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トラベルポート、航空会社が利用者個人に合わせて航空券を提案できるIATAの新規格「NDC」への取り組み紹介
IATA NDCに対応した新しいGDS端末を旅行会社向けに2018年後半提供開始
2018年6月7日 21:54
- 2018年6月5日 実施
旅行会社向けに予約・発券システム(GDS)の提供などを行なっているトラベルポートは6月5日、IATA(国際航空運送協会)が推進する航空会社から旅行会社への航空券流通の新規格「NDC」に対する取り組みについて、航空会社への営業活動を主業務とする担当者であるシニア・コマーシャル・ディレクター エアコマースのクリス・ラム氏がシンガポールから来日し、旅行業界紙向けに説明会を行なった。
NDCは「New Distribution Capability」の略で、IATAが提唱する航空券流通の新たな企画だ。XMLをベースにAPIを利用して航空会社と接続する。これまでの流通では、航空運賃などの情報をATPCO(Airline Tariff Publishing Company)などの事業者が集約し、旅行会社からはGDS(Global Distribution System)端末を用いて、このATPCOの情報を元に航空券の発券を行なっている。
トラベルポートジャパン 代表取締役社長の東海林治氏は、説明会の開催にあたって、「トラベルポートでは『トラベル・コマース・プラットフォーム』と呼んでいるが、旅行商材を流通させるだけでなく、価値の最大化に取り組んでいる。いろんな選択肢が広がるなかで、旅行会社にプラットフォームを使っていただくことでその先の消費者に価値を提供する。ほかの側面では、(ラム氏が在籍する)エアコマースチームが航空会社に対する営業を行ない、航空会社が提供できる価値をいかにして我々のプラットフォームを通じて旅行会社に届けるかという取り組みをしている」と説明する。
そのNDCは、現在43の航空会社で最高レベルのレベル3認証を取得。54のIT企業とアグリゲータが認証を受けている。その54社の1社であるトラベルポートは、全機能を利用できるレベル3の認証を真っ先に取得した。
APIは現在バージョン17.2となっており、今後登場するであろう新バージョンでも後方互換性を持たせるという。なお、現状ではGDSでできて、NDCにできないこともあるとのことで、現実にバージョンが上がっていくことは間違いないようである。
このNDCの特徴は、APIを通じて航空会社と直接やりとりすることができる点、それによって旅行会社がコストを削減できる点、そして航空会社が持つさまざまなアンシラリーなサービス(付帯サービス)も含めて利用者に提案できる点などが挙げられる。
NDCの利用は、旅行会社やOTA(オンライン旅行業者)から航空会社へ直接APIでリクエストする方法や、アグリゲータと呼ばれる情報集約事業者(トラベルポートはこれに当たる)を経由して旅行会社と航空会社をつなぐ方法など、いくつかのルートがあるが、航空会社から情報を出すという点では同じだ。
現在のATPCOへの情報登録は数カ月間隔で行なわれ、GDSはその情報を参照して航空券を予約、発券する。そのため、LCCに代表されるように突発的に“明日からセール”などのキャンペーンを行なうような柔軟な対応が難しく、アンシラリーなサービスも含まれない。クリス氏は「NDCではないが、エアアジア、IndiGo、ライアンエアーなどはすでにAPIを導入し、多くのコンテンツをAPI経由で提供している」とし、機動的なプロモーションを実現できる要因に掲げる。
NDCは航空会社が自身で運賃を提供でき、旅行会社やアグリゲータからのリクエストに対するコンテンツ(NDCではオファーと呼ぶ)にアンシラリーなサービスなども含めることができる。実際、ブリティッシュ・エアウェイズではLCCに対抗すべく、SHAPP(Short Haul Additional Price Point)という短距離路線向けの特別な価格設定をNDCを通じてのみ提供しているという。技術的には、従来のATPCOでは予約クラスが26個しか設定できなかったのに対し、NDCでは676個のクラス(プライスポイントと置き換えてもよいだろう)を設定できるので、より細かく、より柔軟な運賃で航空券を提供できる。
一方、ラム氏は「NDCはパーソナライゼーション、利用者の属性に合ったオファーを返すのがゴール。そこに至っている航空会社は1社もいない。ATPCOに登録している運賃情報に近いものをNDCを通じて返しているに過ぎない」と指摘。NDC APIはあくまでデータ(コンテンツ)をやりとりすることを標準化したものであり、そのうえで流すコンテンツそのものは独自性が生まれる。
例えば、過去の搭乗履歴から座席ピッチの広い席、前方座席などのアンシラリーなサービスを提案したり、上級会員向けの特典や、上級会員ではない人に上級会員が利用できるサービスを有償で提供できるとの提案など、個人の属性に合わせたオファーを、NDCであれば返せる。
