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成田開港40周年のシンポジウムでLCC各社のトップがプレゼン。「LCCの就航が新規需要を開拓」とデータ示す

2018年9月21日 実施

成田国際空港振興協会 会長 深谷憲一氏

 NAA(成田国際空港)と成田国際空港振興協会は9月21日、「成田空港開港40周年&国内20都市就航 記念シンポジウム」を開催した。

 最初に登壇した成田国際空港振興協会の深谷憲一氏は「成田空港とLCCの関係は、2012年に成田を拠点としてジェットスター・ジャパンなどが就航したところから始まっている」と話した。海外だけでなく国内ネットワークも充実していることを強調し、「本邦LCCがスタートしたことで国内需要が掘り起こされた結果だ。成田空港は国際空港ではあるが、国内空港としても成長している」と話す。そして新たに建設されるC滑走路に触れ、段階的に空港容量を拡大して、成田空港に寄せられている期待に応えたいとした。

LCCにより国内線の空港としても存在感を高める成田国際空港

 続いてプレゼンテーションを行なったのは、NAAの常務取締役である濱田達也氏。現在、成田空港の国内路線は20都市にまで拡大しているが、この数値はNAAが中期経営計画で目標値として定めていたものと話し、その目標を達成することができたと語った。また、空港別の国内線旅客数が6位であることに触れ、「国内線でも存在感のある空港になってきた」と話す。

成田国際空港 常務取締役 濱田達也氏

 成田空港ではLCC向けのターミナルとして、第3ターミナルを2015年にオープンしている。この施設の設計上の容量は750万人であり、濱田氏は「すでにオーバー気味」であるとする。そこで混雑緩和に向け、設計容量を2019年度までに900万人、2021年度までに1500万人に拡大すると説明した。

成田国際空港は2018年5月20日に開港40周年を迎えた
インバウンド需要の増加により2017年度の航空機発着回数と航空旅客数は過去最高を更新
第3旅客ターミナルは到着ロビーの増築などによって容量拡大が進められる方針

 この成田を拠点として、札幌や福岡、高知、沖縄などを結んでいるLCCがジェットスター・ジャパンである。同社の代表取締役社長である片岡優氏は、LCCによって新規需要が創出されていると説明する。

 その根拠として示されたのが羽田から九州エリアへの年間渡航者数である。ジェットスター・ジャパンが就航した当時は約1600万人だったが、2017年は1860万人に増えている。そのうえで片岡氏は「そのうちジェットスターの利用者数は約129万人で、ジェットスター以外のお客さまも10%ほど増加している。LCCで増えるだけでなく、既存の航空会社にも影響を与えている」と述べた。

ジェットスター・ジャパン株式会社 代表取締役社長 片岡優氏

 ジェットスターと言えば、ユニークかつきわめて低価格なキャンペーン価格で話題となることも多い。最近では成田から長崎を結ぶ路線において「長崎ちゃんぽん価格に挑戦!セール」を展開、片道987円で販売したキャンペーンなどがある。こうしたプロモーションを実施する理由について、片岡氏は「若年層の旅行需要を刺激することに挑戦している」と話し、そのために話題性のある料金設定で、なおかつ就航地の最新情報を旅行者の目線で伝達する取り組みを行なっていると語った。

ジェットスター・ジャパンは成田国際空港発着の国際線として6路線、国内線は12路線を展開する
話題性のあるセール運賃の設定や旅情報の発信によって新規旅行者の拡大を図っている
国内のLCCとして唯一貨物事業を展開、成田と新千歳など11路線を設定している

 ジェットスターが就航したことで、1年間あたり9.6億円の経済効果が生まれたと話すのは、大分県企画振興部 観光・地域局 交通政策課の島田忠氏だ。2013年の成田線、2014年の関空線と合わせて、5年間での累計利用者数は100万人を突破しており、多くの人たちがLCCを利用して大分を訪れていると島田氏は説明する。

大分県企画振興部 観光・地域局 交通政策課 島田忠氏

 今後の展開について島田氏は、「宿泊事業者や観光事業者だけでなく、若い方を中心に生活の場として大分を選んでもらうようにしたい」と話す。LCCを使って気軽に首都圏と往来できるため、生活の場としても十分に考えられるというわけだ。さらに「ジェットスター・ジャパンと連携しながら、さまざまな挑戦をしていきたい」と展望を語った。

大分空港の位置。バスによって大分駅や別府駅、由布院駅などとつないでいる
大分空港は成田国際空港や羽田空港、伊丹空港、中部国際空港などと定期便で結ばれている
ジェットスター・ジャパンが就航したことによる効果として、空港利用者の純増や経済波及効果が挙げられた

 2018年夏の成田空港週間便数において、国内線は168便、国際線も98便を飛ばしているのがバニラエアだ。この便数はフルサービスキャリアを含めたランキングで国内線2位、国際線5位に位置し、バニラエアが非常に多くの旅客を各地へ運んでいることが分かる。

 バニラエアの代表取締役社長である五島勝也氏は、札幌線を例にLCCの就航効果を説明した。2012年度にLCCを利用した旅客数は89万人だったが、2017年度には183万人に増加していることをまず説明しつつ、「成田発着のシェアは高まっているが、一方で羽田空港の需要は減っていない。このことから、LCCが新規の需要を作り出していることがうかがえる」と話す。

