旅レポ
関東発、「北海道&東日本パス」で行く北海道と東北を巡る鉄道旅行(前編)
(2015/12/29 00:00)
毎年、春、夏、冬の3シーズンに発売される「青春18きっぷ」。JR全線の普通列車・快速列車が1日乗り放題になる、旅行に便利な切符だ。2015年8月には、その青春18きっぷを利用した日帰り旅行の記事を紹介した。
この青春18きっぷとほぼ同じシーズンに発売されている「北海道&東日本パス」という切符がある。こちらはJR北海道とJR東日本管内の普通列車と快速列車が乗り放題になる切符だ。利用期間は2015年12月10日から2016年1月10日まで。ただし、販売期間は2016年1月4日までなので、年始の旅行に使う場合は注意を要する。
料金は1万290円で利用開始日から7日間有効。有効期間は青春18きっぷよりも2日間長いが、青春18きっぷのように1日単位で使用することはできず、複数人で利用することもできない。だが1日あたり1470円と、東北や北海道などをお得に旅行できる切符だ。
この切符の魅力はほかにもある。それは、青春18きっぷでは利用できない、青い森鉄道線、IGRいわて銀河鉄道線、北越急行線、富士急行線も利用できることだ。それだけではなく、急行券を購入すれば急行列車に乗車でき、新青森~函館間では自由席特急券を購入することで特急白鳥号、スーパー白鳥号の自由席を利用することもできるので、特に東北や北海道を旅行する場合には便利に利用できるだろう。
今回は、関東からこの「北海道&東日本パス」を利用して北海道と東北をお得に周遊する旅レポをお届けしたい。
初日は東北本線を一気に北上。目指すは青森
かつて、関東から東北、上越方面へ向かう列車の始発駅だった上野駅。今年の3月に上野東京ラインが開業して早9カ月。静岡県から東京を通過して群馬県や栃木県まで列車が直通するようになった。かつて石川啄木が「ふるさとの 訛なつかし 停車場の 人ごみの中に そを聴きにゆく」と歌った上野駅。啄木が上京して寂しくなった時、ふるさとのなまり言葉を聴くことができる上野駅に行き、寂しさを紛らわして安堵できたという気持ちを歌ったものだが、東北新幹線が東京駅発着となり、上野東京ラインが開通した現在では、その停車場の面影は薄れかけている。今回の旅を計画している時、当初は上野駅発で旅程を考えていた。しかし上野東京ラインが開業して便利になった現在。神奈川県在住の筆者の旅の始まりは横浜駅から。旅の初日は横浜から青森を目指すことにする。
横浜駅6時15分発、上野東京ライン宇都宮線直通宇都宮行きの普通列車に乗車した。冬至の直前ということもあり、まだ夜も明けきらない空の下、列車を待つ。横浜駅から宇都宮駅までの所要時間は約2時間だ。この列車の始発は国府津駅5時28分発で、途中の東京駅を6時42分、上野駅を6時49分、大宮駅を7時13分に発車するので、首都圏各地からJRや私鉄の始発電車に乗ると無理なく利用できる列車であろう。
上野東京ラインの列車は4号車と5号車にグリーン車自由席が連結されており、北海道&東日本パスでもグリーン券を購入すれば利用することができる。首都圏エリアの自由席グリーン料金は距離制で「50kmまで」「51km以上」の2種類。平日と休日で料金が異なり、平日料金は50kmまでが770円、51km以上が980円。土曜、休日と12月29日~1月4日はホリデー料金で50kmまでが570円、51km以上が780円となっている。なお車内で購入すると260円高くなるので、乗車前に駅の券売機かホームにあるSuicaグリーン券券売機で事前に購入しておこう。グリーン車を利用することで2時間を快適に移動することができることだろう。
多摩川を渡ると、空がだんだんと明るくなってきた。東京駅、上野駅と駒を進め、荒川を渡った頃、車内に低い冬の日差しが射し込んできた。
列車は定刻に大宮駅を発車。東北本線を北上する。大宮を過ぎると、高い建物がだんだんと少なくなってくる。宇都宮駅には定刻の8時18分に到着。次に乗り継ぐ黒磯駅行き普通列車は向かい側のホームから発車するようだ。宇都宮駅8時20分発黒磯駅行きの普通列車は4両編成で、ホームの中程に停車していた。現在はスマートフォンアプリを利用することで乗車番線や乗り換えに便利な号車まで表示されるものもあるので、事前に調べておくと効率よく乗り換えることができることだろう。
