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沖縄県と沖縄観光コンベンションビューロー、「東洋のカリブ構想」を掲げたクルーズカンファレンス初開催

「世界水準の観光リゾート地としての地位の確立、認知度の向上を図りたい」と嘉手苅氏

2018年11月28日 開催

沖縄県とOCVBは「沖縄クルーズカンファレンス及びセミナー・商談会2018」を初めて開催した

 沖縄県とOCVB(沖縄観光コンベンションビューロー)は11月28日、「沖縄クルーズカンファレンス及びセミナー・商談会2018」を初めて開催した。

 このカンファレンスは、沖縄海域を東アジアのクルーズ拠点にするという高い将来ビジョンのもと、アジアに寄航実績のあるクルーズ船社、県内外の港湾、観光・物産関係者を対象に開催したもの。会場には、県内のクルーズ、観光関連者をはじめ県外・海外からも商船会社や旅行会社など多くの参加者が集まった。

 午前中はカンファレンス、午後はクルーズセミナーと商談会が行なわれたが、このうち午前中のカンファレンスをレポートする。

県内外から約160人が参加した

 開会にあたり主催者を代表して、沖縄県副知事の富川盛武氏が登壇し、玉城デニー知事のあいさつを代読した。「昨年の沖縄県へのクルーズ船寄港は515回となり、過去最高を記録した。本部港、平良港における官民連携による国際クルーズ拠点の整備や、那覇港においても第二クルーズバースの整備に向けた取り組みが本格化し、ハード面でもクルーズ観光を勢いづけている。

 こうした取り組みを通じ、アジアの中心に位置する地理的優位性、多くの航空路線、空港と港湾が近接するインフラ環境、美しい海に代表される豊かな自然を活かし、東アジアのクルーズ拠点を目指す東洋のカリブ構想を策定。内外に対しクルーズ振興の将来ビジョンを発信、関係者と一丸となって沖縄のクルーズ振興に取り組んいく」と読み上げた。

沖縄県副知事 富川盛武氏

 次に来賓を代表して、内閣府 沖縄総合事務局 次長の仲程倫由氏が、沖縄総合事務局局長の能登靖氏のメッセージを読み上げた。「訪日外国人が2609万となり、沖縄県も昨年は入域観光客957万人と初の900万人を達成し、外国人客も260万人と過去最高となった。クルーズについては、観光ビジョン構想会議において作成した観光ビジョンにおいて、極東アジア海域をカリブ海のような世界的クルーズ拠点に成長させ、訪日クルーズ客を2020年に500万人にすることを目標に掲げている。

 沖縄県は2017年に寄港数515回、2018年は前年をさらに上回る見込み。総合事務局としても岸壁等のインフラ整備、受け入れ体制などにも取り組んで、沖縄県やOCVBと連携していきたい」とした。

内閣府 沖縄総合事務局 次長 仲程倫由氏

東洋のカリブ構想、「2019年以降はフェーズ2として南西諸島周遊クルーズの誘致などに取り組んでいく」と嘉手苅氏

 基調講演では、沖縄県 文化観光スポーツ部 部長の嘉手苅孝夫氏が登壇し「東洋のカリブ構想について」をテーマに発表を行なった。

 まず沖縄のメインポートである那覇港について、「2017年は寄港数224回、2018年には264回、来年(2019年)もすでに300回を超える予約が入っている」現状で、今後は第2バース、ターミナルの整備も予定されていることを報告した。

 続いて世界のクルーズ人口については、2000年に1000万人を超え、2018年には2800万人を超える見込みであると話し、アジアのクルーズ市場の動向についても、中国のマーケットが増大しており、2012年から2015年の3年間で21万人から98万人と約4.6倍、2020年には400~500万人を達成する見通しであるという。

 中国南部からのクルーズではハノイや香港へ寄港しており、嘉手苅氏は「北上することを考えると沖縄は北限に近い。沖縄は日本地図で捉えると西の端だが、地図を西側に広げると日本とアジアの中心に位置している。沖縄~東京間は1600kmだが沖縄~上海間は半分の800km、香港が1400km、台湾は600kmで、飛行機では4時間以内のマーケット」とした。

 沖縄のクルーズ状況については、寄港回数が2012年に115回、2016年から急増し2017年には515回と5年間で約4倍になっており、今年はすでに662回寄港しているという。クルーズ客数は2012年には14万7000人だったのが、2017年には88万8000人と約6倍になっており、今年は116万人を見込んでいるという。

 また2020年の東京オリンピック・パラリンピックの年には、日本全体で500万人を見込んでおり、そのなかで沖縄は191万人、全体の38%を目標に掲げているという。日本全体のなかでは単県で4分の1を担うことになり、2021年には200万人を目標としているとした。

