旅レポ

タイで初めての王朝が開かれた古都・スコータイの旅(その2)

13世紀の遺跡を花火が彩る! スコータイ歴史公園の散策

 日本人に馴染みの薄い土地「スコータイ」を紹介すべく、タイ国政府観光庁が実施した視察ツアーの2回目。今回は「Sukhothai Historical Park(スコータイ歴史公園)」を中心に紹介する。

 前回でも触れたとおり、スコータイはタイ族が初めて独立王朝を開いた場所。タイの古い王朝というと、バンコクからのアクセスのよさもあって「アユタヤ」が知られているが、スコータイ王朝が終焉を迎えたあとに開かれたのがアユタヤ王朝となる。

 そのスコータイ王朝の遺産が集まっているのが「スコータイ歴史公園」だ。世界遺産に認定されている「スコータイの歴史上の町と関連の歴史上の町」のなかでも、首都スコータイの遺跡が集まる、もっとも重要な構成要素といってよいだろう。城壁の内外に多数の遺跡があり、タイ語で寺院を意味する「ワットなんとか」と名付けられた寺院跡や仏像など、見どころは多い。

 ちなみに、この歴史公園付近は旧市街ということで「Old Sukhothai」と呼ばれている。ガイドブックやカタログなどでこの表現をよく見かけるのでイメージしておくとよいだろう。

 公園内は5つのエリアに分かれており、外国人の場合は、各エリアごとに100バーツ(約310円、1バーツ=3.1円換算)かかる。“外国人の場合は”と書いたのは、タイ国籍の人はより安価に入場できるようになっているからだが、料金が併記されているところでは正しい料金を確認する必要があると認識しておこう。またエリアごとに料金を払うという、ちょっと分かりにくいシステムでもあるので、350バーツ(1100円弱)でエリアをまたいで利用できるフリーパスの購入もお勧めだ。

 また、園内は広く、歩いて散策することもできるが、少しでも多くの遺跡を見たい場合はレンタルサイクル(30バーツ、90円強)や、園内トラム(40バーツ、約125円)の利用を検討した方がよい。

園内は広く、園内トラムの利用が便利
トラムで巡るスコータイ歴史公園
目的地が決まっている場合や、費用を抑えたい場合はレンタルサイクルも便利だ
重要な遺跡の前にはQRコードがあり、スマホなどで説明を見ることができる。日本語版の説明Webサイトも用意されている

 実際にスコータイ歴史公園を訪れてみると、当時の建物や仏像が意外なほど綺麗に残されていることに驚かされる。もちろんところどころ崩れていたりはするのだが、スコータイ王朝が13世紀(1200年代)に栄えたことを考えると驚きに値する。日本でいえばちょうど鎌倉時代に相当するが、太平洋戦争等の影響があるとはいえ、当時の建物がほとんど残っていないことと比べても、このスコータイ歴史公園だけで200件近いという遺跡が残っていることは、名実ともに“世界遺産”にふさわしい場所だと思う。

 ちなみに、スコータイの建築は「スコータイ様式」と呼ばれる、アンコールワットに代表されるクメール文化の影響を受けた独自のデザインになっている。先端が細い三角錐の形状となる寺院の屋根や、女性らしい曲線を取り入れた仏像が特徴で、スコータイのあとを継いだアユタヤ王朝でもこの様式をベースに発展した。ゆえにスコータイとアユタヤの遺跡は似たデザインが多いが、元祖はこちら、スコータイということになる。バンコクからのアクセスのよさもあってアユタヤへ行ったことのある人の方が、スコータイへ行ったことがある人よりも多いとは思うが、両地を比べて王朝を経た変化、進化を感じてみるのも面白いかもしれない。

ワット・マハタートの仏像
ワット・マハタート
スコータイ王朝最盛期の王、ラムカムヘーン大王の像
城郭外にあるワット・シー・チュム
ワット・シー・チュム。中の仏像は「恐れない者」を意味する「プラ・アチャナ像」と呼ばれる。脇には“大仏の声”を発するためのトンネルがあるが、立ち入り禁止になっている
島に浮かぶ「ワット・サー・シー」


スコータイ王朝のリアルが分かる博物館も

「Ramkhamhaeng National Museum(ラームカムヘン国立博物館)」

 こうした歴史を楽しむ場所には必ずあるのが博物館。スコータイ歴史公園内には「Ramkhamhaeng National Museum(ラームカムヘン国立博物館)」があり、スコータイ王朝時代のものの出土品が多数展示されているほか、文化、風習を垣間見ることができる。入場料は150バーツ(約465円)。

