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鉄道車両の徹底メンテ・大規模検修ってなんだ? 新しくなったJR東海 名古屋工場を見てきた
2022年5月27日 00:00
- 2022年5月25日 公開
JR東海は5月25日、名古屋工場の報道公開を実施した。ここは、東海鉄道事業本部の下にある在来線・各線で使われている車両を対象として、大規模検査を実施するための施設だ。国鉄時代からある施設だが、2014年から建物の耐震化や建て替え、それと機械設備の更新・改良を実施、その作業が2022年3月に完了した。
工場とは
鉄道事業者の場合、「工場」といっても、基本的には車両を製造するための施設ではない(一部に例外はあるが)。通常は、大規模な検修(検査・修繕の総称)を実施する施設を指している。鉄道車両は「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」に基づいて検修を実施している。
自家用車と違うのは、2種類の基準(走行距離または時間)があり、どちらか一方が限度に達したら、定めに応じた検修を実施する。距離や時間が伸びると、その分だけ検修の内容も深度化する。
機器類を取り外さずに(在姿状態という)実施する検査や消耗品の交換は、配属先の車両基地で実施する。しかし、走行装置の要である台車を抜き取って検修を行なう、あるいは機器類を取り外して検修を行なう、といった話になると、相応の施設が必要になる。それを備えている施設が「工場」だ。
JR東海の場合、新幹線電車は浜松工場、在来線車両は名古屋工場の担当だ。キハ11形気動車(東海交通事業所属)、2000系(愛知環状鉄道所属)、1000形(名古屋臨海高速鉄道所属)の大規模検修も、名古屋工場で受託している。また、「サンライズ瀬戸/出雲」の285系は逆に、JR西日本に委託している。
その工場が、例えば大規模地震によって被害を受けて使えなくなれば、車両の大規模検修ができなくなる。そして検査期限が切れた車両は営業運行には使えず、輸送の使命を果たせなくなってしまう。そこで名古屋工場では、施設の建て替えや耐震補強工事を実施した。三分の一程度の建物が建て替え対象になったという。
また、豪雨などで建屋の内部に浸水が発生して設備類が使えなくなると、やはり検修作業ができなくなってしまう。そうした事態を防ぐために、自動的にリフトアップして水の侵入を防ぐ止水板も設けられた。
耐震工事だけでなく、併せて機器・設備の更新も実施した。例えば、後述する輪軸修繕ラインではレイアウトの見直しや搬送装置の導入を実施して、効率改善と安全性の向上につなげている。
おおまかな作業の流れ
工場で検修を実施する場合、入場した車両は最初に動作状況を確認するための入場検査を実施したあとで、台車の抜き取りを実施する。その先は、台車と車体で工程が分かれる。
外された台車は専門の職場に送られて、バラバラに分解したうえで、検査や部品交換を実施する。傷の有無を検査するのは当然のこと、形状を整える作業や、回転バランスをとる作業も必要になる。
台車を抜かれた車体の方は、東西2か所に分かれた車体修繕場に送られる。主な機器類を外して検査や部品交換に回すとともに、車体や内装品の整備を実施する。最後に塗装を実施するが、その話はあとで取り上げる。
検修の工程を終えた「台車」と「車体」が揃ったら、それらを組み合わせる「足入れ」を実施する。続いて、出場検査を行なって編成を組んでから、出場試運転を実施したうえで営業線に戻っていく。そのすべての工程を紹介するにはスペースが全然足りないが、今回の報道公開で対象となった、車体の洗浄・塗装工程と、輪軸検修関連の施設を紹介しよう。
在来線で初の水性塗装ロボット
JR東海の在来線車両は大半が無塗装ステンレス車だが、先頭部だけは鋼製で、保護と美観のために塗装が施されている。また、「サンライズ」の285系は全面塗装だ。こうした塗装部分は、工場に入れて検修を実施する際に塗り直して、きれいな状態に戻している。しかし、お化粧と同じで、下地をきちんと整えなければ、塗装はきれいに仕上がらない。
営業運転に就いていた車両は定期的に洗浄しているとはいえ、多少の汚れが残っていることもあるし、手が回らない部分もある。そこで、最初に車体の洗浄を実施したあとで、パテ付けによる表面の平滑化、下塗り、本塗りと工程を進める。名古屋工場では、最初の洗浄工程において自動的に作業を行なう車体洗浄装置を新たに導入した。
名古屋工場では車体塗装場のリニューアルに併せて「水性塗装ロボット」を導入した。ロボットによる水性塗料の塗装は浜松工場において導入済みで、これが鉄道車両用としては日本初の導入事例。しかし、在来線車両を対象とする水性塗装ロボットを導入するのは、名古屋工場が国内で初めてだ。ロボット塗装装置は浜松工場でも使われているが、対象となる車両が違うので、名古屋工場のロボット塗装装置は浜松工場のそれとは別物だ。また、塗装場の構造も浜松工場と名古屋工場では違いがある。
塗料は、各種合成樹脂のような塗膜形成成分、色を決める顔料、そして流動性を持たせるための溶剤から成る。その溶剤を、有機溶剤の代わりに水にしたのが水性塗料。もちろん、乾燥してしまえば水に濡れても平気だ。環境面、そして作業者の健康を考えると水性塗料の方が有利とされるが、鉄道車両の塗装では、見栄えだけでなく耐久性に関する要求水準が高い。それに応えられる水性塗料と、塗装を行なうためのノウハウがあって初めて、水性塗料を採用できる。
なお、水性塗料になる前から共通する話だが、鉄道車両の塗装では静電塗装といって、塗料にマイナス、車体にブラスの電極をつなぐ。すると噴射した塗料が電荷によって車体に吸着されるため、塗料の飛散が少なくなるだけでなく、小さな凸凹にも確実に吹き付けられる。
輪軸の検査・修繕
次は台車の検修である。ホームから列車に乗り降りしていると見えないが、列車が走るために必要となる、最重要のパーツである。それだけに台車の検修は入念に行なわれている。数ある工程のなかから、今回は輪軸関連の設備が対象になった。
輪軸というと聞き慣れない言葉だが、「車輪」と「車軸」が一体になったパーツのこと。自動車では左右の車輪は別々に回転するが、鉄道車両では左右の車輪を車軸でつないで一体化している。走りの要となるきわめて重要なパーツだから、その検査は入念だ。外面だけでなく、内部に傷や亀裂が生じていないかどうかも検査している。
台車の分解検査では輪軸から車輪を外して、車輪と車軸をそれぞれ個別に検査する。車輪は使っているうちに摩耗するし、形状を整えるために削ることもあるため、直径が徐々に小さくなってくる。限界値まで小さくなったら、新品に取り替える。
この輪軸回転試験装置は、以前は電車の輪軸しか検査できなかったが、現在は気動車の輪軸も検査できるようになった。上の写真でセットされているのは気動車の輪軸で、左右の車輪の間に減速歯車装置のケーシングがある様子が分かる。
名古屋工場ではリニューアルに際して、検修を終えた輪軸を保管する輪軸貯留庫を設けた。要するに自動化倉庫みたいなもので、276軸(69両分)の輪軸を保管しておき、指令に応じて出し入れができる。収容の際に、どの車両のどの輪軸かというデータを入力する仕組みがあり、さまざまな車種の輪軸を混ぜて保管しても間違いが起きないようになっている。