旅レポ

新宿駅発、「青春18きっぷ」で行く小海線のんびり日帰り鉄道旅行

JRグループが毎年春、夏、冬に発売する全国のJR線の普通列車と快速列車などに乗車できるフリーきっぷ「青春18きっぷ」

 「青春18きっぷ」は、JRグループが毎年春、夏、冬に発売するフリーきっぷで、全国のJR線の普通列車と快速列車などに乗車できる。そのネーミングからか、18歳限定などと勘違いされることもあるというが、年齢に関係なく誰でも利用できる。上手に利用することで、とてもお得に旅ができる。今回はこの「青春18きっぷ」を利用した、のんびり行く日帰り鉄道旅をご紹介する。

 2015年夏期の「青春18きっぷ」の発売期間は7月1日~8月31日、利用期間は7月20日~9月10日となる。1日間有効なフリーきっぷが5回分セットになっており、1人で5日間分を乗車できるほか、5人で1日分など、回数内であれば複数人数でも利用できる。価格は1万1850円。なお、乗車日は連続している必要がないため、利用期間内であれば、任意の日に5回使えるのも便利な点だ。

 「旅に出よう」と思ったとき、目的や計画はとても大切だ。それは「おいしいものを食べたい」とか「温泉にはいりたい」など漠然なもので構わない。そういう目的から旅のイメージがどんどんと膨らみ、ワクワクしてくるものだ。旅は行きたいと思って計画を始めたところから始まっているといっても過言ではないだろう。

 「青春18きっぷ」というと、若者の貧乏旅行に利用するといったイメージをお持ちの方もいるだろう。「始発列車で出発し、どれだけ遠くまで行けるか」「いかに安く効率的に列車に乗るか」など、もちろんそういうストイックな旅も悪くはないだろう。例えば、関東発の場合、品川駅4時35分発の始発電車で東海道本線を西に向かい、11本の列車を乗り継ぐと翌0時4分に福岡県の小倉駅に到着できる。総移動距離は1100.9キロ、運賃は1万3220円分だ。「青春18きっぷ」を利用すると、1日あたり2370円で移動することができるので、なんと1万850円もお得ということになる。「青春18きっぷ」は日本全国のJR線を利用することができるので、旅の計画は無限大に広がっていく。

 そこで、旅の目的が何であるのかもう1度立ち返ってみよう。そうすることで無限大に広がったプランの整理が出来て、より具体的な旅の行程を組み立てる事が出来るはずだ。

 現在、鉄道の乗換案内はパソコンやスマートフォンで検索することが一般的となっている。乗換案内サイトの「ジョルダン」では、「青春18きっぷ」を利用する場合の検索ができるようになっており、「青春18きっぷ」旅程を組むのに非常に便利だ。

 インターネットでの検索もとても便利だが、「青春18きっぷ」の旅には市販の時刻表を併用することをオススメしたい。インターネットの乗換案内は、出発地から到着地までの2地点間の移動を調べる場合は非常に便利だ。一方で時刻表は全体を見ながら行程を考えることができるのが特徴。これは運転本数が少ない区間では特に有効で、前後の列車の時刻を把握しておくことで、万が一トラブルで遅延した場合などにも冷静に対応することができる。時刻表では路線図や駅弁情報などさまざまな情報を調べることもできる。また、山間部やトンネルの多い区間を利用する場合は、携帯電話やスマートフォンが圏外となる区間も少なくないので、旅行中は常に携帯しておくと強い味方になってくれる。なお、タブレット端末用に交通新聞社より「デジタルJR時刻表」のサービスも行なわれており、iPadなどの端末で紙の時刻表と同じ内容を閲覧できる。

 さて、今回の旅の目的は3つ、「夏は暑いから涼しいところへ行きたい」「おいしいものを食べたい」「のんびりと鉄道旅を味わいたい」とした。これらの目的を満たしてくれる場所はどこだろうか。ガイドブックやインターネットを駆使して旅の行程を考える。いくつかのプランを計画したが、今回は新宿を朝に出発して、中央本線と八ヶ岳高原線の愛称で呼ばれる小海線の列車に乗り、清里で途中下車。夏期営業しているスキー場で高原のお花畑を散策し、おいしい高原野菜のブッフェを食べて、都内へ帰るというプランで「青春18きっぷ」の旅に出かけることにした。「青春18きっぷ」で日帰り旅行を計画する際は、「正午で帰路につく」事を目安としよう。そうすれば、列車の時間をさほど気にせずに帰ることが出来るはずだ。

