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ユーグレナ、2020年を目標に国産バイオジェット・バイオディーゼル燃料の実用化計画始動

「有償フライト」「公道走行」が目標。ミドリムシ原料のバイオジェット燃料は世界初

2015年12月1日 発表

国産バイオジェット・ディーゼル燃料の発表は、ANAの格納庫でボーイング 787型機といすゞエルガミオを用意して行なわれた

 ミドリムシを原料とするバイオ燃料を研究しているユーグレナと横浜市、千代田化工建設、伊藤忠エネクス、いすゞ自動車、ANA(全日本空輸)は12月1日、共同で記者会見を行ない、2020年に向けた国産バイオジェット・バイオディーゼル燃料の実用化計画を発表した。

 横浜市に実証プラントを建設、年間125kLのバイオ燃料製造を目指し、2020年にユーグレナが手がけた国産バイオ燃料による航空機の有償フライトとバスの公道走行を目標とする。

ユーグレナと1市4社の代表が登壇して発表が行なわれた
株式会社ユーグレナ 代表取締役社長 出雲充氏

 発表ではユーグレナ代表取締役社長の出雲充氏が、国産の原料を使うことと、国内である横浜市鶴見区の実証プラントで製造するという、2つの国産という意味があると説明した。バイオジェット燃料は、実際に航空機で使うためにアメリカのASTM規格に準拠したものとする。バイオディーゼル燃料は100%バイオ燃料とした次世代型。現在もミドリムシ由来のバイオディーゼル燃料を使ってバスを運行しているが、それは5%までしかバイオ燃料を混ぜられない従来型で、これよりも世代の新しいバイオディーゼル燃料となる。

 出雲氏は、実証プラントの製造に進んだ理由はすでに技術的に一定の目処がたったからと説明。「ミドリムシから、ASTM規格に準拠したバイオジェット燃料を製造することに成功しており、飛行機に入れることができる」と試作した燃料の小瓶を掲げた。

 実証プラントは横浜市鶴見区の京浜工業地帯にある旭硝子京浜工場内の9000m2の土地を借りて建設する。2016年夏に着工し2017年に竣工、2018年前半に稼働予定。ユーグレナの投資額は30億円。

 ミドリムシだけでなく、さまざまなバイオマス油脂原料からジェット・ディーゼル燃料などを製造するプラントとし、技術はアメリカのシェブロンとARAが共同開発したバイオ燃料アイソコンバージョンプロセス技術を採用する。この技術を活用したプラントは日本初。この技術は2017年にASTM規格に認証予定のため、その技術を使うユーグレナの実証プラントも、ASTM規格準拠のバイオジェット燃料設備となる見込みという。

 原料はユーグレナが製造するミドリムシとその他のバイオマス原料。ミドリムシをバイオジェット燃料の原料とする工業事例は世界初。同時にミドリムシ以外のさまざまな原料を受け入れて燃料を製造することができる。

 実証プラントは今回協力会社の1つ、千代田化工建設がアメリカの技術を法規適合など日本向けにローカライズし、実証プラントとして設計・建設する。

 実証プラントの稼働にあたっては、ミドリムシ以外のバイオ燃料原料の調達や生産物の需給・物流に関する調査検証を伊藤忠エネクスが担当する。同社は実証プラントの先にある将来の商業化の際に、バイオジェット・ディーゼル燃料の製造・輸送・販売の支援を行なうことまで視野に入れている。

 いすゞ自動車は現在もミドリムシ由来の従来型バイオ燃料を使って、自社工場の従業員輸送バスを運行しているおり、今後も評価の協力をするほか、ANAもバイオジェット燃料の実用化に向けた空港での給油などのオペレーション提案などをしていくという。

 なお、今回、このタイミングで発表を行なった理由として、出雲氏はフランスのパリで開催中の「COP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)」を挙げた。また、二酸化炭素排出量を2020年以降増加させないという「CNG2020」という航空業界の取り決めもあり、それにも貢献したい希望があるからと説明した。

実証プラントの完成イメージ図
実証プラントで採用するバイオ燃料製造技術
実証プラントで製造するバイオ燃料。ジェット燃料とディーゼル燃料の2種類
ミドリムシ以外の原料からもバイオ燃料を作り出せる
国産バイオ燃料計画における1市4社の役割
実証プラントによるバイオ燃料製造・供給スケジュール、商業プラントの見込み

 会見では、横浜市、千代田化工建設、伊藤忠エネクス、いすゞ自動車、ANAの代表も登壇、役割の説明が行なわれた。横浜市長の林氏は「環境エネルギーとバイオ産業が融合した最先端のプロジェクトが横浜の地で本格化することに感謝したい」と、横浜市のベンチャー企業の支援が充実していることをアピールした。

 また、いすゞ自動車 代表取締役社長の細井行氏からは、2014年からミドリムシ由来のバイオディーゼル燃料燃料で同社の工場従業員輸送のバスを運行し、のべ10万人、3万kmを走行しているが、十分機能を果たしていることが紹介された。

 ANAは、「ANA FLY ECO 2020」として、2005年度対比で2020年度に有償輸送トンキロあたりCO2排出量を20%削減することを目標を掲げているなど環境対策を行なっている。バイオジェット燃料の利用には全面的に協力していきたいとした。

横浜市 市長 林文子氏
千代田化工建設株式会社 代表取締役社長 澁谷省吾氏
伊藤忠エネクス株式会社 取締役兼専務執行役員 長尾達之介氏
いすゞ自動車株式会社 代表取締役社長 細井行氏
全日本空輸株式会社 専務取締役執行役員 殿元清司氏

 発表会では、出雲氏から将来の話として、実証プラントの稼働の後、大規模生産を行なう商業用プラント計画があることも明らかにされた。実証プラントは「技術を完成させることが目的」としてコストや価格については重視しないが、商業プラントの完成時は「既存の化石燃料と競争力のある価格」にするという。

 商業プラントの規模は「実証プラントの数百倍規模」としているだけで、場所などはまだ決まっていない。国内にならない可能性も示唆する一方で、羽田など燃料需要地への輸送も考慮した場所にすることも明らかにされた。

 なお、ミドリムシは名前こそ「ムシ」だが、海藻に近い単細胞真核生物で藻の1種となる。ミドリムシそのもの生産は、沖縄県の石垣島の製造拠点で行なわれている。

ミドリムシ液体と生成物
ミドリムシの燃料開発
いすゞ自動車の藤沢工場で従業員輸送で使われる同社の中型バス「エルガ ミオ」。エンジンは無改造でミドリムシ由来のバイオディーゼル燃料「DeuSEL」で走行する
ANAのCO2削減策に貢献するボーイング 787型機とバイオディーゼル燃料で走行するバス

(正田拓也)