宇都宮から黒磯まではおよそ50分。東京を出発したときは、はるか地平線の彼方に沈んでいた山々が、ここまで来るとぐんと近くなり、車窓には畑が広がっている。この日の朝は冷え込んだ関東地方。車窓を眺めていると収穫を終えた田んぼが霜で白く染まっていた。黒磯駅には定刻の9時10分に到着。ここから郡山へ向かう次に乗る列車が発車するまでは28分あるので、お手洗いを済ませて、改札の外にある売店で飲み物やお菓子を調達しておこう。
かつて、JRが国鉄だった時代は、上野駅始発で東北本線を北上し、仙台や盛岡、青森まで直通運転される列車がたくさんあったが、それは東北新幹線が開通する前の話。現在はターミナル駅ごとに普通列車が整理され、新幹線や特急列車からの乗り継ぎが便利になっているようだ。黒磯駅にはかつて普通列車がにぎわっていた頃に使われていたサボ(行先標)が飾られていた。
黒磯駅9時38分発の列車に揺られ、およそ30分ほどすると白河駅にさしかかる。奥州三関の1つに数えられ、都から陸奥国へ通じる東山道の関門も、鉄道ではあっという間だ。黒磯駅から仙台駅までは、途中福島県の郡山駅、福島駅、宮城県の白石駅で計3回の乗り換え。朝夕には黒磯駅から仙台まで直通する列車もあるが、日中の時間帯はこの3駅で乗り換えるのが一般的だ。現在の各駅停車の旅ではこの3駅が関門かもしれない。
白石駅から仙台駅までの列車で4人掛けのボックス席に座っていたところ、2人組の老婦人の旅行者がやってきた。2人とも旅好き、そして話し好きなご婦人で仙台に到着するまでのおよそ1時間、旅の話で盛り上がった。話を聞くと、なんと関東から青春18きっぷを利用して2人で旅行しているのだという。そんなお2人の目的地は、青森県にある古遠部温泉という秘湯。携帯電話も圏外という山間部にある一件宿の温泉で、泉質がとてもよいという。1日で向かうと大変なので、盛岡で1泊して向かうのだとか。1人は20代の頃から全国各地を旅しているらしく、いろいろな旅の思い出を話してくれた。「各駅停車の旅だから、このゆっくりとした時間の流れだから、こうやってお話できるのよね」という言葉が印象的だった。筆者ももちろん旅行が好きなので、飛行機や鉄道、バスなどいろんな交通機関を使って、いろんなところへ旅行する。でも、こうやって話が盛り上がるのは、普通列車のボックスシートがほとんどだ。たまたま同じ列車の同じ席になり、顔を向かい合わせた旅人同士ならではだろう。今回教えてもらった古遠部温泉が、いつか筆者の旅の目的地になるかもしれない。各駅停車の旅にはそんなワクワクが詰まっていると感じる出来事だった。
仙台駅では次の列車までおよそ30分の待ち時間があった。構内にあった立ち食いそば処で昼食を済ませ、仙台駅13時55分発の列車に乗り込む。進行方向右側の席に座り発車を待つ。先ほど話をしたご婦人もどうやら同じ列車に乗るようだ。関東から離れるに連れて、ずっと同じ列車に乗っている人が目に留まるになる。きっと彼らも旅人だ。そして分岐駅を通るごとに、彼らが少なくなっていく。それぞれの目的地に向けて旅立っていくのだろう。
仙台を定刻に出発して、20分ほど列車に揺られると右手に風光明媚な松島の風景が見えてくる。今となっては東北本線で唯一海が見える区間であろう。下車してゆっくりと観光したいところだが、ここは先を急ぐことにする。定刻通り14時39分に小牛田駅に到着。小さな駅だが、東に石巻線、西に陸羽東線と分かれる要衝の駅だ。
ホームにあった売店で3時のおやつとお茶を購入して、14時51分発一ノ関行きの列車に乗り込む。東北本線の宇都宮より北を走っている列車は、駅に到着してもドアは自動で開かない。乗客がドアの横にあるボタンを押してドアを開けるのだ。寒さが厳しいこの時期、車内の保温に欠かせないシステムになっている。列車に乗る時もドア横のボタンを押してドアを開き、乗車後は車内のボタンを押してドアを閉める。地元の利用者にはこのシステムが根付いているようだ。車内に入ると暖かな安堵感に包まれる。50分ほど列車に揺られ一ノ関駅に到着。小牛田駅と一ノ関駅では階段を上がって跨線橋を渡り隣のホームに停車している列車へと乗り換える。ここから盛岡まではあと1時間30分だ。
