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シンカンセンスゴイカタイアイス「ずんだ」の選定会に密着! 乳脂肪分、パッケージのこだわりと硬さの秘密

2023年7月1日 発売

JRESCとJRCPのコラボレーション企画「ずんだアイスクリーム」。これに限ったことではないが、新商品が世に出るまでには、さまざまなプロセスがある

 既報のとおり、JR東日本サービスクリエーション(JRESC)とジェイアール東海パッセンジャーズ(JRCP)が、コラボ商品「ずんだアイスクリーム」を7月1日に発売する。トラベル Watchでは今回、発売にいたるまでのプロセスを追った。

2月に第1回目の選定会を実施

 JR東海は2月19日に、「会いにいく、が今日を変えていく。」キャンペーンのMV(フルバージョン)を公開した。このMVと30秒テレビCMのいずれも、「車内でアイスクリームを食べようとしたところ、アイスクリームが硬く、スプーンが跳ね返される」場面が出てくる。

映像の37秒付近に該当シーン

 その翌2月20日、JRCP本社において第1回目の「アイス新商品選定会」を行なった。これは、「関係者の顔合わせと、選定会についての説明」「アイスクリームフレーバーの試食」「包装パッケージの選定」「意見交換」といった内容であった。

 参加者は、JRESCから新幹線アテンダント3名(うち東京所属2名、仙台所属1名)、JRCPから新幹線パーサー3名(うち東京所属1名、大阪所属2名)。それと、アイスクリームの製造を担当する東京めいらくの担当者だ。

2月に開かれた、第1回選定会の模様。JRESCとJRCPから、実際に車内販売を担当している乗務員が参加して行なった

 これに先立ち、原材料の都合などを考慮したうえで、候補となるフレーバーの絞り込みが行なわれていた。つまり、第1回目の選定会の時点ですでに「ずんだ」の採用は決定済み。しかしそれだけで商品を世に出せるわけではない。

乳脂肪分を10%にするか、12%にするか

 アイスクリームとして販売するには、「乳固形分が15%以上、そのうち乳脂肪分が8.0%以上」という要件がある。これを踏まえたうえで、さまざまなフレーバーを加えることでバリエーションが生み出される。では、主役を務めるのはフレーバーか、アイスクリームか。

 第1回選定会には、2種類の試作品が持ち込まれた。Aタイプは乳脂肪分10%、Bタイプは乳脂肪分12%という違いだ。

 実際に試食してみると、意外なほど違いがあり、Aタイプの方が「豆のペースト」を強く感じられた。また、乳脂肪分の少なさによるのか、アイスクリームとしては比較的、サッパリした印象があった。対して、Bタイプは「濃厚なアイスクリーム」の印象だった。

乳脂肪分が異なる、2種類の試作品が選定会に持ち込まれた
選定会の参加者が多いため、持ち込まれた試作品の数もかなりのもの
試食して、結果を評価シートに記入する
黙々と試食……なんていうことはなくて、意見交換がにぎやかな試食となった
「時代だなあ」と思ったのは、試食しつつ、スマートフォンで撮影する場面が見られたこと
フレーバーだけでなく、パッケージについても複数の試作品が持ち込まれた

 それから2か月ほど経った4月18日に、第2回選定会が行なわれた。第1回選定会で挙がった意見を受けてフレーバーの調整を行なっており、それを確認するのが第一の目的。また、パッケージに関する確認や、販売に関する意見交換も行なわれた。

 主役のアイスクリームは、乳脂肪分10%の方が選ばれた。やはり、特色あるフレーバーを使うからには、それを強調したいという意見が多かったのだろう。ただし第1回の選定会において「ずんだを増やせないか」との意見があったという。そこで第2回目の選定会には、ずんだのペーストを3%程度増やした「増量版」も持ち込まれた。

同じ乳脂肪分10%だが、左は増量版。第1回選定会での意見を受けて、試作されたものだ
では、食べ比べてみよう!

