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ローバー輸送を担うJALの成田ハンガーで開催された「au×HAKUTO MOON CHALLENGE」壮行会
「織ちゃん」姿の川栄李奈さんも登場
2017年12月20日 08:30
- 2017年12月19日 開催
12月19日にKDDIは「『au×HAKUTO MOON CHALLENGE』壮行会」を、JAL(日本航空)は「SORATO出発式/撮影会」を、成田空港で開催した。
世界初のロボット月面探査レース「Google Lunar XPRIZE」に挑戦する日本唯一のチーム「HAKUTO」の月面探査ローバー「SORATO」が、いよいよ打ち上げ基地のあるインドへ空輸されるのにあたり、メインスポンサーであるKDDIをはじめとしたパートナー企業が一堂に会し、成田空港にあるJALのハンガー内において壮行会を開いた。
HAKUTO代表の袴田氏が月面探査レース「Google Lunar XPRIZE」への挑戦内容を説明
壮行会では月面探査レース「Google Lunar XPRIZE」と、それに挑戦する月面探査ローバーSORATOについて、HAKUTO代表の袴田武史氏が説明した。
「Google Lunar XPRIZE」はGoogleがスポンサー、XPRIZE財団が運営を務める、民間組織による月面ロボット探査を競う総額3000万ドル(約30億円、1ドル=100円換算)の国際賞金レース。
レースのミッションは3つ。1つ目は月面に純民間開発ロボット探査機を着陸させること。2つ目は着陸地点からロボット探査機が500m以上移動すること。3つ目は高解像度の動画や静止画データを地球に送信すること。
以上を2018年3月末までにもっとも早く達成したチームが優勝となる。
このレースに世界から32チームが参戦。日本からは唯一となる「HAKUTO(白いウサギ)」が参加し、2017年に発表されたファイナリスト5チームには、このHAKUTOも選出された。
「ただ、平坦な道のりではなかった」と袴田氏は振り返る。2012年12月には、共同で活動していた欧州チームが休止。チーム単独で継続するか、ほかの道を模索するか大きな決断を迫られた際、チームで資金調達し、ほかのチームの着陸船に相乗りする形でプロジェクトを継続することにした。
その相手はチーム「インダス」。彼らと協議、実験を経て、打ち上げに向けてお互いに切磋琢磨をしてきたという。
12月19日、インダスが開発するランダーに同乗するため、HAKUTOはSORATOを成田からタイを経由してインドへ送る。SORATOの開発はまだ続いており、このあともソフトウェアの最終化、地上局の準備、ローバーの運用訓練など「やることはいっぱいある」が、3月末にミッションを達成するため、まずはインドのサティッシュ・ダウンからの打ち上げを目指す。
月面探査ローバーには2種類ある。操縦体験や展示などのイベント、PR用途で使用する「デモンストレーション用」のSORATO、実際に月面調査をする「月面探査用」SORATO。
「月面探査用」SORATOの仕様
全高:293mm(アンテナ含まず)/796mm(アンテナ含む)
全長:572mm
全幅:529mm
重量:4kg
2018年3月に向けたこの時期にも「月面探査用」には3つの変更点が加えられているという。
1つ目はローバー上面の面積を広げて月面での放熱性を向上させるため、全高を低くしたこと。2つ目は、銀蒸着面の削減。銀のコーティングをローバー全体に施す予定だったが、重量を抑えるために最低限の蒸着面にした。ホイール、ボディのサイド面、リンク部分の銀テフロンをしないことで、4kgという軽量ボディを実現している。3つ目は、アンテナを2本から1本に変更したこと。折りたたみ式の1本にして、地球から月への移動中は折りたたみ、月に降りてからの活動では伸ばすという仕様にした。安定した通信を確保するため、インダスやKDDIとも協議して、2.4GHz帯のみを通信に使用することにしている。
「このような仕様変更は、最終モデルとしては無謀と思われる人もいるかもしれませんが、我々としては優勝を目指し、可能な限りできる改良はしていく」と、仕様変更に踏み切った気持ちを語った。
