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京都市美術館、国内過去最大のダリの世界を紹介する回顧展を7月1日~9月4日開催

「ダリ展」は世界的コレクションを中心に約200点を紹介。9月14日からは東京で開催

2016年7月1日~9月4日 開催

 京都市美術館は、スペインとアメリカのダリ・コレクションの協力を受け、国内の重要な作品を加えた約200点の作品によってダリの世界を紹介する、日本では過去最大規模の回顧展「ダリ展」(主催:京都市美術館、ガラ=サルバドール・ダリ財団、サルバドール・ダリ美術館、国立ソフィア王妃芸術センター、読売新聞社、読売テレビ)を7月1日から9月4日まで開催する。

 シュルレアリスムのみならず20世紀美術を代表する芸術家であるダリだが、世界的なダリ・コレクションが一堂に会する初めての機会であり、初期から晩年までのダリの創作の軌跡をたどることができる展覧会である。開催前日となった6月30日に、報道向けに公開されたその模様をレポートする。

実際のサイズで作品を観て、来館者が本物と対峙できる

 スペインが生んだサルバドール・ダリは、シュルレアリスムを代表する画家であるが、オブジェ、ジュエリー、執筆、映像制作なども手掛けた現代アートの先駆けでもある。スペイン、フランス、第二次世界大戦中のアメリカなどさまざまな場所で独自の世界を作り出したダリではあるが、今回の展覧会はスペインのガラ=サルバドール・ダリ財団と国立ソフィア王妃芸術センター、アメリカのサルバドール・ダリ美術館の3つのダリ・コレクションに加え、日本国内の主要作品も揃え、初期から晩年までの創作の軌跡をたどれる過去最大規模の回顧展となっている。

京都市美術館 館長の潮江宏三氏

 内覧会の冒頭で挨拶に立った京都市美術館 館長の潮江宏三氏は、「1964年にここで、ダリ自身がプロデュースしたダリ展が行なわれました。それから半世紀以上を超えて、再び回顧展を開催できることを大変うれしく思っています」と振り返り、実際の会場内の展示について「皆さんがご覧になられるカタログなどでは、多くの作品が同じようなサイズになってしまうのですが、開場でご覧いただければ、小さいサイズの作品には小さいサイズに合った表現、大きいサイズには大きいサイズに合った表現がされていることからも、ダリの力量を示していることがご理解いただけると思います。会場に入れば、大きい作品と小さい作品のメリハリの効いた展示となっていますので、ぜひとも楽しんでいただきたいと思います」とコメントした。

ガラ=サルバドール・ダリ財団 事務局長のリュイス・ペニュエラス氏

 続いて、ガラ=サルバドール・ダリ財団 事務局長のリュイス・ペニュエラス氏は「われわれの仕事はダリの作品を守り保護していくことと、ダリの作品を世界に広める活動をすることです。なので今回、この展覧会が開催され日本に来られたことを大変うれしく思っています。日本人の皆さんがダリを好きであることはうかがっていましたが、世界中の方にダリを知ってほしいと願っていますので、この機会は素晴らしいチャンスだと感じています。ほかの2つのミュージアムとの協力ももちろん、読売新聞社の後援によって企画されたことや、支えていただいた京都市美術館の皆さまにも心からお礼申し上げます。潮江館長が言ったように、実際のサイズで本物の作品を観て、来館者が作品と対峙することが大切であり、それによって本当のダリの作品を理解できるし、真の芸術を経験できます。書籍や装置を介した閲覧ではなく、本物を観ることが重要だと思っています」と述べるとともに、「準備に2年を要しましたが、一生涯に1回だけの経験かもしれませんので日本の皆さまにもこの展示を楽しんでほしい」と規模の大きなダリ展が貴重であることも強調した。

サルバドール・ダリ美術館 館長のチャールズ・ヘンリ・ハイン氏

 サルバドール・ダリ美術館 館長のチャールズ・ヘンリ・ハイン氏は「現在考えられる、最高のダリ展を実現させるために、ほかの2つの美術館とともに読売新聞社から指名されたことを大変誇りに思っています。関係者のみなさまに何年も前にスペインでお会いさせていただいてから話を進めさせていただきましたことも、とてもありがたいことです。スペインから来てくれたスタッフにも、ここに集まっていただいた皆さんにも感謝の気持ちを伝えさせていただきます」と語り、関係者の名前を挙げて感謝の意を表した

スペインの国立ソフィア王妃芸術センター 副館長のミショー・ミランダ・パニアグア氏

 スペインの国立ソフィア王妃芸術センター 副館長のミショー・ミランダ・パニアグア氏は「この素晴らしい展覧会を開催できるようになったことに関し、ダリ財団、ダリ美術館はもちろん、すべての関係者の皆さまにお礼を申し上げます。何年も前からお話をさせていただいて、この日本で歴史上最大規模のダリの展覧会が開催されることになりました」と謝辞を述べたあとに「ダリはアーティストを超えた存在、アーティストを超えたアイコンだったと思います。ダリはローカルなものでありながらユニバーサルな面も持っていることも、私たちの持つコレクションによって広めていきたいと思っています。バラエティに富んださまざまな作品を持っていることを、皆さんにもよく知ってもらいたいと考え、それを普及する仕事をしていますので、今回の展示会がダリのアーティストとしての幅広さを周知するためには、とても有効でうれしいものだと思います」とコメント。