盛岡駅に到着したのは17時16分。横浜を出発したのが6時15分だから、実に11時間が経過している。8回列車を乗り換えてようやく岩手県の県庁所在地である盛岡市までやってきた。盛岡駅では次の列車まで約1時間の待ち時間があるので、ここで夕飯を食べることにしよう。盛岡の名物といえばなんだろうか。盛岡冷麺が有名だが、それはもう少し暖かい時期にいただきたいものだ。そこで今回は盛岡じゃじゃ麺を食べることにした。
盛岡じゃじゃ麺は、わんこそば、冷麺と並んで「盛岡三大麺」と称される麺料理の1つ。中国東北部の「炸醤麺(ジャージアンミエン)」という料理がルーツだが、終戦後に盛岡で日本の食材を使い、盛岡の人になじむようアレンジを繰り返すうちに「盛岡じゃじゃ麺」として独特の形を完成させたと言われている。中華麺ではなく、コシのあるうどんやきしめんのような独特な麺の上に、肉味噌とキュウリやネギをのせて、ラー油やショウガ、ニンニクなどのスパイスを加えて食べる。今回は盛岡駅近くにある「HOT JaJa」というお店を訪れた。なんとも暖まりそうなネーミングのお店だ。
茹でたてアツアツの麺とスパイシーな肉味噌を、ぐしゃぐしゃにかき混ぜて食べるのが、じゃじゃ麺の流儀。好みで酢やラー油などを加えても美味しく食べられる。ショウガやスパイスがたっぷりと使われているので、体の芯から温まってくる。麺を食べ終わったあと、テーブルにある生卵を落とし、卵と溶いて店員さんに渡すと鶏蛋湯(チータンタン)というスープを作ってもらえる。鶏蛋湯は素朴な味わいで、多くの店では少し薄味で提供され、肉味噌や塩、こしょうなどで自分好みに味に仕上げていただく。鶏蛋湯にもショウガがたっぷり入っていて、食べ終わる頃には汗だくに。まさに寒い冬にぴったりのグルメだった。
盛岡じゃじゃ麺HOT JaJa
所在地:岩手県盛岡市盛岡駅前通9-5 佐川ビル1階
TEL:019-606-1068
営業時間:10時00分~24時00分(年中無休)
URL:http://www.pyonpyonsya.co.jp/shop/shop11
初日の旅もいよいよ終盤。盛岡からはIGRいわて銀河鉄道と青い森鉄道を乗り継いで、初日の目的地である青森駅まで向かう。IGRいわて銀河鉄道と青い森鉄道の境界駅は目時駅だが、青森方面との列車の接続は八戸駅で行なわれる。盛岡駅のIGRいわて銀河鉄道の改札はJRの改札とは異なり、1階の別の場所にあるので、乗り換えの時は注意が必要だ。盛岡駅18時15分発の列車は家路についた学生やサラリーマンなどでなかなか混雑していた。空いていたロングシートにおしりを押し込み一息つく。途中好摩駅、二戸駅と大きな駅ごとに乗客を降ろし、八戸に着く頃には車内はまばらになっていた。
初日最後に乗る列車は八戸駅20時24分発青森行きの普通列車。八戸から青森まではおよそ1時間30分の道のりだ。八戸から乗車した列車の車内は片側がロングシート、反対側がボックスシートになっている面白い配置だった。青い森鉄道の車両にはイメージキャラクターのモーリーが描かれたかわいいデザイン。タオルハンカチやクリアファイルなどのオリジナルグッズも販売されている。通販もされているようなので気になる人は青い森鉄道のWebページをチェックしてみよう。
駅構内の売店はすでに閉まっていたが、改札の外にコンビニで買い物をしてホームに戻ると、座席はほどよく埋まっていた。空いているボックスシートに腰を下ろし、ほどなくして列車は出発した。車窓には時折踏切の灯りが流れていくが、駅周辺を過ぎると真っ暗な中を北へと向かいひた走る。定刻通り22時3分に青森駅に到着。この日は青森駅前のホテルに1泊する。
青函トンネルを越えていよいよ北海道へ上陸
2日目、いよいよ青函トンネルを通過して北海道へと向かう。
北海道&東日本パスでは新青森駅~函館駅間内を相互発着する列車に限り、自由席特急券を購入することで、特急列車の自由席を利用することができる。青森駅~函館駅の自由席特急券は1730円だ。2日目最初に乗る列車は青森駅9時29分発特急スーパー白鳥95号。この列車に乗車して北海道を目指すことにした。