 この博物館自体も広く、ちゃんと説明を読んで巡ろうと思うと、それだけで半日~1日コース。前後の予定がずれてしまったり、博物館観賞が不完全燃焼で終わることになりかねないので、ゆとりをもって訪問することをお勧めする。

 このなかで個人的に興味深かったのはスコータイ文字。現代のタイにつながるスコータイ発祥の重要な文化の1つで、クメール文字をベースに独自の進化を遂げたとされている。当時の文字が刻まれた碑文の展示や、現代のタイ文字へ至る変遷などが掲示されている。

 人と人とのコミュニケーションだけでなく、当時の世相を後世へ伝えるうえで欠かせない“文字”がタイ最初の王朝から存在したのは歴史的に大きな意義があるだろう。逆にそれ以前は文字がないから伝わっていないだけで、実はタイ最初の王朝は別にあったのでは? などという天邪鬼なことも考えてしまうが、そういう妄想も歴史の楽しみ方の一つだと思うので、そのきっかけを生んでくれたのも、この博物館の面白さではないかと独り合点していたりする。

スコータイ旧市街のジオラマ模型
珍しい、歩き姿を表わしている像
スコータイ王朝時代の生活用品
タイ文字のルーツとなっているスコータイ文字。最古の碑文といわれるラームカムヘーン大王碑文のレプリカ
多数の仏像も展示されている
一際大きかった仏像。レプリカとのことだが、やはり歩き姿であるのが珍しい
先述のワット・シー・チュムのトンネルを模したもの
スコータイ王朝のもの以外も含めた、さまざまな貨幣の展示
出土した壺と、それを再現したレプリカ
さまざまなデザインの寺院

 もう一つ注目の博物館が「Sangkhalok Museum(サンカローク博物館)」で、こちらはスコータイ歴史公園からは少し離れた場所にある。個人で収集した古くからの陶器などが多数展示された博物館だ。入場料は100バーツ(約310円)。日本語を含む5カ国語の案内が可能な音声案内レシーバもあるので安心だ。

 博物館の名前になっている「サンカローク」は地名で、この地域にある窯で焼かれた陶磁器が「サンカローク焼き」と呼ばれている。中国伝来の技法で作られたもので、アジアの各地にも輸出。日本でも「すんころく」などと呼ばれて珍重されたそうだ。また、現地ガイドによれば、スコータイではこうした焼き物を「トンブリ」と呼んでおり、この言葉が日本に入って「ドンブリ」、つまり「丼」として定着したという。

 このサンカローク博物館は個人収集の品を展示しているだけあって、展示品も自由な印象。2階建てで、1階はサンカローク焼きの品々が並んでいるというが、2階はそうではない時代の陶磁器も展示。他国からタイの王朝へ送られたという品々も展示されている。結果として、博物館としては少々雑然としたものになってしまっていることは否めないが、それだけにそれぞれの文化と陶磁器の違いをまとめて見られる面白さもある。

「Sangkhalok Museum(サンカローク博物館)」
サンカローク焼きの陶磁器のほか、中国など古くから交易のあった国からの贈り物など多様な陶磁器が展示されている。例えば、スコータイ時代のサンカローク焼きはマンガ調のデザインだが時代によってデザインの傾向が変わっていく点など、違いを味わいながら楽しめる博物館だ

世界遺産でコンサート? 花火? コムローイ?――驚きのエンタテイメント

 さて、独特な魅力はあるものの、ここまで紹介してきたスコータイ歴史公園はかなりオーソドックスな部分だ。しかし、隠れた面白さもある。

 このスコータイ歴史公園では、夜になると遺産を照らすライトアップが行なわれ、昼とは違った顔を見せる。神秘的でもあり、誤解を恐れずにいえば不気味な風情も漂わせる。不安な人はタクシーなどから見るだけでもよいので、夜の顔もぜひ見てほしい。

 そして、年に1度、この世界遺産をバックに行なうコンサート「SUKHOTHAI WORLD HERITAGE LIVE ORCHESTRA」が開かれている。2016年は2月20日~21日に開かれ、記者も2月21日の公演を鑑賞することができた。