ラム氏は「リクエストに対して、航空会社が持っているアンシラリーな素材を、個人の属性に合わせてオファーを作るマーチャンダイジング・プラットフォームが必要。それは(運用を自動化する)ルールズエンジンで、システム投資が必要」と話す。つまり、NDC APIで届いたリクエストに対し、パーソナライゼーションしたオファーを自動的に生成するマーチャンダイジング・プラットフォームが必要で、ここにいかなる仕組みを作り込むかという点が重要であるとしている。
NDCは、GDSの利用料削減、PSS(旅客サービスシステム)の外部委託費を削減できるなどのコスト削減に目が奪われがちだというが、上記のようなパーソナライゼーションこそがNDCの目標にあるというわけだ。
その普及については、IATAと、プロジェクトに賛同する航空会社が一つの目標を立てた。それは、2020年末までに20社のトランザクションの20%をNDC経由にする、というもの。その20社のうち、アジアの航空会社としてはシンガポール航空、キャセイパシフィック航空、中国南方航空が名を連ねている。一見、アジア圏の航空会社は積極的でないように見えるが、「私が対話している航空会社でもNDC導入の意思を持っているところはあり、潜在的にはもっと多くの航空会社が加わる」とクリス氏は述べている。
ちなみにIATAでは、2018年終了時点では、NDC認証レベル3を受けた航空会社に乗る旅客は59%に達する(NDC経由で予約をした旅客とは限らない)と予測するほか、NDCのプロジェクトマネージャは2018年は調査、研究の年で、2019年半ばから急激に増えるとの予測を示しているが、クリス氏はこれにはやや懐疑的。クリス氏は「2019年も引き続き調査の年が続くだろう」とみている。
また、現在のATPCOなどの情報を利用するシステムから、APIを使ったシステムへの移行はスタートしたばかりであり、今後5年から10年といった長い時間をかけてAPIが中心になっていくだろうとしている。
一方で、旅行会社側からの意見も聞くべく、IATAでGlobal Travel Executive Councilを設置している。
クリス氏は、NDCの普及には、航空会社、アグリゲータ、旅行会社の3者がそれぞれに必要なことに取り組む必要があるとする。例えば航空会社であればエアラインはNDC APIに対応するシステム的な対応、個人に合わせたオファーを出すためのシステム、トランザクション処理量などのテストなどが必要で、クリス氏によればある航空会社は「2年前からAPI実装にとりかかっているがまだ終わらない」と一筋縄ではいかない作業であることを紹介する。
他方、アグリゲータでは、各航空会社との接続性確認も含めて、コンテンツの送受信が行なえ、それを適切に表現できるシステムの構築が必要。旅行会社ではNDCに対応した端末での業務を確立し、OTAではNDCコンテンツを含めたユーザーインターフェースの構築も必要になる。
クリス氏はNDC化は止まることはなく、先述の2020年に備える必要があると指摘。3者がそれぞれ取り組んでいくしかなく、その結果、消費者利益に貢献する取り組みにすべきと話した。
このアグリゲータの1つであるトラベルポートは、先述のとおりいち早くレベル3の認証を取得したことをアドバンテージとして挙げる。また、従来からのGDS開発の過程で、各エアラインと接続も確立しており、標準化されたAPIであっても各航空会社に合わせた対応ができるという。
さらに、NDCへの先行着手とGDS事業の経験に加え、「アグリゲーテッド・ショッピング」というシステムを持っていることも強みの一つに挙げる。これはATPCOなどの接続のほかに、24社の航空会社と独自のAPIでつながり、そのほか鉄道事業者の独自APIなどにも対応。クリス氏はパリ~ロンドン間を例に挙げたが、この区間の情報を調べると、エールフランス航空やブリティッシュ・エアウェイズといったFSCのほか、ライアンエアーなどのLCC、そして鉄道のユーロスターを横一線で比較できるという。
そしてトラベルポートでは、2018年の下半期に、旅行会社向けのNDCに対応したGDS端末を提供する見込みであることを紹介。ただし、当初はATPCOなどの従来的な流通経路で入手するコンテンツと、NDC APIで入手したコンテンツは別々の操作で取得する必要があり、同じ操作でシームレスに扱えるようになるのは2019年になる見込み。
この点についてクリス氏は、「2018年時点では航空会社が(NDC経由で)提供するコンテンツが従来があまり変わらず、実際にはNDCはそれほど使われないのではないか。ただし航空会社側の対応が進み、NDCならではのコンテンツが配信されるようになるのに連れて、使われることが増えるだろう」とし、2019年、2020年に向けて、NDC対応を強化している姿勢を示した。