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乳幼児連れやカームダウン室など最新の機能分散トイレを見てきた! リクシル、お台場に「LIXIL PARK」を期間限定オープン
2021年7月26日 07:00
- 2021年7月21日~9月5日 設置
LIXIL(リクシル)は、東京・お台場のフジテレビ1階広場に「LIXIL PARK」を期間限定オープンした。
設置期間は7月21日~9月5日(10時~19時)。誰もが自由に選択できる機能分散型パブリックトイレを展示しており、実際に使い心地を確かめることができる。本取り組みはSDGsを推進するフジテレビジョン主催の「THE ODAIBA 2021」の一環として行なっている。
会場には全部で7種類8台のパブリックトイレを設置。仮想タッチパネルリモコン採用のベーシックタイプから、車椅子利用者向け、授乳室、カームダウン・クールダウン室など。バリアフリー対応の仕様とともに「安心と快適を、すべての人に。」をコンセプトにした新仕様のトイレたちを紹介している。
誰もが使える開かれたトイレ
「LIXIL PARK」で展示しているパブリックトイレは「withCUBE」と呼ばれる同社のシリーズ。「withCUBE」とは、物流センターや工場をはじめトイレの設置や増設が難しい場所でも、最短1日で設置ができる可動式アメニティブースだ。完成品を設置場所に持ち込み、給排水と電気を接続すればすぐに利用できる。排水圧送ポンプ採用で、既存下水管までの距離がある場合でも設置できるのが特徴だ。
往来は業務用をメインとしたレンタル・リースでの展開だったが、今回のコンセプト版は機能分散型パブリックトイレとして、物流業界や工場内以外の場所にも対応。屋根の付いた広場や大型施設内や病院、避難所をはじめ、どこでも誰もが利用できる共生社会の実現を見据えた仕様になっている。
さらに、男女兼用の広めトイレであることも特筆すべき部分。これまで男女別のため、精神的にもスペース的にも利用が難しいシーンが多々あったという声に応え、異性の親子利用や介助者同伴、トランスジェンダーはじめ、性別ではなく誰もが使えることを念頭に置いたものになっている。
また、バリアフリー化が進み、1つの多機能トイレに多くの利用者が集中し、スムーズに使えない問題が多発している現状も踏まえ、機能を分散させて利用集中を緩和する狙いもあるという。
今回、会場では以下のパブリックトイレを展開している。
「車椅子使用者配慮(右仕様)」「車椅子使用者配慮(左仕様)」
「車椅子使用者配慮(右仕様)」は、収納式の大型ベッド(ユニバーサルシート)を配備。着替えやおむつ交換などがスムーズにできるよう配慮されたデザインだ。主要設備は大便器、手すり、手洗い、ユニバーサルシート。利用する本人同様に介助者もスムーズにサポートができるように室内は広めに設計している。
同様に、車椅子利用に特化した作りのため、小回りの効く広さがとってある。「車椅子使用者配慮(左仕様)」はベッドの有無とユニットサイズ以外は右仕様と基本的に同様。トイレの位置が右か左かの違いのみとなっている。
「オストメイト配慮」
コンパクト設計で室内スペースを確保しながら、しっかりとオストメイト利用者をサポートする機能が充実している。壁掛け式の身体を密着させやすいカーブのついた流し台は、ストーマ装具の着脱がしやすく、洗いやすい。
装着具合を確認するためのミラーや小物を置くのにちょうどよい高さの台を配置。主要設備は大便器、オストメイト対応流し、手洗い、チェンジングボード。
「ベーシック」
用途を問わずに利用が可能なベーシックなシリーズ。新型コロナウイルス感染症拡大防止も視野に入れ、非接触操作が可能な仮想タッチパネルリモコン(空中浮遊スイッチ)を導入。温水洗浄便座の利用や強弱、流水音などの一連の操作が可能だ。主要設備は大便器、手洗い、仮想タッチパネルリモコン。
開発担当者によると「新型コロナウイルス感染症の流行により非接触へのニーズの高まりを感じ、仮想タッチパネルリモコンを採用した」とのこと。現在は、誤操作防止のためにしっかり空中で押しての動作となっているが、今後より使いやすくアップデートしていくとのことだ。
「乳幼児連れ配慮」
おむつ交換台やベビーキープなどを配置し、ベビーカーのままで利用ができるように配慮されている。おむつ交換台は縦仕様でしっかりとお尻がこちら側に向くようになっており、非常に交換がしやすい。壁のホルダーにはおむつ替えペーパーシートを用意。ベビーキープは鍵と反対側にあり、使用中に子供が触れる心配もない。
注目したいのは足元のチェンジングボードとキッズサイズの手すり。つかまり立ちができる年齢ならば、こちらに子供をつかまらせて、オムツ替えや着替えも一気にできる仕様だ。なお、大便器の横すぐに各設備があるため、子供から目を離すことなく、保護者もトイレが利用できる。主要設備は大便器、ベビーキープ、おむつ交換台、手洗い、チェンジングボード。