青森駅を定刻に発車した列車は程なく見える陸奥湾を右にして北上を続ける。蟹田駅を出発すると車窓に立派な高架の線路が飛び込んできた。2016年3月24日に開業する北海道新幹線の線路だ。北海道新幹線が開業する3日前の3月21日をもってスーパー白鳥号、白鳥号などの青函トンネルを通過する在来線列車は運行を終了し、北海道新幹線にその役目を渡す。しかし、青函トンネルは在来線貨物列車も一緒に通過するため、在来線の線路も残されている。そのため、隣を走る上りの線路には3本のレールが敷かれ、しばらくの間は、レールの幅が違う在来線と新幹線が共存する区間となる。
青函トンネルの前後には、本州側、北海道側ともにいくつかのトンネルが連続している。そのため、いつ青函トンネルに入ったのか非常に分かりにくい。あまりにトンネルが多いので、うっかり青函トンネルに入る決定的瞬間を見逃してしまったという話もよく聞く。でもご安心を、特急スーパー白鳥号や白鳥号の各車両にある電光掲示板では「まもなく青函トンネルに入ります」という案内が表示されるようになっており、その前後に通過するトンネルの名称も含めてかなり詳細に案内が表示されるようになっている。車内の電光掲示板と外の風景を凝視していると、10時17分に青函トンネルに入った。トンネル内は湿度が高いためか、窓ガラスが曇ってしまうが、トンネルの中なのでさほど影響はないだろう。元竜飛海底駅跡地を通過して一気にトンネルを下っていく。青函トンネルの中は1本のロングレールが繋がっているので、「ガタンゴトン」という継ぎ目の音は聞こえず、「シャァーッ」という金属音がずっと続き、まるで滑り降りるかのように北海道へと向かう。10時28分にトンネル最深部を通過し、今度は北海道へ向けてトンネルを駆け上がっていく。10時42分に青函トンネルを出て北海道に上陸。トンネルを抜けるとそこは雪国だった……と思ったら今年はちょっと状況が違うようだ。12月のはじめに一度積もった雪も、暖冬の影響ですべて溶けてしまったらしい。定刻の11時40分、冷たい雨が降る函館駅に滑り込むように到着した。
函館の隠れたグルメを味わう
函館に着いたのはちょうどお昼時、お昼ご飯になにを食べようか悩むところだ。函館には美味しい食べ物がたくさんある。駅すぐ近くにある朝市で海鮮丼を食べようか? 函館ラーメンも寒いこの時期では恋しくなるグルメだ。そんなことを考えながら赤レンガ倉庫群のあたりまで散策していると、赤レンガ倉庫群の向かいに「ラッキーピエロ」があるではないか。
ラッキーピエロとは函館地区のみに17店舗展開している地元密着型のハンバーガーチェーン店で、地元では「ラッピ」という愛称で親しまれている。店舗ごとにテーマが違う装飾が特徴的で、一度訪れると強く印象に残ることだろう。「地産地食」を掲げ、肉や米は北海道産のものを、野菜類は函館周辺で栽培されているものを使うなど地元の食材にこだわり、ハンバーグも冷凍を使わないというこだわりをもっているお店だ。
海鮮はこの先でも食べることができるが、ラッピは函館でしか味わうことができない。というわけで、この日のランチはラッピに決めた。この日訪れた「ラッキーピエロ マリーナ末広店」は2015年4月7日にオープンしたばかりのお店。徒歩2分ほどの場所には1号店の「ベイエリア本店」もあるが、今回は新しくオープンしたこちらのお店で海を見ながらランチを楽しむことに。ラッピの一番人気は「チャイニーズチキンバーガー(350円)」。甘辛いタレを絡めた鶏の唐揚げをレタスとマヨネーズと一緒にパンに挟んだもので、全国ご当地バーガーグランプリを獲得したこともあるほどの実力。
だがラッピの実力はハンバーガーだけに留まらない。カレーライスやオムライス、鉄板ハンバーグステーキ、カツ丼、焼きそば、ピザなどハンバーガー以外のメニューも充実している。取り扱っているメニューは店舗ごとに異なるので注意が必要だが、マリーナ末広店ではいずれの商品も取り扱っているようだ。