早起きは三文の得。「青春18きっぷ」の旅の始まり

 「青春18きっぷ」の旅では、1日を有効に活用するためにも朝早くに出発したい。早朝だと列車も空いていることが多いので、着席するチャンスも増えるのも理由の1つだ。

 今回の旅の始まりは新宿駅。6時に新宿駅西口にある「みどりの窓口」で「青春18きっぷ」を購入する。新宿を出発する時間を6時としたのは、もちろん、目的地の到着時刻を調べ、そこから逆算して決めたのもあるが、東京をはじめ神奈川、千葉、埼玉のJR、私鉄の始発電車に乗ると、だいたい6時前に新宿駅に到着することが可能だからだ。

 最初に乗車する列車は新宿駅6時03分発の中央線 高尾駅行の各駅停車。この列車に乗車し立川駅を目指す。中央本線の下り甲府・松本方面の普通列車は高尾駅始発が多いが、朝夕の時間帯には立川駅や八王子駅始発となる列車が存在する。次に乗り換える列車の始発駅から乗ることで座席を確実に確保できる。

立川駅5番線に停車中の211系。中央本線の甲府駅方面に向かう普通列車にはエメラルドグリーンのラインが入っている。

 6時42分、立川駅4番線に到着。向かい側の5番線に次に乗車する6時46分発甲府行き普通列車が停車していた。ちなみにこの列車、土休日には6時43分発となる。このように平日と土休日で運転時刻が異なる列車があるので、時刻表でちゃんと調べておかないと、接続できない場合があるので注意が必要。中央線高尾駅行きの列車は10両編成だが、次に乗る甲府駅行き列車は6両編成になるので、編成の中程の車両に乗っていると乗り換えが便利だ。シーズンになると、ホームの端から中程に停車した車両まで移動する間に座席が埋まってしまうこともある。最近は乗車番線や乗り換えに便利な号車まで表示されるスマートフォンアプリもあるので、事前に調べておくと便利だ。

甲府駅構内の売店で購入した桔梗信玄飴。きなこと黒蜜の風味のやさしい味のソフトキャンディ

 定刻に立川駅を出発。多摩川を渡り、八王子駅、高尾駅と進んでいくと、車窓に緑が増えてくる。1時間前までビルが林立する都市部にいた事を忘れてしまうような風景が流れていく。8時38分に山梨県の甲府駅に到着。ここで2回目の乗り換えだ。次の列車まで15分の乗り換え時間があるので、ここでお手洗いをすませておく。郊外を走る列車にはたいていお手洗いが備え付けられているが、列車によっては設備がない場合もあるので、乗り換え時間にすませておきたい。そして、駅構内の売店をのぞいてみよう。最近ではコンビニの場合も多いが、たいていその地域のおみやげ物を取り扱っている。甲府駅では、名物の桔梗信玄餅など数種類のおみやげ物が販売されていた。乗換駅で時間のあるときに、その地域のおみやげ物を買うのも普通列車を利用する「青春18きっぷ」の旅ならではだろう。きなこと黒蜜たっぷりの桔梗信玄餅を車内で食べたいところだが、車内で食べるには少々難儀しそうなので今回は桔梗信玄飴を購入し、甲府駅8時53分発松本行きの普通列車に乗車した。

日野春駅で特急の通過待ち。ホームには車外に出てリフレッシュをする人も

 ここから小海線が分岐する小淵沢駅までは50分の乗車。途中の日野春駅で特急の通過待ちをするためおよそ11分停車をする。「青春18きっぷ」で旅行している旅人が私以外にも数人乗車しているようだ。このように停車時間が長い駅では、ホームに降りてのびをしたりリフレッシュをする人も少なくない。特急列車の通過を待ってから再び乗ってきた列車に乗り込んだ。

 小淵沢駅には定刻の9時43分に到着。階段を上り隣のホームに停まっている小海線の列車に乗り換える。発車時間は9時57分だが、すでに列車はホームに停車していた。小海線が発着するホームには売店があるのでちょっと立ち寄りたい。飲み物やスナック類のほか、駅弁も取り扱っていた。ここではクルミ餡が入った「そばどら」を購入。「信州名物」という文字に惹かれてしまった。

