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首都高、定例会見で2017年度工事進捗と新技術を説明

羽田線、晴海線の進捗やPAのトイレ向け「短時間駐車マス」など

2017年9月20日 開催

2017年度工事の進捗と首都高が開発した新技術について説明した

 首都高速道路は9月20日、本社で定例会見を実施した。今回の議事は7項目にわたるもので、首都高速道路 代表取締役社長の宮田年耕氏が内容の説明を行なった。

高速1号線羽田線(東品川桟橋・鮫洲埋立部)更新工事の進捗状況

 高速1号羽田線は2016年2月より上り線を迂回路に切り換える工事を行なってきたが、今年の9月14日に迂回路の設置が完了。

 次は今ある上り線を作り換えるとのことだが、更新後の道路は、旧道路と通る位置が異なる。そこには高速1号羽田線をまたぐ大井JCT(ジャンクション)があり、道路の位置が変わるとJCTを支える桁の位置が合わなくなる。そこで工事では桁を撤去して新たに作り直すことも行なうということだ。これらの更新作業は2020年東京オリンピック・パラリンピック前までに完了することが目標。更新範囲は約1.9kmである。

首都高速道路株式会社 代表取締役社長 宮田年耕氏
高速1号線羽田線(東品川桟橋・鮫洲埋立部)更新工事の進捗状況の解説図

2017年度完成予定工事の進捗状況

 本年度完成予定工事についての説明で、最初に紹介されたのが晴海線。現在、晴海線は豊洲出口まで開通しているが、この路線はオリンピックの選手村の建設が予定されている晴海埠頭まで伸びる予定で工事が進められている。晴海運河を渡る1.2kmは、2017年8月にゆりかもめの高架橋をまたぐ形の桁の架設が完了し、今は橋面工、晴海出入り口整備工が実施されている。

晴海埠頭へ伸びる晴海線の工事状況

 続いては中央環状線の機能強化について。板橋熊野町JCTは2車線の道路が2つ交わり、交わったあとが3車線だが、利用者から合流後は4車線であるべきという指摘も多かったので、橋脚を広げる大工事を行ない合流後を4車線化した。

 この工事は2017年7月に西側の拡幅が完了し、現在は東側の拡幅工が実施されている。今年度の工事予算は120億円とのことだ。

 堀切・小菅JCT間に関しても、改良前は外回りが4車線なのに対して内回りが3車線であったが、改良後は内回りも4車線化された。この拡幅によって6号向島線と合流した区間約560mが4車線になり、交通の流れがスムーズになった。また、工事に伴い小菅出口が長期に渡り閉鎖されていたが、2017年6月23日に小菅出口通行止めが解除されている。この区間の工事予算は96億円とのこと。

「2車線と2車線の道路が交わっているのに3車線しかない」という状況について、利用者から指摘が多かったというJCT部の車線拡幅工事

快適なPAに向けた取り組み

 首都高のPA(パーキングエリア)の利用状況は、食事などの休憩でなくトイレ利用が多いという特殊性がある。そのため長時間駐車しているクルマがあるとトイレを利用したい人が駐車できないケースがある。この問題を解決するため、南池袋PAで「短時間駐車マス」を設けるという先行整備を行なったところ、一般駐車マスの駐車時間が平均15分31秒だったのに対して、短時間駐車マスの駐車時間は平均5分02秒と短縮された。

 この結果を受けて、短時間駐車マスの設定を全面的に展開することが決定。小型車用駐車マスの一部(トイレ利用を想定しているのでトイレ棟に近い駐車マス)に短時間駐車マスを設定するだけでなく、短時間駐車マスの入り口には視覚的に判別できるマークを配置していく。駐車台数が50台未満のPAにおいて優先的に整備していくということだ。

 トイレの設備に関しては、洋式便器を好むPA利用者が増えていることと、オリンピックも近いので海外からの利用が増えることを踏まえて、便器の洋式化を進めていく。駐車台数が50台未満のPAはすべて洋式化したいとのことだった。なお、50台以上のPAでは和式便器を1基以上は設けるとのこと。

 そして、PA場内の分煙化について。受動喫煙を防止するために周囲から区画された喫煙場所を屋内に設置するとのことだが、都議会から新しく条例が出される予定なので、それを見ながらいろいろ対応を考えていくということだった。

特殊性がある首都高のPAをニーズに合わせて快適にする計画について

スマートインフラマネジメントシステム(i-DREAMs)の運用について

 道路の効率的な維持管理のため、GIS(地理情報システム)プラットフォームに点検データ、センシングデータ、構造諸元、図面、交通量データなどいろいろなデータを取り込むという、革新的な「スマートインフラマネジメントシステム(i-DREAMs)」を7月から首都高グループの310kmの路線で開始している。

 このシステムは今後、損傷推定AIエンジンを採用することで劣化、損傷、補修補強候補を自動検知できるようになるという。そこで得た結果はエンジニアが最終判断を行なうというものである。

