ニュース

奈良の東大寺で環境光発電ビーコンを使った観光ガイドの実証実験

iPhone/iPadで場所に対応じたビデオガイドを受信可能

2016年11月9日 開始

東大寺の南大門

 ソフトバンクグループのリアライズ・モバイル・コミュニケーションズと日立製作所、サイバー総研は、11月9日から奈良県の東大寺において、電源供給が不要なメンテナンスフリーのBluetoothビーコン「クリーンビーコン」を使った観光ガイドシステムの実証実験を開始する。

 この実証実験は、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトで、奈良県の協力によって行なわれる。期間は11月9日から2017年3月末まで。iPhoneとiPad向けに専用アプリ「Nara Audio Guide」が無償配信され、誰でも利用できる。ただしアプリやコンテンツは訪日外国人向けで、日本語には対応しない。

実証実験で使われているクリーンビーコン

 今回の実証実験では、日立製作所が開発した光発電パネルを一体化したBluetoothビーコン「クリーンビーコン」が用いられる。通常のビーコンは充電池やボタン電池、あるいは有線給電で動作するが、今回の実証実験で使われているクリーンビーコンは環境光で発電できるため、メンテナンスや配線が不要となる。

 Bluetoothビーコンは、通信範囲内に入ったスマートフォン上のアプリに対し、そのビーコン固有のIDを送ることで、そのビーコンの範囲内に入ったことを知らせることができるというデバイス。電波の届く範囲は10~20m程度(もっと狭くすることもできる)で、その精度での位置情報を屋内外問わず提供できる。

 実証実験では、専用アプリ「Nara Audio Guide」をインストールしたiPhone/iPadがビーコンの圏内に入ると、アプリが通知を発し、アプリを起動するとその場所に応じたビデオガイドを視聴できるというシステムになっている。

電灯柱に設置されているクリーンビーコン。景観に配慮して目立たない色になっている

 ビーコンは東大寺の南大門、大仏殿前、二月堂、法華堂の4エリア、屋内外に全22台が設置されている。ビーコンの有効範囲は10~20m程度で、たとえば南大門や大仏殿のビーコンは参道周辺に設置されているので、普通に移動していればビーコン圏内に入ってアプリに通知されるようになっている。今回は筆者が普段使っているiPhoneなどを使って試したが、Bluetoothはやや不安定な特性もあるので、範囲内に入ってもなかなか通知が来ない場面も見られた

 今回の実証実験で、アプリ「Nara Audio Guide」で視聴できるビデオは、東大寺の全体概要、南大門、大仏殿、二月堂、法華堂の5つで、このうち東大寺の概要についてはどこにいても視聴できるが、ほかの4つはビーコン範囲内でしか再生できないようになっている。

南大門近くの電灯柱に設置されているクリーンビーコン。手が届かない高さ
こちらも南大門の近く。看板の裏面など、動線からは死角になる位置が多い
アプリの案内ポスターも貼られていたが、景観配慮の地味な配色
南大門近く。写真中央左の電灯柱も設置されているが、このくらいの距離だと目立たない
二月堂は休憩所内にも設置。画面中央の黒い四角いデバイスがクリーンビーコン
ビーコンを検知するとiPhoneに通知が入る

 また、東大寺の概要のビデオのみ、アプリ内のローカルデータとなっているが、ほかの4つに関してはストリーミングとなるので、視聴にはデータ通信が必要となる。アプリおよびビデオは英語・中国語・韓国語の3カ国語のみで、日本語は用意されていない。

 このアプリはこれまで春日大社で行なわれていた実証実験(そちらは電池式ビーコンを使用)のものと共通で、春日大社のガイドビデオも視聴できる。

 アプリは現時点ではiOS(iPhoneおよびiPad)のみで、Android版は用意されない。技術的にはAndroidでも同様のシステム構築が可能といい、単にアプリを開発していないだけとのことだ。

Apple Watchを使っていれば、Apple Watchに通知が入る
iPhoneで動画を視聴できる。ただしストリーミング形式なので消費するパケット通信量に注意
アプリのトップ画面。左は従来から提供している春日大社での実証実験向けのコンテンツ
今回の実証実験向けの東大寺のコンテンツ。基本情報以外はビーコン範囲内でないと再生できない

メンテナンスフリーの「クリーンビーコン」

屋外用クリーンビーコン

 今回使われているBluetoothビーコン「クリーンビーコン」は、日立製作所が実証実験のために作ったもの。量産品ではなく、現段階では販売される予定もない。

 実証実験では、水没にも耐えられる防水仕様の屋外用ビーコンと、よりコンパクトな屋内用ビーコンの2種類が用意されていた。

 屋外用ビーコンは防水ケースを使っているためやや大きな筐体となっているが、実際には筐体内部に空洞部分が多く、量産となった際には、専用筐体の製作や、内部配置の最適化により、かなり小型化が見込めるという。

 屋外用ビーコンは明るい太陽光が当たるため、発電効率が高く、耐久性のある単結晶型の発電パネルが用いられている。実機には3枚の小さなパネルが配置されていたが、実際にはこれは1枚でも動作できるレベルのものだという。

屋内用のクリーンビーコン

 一方の屋内用ビーコンは、照度の低い光でも発電できるアモルファスシリコン型を採用しているが、同パネルは発電効率が低く、そもそも屋内だと環境光も弱いので、筐体の一面いっぱいにソーラーパネルが貼り付けられている。

 また、従来の光発電パネル内蔵のビーコンだと、低照度環境では再起動できなかったり、効率的に蓄電できなかったりしたが、クリーンビーコンは日立が開発した「環境発電エネルギーマネジメント回路」を用いることで、200ルクス(窓から太陽光が入る室内程度)の明るさでも蓄電・稼働が可能になっているという。

 いずれのビーコンも、蓄電には二次電池(リチウムイオン電池など)ではなく、キャパシター(コンデンサー)を用いている。キャパシターは電池と同様に電気を蓄える機能があるが、電池と異なり化学変化を伴わないため、充放電による劣化がほぼない。クリーンビーコンは昼間に充電して夜間に放電するサイクルを繰り返すため、二次電池だと1年と持たないという。

幅広い利用を視野にプラットフォーム化を目指す

システムの説明をするリアライズ・モバイル・コミュニケーションズのシニアマネージャーの藤森和香子氏

 NEDOでは今回の実証実験を通じ、このようなBluetoothビーコンを使った位置情報サービスのためプラットフォームを構築・公開し、ビーコンを使ったサービスの普及拡大を狙っている。

 たとえば現状では、ビーコンを使った位置連動サービスを提供するために自前でビーコンを設置したとしても、そのビーコンはその位置連動サービスでしか使えない。しかし個々のビーコンの情報(IDと位置座標など)を共有・管理するオープンなプラットフォームを構築すれば、設置したビーコンを他者の位置連動サービスでも使ってもらったり、サービス提供者が自前でビーコンを設置していない場所でもサービスを提供したり、ビーコン設置をビジネスとしたり、施設管理者がビーコンを設置して位置連動サービスを誘致したりと、さまざまなレイヤーで分業・協力できる体制となる。

 また、ビーコンなどの仕様ガイドラインも制定することで、このプラットフォームに加えられるビーコンをさまざまなメーカーが作れるようにし、必要なビーコンをさまざまな製品から設置者が適切に選べるような環境も整えていく。