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OAGのコンサルタントに2020年の航空動向を聞く。「羽田は国際的ゲートウェイとしての準備が整っていない」

OAGで専任コンサルタントを務めるジョン・グラント氏がイギリスより来日。2020年の日本の航空動向についてインタビューに応じた

 航空業界のデータや情報を扱うOAG Aviationは、同社選任コンサルタントのジョン・グラント(John Grant)氏が来日したのを機に、2020年の航空動向についてインタビューに応じた。グラント氏は航空需要の分析やOAGが発行するレポートなどを担当している。

 2020年の日本の航空業界を予測するうえで重要なトピックは、羽田空港の昼間国際線枠の拡大と、東京オリンピック・パラリンピックの開催だ。

 グラント氏は「羽田空港の新たな3万9000回の発着枠は成長を促進する。そして、航空会社は価格競争を含めた、積極的な競争を行なうだろう」とコメント。このことは特にアウトバウンドの観点からメリットが大きいとする一方で、「オリンピックの期間は逆になる。開催都市に住む人は旅行を控え、開催都市やその周辺で行なわれるイベントなどを楽しむことが過去の事例から分かっている」と話し、オリンピック期間以外はアウトバウンドが堅調に推移することで全体にはアウトバウンドに大きな効果をもたらす一方、オリンピック期間内が例年よりやや強めになると予測した。

 また、OAG 日本支社でセールスマネージャーを務める山本洋志氏はオリンピック期間内の航空利用の予測を「開催期間は元々(夏休みシーズンで)供給量を最大化している時期。それ以上に座席供給量を増やすほど首都圏空港に発着枠の余裕はない。座席単価もやや高めになると思うが、オリンピック期間だからと特別なことはなく、場合によっては直近に単価が下がる可能性もある」と分析。

 グラント氏は別の観点で、「ロンドンオリンピックの際は一部ホテルの宿泊料金が倍になったケースもあり、旅行者は避ける可能性もある。しかし、オリンピック期間は世界中のテレビで1日中流れ、ジャーナリストがさまざまな場所の写真を発信する。世界の人は東京に来たくなるだろう。(オリンピック開催が)本当に利益をもたらすのは2021年、2022年になるだろう」と話した。

OAG Aviation Worldwide Limited 日本支社セールスマネージャー 山本洋志氏

羽田空港、地方空港ともに「サービスの整備が課題」と指摘

 羽田空港については、「国際的なゲートウェイとしての準備が整っていない」と厳しいコメント。「(来日して)案内看板が日本語と英語のみだった。ディスプレイを使ったサイネージではほかの言語を使用できるが、やらなければならないことが増える」としたほか、「(ターミナルが複数あるので)バスでの移動も大変」と指摘している。

 その原因として、「日本の空港のサービスは公共サービスとして捉えられ、ビジネスとしてサービスを提供して利益を上げようとしていない。(その点で)関空は最近では日本でもっとも成功した例だろう」とコメント。利益を上げることを想定してよりよいサービスを提供することを、利用者の便益につながるポイントとして挙げた。

 この点は地方空港も同じ課題を抱えているとし、国内空港ではコンセッション方式による民間委託が続々と進められているものの、「参入する企業が公共サービスを重視するか、ビジネスを重視するかの姿勢による」との考えを示している。

 一方、日本の地方空港からソウルあるいは北京で乗り継いで、第三国へと移動する海外旅行のスタイルもあり、羽田空港の国際線発着枠拡大で、こうした近隣海外空港との競争力はどう変わるのかについて尋ねると、まずソウル・仁川空港については「一つのターミナルで乗り換えでき、コネクション空港としては強力な状態が続くだろう。例えば、成田と羽田の乗り換えが必要だったら、私は移動できなかったかも知れない」と仁川空港の利便性を説く傍ら、「羽田空港は国内線ネットワークが非常に多く、(ゲートウェイとして)仁川より大きくなる可能性を持っている。今回のこと(国際線発着枠拡大)は非常に大きなチャンスだ」と話した。

 また、従来の北京首都国際空港に加えて、北京大興国際空港がオープンした北京については、「大興空港は現時点では1日に約200便しかなく、国際線はあまりない。しかし、中国はハブ空港をどのように開発するかという点で、日本より先に行っている。新しい空港がオープンするにあたり、トランジットビザを最長144時間滞在可能にした。従って乗り継ぎの場合でも3~4日滞在して乗り継ぐことができる。これは興味深いと思っている」と成長の可能性を示唆した。

 ただし山本氏は、地方空港を発着地とするソウル/北京を乗り継いだ旅程が便利であるとはしつつ、「乗り継ぎのデータでも羽田や成田からJAL(日本航空)、ANA(全日本空輸)の国際線を利用する方が多い。特にビジネス利用でその傾向が強い」と紹介。

 加えて、「日本人は直行便が好き。地方空港も、海外空港を経由してどの都市へとつながっているのかを示せていない。航空会社の航空券の販売や宣伝の仕方もある」と、海外空港を使った乗り継ぎがあまり活用されていないことに、さまざまな要因があるとした。

 ところで、羽田空港の国際線発着枠拡大に伴い、成田路線を羽田路線へ移管する航空会社が目立つ状況だが、成田空港の将来像についてグラント氏は「LCCが中心になるだろう」と予測。「成田空港は、羽田に移る便を取り戻すために、3年前に航空会社と話をするべきだった」と指摘した。

 一方で、成田空港の将来についてはそれほど悲観的な予測はしておらず、「低コストの市場が成長するにつれて、座席供給量が回復してくるだろう」と、いわば現在の関空のような立場の空港になるとの未来図を予測している。

 加えて、こうした低コスト市場や、成田空港で想定されるレジャー市場の成長には旅行代理店の役割も重要であると話す。「旅行者は自分でオンライン予約を快適にできるようになった。しかし、クレジットカードに依存しており、何人がクレジットカードを持っているかに依ってくる」と指摘し、「チェコではLCCが登場したとき、現金で支払うことができる旅行代理店が登場し、市場を作った」との事例を紹介した。