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ANAの“念”を伝えるおもてなし術とは
国内グランドスタッフ向け社内セミナー
2018年3月22日 12:33
- 2018年3月19日 実施
ANAエアポートサービスは3月19日、「星野リゾート×前田鎌利×ANAエアポートサービス お客さまの心を鷲掴みにする真のおもてなし」を開催。
国内グランドスタッフ約100名を前に講師陣がよりよいサービスを生み出すための実践方法や意識などを約3時間に渡りレクチャーした。
冒頭では、ANAエアポートサービス 取締役 エアポートマネジメントセンター長の森本康之氏があいさつ。「私たちの仕事は1人ではなく、全員の力があるからこそ1便1便が飛ばせています。今回の講演内容はお客さまとのコミュニケーションだけではなく、ともに働く仲間や後輩へと業務を伝える部分にも関係してきますので、実りある時間にしてほしい」と期待を込めた。
“おもてなし”を仕組化し、未来へつなげる方法とは? 星野リゾート流の技術を惜しみなく紹介
第1部の講演は、星野リゾート おもてなし科学プロジェクトディレクター 菊池昌枝氏からスタート。「おもてなしの未来を科学(仕組化)で考える」をテーマに、星野リゾート流のおもてなし術を紹介した。冒頭では「スタッフ全員が入れ替わった際にいったい何が残るのか?」と会場に問いかけ、記録の重要度について説いた。
企業の歴史の一場面に自分たちがいることを意識し、記録を積み重ねていくことで社風や企業文化を構築。同時に新しいおもてなしも作り出せると話し、正確な情報を数値と方法論で後輩に伝え、進化し、維持、さらに一人一人の存在価値を認めることで仕事へのモチベーションを高めていくことなどを解説した。
「星のや京都」や「星のや軽井沢」「星のや東京」での総支配人としての経験を踏まえ、おもてなしだけできているだけでは充分ではないと断言。また、オペレーションとおもてなしの違いについても解説。処理や案内などのオペレーションはAI化できるが、人がやるべきこと、人だからこそできることとは? と投げ掛け、おもてなしは笑顔や所作などは基本とし、応用的な表現として知性と感性のアウトプット力が必要だと力説。
さらに日本文化の取り入れ方にも言及し、「星のや東京」の玄関の花屏風やジャージ素材の斬新な和装、茶の間における施策も紹介。リアルな体験や歴史を大胆な発想で取り入れ、新しい価値観を生み出す技なども紹介した。なお、講演では日々の練習の大切さも説き、「お客さまを練習台にしては絶対にいけない」とバックヤードこそが鍛錬の場、仲間同士で指摘し合い向上することと話した。
書交で考えて伝えること大切さを実感。自分の思いの伝え方を短時間で体験
第1部後半は書道家 プレゼンテーションクリエイターの前田鎌利氏が「念(おも)いの伝え方」をテーマに講演。冒頭では「一座建立」を示し、参加における心構えからスタート。今回の講演や会議でも聞くだけではなく自分から取りにいく姿勢が大事と説いた。
講演では、自身の経歴とともに各業務で出会った恩人の印象的な言葉とその意味を紹介。営業時代にカタログに掲載されていることを上手に話すのではなく、自分のなかにある答えを伝えないと意味がないことを理解した経験や、業務兼務することでタイムマネジメントがうまくなり意思決定も速く行なえ、PDC(Plan、Do、Check)を効率よく回すことができるとも話してくれた。
書道家として日本文化との関わりについても言及。伝統文化と日常文化と大きく分け、伝統文化は世襲や習い事も含め関わる人は少ないが、日常文化は全員が行なっており、日本人として意識し毎日過ごしてみることを提案した。
なお、伝統文化を日常文化に近付け、継続することで未来へとつなげる自身の活動を踏まえ、会場の参加者全員で「書交」体験を実施。1分間名乗らぬまま自己紹介をし合い、お互いの印象を漢字1文字に表現していく。それを姫色紙にしたためプレゼントするのだ。
会場は身振り手振りで自分の業務や好きなことを話す参加者の笑顔であふれ、和やかな雰囲気に。感想を聞いたところ、「短い時間で自分の思いを言葉にするのは難しいと感じましたが、熱く語れば伝わると気付き、とても楽しめました」「相手の表情や言葉を深く奥まで考えることができて、とてもよい経験ができました」との意見が。さらにプレゼントされた書に対しては「素直にうれしい! の言葉が出てきました」「この漢字を引っ張ってもらえたんだと意外性もありました」と、短時間ながら大収穫の様子。