説明の最後に、HAKUTOの活動拠点に大きな横断幕を置いて、多くの人にメッセージを寄せ書きしてもらった写真を紹介し、「皆さんのこの思いを胸に、我々はSORATOとインドへ移動し、そして月面走行へ向けて備えたいと思います」と語った。
オフィシャススポンサーのKDDIやパートナー企業からHAKUTOへの応援メッセージ
壮行会ではHAKUTOのオフィシャススポンサーになっているKDDIや、パートナー企業6社の代表者が、HAKUTOとSORATOへの応援メッセージを述べた。
月と地球間においての通信、映像転送1つとっても解決すべき課題は大変多かった
KDDI コミュニケーション本部長の山田隆章氏は、「ついに月面探査ローバーSORATOが打ち上げ基地のあるインドへ向かいます。月面において、月と地球間においての通信、映像転送1つとっても解決すべき課題は大変多く、プロジェクト全体としては計り知れないほどの困難に直面しましたが、それらを一つ一つ乗り越えて今があると思います。
苦難をともに乗り越えて寄り添ってきたパートナー企業各社の皆さまも、感慨ひとしおだと思います。
本プロジェクトでは、アンバサダーの皆さま、日本の多くの皆さまから多大なるご支援をいただきました。『SORATO』の名称公募の際には3万を超える応募があり、ローバーとともに月へ届けたいメッセージ、画像データが、プロジェクトを応援する多くの人たちから寄せられました。
日本初の月面探査の夢を実現すべく、SORATOは皆さんの熱い思いとともに月へ向かいます。これからインドにおいて、2018年3月末までのミッション達成に向けて最終の準備を進めてまいります。このプロジェクト成功を信じて、日本の皆さんと全力で応援し、盛り上げていきたいと思います」と述べて、挨拶を終えた。
大事な出発を日本航空の持てる最大限の力でサポート
インドへの経由地であるタイ・バンコクまでの空輸を担うJALからは、代表取締役 専務執行役員の大川順子氏が挨拶し、「いよいよ月に出発する日が近付いてまいりました。ここまでやり遂げられたチームHAKUTOの皆さまに、あらためて敬意を表したいと思います。そして最高のパフォーマンスで臨めますよう、この大事な出発を日本航空の持てる最大限の力でサポートさせていただきます。月からの便りを楽しみにしています」と述べた。
世界で初めて民間で月面走破するHAKUTOが、日本の宇宙開発に大きな足跡を残す
IHI 航空・宇宙・防衛事業領域 宇宙開発事業推進部 部長の並木文春氏は、「我々も宇宙開発という観点ではイプシロンロケットやH-IIAロケットなど、さまざまに取り組んでいますが、世界で初めて民間で月面走破をされるチームHAKUTOの皆さんが、日本の宇宙開発において大きな足跡を残されることに期待して、ワクワクしております。我々には未知のものに対する強い探究心があります。それをあらためて感じつつ、月面での成功をお祈りいたします」と述べた。
SORATOが月面を走る姿、それをしっかりこの目に焼き付けたい
メガネブランド「Zoff」を展開するインターメスティック 商品戦略本部 本部長の高島郷氏は、「我々がこのプロジェクトのサポートに加わってから約2年が経ちました。きっかけは『Zoff SMART』という非常に軽くて柔軟で壊れにくいメガネと、ローバーの車輪の素材が同じというきっかけでした。
いよいよ今日、SORATOが日本を飛び立つということで、このレースも最終局面を迎えるんだなと思い、非常にワクワクしております。HAKUTOのスローガン『「夢みたい」を現実に』、それを掲げて未来に向けて突き進んでいくHAKUTOの皆さま、我々はSORATOを応援し、SORATOが月面を走る姿、それをしっかりこの目に焼き付けたいと思います。がんばってください」と述べた。
SORATOが月から送信したデータを、我々が分析します
リクルートテクノロジーズ 執行役員CTOの米谷修氏は、「約2年前にこのプロジェクトについて話をうかがったときには、本当に月に行けるのかと実感が持てなかったのですが、この日を迎え、本当に月に行けるんだと、とてもうれしく思っています。
我々はビッグデータを活用したデータ分析分野で協力させていただきます。SORATOが月から送信したデータを、我々が分析します。ここまできたらぜひ優勝していただけたらと思います。がんばってください」と述べた。
スズキのクルマがインドでSORATOをお迎えすると思う