 嘉手苅氏は沖縄のクルーズエリアの強みとして「東南アジア、東アジアに一番近い日本であること」「日本唯一の亜熱帯気候による自然」「かつて琉球王国という独立王国としてアジアと交易していた歴史遺産などの魅力があること」「160もの島々がありマリンアクティビティや伝統芸能や空手などの体験ができること」「空港の国際線ターミナルから海空トンネル経由で那覇港まで10分ほどというフライ&クルーズの優位性がある」ことなどを挙げたほか、2017年に「アジア最優秀寄港地賞」を受賞しただけでなく、クルーズ船寄港地として評価されたことなども強みの要素として挙げた。

 東洋のカリブ構想について嘉手苅氏は、「2018年がフェーズ1であった。2019年以降フェーズ2として、フライ&クルーズの促進とシートレード・クルーズ・アジアパシフィックの沖縄開催の検討、南西諸島周遊クルーズの誘致などに取り組んでいく。東洋のカリブ構想により、世界中のクルーズ船社や旅行社、港湾関係者などへ沖縄への関心を喚起し、アジア地域はもとより世界中のクルーズ船の寄港へつなげたい。そして世界水準の観光リゾート地としての地位の確立、認知度の向上を図りたい」と話し発表を終えた。

沖縄県文化観光スポーツ部 部長 嘉手苅孝夫氏

ハブポートとして発展していくには「ソースマーケット」「デスティネーション」「港湾インフラ」整備の3つの条件が必要

 続いて、CLIA(クルーズライン国際協会)北アジア会長で、ロイヤル・カリビアン・インターナショナルの中国&北アジア地区社長でもあるジナン・リウ氏が「クルーズハブとしての沖縄の将来像について」をテーマに基調講演を行なった。

 世界のクルーズ市場は2009年から2018年まで順調に成長しており、現在年間2800万人がクルーズを楽しんでいるという。地域的にはカリブ海が一番多く、次いで地中海、ヨーロッパで、アジアは欧米に次いで第3位のマーケットであるという。

 アジアのクルーズ市場は中国本土がダントツで59%、次が台湾、シンガポール、日本の順となっている。日本の寄港回数は2018年は2601回。日本への寄港はトランジットが多いことから、デスティネーションとして魅力があることが分かるのだという。中国は寄港回数が1012回でターンアラウンド、つまり中国発着が多いとのこと。2018年のアジアトップ10を見ると、トップは上海でトランジット20回、ターンアラウンド369回、オーバーナイト(1泊)が27回。那覇港はトランジット205回、ターンアラウンド15回、オーバーナイト11回だったと紹介した。

 リウ氏はハブポートしての可能性について「可能性は二つある。一つはトランジットポートとして、もう一つは沖縄発着のターンアラウンドポートとしての活用。トランジットだと、例えば上海、香港、シンガポール、台湾から沖縄にやってきて沖縄を出発する。ターンアラウンドは、那覇を出発して石垣や宮古をまわって那覇に戻る。そのときにソースマーケットはどこなのかを考える。大阪なのか、あるいは上海、香港、シンガポール、台湾なのか。港は那覇なのか、石垣か宮古か、あるいはそのほかの離島か。こういうコンセプト作りを次の3年、5年、10年でしっかりやっていくことが必要である。ハブポートとして発展していくには、ソースマーケット、デスティネーション、港湾インフラの整備の3つの条件が必要だ」とコメントした。

 リウ氏によれば、沖縄は亜熱帯で温かく美しい場所であるが、それだけですぐマイアミのようになれるわけではないという。「マイアミはソースマーケット、デスティネーション、インフラの整備をしっかりと考えていた」と指摘。

 那覇とマイアミ、シンガポールの港を比較すると、マイアミのクルーズ客は530万人。マイアミは2つの港があり、バースは7つある。この人数は一つの港の数字となっており、内訳は地元フロリダが32%、それ以外のアメリカ国内客が48%、ヨーロッパ、アジアなどの国際客が20%なのだという。

 またシンガポールはクルーズ客数が140万人。そのうちシンガポール地元客が40%、それ以外が海外客でインド・中国・ヨーロッパなどが含まれるという。それぞれの都市の人口は、マイアミが3200万人、シンガポールが560万人、沖縄が140万人。またアメリカ全国の人口は3億2000万人、シンガポールが560万人、日本が1億2000万人。またクルーズの普及率は、アメリカが3.7%、シンガポールが4.8%、日本は0.2%であると紹介。リウ氏は「マーケットを考えるとき、どのくらいクルーズが普及しているかを考える必要がある」とコメントした。

 さらに、マイアミ発着のクルーズは20を超えるデスティネーションがあるという。マイアミの特徴は、ほかの港との競争がないこととデスティネーションが多いこと。「沖縄はほかの港との競争があると思われるため、デスティネーションの開発をしっかりとやることが必要」と課題を挙げた。

