旅レポ
五郎丸歩選手も出場したスーパーラグビー2016「レッズ対サンウルブズ戦」をブリスベンで観戦
試合後にはピッチに選手と観客が集まって交流
2016年7月1日 00:00
- 2016年5月21日(現地時間) 開催
ラグビーワールドカップ2015での日本代表の活躍で人気が急上昇した「ラグビー」。強豪の南アフリカに勝利したのを皮切りに、サモア、アメリカから計3勝を挙げたことは記憶に新しい。その日本代表チームのなかで、一際話題を集めたのが五郎丸歩選手。同大会のベストフィフティーンに選ばれた活躍ぶりはもちろんのこと、キックの前に行なう独特のルーティンも注目され、2015年のユーキャン新語・流行語大賞で「五郎丸(ポーズ)」がトップテンに選出されるなど、数々の賞も受賞した。
その五郎丸選手が、ワールドカップ後に加入したのが、オーストラリア・ブリスベンを拠点とするスーパーラグビーリーグの「レッズ」。スーパーラグビーリーグは5カ国18チームが参加する国際的なラグビーリーグで、日本も2015~2016年シーズンから日本代表を中心に編成した「サンウルブズ」で参戦。2019年のワールドカップ日本大会に向けて国際大会での選手強化を図っている。
そのような背景のなか、クイーンズランド州政府観光局がブリスベンの観光スポットを紹介すべく実施したプレスツアーの一環として、5月21日(現地時間)に開催されたスーパーラグビー2016 オーストラリア・ニュージーランドグループ ラウンド13「レッズ対サンウルブズ」の試合を観戦する機会を得た。日本代表の五郎丸歩選手、ツイ・ヘンドリック選手が所属しているレッズと、日本のチームとの対戦ということもあり、日本でも話題を集めたマッチだ。
ブリスベンにあるレッズの本拠地「サンコープ・スタジアム」
試合が行なわれたのは、ブリスベンにある「サンコープ・スタジアム」だ。レッズのホームグラウンドとして使われているスタジアムで、ラグビーのほか、サッカーなどでも利用されている。ちなみに「サンコープ」とはブリスベンに本社を置く、銀行、証券、保険などを提供している大手金融企業の名前。ネーミングライツで同社の名前を冠しているわけだ。
日本からブリスベンへは、カンタス航空が成田発着の直行便を運航している。2015年8月に運航を開始し、この夏期スケジュールのダイヤは下記のとおり。往路は成田を夜に出発し、ブリスベンに翌日早朝到着。復路はブリスベンを午前中に出発し、夜に帰国するダイヤとなっている。
QF62便:成田(20時40分)発~ブリスベン(06時45分/翌日)着
QF61便:ブリスベン(10時45分)発~成田(19時00分)着
(2016年10月29日までのスケジュール。予告なく変更になることがある)
機材はエアバス A330-300型機を使用。2014年から新客室仕様への機内改修が進められた機材で、シートや機内エンタテイメントなど同社最新仕様のものを搭載している。ブリスベン往復のフライトの様子については、別途ブリスベンのツアーレポートで紹介する予定だ。
サンコープ・スタジアムはブリスベンのダウンタウンからもそう遠くはなく、電車やバスの公共交通機関を利用してアクセスできる。電車の場合は最寄りがミルトン(Milton)駅で、ターミナル駅となっているローマ・ストリート駅から1駅。Springfield Central行きやRosewood行きの電車に乗る。
バスも便利で、375番、377番、382番、383番、385番、N385番、470番、475番、476番、N449番など、スタジアムから徒歩圏内のバス停に止まる路線バスも多いので、利用を考えてもよいだろう。
レッズ対サンウルブズを観戦
この日の試合開始は15時05分。スタジアム前では、ゴールドコースト在住の日本人の子供たちで結成している和太鼓チーム「翔」が、レッズに招かれて演奏を行なっていた。もともと、ゴールドコーストで3月に実施された「ジャパン&フレンズデー」に五郎丸選手が来訪したのを機にレッズの目に留まったのだそうだ。
サンコープ・スタジアムを訪れてみると、陸上のトラックなどがなくラグビーなどのフィールドだけを持つスタジアムであるせいか、スタンドの広さに息をのむ。収容人数5万2500名とこの広さも納得だ。最前列はピッチに手が届きそうなほど柵が低く、ここは特等席に違いない。
スタジアムはコンコースが回廊のようになっていて、スタジアム1周を自由に移動できるが、席への入り口に警備員が立っていて、改めてチケットと席の確認が行なわれていた。基本的に立ち見は禁止されている。コンコースにはフードスタンドがいくつかあり、お酒も販売している。日本の野球のように売り子はいないようで、お店でビールなどを買ってスタンドへ持ち込む人の姿が目立った。スポーツ観戦とビールの組み合わせは、お酒を自由に飲める国ならどこも似たような光景だ。