「SUKHOTHAI WORLD HERITAGE LIVE ORCHESTRA」

 目の前で本物のオーケストラが生演奏をし、歌手が歌う。世界遺産の遺跡は音楽に合わせてライトアップの色が変わり、さながら舞台の一部となってコンサートを盛り上げる。

 さらにすごいのが、コンサート終盤に打ち上げられる花火。明らかにスコータイ歴史公園の遺産の近くから打ち上げている。こんなことをしてよいのか、仏様に対する冒涜ではないのか、と心配になるが、現地のガイドさんによれば「(観光客を誘致するという)スコータイのためになることだから仏様は許してくださる」という考え方なのだそう。このあたりは考え方の違いだと思う。

 コンサートは2時間強とちょっと長いなと思って鑑賞していたのに、終わってみると、贅沢な舞台を前にした時間が終わってしまうのがもったいないように思えてくるから不思議だ。

 出演した歌手の一人は、「ペルーやアカプルコを歌った(フランク・シナトラの)Fly with meを、今日はタイの歴史ある美しい場所で歌うことができた。ぜひ、これを伝えて、来年もまた来てほしい」と呼びかけていたが、確かにもう一度見てみたいと思うのと同時に、こんなイベントがあることを伝えたいと共感できるコメントだった。気になった人は来年の公演日の発表を楽しみに待ってほしい。

公演にはこの日のために結成されたオーケストラのほか、歌手、ピアニストが参加。途中に人形劇をはさむものの、次々に曲が演奏される
公演中はスコータイ歴史公園内の遺跡をさまざまな色にライトアップ
タイ語ではあるものの、途中に人形劇が行なわれる
フィナーレは花火。世界遺産の遺跡のど真ん中で!
「SUKHOTHAI WORLD HERITAGE LIVE ORCHESTRA」のフィナーレを飾る演奏の様子

 スコータイ歴史公園ではもう一つ、ミニライト&サウンドというイベントが行なわれている。これは島に浮かぶ「ワット・サ・シー」の前で行なわれる演劇で、2月~9月に各月第一金曜日に実施している。2016年は6月3日、7月1日、8月5日、9月2日が残る実施日だ。

 やはり遺跡のライトアップを活かしているほか、熱気球のようにコムローイと(タイではロイクラトンとも)呼ばれるランタンを飛ばしたり、フィナーレにはここでも花火を打ち上げたりと、派手な演出が見どころだ。

 観覧は無料だがタイ語での公演となる。現地の旅行会社に依頼することで、日本語での公演も可能とのこと。今回の視察ツアーでも日本語で観賞させてもらうことができた。内容はスコータイ王朝の始まりから終焉までを表わしたもので、その王家の暮らしを知ることができる。

「ワット・シー・チュム」
日本から訪れた視察ツアー一行を演舞で歓迎してくれた
美しい女性ダンサーズの舞
コムローイといえばスコータイから近いチェンマイが名所だが、ここでも楽しませてもらった
演劇の終盤
いきなり終演を迎え、盛大に花火が打ち上げられた
出演者との記念撮影も楽しめる

 このようにスコータイの歴史、文化を見ることができるスコータイ歴史公園。純粋に世界遺産に認定されている歴史公園として訪れても、その遺跡の価値を感じることができるし、夜は夜で別の顔を見せてもらえる楽しいスポットだ。特に日時は限定されているものの、コンサートやミニライト&サウンドはスコータイの旅の思い出として心に残るものだった。もし行かれる読者がいたら一つアドバイス。コンサート、ミニライト&サウンドともに、夜間に長時間にわたって屋外にいることになるので、虫除けスプレーを用意しておこう。

 ちなみに、今回の視察ツアーでは主要な遺跡を見ただけで、すべてを見ることはできていない。すべての遺跡を見てまわろうとすると、園内トラムやレンタルサイクルなどを使っても最短で丸1日、2~3日かかるのも普通ではないかと思われるぐらい広い。

 スコータイは、主目的地としてチェンマイに旅行に来た人が、その一環としてバスで訪れることも多いというが、その行程ではもったいないな、というのが記者の印象だ。世界遺産の「スコータイの歴史上の町と関連の歴史上の町」には、今回紹介したスコータイ歴史公園だけでなく、シーサッチャナライ、カンペーンペットといった街も含めて登録されている。これらも見ようと思えば、当然さらに時間が必要になる。せっかく訪れるなら、ゆとりを持って滞在できるスケジュールを組んだ方がよさそうだ。

 そのようにゆったりとした滞在をお勧めするのは、視察ツアーに組み込まれていたシーサッチャナライへの訪問も非常に楽しめるものだったからだ。それは次回紹介したい。

編集部:多和田新也