トイレ以外の用途でユニット活用。授乳室など幅広く応用可能に
利用シーン拡大に向けた研究活動として、同社が考えるこれからのパブリックトイレのあり方を提案する「LIXIL PARK」。設置されている「withCUBE」は、トイレ以外の用途として保健医療・災害環境での活用検証を日本各地で行なっている。今回は同ユニットを「授乳室」「カームダウン・クールダウン室」として活用した2施設を会場に設置している。
「授乳室」
プライベートを保持し、静かな環境で授乳が行なえる「授乳室」。ミルクを作るための調乳用温水器や流し台、座って授乳ができるように「combi」の深く広めのチェアを用意。おむつ交換用にゴミ箱も設置。鍵もしっかりかけることができる。
また、チェンジングボードを足元に配置し、着替えにも対応。主要設備は調乳用温水器、授乳用ソファ、チェンジングボード。
「カームダウン・クールダウン室」
「カームダウン・クールダウン室」は、外部の音を遮ることで気持ちを落ち着かせることのできる空間。発達障害や知的障害、精神障害や認知症者等がパニックを起こした際に気持ちを落ち着かせるために利用する。また、パニックを未然に防ぐための場所としても活用できる。昨今は同様の施設を設置する空港や競技場などが増えてきており、ニーズも増加している。
主要設備はソファ。実際に扉を閉めてみたが、室内は遮音性があり、ほどよい密閉感。ソファは同伴者と2~3名ほどで過ごすためにちょうどよいサイズ感だった。
なお、トイレユニット側面に表示された「カームダウン・クールダウン」のピクトグラム(案内用図記号)は新国立競技場や都立の競技場でも採用している共通のもの。2020年5月に日本産業規格(JIS)に追加された。ピクトグラムは「授乳室(男女共用)」「おむつ交換台」をはじめ、どこからでも見えるよう各パブリックトイレの側面下部に描かれている。
会場には新型コロナウイルス感染症対策としてタッチレス水栓を使った手洗い場も6か所併設。自動水栓「オートマージュ」各種とベッセル型洗面器などとの組み合わせで、使い心地が試せるようになっている。
パブリックトイレのこれからとは? 設備担当者に聞いた
約1か月半に渡りパブリックトイレを展開する「LIXIL PARK」。今回、LIXIL「withCUBE」事業 技術営業・マーケティング担当の伏屋勇輝氏にこだわりや今後の展望を含めて、話を聞くことができた。
伏屋氏は「リクシルのパブリックトイレの考え方として機能分散があり、その1つの答えがLIXIL PARKです。世の中の流れは変化していて、多機能トイレを1つ用意するのではなく、機能を分散させて多くの方が利用できるようにする。既存のwithCUBEの利活用を検討するなかで、2年半ほどかけてトイレユニットを研究し、初めて具体化したのが今回のパブリックトイレです」と開発の経緯を説明した。
設計・企画を担当したからこそのこだわりについては「子育てグループへのヒアリングや自分自身の育児経験も含め、乳幼児配慮のユニットに手すりと着替え台を付けることにしました。商業施設のトイレを含め、あまり付いている場所がないと気づいたんです。パンツタイプのおむつを使っている月齢のお子さま向けに便利だと思います。反響がよければ今後施設向けのプランニングの提案の1つとしても活かしていきたいです」とのこと。
なお、現在は屋内中心だが、野外フェスや大型イベントへの展開については、時期は未定ながら検討中とのこと。「現在は女性のトイレ環境改善のため物流や工場向けの新規事業として取り組んでいますが、同時に避難所でのプライベート空間確保など、大規模災害対応も含めて活用・展開の幅を広げたいと考えています」と語ってくれた。
「共生社会で向くべき方向を具体化できるのがトイレ空間」と東洋大学 名誉教授 髙橋儀平氏
パブリックトイレにおいてリクシルと共同研究を行なっている東洋大学 名誉教授の髙橋儀平氏は「国の調査で、すでに利用者のバッティングが起きていることは分かっていますし、多様な方々が待たされることなく、安心して利用できるトイレ整備は不可欠です。
以前はオールインワンのトイレが主流でしたが、現在は機能分離を目指しています。外出時の安心材料になるとの声もあり、バリエーションが増えることで、必要とする利用者と設備が見え、共生社会において、どの方向を自分たちが向くべきかを具現化できるのがトイレ空間だと考えています。
今回の設置をはじめ経験を積み重ねることで、パブリックトイレのありかたや、共生社会のありかた、個人の尊厳はどこにあるのかなどが、トイレ空間を通じてより見えてくることを期待しています」と語ってくれた。