また、こぢんまりとはしているがレッズのグッズを販売するショップも出ていた。スタジアム内と、スタジアムの外にテントでの販売店舗がある。五郎丸選手のグッズも目立つように売られていたのは、さすがは対サンウルブズ戦。試合前から五郎丸選手の出場が発表されていたことも関係しているのだろう。
そんなこんなで、半分はこのレポートを書くため、半分は個人的な好奇心をかき立てられてスタジアム内をうろうろしていたのだが、試合が始まるにつれて徐々に高まってくる興奮の渦は、どこの国でも、どんなスポーツでも変わらない。いつの間にかピッチでは練習が始まっている。
そのタイミングでスタジアムに登場して注目を集めていたのが、謎の柔道着集団。聞けば、オーストラリア在住のサンウルブズファンで、サンウルブズに所属するエドワード・カーク選手の兄弟や友達が中心となって応援に来たのだとか。選手以上に応援団が目立っていいのか!? という疑問が一瞬だけ浮かんだものの、こうやって変わらず応援してくれる人たちがいるのは幸せなことだよね、と微笑ましさも覚えた。
練習が終わってしばしの空白のあと、いよいよ選手の入場だ。ピッチの中央部分に子供たちによる花道が作られ、そこをまずサンウルブズの選手、次いでレッズの選手が続々と入場してくる。
きっと、このあとは試合前のセレモニー……だと思ってなにが始まるのか楽しみに眺めていたら、どうも様子がおかしい。どう見ても選手が本気な動き。ふと会場のスクリーンを見ると、その上の時計が時を刻んでいる。いつの間にか試合が始まっている!? いや、「!?」――こんな記号はいらない。試合開始に気がつかなかったことを恥じつつ、この粛々とした試合のスタートこそガチな試合なのでは、これぞプロの試合、と自分自身を納得させ、気持ちを試合観戦に切り替えることにする。
なお、試合中、客席からの望遠レンズでの撮影は禁止されているそうだ。本稿はレッズに正規の撮影許可を得たうえで、カンタス航空が借り切ったコーポレート・スイートから観戦、撮影を行なっていることをご了承いただきたい。
その途端、スタジアムがざわつく。どうやらレッズがペナルティキックを獲得したらしい。蹴るのは五郎丸選手。試合開始に気付かないほどラグビーのことを知らない記者だが、試合観戦にあたって少しは予習してきた。昨秋にレッズに移籍したものの出場機会が得られず、サンウルブズ戦の前の試合で久々に出場したという状況だと見聞きしている。ここで五郎丸選手が蹴るのも日本人観客が多く詰めかけたサンウルブズ戦ならではのレッズのサービスなのかな? と、ラグビーファンから総攻撃を浴びるかもしれないことを考えてしまう。
だが、五郎丸選手は、見事ゴールを決めて先制点の3点を奪取。このあとも5回のゴールキックの機会があり、うち4回成功。こういうのを結果で黙らせるというのだろう。記者自身も先の考えを恥じるしかない。本当に申し訳ない。
さっきから恥じてばかりなのは記者自身がラグビーに明るくないことがすべての原因だが、しかし目の前で見るラグビーは衝撃的だ。人間と人間がものすごい勢いでぶつかり合う。一方で、大きな体からは想像できないほどのスピードでピッチを動きまわる。不規則なバウンドに対しての反応も驚くほど早い。その一挙手一投足が、自身が考える人間の常識を超えていたように思う。
世代的にテレビドラマの「スクールウォーズ」は見ていたのだが、そのときのラグビーとは戦術が違うのも分かる。その最たるものがサイドラインからのスローイン。まるで組み体操かシンクロナイズドスイミングのように、選手がほかの選手を持ち上げてボールを奪いに行く。持ち上げられる選手も見た目は重量級選手なので、そのアクロバティックな動きは“迫力がある”という表現でも足りないほど。
スクールウォーズといえば、試合中にもこのドラマを思い出す出来事があった。思い出したのは、川浜高校のゴールポストがかつての“ワル”たちの心意気から再建されたときのシーンだ。内田社長(坂上二郎)が「先生、ゴールキックをお願いしますよ」と提案すると、森田(宮田恭男)が「先生、どうせなら40mキックがいいよ」、大三郎(梅宮辰夫)が「そりゃいいですねぇ、40mキック決められるのは日本にはそういないですからねぇ」と、今風にいえば無茶ぶりでけしかけるシーン。言うまでもなく「先生」とは山下真司演じる川浜高校ラグビー部監督の滝沢賢治なのだが、このシーンのせいで「ラグビーにおける40mキックってすごいもの」というのが、記者の心に刻まれていた。