小淵沢駅には9時43分に到着
停車中の小海線キハ110系
小海線のホームには売店もある。信州名物そばどらを購入した。クルミが入った白あんがタップリ

 小淵沢駅からは、雄大な八ヶ岳の景色を見上げることができる。しかし、山の天気は変わりやすいのか、時折雨がちらつく空模様でその姿を見ることはできなかった。天気予報は晴れとなっていたのだが残念だ。小海線のホームには2両編成のキハ110系気動車が止まっていた。小海線にはこのキハ110系とハイブリッド車両のキハE200形の2種類の車両が走っている。いずれもドアは半自動式でドア横にある開閉スイッチを押し、乗客がドアを開けて車内に入る。小海線の車両は小諸方面に向かって右手が1人がけのクロスシート、左手が2人がけのクロスシートになっている。先行した特急列車からの乗り継ぎ客も乗車しているので、車内は座席がほどよく埋まっていた。空いている窓側の席に座り、9時57分の出発を待った。

雄大な景色は雲の中!そんな時は柔軟にプラン変更

 小海線は八ヶ岳の東側の高原を走る延長78.9kmの路線で、“八ヶ岳高原線”の愛称がつけられている。小淵沢駅の隣駅である甲斐小泉駅~海尻駅間は標高1000mを超える高所を走る。清里駅と野辺山駅の間にはJR鉄道最高地点がありその標高は1375m、野辺山駅は標高1345mに位置しこちらはJR線の駅でもっとも標高の高いところに位置している。なお、8月1日~31日と9月の土休日には臨時列車「八ヶ岳高原列車」が小淵沢駅~野辺山駅間に4往復運転される。

 当初の予定では清里駅で下車し、夏期営業しているスキー場でリフトに乗り、標高1900mの展望台から雄大な景色堪能。そして、きれいなお花畑を散策して、高原野菜のブッフェに舌鼓をする、爽やかな旅ををお届けするつもりでいたが、どうやら現地は雲の中のようだ。

 雄大な景色も、雲の中に隠れてしまっては堪能することができない。天気予報を調べてみると、お昼には晴れ間が見える予報だったので、急遽予定を変更してJR最高地点にある駅、野辺山駅を目指すことにした。小淵沢を定刻に出発して、次の駅甲斐小泉駅に到着する頃には列車はすっかり雲の中を走っていた。

 小淵沢駅から33分で目的地の野辺山駅に到着。ホームにはJR最高地点駅を示すモニュメントがあり、記念写真を撮影する観光客でにぎわっている。天気も予報の通り徐々に回復しているようだ。雨は降らないようなので、駅前にある観光案内所でレンタサイクル(1時間500円~)を借りてJR最高地点を目指すことにした。

JRで最も標高が高い駅野辺山。ホームや駅前には記念碑がたっている。標高は1345.67mで、2が抜けているが、数字が並んでいるので覚えやすい。

 清里周辺と異なり、野辺山高原はアップダウンが緩やかなので自転車での移動するもの苦にならない。下界は気温30度を超える真夏日だが、標高1000mを超えている高原では涼しいそよ風が心地いい。およそ15分ほどで標高1375mのJR最高地点へと到着。

標高1000mを超えている高原では涼しいそよ風が心地いい
「JR鉄道最高地点」は駅野辺山から自転車で15分ほど

 「JR鉄道最高地点」と刻まれた石碑は記念撮影にぴったりだ。JRの最高地点で記念撮影した後には、すぐ横にある鉄道神社にもお参りしよう。この神社はJR最高地点を旅する人々の道中の安全と地域の繁栄のために2005年4月26日に建立した。こちらの神社には、全国的にも珍しいご神体が祀られている。鳥居の奥に鎮座するのはSLの動輪。この車輪はかつて小海線を走っていたC56形蒸気機関車のもの。1対の車輪は「対」であることから縁結びや夫婦円満の効果もあるとのこと。そして車輪の下に鎮座する大きな石に「I」の形をした鉄道のレールが埋め込まれている。なんとこのレールが「鉄道神社」ご神体。よく見てみると鳥居の中央には鐘ではなく、レールと枕木を固定する犬釘と鉄道にゆかりのあるものばかりで作られている。