スズキ 常務役員の齊藤欽司氏は、「このプロジェクトへの貢献は、車体の軽量化技術、月面を走るための四輪駆動技術などについて多少のインプットをさせていただいて、ここまでやってきました。
インドで打ち上げられるということですが、スズキは1982年からインドに進出してクルマ作りをしています。年間で約160万台をインドで作り、売っています。
累積では1700万台ほどのスズキのクルマがインドを走っていますので、インドに行きましたSORATOを私たちのクルマがお迎えをすると思います。どうぞ会場の皆さんも安心していただいて、SORATOをお見送りいただけたらと思います」と述べた。
ジュラルミンケースに「VIP」と書かれたプライオリティタグを取り付け
続いてKDDIの山田氏、HAKUTO代表の袴田氏から、JALの大川氏へのSORATOの荷受け式が行なわれた。
袴田氏の「ローバーを無事に届けてください」という言葉に、大川氏は「はい、確かにお預かりしました。万全を期してお届けいたします」と答え、JAL CA(客室乗務員)の上松氏がSORATOを収納するジュラルミンケースに「VIP」と書かれたプライオリティタグを取り付けた。
川栄李奈さんが「織ちゃん」の姿で登場。HAKUTOへお守りを届ける
荷受け式のあとには、auのCMに出演している川栄李奈さんが「織ちゃん」の衣装で登場。織ちゃんこと織り姫が「月の住人」であることからこの衣装を選んだそうで、「刺繍と細かな作りのプリーツがこの衣装のお気に入り」という。
川栄李奈さんは、「月を見るとほっとするし、神秘的で夢があると思います。プロジェクトのことを聞いて、最初は想像できなかったのですが、地球から月面のものを操作するという、ここまで技術が進んでいるのがすごい」と語り、「とても『チャレンジブル』なこと」と表現した。
それを受けてHAKUTO代表の袴田氏は、「月というと日本人にとってなじみ深く、でも遠い存在を、HAKUTOで身近な存在にしたいと思います。このような月面探査を民間でやることは『チャレンジブル』なことで、我々もここまでくるのにさまざまな困難もありました。そうした困難も、多くのパートナー企業さま、サポーターの皆さまに支えられてここまできました」と答えた。
そしてHAKUTOへの贈り物として「楽しむ」と書いた成功祈願のお守りを「『楽しむ』ことが一番大切だなと思うので、この言葉を持っていってほしいなと思いました」と話し、袴田氏に手渡した。
袴田氏は「ありがとうございます。我々も困難なことがいっぱいありますが、ベースには『楽しむ』という言葉がありまして、このお守りを持って、これからもどんどん楽しんでいきたいと思います」と言い、お守りを受け取った。
そして最後に川栄李奈さんは、「いよいよ月へ出発ということで、たくさんの努力もプレッシャーもあったと思いますし、皆さんなら成功できると思っていますので、私たち日本のみんなが応援していますので、ゴールに向かってがんばってください」とHAKUTOへエールを送った。
SORATOが自走でボーディングゲートを通過
SORATOは成田発タイ・バンコク(スワンナプーム国際空港)行きのJL717便で空輸される。そのJL717便が出発する第2ターミナルの62番ゲート前では、JALによる「SORATO出発式/撮影会」が開かれた。
JALの大川氏は、2016年に次世代育成を目的に子供を対象としたプログラム「空育」の一環で実施した「HAKUTO スーパームーン観賞チャーターフライト」にHAKUTO代表の袴田氏が登壇したことなどを紹介しつつ、「私どもも日に日に月が、宇宙が近くなっているワクワクを感じます。SORATOが最高のパフォーマンスを発揮できるよう、今日は万全を期してお運びいたします」と挨拶した。
続いて袴田氏は、SORATOの重量4kgを実現するために苦労の連続だったが、パートナー企業やサポートの人たちのおかげでこの日を迎えられたことに感謝を述べ、「JALさんに運んでいただけるということで安心しております。そしてSORATOが月面に安心して行けるよう我々も努力してまいります」と述べた。
そしてJL717便の乗客の前で、SORATOがボーディングゲートを通過するデモンストレーションが披露され、出発式は終了。JL717便は定刻より少し早い12時37分に、経由地に向けて出発した。このあとバンコクで乗り換え12月19日中(現地時間23時55分予定)にはインド・バンガロールに到着する予定となっている。