現実に戻って目の前の試合。後半に、五郎丸選手がピッチの半分よりやや内側からのペナルティキックも決めたのだ。センターラインのところに「50m」と書いてあったので、おそらく40m強の距離からのキック。「おぉ、これが伝説の40mキック!」と妙に感動してしまった。実際にはプロなら伝説と呼ぶほどのことでもないらしいのだが、子供の頃に見たドラマの影響というのは恐ろしいものである。
少し話が逸れてしまったような気もするが、このレッズ対サンウルブズ戦は、試合の内容にも大興奮した。後半の途中、日本のサンウルブズが25対25の同点に追いついたのだ。そのあと再び離されて、結果はレッズ35点、サンウルブズ25点の10点差での敗戦となったのだが、ワールドカップのときの大金星がまだまだ記憶に新しいだけに、接戦が繰り広げられたときには「もしかして勝てるかも!?」と胸が高鳴った。
そしてこの10点差という数字。五郎丸選手がこの試合で上げた10得点と同じ数字であることにも不思議なものを感じる。個人的にスポーツ選手に対して「持っている」という言葉を軽々しく使わないようにしているのだが、この試合とその前後の動きには、この言葉を口にせずにはいられなかった。
サンウルブズ戦の前の試合から出場機会を得て、サンウルブズ戦では勝敗の得点差と同じ得点を上げた。そして、残念なことにこの試合で右肩を脱臼し、離脱。さらにいえば、この試合の前には、フランスのチームへの移籍も発表されていた。本当に、このレッズ対サンウルブズ戦は五郎丸選手のために用意された舞台なのではないかと思うほど。本当に素晴らしい場面に立ち会えた感慨でいっぱいになった。
試合終了後は観客がピッチに降りて選手と交流
このサンコープ・スタジアムでの試合は、試合が終わったあともお楽しみが待っていた。むしろ、これを目当てに来ている人もいるのではないかと思うのだが、観客がピッチに降りて、選手と握手をしたり、サインをもらったりと、間近で交流できるのだ。
中央のエリアが柵で区切られていて、その内側に選手、外側に観客という“壁”はあるものの、手を触れ、言葉を交わせる距離まで選手に近付ける。時折、その柵を越えている選手もいて、もちろんその選手には人だかりができるような状況だ。
ふと、子供のころプロ野球選手を間近に見て「テレビで見るより大きい!」と感動したことや、初めてお相撲さんを見たときにやっぱりその大きさに驚いた思い出がよみがえってくる。目の前にいるラグビー選手は、いまやアラフォーのおっさんとなった記者から見てもすごい肉体。子供の目から見たらさぞかし衝撃的なものなのではないだろうか。
ラグビーとの距離を近付けられるサンコープ・スタジアムでの観戦
このようにブリスベン観光の一コマとして行ったラグビー観戦だが、想像以上に贅沢な体験だった。ラグビーの素人である記者だが、この試合の素晴らしさに感動を覚えたし、たまたま観戦した試合がこんな素晴らしい試合だったのは幸運なことだと思う。
なにより素晴らしいと思ったのは、サンコープ・スタジアムでの“ラグビー”と観客との近さだ。ピッチの最前列の柵の低さは芝に触れようと思えば触れられるのではないかと思うほどだし、試合と一体感を持てそうだ。試合終了後のピッチでの交流はなによりラグビー観戦の思い出が心に残る取り組みだ。こうした場所で試合を見ると、ラグビーというスポーツに対してぐっと親近感を抱けるのではないだろうか。そんな魅力がサンコープ・スタジアムでのラグビー観戦にはあるように感じた。
ちなみに、この日の観客動員は主催者発表によれば1万9000名強。5万2500名というサンコープ・スタジアムのキャパシティを考えるといささか少ないように思えたが、今季最多の観客数だったそうだ。意外に少ないようにも思うが、チケットの入手性という点では余裕があるのはうれしい部分でもある。
残念なのは、いやキャリアアップと考えれば残念なんて言葉を口にしてはいけないのかもしれないが、五郎丸選手がブリスベンのレッズを離れて、フランスのチームへ移籍してしまうこと。日本人にとっては、レッズの試合を見に行くきっかけを失ったのは事実だろう。
だが、スーパーラグビーでは、サンウルブズが前評判を覆すような善戦を繰り広げており、2019年のワールドカップ日本大会に向けての選手強化が目的ということも考えると、来季以降もここサンコープ・スタジアムでレッズ対サンウルブズを見られる可能性はある。もちろん、サンウルブズはきっかけとして挙げただけで、日本とまったく関係のないチームの試合を観戦してみるのもよいと思う。ぜひ、間近で、生で、このラグビーの迫力を感じてみてほしい。