 リウ氏によれば、現地でのツアーも大きな要素であるという。「例えば沖縄に7000名収容の最大級クラスのクルーズ船を受け入れることを考えてみると、クルーズ客数7000人クラスだとバスは180台の確保が必要になる。那覇はバス保有数が多いので問題ないが、宮古、石垣では厳しい状況。また現地でのツアー数が4~6件は必要になる。那覇では6ツアー、宮古は5ツアーがあるが、駐車場が足りないのが問題。現在は港での駐車台数が180台というのは極めて厳しい。実際、那覇港は60台、石垣は40台、宮古は50台である。港湾だけでなく行った先での駐車スペースが少なくとも40~60台の確保が必要だが、那覇では15台、石垣では8台、宮古では12台。ハブポートになるためには、この問題のクリアが必要だ」と語った。

 そのほか、港のインフラ整備の必要性についても「ピアの長さは那覇が430mで問題ないが、宮古、石垣は少し足りない。水深も宮古、石垣は改善が必要、また進路の水深は那覇・石垣・宮古いずれも改善が必要である」と言及した。

 最後にリウ氏は「私どもの所有する最大級のクルーズ船『オアシス』が、那覇や宮古、石垣、そのほかの離島に近いうちに訪れることを楽しみにしている。沖縄は亜熱帯の美しい場所で、マイアミに似ている。私どもは、訪れる先のクルーズ市場を発展させるパートナーとなり得る。この先、沖縄のよきパートナーとなれることを願っている」と、ハブポートとしての可能性を見出しながらも、現状から改善が必要であることを提言した。

クルーズライン国際協会 北アジア会長のジナン・リウ氏。クルーズ業界大手のロイヤル・カリビアン・インターナショナルで中国&北アジア地区社長も務める

「クルーズによる沖縄観光振興及び地域経済への貢献」をテーマにパネルディスカッションを実施

 続くパネルディスカッションでは、「クルーズによる沖縄観光振興及び地域経済への貢献」のテーマのもと、パネリストとして商船三井 取締役 小出文雄氏、ジナン・リウ氏、ジャンボツアーズ 代表取締役社長 谷村勝己氏、那覇港管理組合 常勤副管理者 田原武文氏、嘉手苅孝夫氏が登壇。ファシリテーターは、琉球大学 国際地域創造学部 観光地域デザインプログラム大学院 観光科学研究科教授の下地芳郎氏が務めた。

パネルディスカッションの様子。左から、ファシリテーターの下地氏、パネリストの日本クルーズ&フェリー学会事務局長 大阪府立大学名誉教授の池田良穂氏、商船三井客船株式会社 取締役 小出文雄氏、ジナン・リウ氏、株式会社ジャンボツアーズ 代表取締役社長 谷村勝己氏、那覇港管理組合 常勤副管理者 田原武文氏、嘉手苅孝夫氏

 パネルディスカッションでは、商船三井の小出氏から「沖縄では日本丸という小型のクルーズ船を運航している。400名規模と小さいが、小さいことを活かして、例えば与那国島や大東島などに寄港するなど、沖縄の自然や文化、食を楽しんでもらえるよう工夫を凝らしている。現在、日本各地から飛行機で那覇へ来てクルーズに参加するという動きが増えている」とのコメント。

 また那覇港管理組合の田原氏は、「那覇港では官民連携でクルーズ拠点を作るべく、整備を進めている。東洋のカリブ構想においてもその中心となるのが那覇港であると思っている。日本の南の玄関口としてクルーズ振興、整備に努めていきたい」との意気込みを語った。

 日本クルーズ&フェリー学会の池田氏からは「大型クルーズ船による経済波及効果は大きい。しかし地元からオーバーツーリズムと言われる反対運動が起きているところもある。直接お金の落ちる方々はメリットを感じているが、そうでない人には効果が見えずデメリットに感じている場合も。どんなふうに地域の経済に波及効果があるのか、見えるような仕組み作りが必要」などの意見が上がった。

 また、まとめとして下地氏より「沖縄県民の理解がまだ追いついていない。県民もクルーズ体験ができないか。例えばクルーズ船停泊中に、子供からお年寄りまで幅広い人が体験乗船させるなど、県民がクルーズ市場を支えるようになるためにも、そういう体験ができるとよいのでは」との話があった。

 最後に、OCVB専務理事の湧川盛順氏が閉会のあいさつに立ち、「今回のカンファレンスでの内容は、もっと聞きたかったと思わせるものだった。沖縄の観光振興を考えるうえで、クルーズがいかに重要かを改めて実感。どのような現状で、今後どのように進めていくのか参考になる。参加者の皆さまには、ぜひ本日の成果を持ち帰りビジネスに活かしていただければと締めくくった。

一般財団法人沖縄観光コンベンションビューロー 専務理事 湧川盛順氏