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倍率38倍! 「2023路面電車の日」記念イベントに行ってきた。6年ぶりに7001号車が姿を現わす

倉庫番みたいな荒川電車営業所で

2023年6月25日 実施

目玉はやはり、保存車の7001号車をはじめとする、トップナンバー4両を並べた撮影会

 東京都交通局は6月25日、荒川電車営業所で「路面電車の日」記念イベントを開催した。ちなみに、路面電車の日は6月10日で、由来は「ろ(6)テン(10)」で路電、すなわち路面電車という語呂合わせだそう。

30分のツアー、一部は沿線住民限定

 今年の記念イベントは、車両撮影会が約20分、車両整備現場の見学が約10分、合計30分のツアーを繰り返す形。トータルでは20名×12回=240名だが、申し込み多数につき抽選となった。2022年に開催したときの40名と比べると定員は6倍に増えたが、それに対して約38倍となる9099名の応募があったという。

 このうち、11時の回は荒川区と新宿区、11時20分の回は北区と豊島区の居住者のみが対象とされた。これは「沿線地域の皆さまに、東京さくらトラム(都電荒川線)を身近に感じていただくため」との理由による。こうした形のイベント開催は、比較的めずらしいのではないだろうか。

隣接してマンションが建っていることでお分かりのように、この車両基地は住宅地のただなかにある。路面電車ということもあり、いかにも「身近な交通機関」である

7001号車が6年ぶりに公開される

 今回のイベントの目玉は、6年ぶりに公開される7001号車と、現役車両3両を交えた撮影会であろう。

 7001号車は1953年(昭和28年)から2017年(平成29年)まで、64年間にわたって活躍した車両だ。ただし、1978年に新造車体への載せ替えを実施しているため、丸ごと「64年モノ」というわけではない。現在でも動ける状態で維持されているが、車籍はなく、本線上に出ることはできない。

 現役車両の方は、8501号車、9001号車、8901号車の3両。すべて、各系列のトップナンバーで揃えられた。

現役末期の頃の7001号車。昔の「赤帯」塗装が復元されており、現在もこの状態で保存されている
撮影者から見て左側には9001号車と7001号車。9000形はレトロ電車としておなじみで、2両がある
撮影者から見て右側には、8901号車と8501号車。当初は「早稲田」「三ノ輪橋」となっていた行先表示が、途中で「大塚駅前」「王子駅前」に変えられた
8500形のうち8501号車は、前部標識灯まわりの仕様に違いがある。右の8502号車と比べてみてほしい

 幸いにも好天に恵まれた代わりに逆光となってしまったが、敷地の関係から、これはいたしかたない。参加者は楽しそうに撮影に興じていた。

車両整備場の見学、グッズ販売に記念撮影

 さらに、普段は入ることのできない車両整備現場を見学できるのも、目玉といえる。取材時の行程では、まず車両整備現場の見学があり、そのあとで奥の留置線に移動して車両撮影会という流れであった。

大規模検修の際には、車体をジャッキで持ち上げて台車を抜き取る。ここは下からアクセスできるように、レールとレールの間が掘り下げられてピットになっている
そのピットのなかも歩くことができた。めったにできない貴重な体験だ
ピットの壁面には、検修の工程を説明する紙が貼られた。まずジャッキアップして台車を抜き取り……
抜き取られた台車を分解して、主電動機や輪軸といった重要部品を念入りに検査する
もちろん、そのほかの機器も検査の対象になっている
これが輪軸。2軸ボギーで台車が2台だから1両に4軸あるが、駆動用の主電動機が付くのはそのうち2軸。手前から見て2番目と3番目がそれである。ただし、輪軸に付いているのは減速歯車装置だけで、写真の状態では主電動機は付いていない
どこの車両基地でもそうだが、工具類はきちんと整理するだけでなく、戻し忘れがないように注意が払われている
これは空気圧縮機。ブレーキなどで使用する圧縮空気の供給源で、ナブテスコ製のD3360-HS5
これは走行用の動力源となる主電動機。8900形や9000形で使われている、東洋電機製造製のTDK6051-A三相誘導電動機
パンタグラフ。シングルアーム式で、8800形や8900形で使われている東洋電機製造製のPT7148-A2
パンタグラフ1つとっても、それを構成する部品はいろいろある。それらがすべて問題なく機能しなければならない

 このほか、東京さくらトラム(都電荒川線)と都営バスのそれぞれで、ブースを設けてのグッズ販売。そして、東京さくらトラム(都電荒川線)のマスコットキャラクター「とあらん」との記念撮影もセットされた。

記念撮影に応じていた「とあらん」。暑いなか、おつかれさま
荒川線関連グッズの販売コーナー。7001号車が赤帯塗装を復元したときに付けていたヘッドマークを模したコースターがあった
こちらは都バス関連グッズの販売コーナー

倉庫番みたいな出入庫

 ところで、この荒川電車営業所はおもしろい造りをしている。

 普通、車両基地というと車両を留置させるための線路が多数あり、それが入口から奥に向けて扇形に広がっていくものだ。ところが荒川電車営業所では、留置線が横にズラッと並んでいるものの、それらは本線とつながっている4本を除いて、南北とも端が途切れている。では、途切れた線路にどうやって電車を出し入れするのか。

 実は、敷地の北端にトラバーサが設置されている。これは車両を載せて横移動する機器だ。本線とつながっている4線を通って建屋の北側に出た電車は、そこでトラバーサに載せられる。そしてトラバーサが入庫先の線まで横移動して、そこから電車を動かして留置線に入れる。

 撮影会の会場となった場所では、1本の留置線に3両の電車を入れることができる。それが6線あるので合計18両分。そこに洗浄線が隣接するほか、本線とつながっている4線なども使用できる。それでも、総勢33両をすべて留置すると一杯になってしまうという。

出庫のために待機している8503号車と9002号車。奥に、建屋を突き抜ける形で線路が敷かれた様子が分かる。そのどん詰まりにトラバーサがある(敷地外から撮影)
トラバーサを用いた入庫の考え方。出庫のときは逆になる

 1本の線路に複数の電車を留置するから、出し入れの順番が問題になる。先に出庫するはずの電車が奥に入っていたら、まず手前の電車を移動して通り道をあけなければ、出庫ができない。そんなことにならないように、車両運用を考慮しながら入庫する順番と位置を決めなければならない。まるで「倉庫番」である。