どれにしようか迷うところだが、今回はチャイニーズチキンオムライス(750円)と社長大好物と銘打ったラッキーエッグバーガー(390円)をオーダーした。ラッピのメニューはどれもボリューム満点。オムライスは女性なら2人で1つでもいいかもしれない。食いしん坊の筆者は、うっかりハンバーガーも注文してしまったが、食べきれずにお持ち帰りすることに。
ラッキーピエロ マリーナ末広店
所在地:北海道函館市末広町14-17
電話:0138-27-5000
営業時間:10時00分~24時30分(年中無休)
URL:http://luckypierrot.jp/
函館から小樽までは「山線」経由で
函館14時26分発長万部行きの列車に乗って、2日目の目的地、そしてこの旅の折り返し地点である小樽を目指す。ここからは電車ではなく、この旅初めての気動車だ。「カランカラン」とディーゼルエンジンを鳴らしながら出発の時を待っている。
函館駅を出発して五稜郭駅を過ぎるまでは函館市内の住宅地が続くが、その次の桔梗駅を過ぎると建物もまばらになってくる。25分ほど走ると、車窓左手にまっすぐに伸びる高架の線路がどんどんと近づいてくる、程なくして渡島大野駅に到着。来年2016年3月24日に北海道新幹線が開業すると、新函館北斗駅となる駅で、駅周辺では開業に向けた工事や準備が着々と進んでいる。
函館本線は大沼駅~森駅間で大沼公園駅を通る本線と、渡島砂原を通る支線に分かれている。この支線は砂原線と呼ばれており、今回乗る普通列車は砂原線を経由する列車だ。車窓左手には駒ヶ岳を眺めるはずだったが、あいにくの天気で山頂は冬の低い雲に隠れてしまっている。車窓右手に噴火湾が広がってくると、森駅はもうすぐだ。
森駅に到着したのは定刻の16時2分。この日の日没時刻は16時9分だから、あたりはとっぷり日が暮れている。森駅では後ろの車両を切り離し、後ろの車両は折り返し函館行きに、前の車両が終着の長万部駅へと向かう列車となる。関東を出発したときは15両編成もあった列車がついに1両になってしまい「ずいぶん遠くまで来たものだ」と実感する。森駅では11分の停車時間があるので、その間に駅の売店で夕食の買い出しを済ませる。
森駅というと駅弁の「いかめし」が有名。「いかめし」は1941年に発売され、現在では各地で行なわれる北海道物産展でも人気の商品で、その名前をご存じの方も少なくないだろう。森駅のいかめしは、小振りなスルメイカの中に餅米とうるち米を詰めて醤油ベースの甘めのタレで煮込んだもの。飽きのこない味で、冷めても美味しい。全国駅弁大会で何度も1位を受賞する理由も頷ける味だ。
途中行き違いの貨物列車の遅れを受けて、長万部駅には7分ほど遅れ17時36分に到着。次に乗る17時43分発小樽行きの列車が、この旅の往路最後に乗る列車となる。車内に入ると、学校帰りの地元高校生でにぎわっていた。函館本線の長万部~小樽間は通称「山線」と呼ばれている。現在は長万部駅から室蘭本線、千歳線を経て札幌へ通じる「海線」にメインルートの座を譲ったが、「山線」の歴史は古く、開通は明治時代にさかのぼり、北海道の開拓を支えた重要な路線であった。
黒松内駅を過ぎ、山間部を縫うように走って行く。「山線」沿線は北海道でも屈指の豪雪地帯だが、ここも暖冬の影響で例年よりも積雪は少ないようだ。
長万部駅を出発しておよそ3時間。ようやく車窓に小樽の街明かりが広がってきた。列車は定刻の20時42分に小樽駅に到着。小樽駅は2010年に耐震補強を兼ねたリニューアル工事が行なわれ、外観も建設当時のものに復元された。小樽駅のエントランスホールやホームには333燈のランプが夜を照らしている。地元のガラス工房である北一硝子が寄贈したもので、古くから栄えていた小樽らしい雰囲気を醸し出している。小樽市では観光地として有名な小樽運河のガス灯や、歴史的建築物のライトアップなどを行なっているので、夜に到着しても、昼間とは違う風情の街並みを散策することができる。
運河散策路のガス灯は24時まで、歴史的建築物のライトアップは22時30分まで行なわれているので、多少遅く到着してもその風情を楽しむことができるだろう。小樽駅から小樽運河までは歩いて15分ほど、駅前にあるホテルにチェックインをしてから夜の散策に出かけることにした。
【お詫びと訂正】記事初出時、小樽の建造物の表記に誤りがありました。お詫びして訂正させていただきます。