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VICS対応カーナビが費用・機材の追加なしで高精度化したワケ。プローブ情報配信がついに全国へ拡大。道路長は2倍へ

2022年7月4日 発表

全国でプローブ情報活用サービスの実証実験がスタート

 道路交通情報通信システムセンター(VICSセンター)は7月4日、カーナビへのプローブ情報活用サービスの実証実験を全国に拡大すると発表した。

 このプローブ情報配信サービスはトヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業およびパイオニアの協力により、日本道路交通情報センター(JARTIC)と共同で実証実験をスタート。2020年4月から関東1都6県で、2022年1月からは札幌エリア、愛知県、大阪府を加えて拡大、7月4日からいよいよ全国にエリアを拡大することになった。

 VICS対応カーナビであれば追加費用や設定は不要で利用することができる(地図上での表示はカーナビメーカーにより異なる)ため、カーナビでのルート計算や到着予想時刻の最適化が進むとともに、渋滞による時間や経済的な損失の改善、またCO2削減の効果も期待される。

 VICS(Vehicle Information and Communication System)は主に車載型カーナビに採用されており、地図上に渋滞や混雑、規制、障害といったさまざまな交通情報を表示(レベル3)する。FM多重放送を利用するシステムは市販カーナビはもちろん、自動車メーカー純正のカーナビにも基本的には標準で搭載されているから、ドライバーなら一度は目にしたことがあるハズだ。そのほか光・電波といったビーコンを利用して情報提供を行なう仕組みも用意されているが、こちらはオプションとなっていることが多い。ただ、ETC2.0車載器のなかにはビーコンを内蔵しているモデルもあるから、知らず知らずのうちにその恩恵を受けていることがあるかもしれない。

 この機能は全国の警察や高速道路などの道路管理者から得られる渋滞や規制情報をJARTICが収集、VICSセンターで編集・処理した情報をカーナビに送信することで実現している。そのため、道路に交通状況を認識するための感知機が設置されていることが必須となるため、情報を提供できる道路が限られてしまっていた。

 それをカバーするのが「プローブ情報」と呼ばれるもので、実際に道路を走行しているクルマから得られる位置、速度、通過時刻などの走行データを取得、交通情報として提供する。2007年にパイオニア(カロッツェリア)が「楽ナビ」で「スマートループ渋滞情報」の提供を開始したあと、自動車メーカーが参入するなど、それぞれが優位性を得るための競争領域としていたが、今回の実証実験では各社からの情報を束ねてビッグデータ化、感知器からの情報を補完・補強する協調領域として歩んでいくことになった。

 このプローブ情報によりVICSによる交通情報が提供される道路長は従来の約2倍に拡大。この4月のデータによると従来VICSでは7万5767kmに過ぎなかったが、プローブ情報を加味することで16万7784kmまで増加したという。

VICSの概要
2015年には伝送容量を2倍にしたVICS WIDEサービスがスタート
これまでプローブ情報は各社が独自性を競う競争領域だった
今後は協調領域として各社のデータを活用
2017年に実証実験の検討を開始
2020年4月から関東1都6県で実証実験がスタート
プローブ情報を活用すれば従来VICS情報が提供されていなかった道路でも渋滞回避が可能になる
2022年7月から全国で実証実験を開始
情報提供道路はおよそ2倍に増加

 なお、VICSにより情報が提供されるのは「VICSリンク」と呼ばれる符号が付けられている道路。1つの単位は交差点などで区切られており、渋滞などの表示もその単位ごとに分割されることになる。付与されているのは幅5.5m以上の道路に限られているため、住宅街の生活道路や抜け道と呼ばれるような道路は非対象。逆に言えば、VICS情報が表示されているなら、ある程度余裕を持って走行できる道路ということになる。注意したいのは交差点の新設などにより道路情報が変更されると、VICSリンクも変更になること。変更後、3年間は従来の情報も提供されるが、それを過ぎると正確な表示ができなくなってしまう。VICSを有効に使うには、ある程度の期間でカーナビの地図更新が必要になってくるのだ。

 実際のナビ地図上での表現はメーカーによって若干異なっている。例えばパイオニアの場合、同社独自のスマートループ渋滞情報を持っていることからそちらを点線矢印、VICS情報はプローブを含めて実線矢印で表示される。一方でパナソニックは従来のVICS情報が実線、プローブ情報は白抜き矢印や二重点線で表示といった具合。クルマにカーナビが装着されているなら、チェックしてみるとおもしろいかもしれない。

カロッツェリアの2020年モデル「AVIC-CQ910-DC」の渋滞表示。2020年3月時点の画面のためVICSプローブは反映されていないが、見た目には同様の表示になる
パナソニックの2021年モデル「ストラーダ CN-F1X10BHD」のVICS表示。2021年11月に取材した際の画面だが、実証実験開始後のためすでにプローブ情報が表示されている

 道路交通情報通信システムセンター 常務理事の本郷俊昭氏は、VICSプローブの大きな特徴として「歩行者、バイク、バスなどの情報を含まない乗用車だけの情報」であること、「GPSに加え車速パルスや各種センサーを利用しているため非情に精度が高く、トンネル内の道路状況を収集し情報提供する」ことの2点を挙げ、スマートフォンなどの地図情報におけるプローブ情報との違いに言及。

 また、従来のVICSでは台風などにより停電し感知器の電源を失った場合は情報提供できなくなってしまうが、プローブ情報により情報提供を継続できたと災害時にもメリットがあるとコメント。さらに、複数のメーカーの協力によりデータ収集を行なっているため、通信キャリアの不具合により一部の走行車両のデータが取得できなくなった場合でも、ほかの通信キャリアを使う車両の情報を利用することで提供が継続できると述べた。

 先行して実証実験がスタートしていたエリアでのユーザーアンケートでは「今まで情報がなかった道路にも情報が提供されありがたい」という意見の一方、「情報がおかしい」といった利用者からのフィードバックがあることから、「意見を真摯に受け止め日々改善に努めている」とした。

 最後に今回の実証実験の拡大により「交通の円滑化、環境保全、安全性の向上、そして経済の向上につながることを期待しています。また、今後プローブ情報が高度化することにより、自動運転時代に必要とされます車線別の交通情報や落下物の情報、これら安全運転に必要な情報が提供できるのではないかと考えています。VICSセンターは今後も関係機関、企業と連携し、日本の交通社会のために貢献していく所存」であると締めくくった。

一般財団法人道路交通情報通信システムセンター 常務理事 本郷俊昭氏
停電により道路の感知器が停止した場合でも情報の提供が可能
先行して実証実験がスタートしていた地域ではユーザーからのフィードバックも
交通の円滑化、環境保全、安全性の向上、経済の向上につながることを期待