JR線最高地点の石碑。奥に見える踏切がJR線で最も標高が高い場所だ
JR線最高地点の碑のすぐ脇に立つ鉄道神社
蒸気機関車の写真が祀られ、その下の岩に鎮座するのはご神体のレール

 鉄道神社のすぐ横、JR最高地点に建つ山小屋風の建物が「レストラン最高地点」だ。店内の大きな窓からは雄大な八ヶ岳と野辺山高原の雄大な風景を眺めながら食事を楽しむことが出来る抜群の雰囲気に加え、おみやげ物屋も併設され充実の店内。鉄道神社の絵馬もこちらで購入することが出来る。

 このお店のオススメは、店主が打つ手打ちそばだ。今回は夏オススメのメニュー「冷やし野菜天ぷらそば」(900円)を注文。季節の野菜の天ぷらがたっぷりでボリューム満点。中央に盛りつけられているのはスティックセニョールと呼ばれる茎ブロッコリーで、地場産のものだ。麺はコシがあって、手打ちならではの食感でとてもおいしかった。そばを堪能したいという方には、普通のもりそばの2.7倍の量がある「最高地点もり」(1300円)というメニューもオススメ。量は多いが意外とぺろりと食べられるとのこと。

 デザートは「最高地点のソフトクリーム」(350円)。やや甘めだが、甘さがしつこくなくミルクの味が口に広がり、この季節にはぴったりのデザートだ。

最高地点の碑と鉄道神社のすぐ隣にあるレストラン
夏のオススメメニュー「冷やし野菜天ぷらそば」
箸袋には、窓から眺められる山々が描かれているが、残念ながら取材当日は雲の中だった
デザートの「最高地点のソフトクリーム」
店舗情報
店名レストラン最高地点
住所長野県南佐久郡南牧村野辺山214-32
TEL0267-98-3210
営業時間11時~18時(手打ちそばが終わり次第閉店)
定休日不定休

途中下車や行ったり来たり利用できる魅力

 天気予報どおり霧も晴れ、雲の隙間から青空も見えてきたお昼前。今度は野辺山駅から、最初に予定していた目的地である清里駅へと戻ることにした。片道乗車券と異なり、行ったり来たり自由に利用できるのも「青春18きっぷ」の魅力の一つだ。

 野辺山駅11時57分発小淵沢駅行きの列車に乗車する。野辺山駅~清里駅間は日本最高地点を走る列車として人気があり、この1区間のみを利用するバスツアーもあるため車内はなかなか賑わっている。観光列車ではないので、最高地点通過時に徐行をすることはないが、車内では最高地点の通過のアナウンスが流れた。清里駅までの1駅の乗車はあっという間。10分かからずに到着した。

清里駅
野辺山駅の続き日本で2番目に高い場所に位置する清里駅。構内には標高比べの看板があった

 清里駅前にある観光案内所で、近隣の観光情報を集める。清里周辺の見どころは離れているので、「清里ピクニックバス」が運行されているのだが、鉄道のダイヤとうまく接続がなされていないようで、少々使いづらいのが残念だ。電動アシスト自転車のレンタサイクルもあるがインターネットか電話での事前予約制とのことで、駅周辺を散策しようとパンフレットを探していると、「天然氷のかき氷」というこの季節にぴったりなチラシを発見。

 早速訪問することにした。そのお店は清里駅前にある「清里駅前アンテナショップ8Market(エイトマーケット)」白い外観でとても爽やかな佇まい。今年6月にオープンしたばかりのお店とのこと。八ヶ岳の天然氷のかき氷は、まるごと桃、生いちご練乳、採れたてあんず、抹茶練乳の4種類でいずれも600円。どれもおいしそうだが、八ヶ岳で採れたあんずを、新鮮なままつけ込んだシロップがかかった「採れたてあんず」を注文。

 ちょっと小ぶりのかき氷だが、あんずの果肉がたっぷりと入ったシロップがかかり、見た目もとても上品。とてもふわふわの食感で、あんずのやさしい甘みが口に広がり、爽やかな酸味がとてもたまらない。先ほどソフトクリームを食べたにもかかわらず、もう一杯食べたくなるくらい軽やかなかき氷だった。

