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羽田空港が荷物搬送や掃除にロボットを導入、作業者支援のロボットスーツも
(2015/7/3 15:58)
- 2015年7月2日 発表
日本空港ビルデングとCYBERDYNE(サイバーダイン)は7月2日、羽田空港旅客ターミナルへの次世代型ロボット導入等における業務提携に関する基本合意を締結。同日、羽田空港において共同記者会見を実施した。
羽田空港旅客ターミナルの建設、管理運営を行なう日本空港ビルデングでは、航空旅客の需要が年々増加する一方で、少子高齢化に伴う労働人口の減少によるサービス低下を懸念。最新テクノロジによる労働環境の改善と省力化の可能性を検討してきた。そこにマッチしたのが作業支援ロボットの実用化・製品化を進めてきたCYBERDYNE。筑波大学発のベンチャーとして設立されて以来、サイバニクス技術を用いたロボットスーツ「HAL(ハル)」の開発などで実績を持っている。
今回の基本合意書は「羽田空港から日本の技術を発信していく」ことをはじめ、「空港利用者に対する安全、安心、便利を前提とした良質なサービスを提供する」こと、および「空港従業員がより健康的に働きやすい環境を創出する」ことが目的。羽田空港全体として各関係者と連携しながら「世界に先駆けた、空港におけるロボット技術活用の未来像」を創出し、より魅力ある羽田空港の発展に貢献していくことを目指すものだという。
記者会見には日本空港ビルデング 代表取締役社長 鷹城勲氏、CYBERDYNE CEO 山海嘉之氏のほか、空港懇談会の代表として、国土交通省 東京航空局 東京国際空港長 鈴木昌智氏、日本航空 東京空港支店長 加藤洋樹氏、全日本空輸 東京空港支店長 峰尾隆史氏、東京国際空港ターミナル 代表取締役社長 土井勝二氏が出席した。
羽田空港を次世代型ロボット化空港のモデルに
日本空港ビルデング 代表取締役社長 鷹城勲氏は、羽田空港は2010年に再国際化を果たしたが、当初想定していた以上のスピードで発展しており、役割、重要性が増していると前置き。そうした環境を活かし「日本のよい部分である産業、文化、歴史、医療などを、国内外に発信する場所」とすることが、今後の羽田空港づくりの1つの核になるとして検討してきたという。
そうした流れの中でCYBERDYNE側から「羽田空港でロボットを試して欲しい」とのオファーがあり、同社の構想とも合致したことから話がスタート。空港側は利用するお客様、運営者する事業者等々が課題として持っている部分を、ロボット技術を活かして改善していく、一方のCYBERDYNE側も空港の中で実際にロボットを使い、フィードバックを開発に落とし込めることから、今回の合意に至ったとした。
羽田を世界でもっとも先進的な労働環境を持つ空港に
CYBERDYNE CEO 山海嘉之氏は同社について「工業ロボットや軍事ロボットではなく生活や医療、福祉の現場で使えるロボットを開発する特殊な企業」と紹介。今回の羽田空港でのチャレンジにより「サイバニクス技術を活かして革新的なロボット空港化を図り、世界でもっとも先進的な労働環境を持つ空港モデルを創出。進化し続ける羽田空港を作り上げていきたい」と述べた。
次いで、スライドを用いてこの9月から導入が予定されている「荷揚げや荷下ろしを支援するロボット」「荷物を運搬するロボット」「清掃を行なうロボット」と、3タイプのロボットを紹介した。
業務提携のメリットについて空港の持つ特質にも触れ、小さな街のようなイメージがある一方で、行政機関の規制や法律に縛られない点に言及。比較的自由にロボットが進化していく場を手に入れられたことで大きなステップアップを期待できるといい、次世代の街づくりに役立つとした。また、同時に2014年、羽田空港に隣接する国家戦略特区(川崎市殿町)の中核に、1.5ヘクタールの用地を確保したことに触れ、現場との連携を密にすることで羽田空港をどんどん進化させていきたいと語った。
最後に「世界から羽田に訪れた方々が“おやっ”と思うような素晴らさを見ていただいて、感動して欲しい。そんな技術を提供していきたい」と締めくくった。
労働人口の減少をカバーするロボット化に期待
国土交通省 東京航空局 東京国際空港長 鈴木昌智氏は羽田空港の概要について説明。同空港は渋谷区とほぼ同等の面積を有し、2014年の旅客数は7400万人強、貨物の取り扱いが106.8万トン、発着回数は43.3万回で旅客数は世界第4位であると前置き。従業員は4万8000人と4年間で1万人増加しており、今後も航空需要の増加が見込まれている。
そんな中で「労働人口の減少が事業者にとって共通の課題。今回の取り組みは他の空港関係者にとって参考になる。空港懇談会としても安心、安全を前提に空港関係者による主体的な取り組みが進展していくように協力していきたい」と述べた。
3種類のロボットを導入
今回導入されるロボットは「ロボットスーツHAL作業支援用(腰タイプ)」「搬送ロボット」「クリーンロボット」の3種類で、契約はリースを予定しているが具体的な金額は未定。まずはそれぞれ3台、3台、5台を旅客ターミナルで使用し導入以降、効果を見ながら増やしていきたいという。
ロボットスーツHAL作業支援用(腰タイプ)
- 外形寸法
- 276×456×509mm(縦×横×幅)
- 重量
- 約3kg(バッテリ含む)
- 可動範囲
- 股関節:伸展30°、屈曲130°
- 駆動時間
- 約180分
- 動作環境
- 0~30℃
搬送ロボットとクリーンロボットは同じ駆動ユニットを使用しており、清掃ユニットの有無が大きな違い。磁気テープや誘導線が不要な「ティーチングプレイバック方式」を採用するほか、専用のリモートコントローラを用いての経路設定も可能。バッテリはリン酸鉄リチウムイオンタイプを採用する。
搬送ロボット
- 外形寸法
- 632×610×550mm(縦×横×幅)
- 重量
- 約25kg(バッテリ含む)
- 走行速度
- 最大30m/min
- 搬送能力
- 200kg(積載重量)
- 駆動時間
- 4時間/1充電(自動充電により24時間運転可能)
クリーンロボット
- 外形寸法
- 632×610×550mm(縦×横×幅)
- 重量
- 約50kg(清掃ユニット、バッテリ含む)
- 走行速度
- 最大30m/min
- 清掃能力
- 1500m2/充電
- 駆動時間
- 2時間/1充電(清掃装置により変化)
一方、航空各社は日本航空 東京空港支店長 加藤洋樹氏が「次世代型ロボットスーツの導入を検討しており、日本空港ビルデングの取り組みは参考になる。安全、安心を前提にさまざまな観点から検証してきたい」と語り、全日本空輸 東京空港支店長 峰尾隆史氏は「グランドハンドリングの負担軽減になる可能性は高い。コスト面を含めてメリット、デメリットを検討して活用方法を模索している。省人化、無人化を検討中であり羽田空港全体で議論していきたい」と、導入に関しては前向きな姿勢ながらも現段階では様子見である状況を示した。