。

縮小していた「エキナカミックスジュース」原因はコロナ禍だけでなかった?

「ハニーズバー」全店閉店を告知する張り紙

 順調に勢力を拡大していくかに見えた「エキナカミックスジュース」勢だが、2020年から続いた、いわゆるコロナ禍の影響は避けられなかった。

 そもそも、鉄道利用者が激減した状態では、1杯200円以下を薄利多売で売りさばくジューススタンドが苦境に追い込まれるのは当然だったと言える。さらに、材料となる果物類の高騰が加わった。

 なお、コロナ禍のさなかに、エキナカの他業態を運営する方に、別の取材でお話を伺ったことがある。その際に、「駅そばやコンビニなら単価の向上・通信販売などの手があるが、そういった施策を打てないジューススタンド業態は、ウチよりはるかに厳しい」と仰られており、実際に「ハニーズバー」「ジューサーバー」ともに営業時間の縮小、撤退が相次いでいた。

「ハニーズバー」も2021年にはフランチャイズ契約による海外初出店(シンガポール・ブーンレイ駅)などがあったものの、コロナ禍が落ち着いても首都圏の通勤による定期利用客が同水準に戻っていないこともあり、全店閉鎖の決断に至ったのだろう。

 なお、「ジューサーバー」も各地で閉店が相次ぎ、2023年3月の「TX北千住店」閉店を最後に首都圏から撤退。物価高騰が続く現状では、両ブランドの縮小は、もはや避けられない決断だったのではないか。

阪神梅田駅の「梅田ミックスジュース」

 そのなかで、「ハニーズバー」の元祖とも言える「ジューサーバー」は、1号店の京橋店を含む大阪府内2店舗で、いまも営業を続けている。

 ほか、梅田駅東口改札前の「梅田ミックスジュース」は駅改修で移転したものの、現在も営業中。何十年もこの店に通い続けるファンも多く、特に甲子園球場で阪神戦が開催される日の賑わいぶりはすさまじい。

 近年では阪急梅田駅・JR新大阪駅に姉妹店「果汁屋」を出店するなど、業績は好調。コップになみなみと注いでくれるうえに、ミックスジュース1杯200円(2023年8月現在)で販売しているのがうれしい。

「梅田ミックスジュース」は缶詰のミカン・黄桃を使用しており「ジューサーバー」や「ハニーズバー」と比べると、爽やかな味わいだ。閉店による「ハニーズバー」ロスを感じるという方は、ぜひ大阪に出かけて、「ジューサーバー」「梅田ミックスジュース」、そしてミックスジュースの元祖「千成屋珈琲」を飲み比べるツアーに出てもよいだろう。