清里駅前にある観光案内所
「清里ピクニックバス」を利用しようと思ったが鉄道のダイヤとうまく接続されておらず断念
「清里駅前アンテナショップ8Market(エイトマーケット)」
八ヶ岳の天然氷のかき氷に八ヶ岳で採れたあんずを、新鮮なままつけ込んだ自家製シロップがかかった「採れたてあんず」
店舗情報
店名清里駅前アンテナショップ8Market(エイトマーケット)
住所山梨県北杜市高根町清里3545
営業時間9時~17時
定休日火曜日(8月は無休)

 清里駅13時40分発小諸行きの普通列車に乗車。今度やってきた列車はハイブリッド車両のE200形。ディーゼルエンジンと蓄電池を組み合わせた環境に優しい車両で、鉄道車両としては世界で初めて小海線で営業運転された車両だ。

 清里駅から終点の小諸駅までおよそ2時間列車に揺られる。先ほど訪れたJR最高地点の野辺山駅を過ぎると、千曲川の上流に沿って佐久盆地まで下っていく。急峻な渓谷沿いから開けた盆地の風景と変化に富んだ車窓は飽きることがない。

ハイブリッド車両のE200形
E200形の側面に掲出されている小海線のロゴ
野辺山駅を過ぎると、千曲川に沿いながら佐久盆地へと下っていく
標高が高いためか、入道雲がとても近く感じる

 15時32分に小海線の終点 小諸駅に到着。先ほどまでの爽やかな高原の気候とはうって変わり、鋭い日差しが降り注ぐ夏の午後。とはいえ、関東近郊と比べて湿度が低いせいか幾分過ごしやすい。乗り換え列車までの時間を利用して、小諸駅から徒歩3分ほどの場所にある小諸城址懐古園を訪れた。

小諸城址の情報
入園料共通券 500円(中学生以下200円)、散策券 300円(中学生以下100円)
住所長野県小諸市丁311 懐古園
TEL0267-22-0296
開園時間8時30分~17時00分
休園日12月~3月中旬まで毎週水曜日、年末年始(12月29日~1月3日)、遊園地休園日

新幹線や第3セクターの鉄道を使うとバリエーションが一気に広がる

 「青春18きっぷ」での旅を楽しむ時、すべての行程を「青春18きっぷ」で動こうとする人もいるだろう。しかし、JR線の普通列車、快速列車だけではどうしても行動範囲が限られてしまう。そこで新幹線や特急、高速バス、フェリーなどを組み合わせて使う旅をオススメしたい。旅の途中にこうした交通機関を組み込むと、バリエーションが一気に広がる。普通列車の運行本数が少ない区間では、特急や新幹線を利用することで、時間を効率的に利用することもできる。

 小諸駅はかつて信越本線の拠点駅の1つであり、高崎駅とも結ばれていたが、1997年の長野新幹線の開業に伴い、碓氷峠を通る横川駅~軽井沢駅間の通称“横軽”が廃止され、信越本線 篠ノ井駅~軽井沢駅間も第3セクターの「しなの鉄道」に移管された。このため、小諸駅から先は「青春18きっぷ」を利用することはできないが、今回は往年の信越本線の面影を残す「しなの鉄道」と北陸新幹線を利用して高崎駅まで向かうことにした。

 小諸駅~軽井沢駅間の運賃は480円。さらに軽井沢駅~高崎駅間で新幹線に乗る場合、「青春18きっぷ」は使えないので、運賃の760円と自由席特急券の1840円の合わせて2600円。トータルで3080円の追加となるが、ともすると単調になりがちな普通列車の旅に、ちょっとした変化をもたらすアトラクションのような存在なのは嬉しいところ。

 小諸駅16時24分発の軽井沢駅行きの列車に乗るためにホームに向かう。JR東日本からしなの鉄道に譲渡された、しなの鉄道カラーの115系が出迎えてくれた。運転台の窓に行き先が掲げられていたので、迷うことなく乗車することができた。

小海線の終点の小諸駅。駅の管理はしなの鉄道が担当
しなの鉄道の駅名標
JR東日本からしなの鉄道に譲渡された、しなの鉄道カラーの115系が出迎えてくれた
軽井沢駅17時38分発の「あさま624号」で高崎に向かう