 運用を開始している主な機能として紹介されたのは、GISプラットフォームから構造物の管理に必要なすべてのデータベースにアクセス可能になり、それらを活かした結果、調査、設計、および施工の効率化を図れているという。

 さらに道路の状況を掴む技術として、レーザースキャナや全周囲カメラを搭載した計測車両(MMS)について説明があった。この車両は走行しながら110万発のレーザーを照射し、効率的に3次元の点群データを取得。そこで測定した3次元点群データの相対変位を見ることで構造物の状況が分かるとのこと。

 この技術を取り入れたことで接近が難しい場所でも構造物の変状、浮き、剥離などが把握でき、任意の場所の断面CAD図および3D解析モデルの作成が容易になっただけでなく、劣化診断や予測解析も行なえるようになったという。

 また、この機能を使うと例えば首都直下の地震が発生した場合でもMMSによってパトロールをすることで被害状況がすぐに掴めるということだった。

スマートインフラマネジメントシステム(i-DREAMs)についての解説
レーザースキャナや全周囲カメラを搭載した計測車両(MMS)を使うことで、走行しながら3次元測量可能な点群データが取得できる
大師JCTでの測定データ。写真のように見えるが点群の集合体である。3次元測量空間なので、現地にいかなくても正確な調査が行なえるようになった
すでにある橋脚の隣に新しい橋脚を立てる際に使用したデータ。狭い空間の中でどういった構造が当てはまるのかが検討できる
損傷推定AIエンジンやICTを使った技術は確立できた段階でシステムに順次取り組んでいく。また、災害時の情報収集、共有、配信、復旧計画を含めた総合防災情報システムを来年度運用開始に向けて開発して、i-DREAMsのプラットフォームに搭載する予定
i-DREAMsの概要
11月21日~22日に東京ビッグサイトで開催するハイウェイテクノフェア2017に首都高グループも出展

開発した新技術の活用状況

 首都高は耐久性と環境負荷軽減機能に優れた2つの舗装技術を開発していて、これらの活用状況についての解説があった。

 まずは「超速硬低弾性ポリマーセメントモルタル」というものから。通常、首都高の高架橋はアスファルト舗装の下にコンクリート床板があるが、アスファルト舗装を打ち換えるときはコンクリート床板もカンナがけのように少しずつ削られるので、この修復が必要になっていた。そこでコンクリート板を修復しつつさらに耐久性を高める基礎材料が「超速硬低弾性ポリマーセメントモルタル」だ。

 特徴として、材料自体はセメントをベースにしているが従来のものにはない「しなりやすさ」を持っているので、クルマが通った際、クルマの重みによって起こるたわみの影響を受けにくいのが1つ。材料の作り方もユニークで、通常のモルタルはコンクリート粉と水を混ぜて時間をかけて練って作るのに対して、「超速硬低弾性ポリマーセメントモルタル」ではホースの中で粉を時速200kmで飛ばしているところに水を吹きかけるという技術を使う。こうすることで一瞬でモルタルができあがるということだ。この技術は高速1号線と3号渋谷線の一部で採用実績がある。

 次はロードノイズ低減効果に優れた「高耐久型超低騒音舗装」だ。ロードノイズ低減を狙った低騒音舗装はこれまでもあったが、今回開発した舗装ではさらに5dB程度の路面騒音の低減を実現。加えて、構造を石の結合を強くした新バインダ(アスファルト)としたことで、アスファルト自体の耐久性が向上。痛みによってアスファルトの石がはがれてしまうことも軽減された。

 ちなみに路面騒音にはクルマが走行したときにタイヤと道路から出る音のほか、エアポンピング音というものがある。エアポンピング音とはタイヤの回転時に巻き込んだ空気が路面にあたったときに逃げ場がなくなり、路面とタイヤの間で破裂するような音を出すもののことで、従来の低騒音舗装では空気が逃げられるようにアスファルトの粒子を粗くしてエアポンピング音の発生を抑えていた。しかしアスファルトの粒子が粗い分、石同士が点でしかつながっていない状態でもあったので、通行量が増えてくるにつれて接点に負荷がかかりはがれて飛んでしまうことがある。

 そこで高耐久型超低騒音舗装では空気の逃げ場を確保しつつ、石の粒を小さくして接点の面積が広くなるようにしているのが特徴。耐久性は従来の低騒音舗装に比べて約1.5倍向上しているという。この舗装は首都高全線で順次採用されているが、3号線の渋谷から谷町では上下区間に高耐久型超低騒音舗装が使われているとのこと。

首都高が開発した新技術が2つ紹介された。1つは「超速硬低弾性ポリマーセメントモルタル」でもう1つは「高耐久型超低騒音舗装」というもの
サンプルは左から一般的なアスファルト、低音舗装、高耐久型超低音舗装
一般的なアスファルト
低音舗装。隙間が多く空気の逃げ場があるが石同士のつながりが弱い
高耐久型超低音。石を小さくして結合を強化。空気の逃げ場も設けている。騒音レベルは5dBほど低減し、耐久性は約1.5倍になったとのこと
最後に通行台数の状況が公開された。5月から毎月、前年比を超える通行量になっている