前田鎌利氏は「普段のお習字では文字を見た瞬間にうまいや下手を判断しがちですが、今回はどうでしたか? 言葉を選んだ理由を聞いてプレゼントされると、印象は違います。素直にうれしいですし、何か相手に伝えて渡すことはとても楽しいこと。これも一つの伝え方」と解説。そして「あなたにとっての伝えるとは?」と全員に問いかけ、「念は今の心。絶えず自分の気持ちを支配しているときに使うのが“念”。信念や念願、企業理念とビジネスでは念いが強いほど叶います」と説明。
ラストには孫正義氏の言葉「脳がちぎれるほど考えよ」を絡め、「考えずに言葉を渡しても響かない。今回の書交では考えたからこそ響いた。プレゼンテーションも同じ。企業理念には思いが入っていますので、所属している以上は絶えず企業理念を意識し、アウトプットしてほしい。そして『伝えることはあなた自身の思いを込めて、あなたの表現方法で時間をかけて伝えること』と締めた。
意識改革でおもてなしは変わる。今からできる心掛けをアドバイス
第2部はおもてなしを発揮するためには日頃からの心掛けなど、さらに踏み込んだパネルディスカッションを実施。第1部にて講演を行なった星野リゾートの菊池昌枝氏、書道家の前田鎌利氏、さらにVIP・送迎サービス部 部長の鷹羽郁子氏が「伝わるおもてなし」をテーマにトーク。
ANAブランドの3つの要素「Japan Quality」「Caring」「Sparkling」を再確認し、特に「Caring(おもいやり)」が講演の内容に近しいとし、あらゆる場面でお客さまに寄り添い、かつ臨機応変に接することで、ANAならではの安心や温かさを感じていただきたいという思いを伝えるため、意識するべき部分をそれぞれがレクチャーした。
前田鎌利氏は「相手の立場にどれだけ立てるかが大事です。そのうえで相手を観察し、タイプ分けする技術力と観察眼が必要かと。タイプ別に伝え方を変えるために日頃から観察は欠かせません」と解答。
鷹羽郁子氏は、「それぞれ価値観が人は異なりますので、それを知り観察をして相手を思うようにしています。また、余裕を意識的に作り、イレギュラーに対応できるよういつでも準備をすることが大事だと思います」と話した。
さらに相手に伝え、受け止めてもらうための若手へのアドバイスとして、前田鎌利氏は「場数をとにかく踏み、自分から機会を作り取りにいくこと。訓練をし、伝え方を学び、アウトプットしていくことで一気に変わってきます」と話した。また菊池昌枝氏は「緊張は誰しもがするものですが、実は自己中心的で評価を気にしているから。若手が緊張する場面に遭遇すると、心からお客さまのためにやってほしいと伝えるようにしています。するとハッと気付き緊張がほぐれることが多いです。もう一つお伝えするならば、おせっかいくらいがちょうどよいということでしょうか」と経験談を交えて語った。
なお、日本らしいおもてなしとは? の質問には前田鎌利氏は「その国の日常や人々と交流したときに文化を感じることが多いと思いますので、特別な瞬間を演出することも大事ですが、日常を大切にし、業務に還元し表現することが大事だと思います」と答えた。鷹羽郁子氏も「日本人のよいところはきめこまやかな心配りができる点ですので、そのような部分をさりげなく表現し伝えていくことで日本の航空会社らしさが出せるのでは」と話した。
なお、第2部の後半は星野リゾートがおもてなしの一つとして提供している「古典の舞台を旅館に」を実際に体験。会場には楽師の山田氏と舞姫・春日氏を迎えて琵琶と篳篥の音色と美しい舞を堪能することに。「越天楽今様」を鑑賞しながら、前田鎌利氏のパフォーマンスとのコラボレーションも行ない目の前で生み出される書を楽しんだ。
できあがった書には「Haneda's Pride」がダイナミックに書かれており、「皆さんの思いやビジョンがより実現されるようにと長めの線で書き上げました。皆さんがつながり、そして上に羽ばたいていくようなイメージで仕上げました。なお、愛の込もった言葉ですのでハートも描いています」とコメントしてくれた。
プログラムの最後には星野リゾートより「本ほうじ」「熟成ほうじ茶」「完熟ほうじ茶」が振る舞われ、ホッと一息つきながらパネラーとの直接話す機会も。約3時間に渡る今回のセミナーは、今すぐに意識し実践できるポイントが盛りだくさんの内容で、終了後の参加者の顔には充実の笑顔があふれていた。