バニラ・エア株式会社 代表取締役社長 五島勝也氏

 バニラエアは2014年7月に成田~奄美大島線を就航している。前年の旅客数は83万人に過ぎなかったが、2014年度は143万人にまで増加、さらに2017年度は197万人となっている。こうした結果を示しつつ、「もしLCCがなかったら移動していないと答えた人が22%も存在している。こういった需要の開拓に取り組んでいきたい」と述べる。

 ただ、首都圏のLCC利用者は22%にとどまっているというデータを示し、開拓の余地はまだまだあるという見解も示した。そのうえで「羽田空港はすでに発着枠がいっぱいで、今後拡大されたとしても国際線に振り向けられると考えられる。その意味で成田空港が果たしていく役割は大きい」と話した。

バニラエアのネットワーク。国内線、国際線ともに7路線を就航させている
バニラエアの旅客数推移。国内線、国際線ともに順調に推移していることが分かる
LCCがなかったらどうしていたかを質問したアンケート。22%の人が移動していないと回答したという

 バニラエアの就航により、多くの人たちが訪れるようになった地域の1つが鹿児島県の奄美大島だ。「バニラ効果という新しい言葉まで生まれている」と話す奄美市長の朝山毅氏は、バニラエアの利用者数は2路線で約19万6000人で、約77億円の経済波及効果を生み出していると説明する。

奄美市長 朝山毅氏

 JAL(日本航空)も羽田空港と奄美大島を結んでいるが、バニラエアの就航以降減少したが、朝山氏は「LCCが就航したことで奄美大島の認知度が向上し、それによって利用客数は増加に転じている。新たな需要が掘り起こされたということ。(フルサービスキャリアとLCCは)競合ではない」と指摘した。

NHKのドラマ「西郷どん」の舞台にもなった奄美大島
多くの希少動物や希少植物が奄美大島には生息している
JALの羽田~奄美大島線の利用者はバニラエア就航後に減少したが、現在は増加傾向にある

 中国の春秋航空などが出資する、Spring Japan(春秋航空日本)も成田空港を中心にネットワークを拡大しているLCCだ。札幌や広島、佐賀といった国内各地のほか、重慶や武漢、天津、ハルピンの中国各地と成田を結んでいる。

 Spring Japanの会長であるワン・ウェイ氏は、日本のインバウンドにおける1/4が中国の旅客であることを指摘しつつ、その背景にあるのは中国の高度成長だとする。そして「観光と1人あたりGDPは密接に連携している。1人あたりGDPが6000ドルを超えると海外旅行の志向が強まり、1万5000ドルを超えると海外旅行が多様化する。中国で1人あたりGDPが1万5000ドルを超えている都市は24あり、その人口は1億4000万人に達する。春秋航空日本としては、ここをターゲットにしていきたい」と述べる。

春秋航空日本株式会社 会長 ワン・ウェイ氏

 Spring Japanが期待しているのが空港機能の強化だ。LCCにとって機材効率をどう高めるかは重要なポイントとなる。この点において、大きな効果が見込めるとしたのは夜間飛行制限の緩和だ。現在の6時~23時までという運用時間が5時から24時までに延長されれば、1日2往復の国際線就航が可能になると話す。

 将来構想としてワン氏が話したのは、中国をはじめとする東アジアと日本の各地域の架け橋になること。「中国の春秋航空が内陸部と沿岸の都市部を結び、そのお客さまを春秋航空日本が成田へ運び、そこから日本の各地へとつなげたい」と話し、最後に「1日も早く成田空港のLCC利用者数を1000万人の大台に乗せたい」と語った。

日本のインバウンドにおける1/4は中国からの旅行者
1人あたりGDPと観光の関係。1万5000ドルを超えると海外旅行へのニーズが多様化するとした
成田空港の夜間飛行制限緩和に対するLCCの期待は大きい

 最後にプレゼンテーションを行なったのは、佐賀県地域交流部 副部長の野田信二氏である。

佐賀県地域交流部 副部長 野田信二氏

 まず佐賀県にある九州佐賀国際空港について、九州各地の観光地にアクセスしやすい航空であると紹介した。またSpring Japanが同空港と成田を結んだことで、「大きな利用者の増加がもたらされた。成田便がなければそもそも旅行に行かなかったという人は3割もいる。成田便の就航により、新しいお客さまを開拓していただいている」とSpring Japanに感謝の言葉を述べた。

Spring Japanの成田便の就航後、利用者数が飛躍的に増加したとする
新たな需要創出が実現できた例として紹介された、慶応大学ラクロス部の佐賀県での合宿
九州佐賀国際空港が目指す将来像。LCCの拠点空港化を進めるとしている

 成田便のターゲット層として想定されているのは若年層だ。そこで「若い人に興味を持ってもらえるコンテンツとコラボしたプロモーションを展開している」と野田氏は話す。また九州佐賀国際空港が目指す将来像を「九州におけるゲートウェイ空港」と紹介、その実現に向けたさまざまな取り組みが紹介された。