 ところが、パーサーやアテンダントによる試食と評価の結果、増量版は不採用となった。あるアテンダントさんの言を借りれば「増量版だといわれれば、なるほどそうかなと分かる」といった程度の差であり、それなら増量版にする必然性は薄いという判断だ。

 実は、これは単に「風味をどうするか」というだけの話ではすまない事情がある。使用するずんだの量が増えれば、当然ながら原価にも影響するからだ。これを販売サイドから見ると「お値段が上がってもお勧めできるだけの差別化要素といえるかどうか」という話になる。そうした事情も勘案したうえで、増量版は不採用になった。

パッケージや関連グッズも検討対象

 第1回目の選定会では、3案のパッケージが登場した。一般的に求められる要件として「中身が何なのかを一目でイメージできる」「買い手に訴求する」があるのは当然だ。

 ところが、新幹線の車内販売ではさらに「アイスクリームにスプーンを立てて写真を撮り、それをSNSに投稿する」という、ほかに例のない独特の使われ方がある。そうした場で“映える”パッケージとは?という観点も求められる。

 そして、3種類のうち第2案のイラスト版が好評だったので、それをベースにする方針が決まった。そこから新たに複数の案が起こされて、第2回目の選定会を経て最終決定にいたった。

これは第1回の選定会におけるひとこま。もしかすると、パッケージを実際にスマートフォンのカメラで撮ってみて、SNS投稿の際の「映り」をイメージしたのだろうか?
こちらは第2回の選定会で。単に試作品を上から眺めるだけでなく、実際に手に取ってみて、ためつすがめつ……

 また、第2回目の選定会では、セールストークや関連グッズに関する検討も行なった。販売の第一線から参加しているだけに、討議に熱が入る様子が見て取れた。

 ずんだというと東北地方ではなじみ深いが、東名阪エリアではそれほどでもない。裏返せば目新しさがあるわけだが、そうした地域性の違いに関するやりとりもあった。東北の方なら「ずんだです」といえば通じるが、それ以外の地域では「これは枝豆のペーストで……」から説明するのか、それで食感や特徴がうまく伝わってくれるのか。

 さらに、「JR東日本とJR東海が初めてタッグを組んだ」というアピールをしてみてはどうか、という意見もあった。

 なお、車内販売の現場では、アイスクリームを単品で買い求めるとは限らず、飲み物をセットにする場面が多い。そして東海道新幹線では、飲み物の売れ筋はコーヒーだという。すると、「このアイスクリームのフレーバーはコーヒーと合うだろうか?」という観点も出てくる。実際、第1回目の選定会では、試食してみて「このフレーバーだったら、お茶の方が合うんじゃないかしら?」といった発言が聞かれた。

 では、関連グッズとして展開するスプーンはどうか。実はこれにも制約がある。スプーン自体の色は変えられるが、車両やロゴマークの色は、製造工程の関係で制約があるのだ。そうしたなかで魅力的なデザインのものを生み出そうと、担当者は知恵を絞った。

 このスプーンについても、販売に関する活発な意見交換があった。例えば、「JR東日本とJR東海のコラボレーションだから、販売を相互乗り入れしては」「ネット通販ではセット売りも可能ではないか」「バリエーションごとに販売路線を限定してみては」といった具合。さらに、「車内販売では、お客さまの荷物が増えてしまわないように単品販売にする方がよい」との意見もあり、いかにも車内販売の現場らしい声だと感じた。

 2回に渡る選定会を取材してみて「1つの商品を世に出すまでには、かくも多くの検討がなされるものなのか」と感じ入った。実際にさまざまな分野のメーカーで業務に携わっている方なら当たり前の話だろうが、部外者から見ると新鮮な驚きがある。

【余談】硬いアイスの秘密

 といったところで余談を1つ。「#シンカンセンスゴイカタイアイス」が有名になった結果として、硬いアイスクリームであることを期待される部分がある。

 JRCPでは、車内販売の際にアイスクリームを保冷バッグに入れている。この保冷バッグには、アイスクリームだけでなく、ドライアイスも一緒に入れて低温を維持している。この温度管理も、アイスクリームの状態を適切に保つためのポイントだという。

 そうした努力が、シンカンセンスゴイカタイアイスの定評や人気につながっているわけである。

N700Sをバックに、完成した「ずんだアイス」を持ってポーズをとっていただいた