 小諸駅を出発しておよそ24分ほどで軽井沢駅に到着した。ここで北陸新幹線に乗り換える。軽井沢駅に停車する列車は30分~1時間に1本程度なので時刻をよく調べておこう。乗車する新幹線は17時38分発の「あさま624号」なので、およそ50分の待ち時間が出来た。とはいえ、軽井沢駅の南口には広大なアウトレットショッピングモールがあるので、乗り換え時間をもてあますことはないだろう。筆者も短いショッピングを楽しむことにした。

 北陸新幹線の軽井沢から高崎は41.8kmだが所要時間は18分。流れるように碓氷峠を越えて関東平野へと下っていく。朝から普通列車を乗り継いぐのんびりとした旅を過ごしてきたので、新幹線はまるでワープでもするかのような錯覚さえを感じてしまう。17時56分あっという間に高崎駅に到着した。

湘南新宿ラインで都内まで一直線。普通列車グリーン車でゆったり帰路へ

 高崎駅からは、再び「青春18きっぷ」を利用して、湘南新宿ラインで新宿駅まで一気に戻ることに。湘南新宿ラインの最終列車は高崎駅21時04分発なので、余裕をもって帰ることができる。

 ちょうどディナータイムなので、高崎駅で夕飯を食べて行くことに。高崎駅の名物のひとつといえば「鳥めし」だ。中でも人気があるのは昭和28年創業の老舗「登利平」の「上州御用鳥めし」。高崎駅西口の駅ビル高崎モントレー5階レストラン街に支店があるので、立ち寄りに便利だ。

上州御用鳥めし 松重(900円)味わいの違うむね肉、もも肉の2種類の鶏肉を味わえる。秘伝のたれが絶妙で箸が進む
店舗情報
店名登利平 高崎モントレー店
住所高崎市八島町222 高崎モントレー5F
TEL027-330-5454
営業時間11時00分~21時30分(ラストオーダー20時40分)

 ゆっくりと夕飯を楽しみ、高崎駅19時16分発の湘南新宿ライン国府津駅行き列車に乗車する。2015年3月に上野東京ラインも開業したので、北関東と南関東の移動が非常に便利になった。高崎駅発の場合は、上野東京ラインの列車の方が本数が多いので、都心まで出る場合はそちらも利用も便利だ。行き先に応じて使い分けたい。

Suicaを持っていれば、ホームにあるSuica専用の自動販売機でグリーン券を購入できる。事前購入に便利だ

 湘南新宿ラインの列車には、2階建てのグリーン車が連結されている。普通列車のため、グリーン券を購入すれば「青春18きっぷ」でも利用できる。首都圏の普通列車グリーン車の料金は、乗車距離が50km以下と51km以上の2段階の料金区分で、平日は50kmまで770円、51km以上980円、土休日は50kmまで570円、51km以上780円となっている。車内でグリーン券を購入すると260円高くなるので、改札口外にある自動販売機でグリーン券を購入するか、ホームにあるSuica専用の自動販売機でSuicaグリーン券を購入しておこう。モバイルSuicaが使えるスマートフォンでもグリーン券を購入できる。高崎から新宿までの乗車時間は2時間。小さな投資で大きなくつろぎを得られた。

 今回の「青春18きっぷ」の旅もいよいよ終盤。快適なグリーン車に座り流れる風景を眺めていると、心地よい走行音のリズムが眠りへを誘う。疲れてくると、ついウトウトと眠気に襲われることもあるだろう。夜になると列車の運行本数も少なくなるので、寝過ごしてしまうと戻ってくる列車がない場合も。特に長距離を運行する湘南新宿ラインや上野東京ラインの列車は注意が必要だ。そういう事態を防止するためにも、眠たくなったらスマートフォンや携帯電話のアラーム機能をセットして、振動で起きられるようにしよう。ふと目を覚ますと、車窓にはいつもの都会の風景に様変わり。一気に現実に引き戻された気分だ。

 最後になったが、もしかすると旅行中に、事故や自然災害などのトラブルで列車の運休や遅延に遭遇することがあるかもしれない。そのような場合、振り替え輸送が実施されても「青春18きっぷ」はその対象にはならない。万が一、私鉄やバスに乗車しなくてはならなくなった場合は、別途その運賃が必要になるので、費用や旅程には余裕を持った組み方をしよう。

鈴木崇芳

北海道出身、旅とのりものが大好き。29歳でエンジニアからフリーのフォトライターへ転向する。飛行機、船、鉄道など乗り物と旅を撮影する。