 さらに「美術館にいて毎日何回もダリの作品を観ていますが、観るたびに新たな発見があります。それがダリの作品なので、展覧会に何回も足を運んでいただいて、彼の持つ神話的な秘密や秘訣を探っていただければうれしい」と、自身の誕生日に最大規模のダリ展開催の挨拶をすることについても喜びを表わした。

油彩、ドローイング、オブジェ、ジュエリー、書籍、映像など、ダリの創作を網羅

京都市美術館 担当学芸員の後藤結美子氏

 ダリ展の概要については、京都市美術館 担当学芸員の後藤結美子氏が解説。「京都市美術館では、1965年11月3日から29日までの27日間、日本で最初のダリ展『ダリ 幻想美術の王様』が開催され、約10万人の方に来ていただいた」と振り返ったあと、今回の展示は時代の流れに沿った展示がされているとし、Chapter 1からChapter 8までを順を追って解説した。

 Chapter 1は、少年時代から絵画の才能を賞賛され、フィゲラスや、夏の休暇を過ごした漁村カダケスの風景を、ポスト印象主義風の様式で描いている。

 続いてChapter 2は、マドリードのサン・フェルナンド王立美術アカデミーに入学し、学生寮でルイス・ブニュエル(後の映画監督)やフェデリコ・ガルシア・ロルカ(後の詩人)と交友を結びながら、キュビズム、ピュリスム、未来派などの新しい芸術の影響を受けた作品を制作していた時期。

 Chapter 3は、1929年にブニュエルと共同で脚本を執筆した映画「アンダルシアの犬」が公開され、アンドレ・ブルトンを中心とするパリのシュルレアリスト・グループに参加し、パラノイア的=批判的方法を生み出しシュルレアリスムの中心的な画家として活躍しながらもブルトンとの不和が芽生えた時期を示す。

 Chapter 4は、1929年に詩人のポール・エリュアールの妻ガラと出会い恋に落ち、ガラはミューズとしてダリの芸術に霊感を与えるとともに、プロデューサーとしてダリを支援し成功に導いた時期。

 Chapter 5は第二次世界大戦勃発により、ダリとガラはアメリカ合衆国に亡命、1934年以降アメリカで展覧会を行なったダリは有名作家となっていたが、商業的な仕事や出版を通じてシュルレアリスムの名士としての地位を確立した時期。

 Chapter 6はアメリカ滞在中、舞台芸術や映画などの美術の仕事を行ない、ヒッチコック、ディズニー、マルクス兄弟などにも協力しながらファッションや宝飾の仕事も行ない大衆的な人気を博した時期。

 Chapter 7は、第二次世界対戦で、1945年に広島と長崎へ原爆投下したことに大きな衝撃を受け、新しい原子物理学の知見と宗教的な神秘主義を結び付け、核時代の到来によって変質した新しい世界における芸術のあり方を探っていた時期。

 最後のChapter 8は、アメリカからカダケスの近くの小さな漁村ポルト・リガトに居を定め、1960年代以降は古典芸術に回帰し、巨匠たちに触発された作品を描きながら「テトゥアンの大会戦」など一連の大作絵画を次々と制作し、ダリ劇場美術館も開館した時期と説明した。

 後藤氏は「絵画からジュエリーまで、世界的なダリのコレクション約200点が揃うのは初めてのこと。ダリの作品は一度見たら忘れられないモチーフ、存在しないものが表現されている作品が印象的ですが、初期の作品から晩年までの作品を順番に紹介しているので、ぜひじっくりとご覧ください」とのことだった

 また「国立ソフィア王妃芸術センターに所蔵されている作品は、いままで日本で紹介されることが少なかったので貴重。例えばガラを描いた作品だけでも5点だけで構成していますが、これまではあまり紹介されていなかったと思いますし、初期作品でも国立ソフィア王妃芸術センター所蔵の大型のものなどは日本ではあまり紹介されていなかったのではないでしょうか」と、見どころについてもコメントした。

ダリの初期の作品から晩年までを、世代毎に分けて展示している。どのように作風が変わっていったのか、分かりやすい
「引出しのあるミロのヴィーナス」は1936年の作品(1964年に再鋳造) Collection of the Salvador Dalí Museum, St. Petersburg,Florida Worldwide rights:(C) Salvador Dalí, Fundació Gala-SalvadorDalí, JASPAR, Japan, 2016. In the USA:(C)Salvador Dalí Museum Inc. St. Petersburg,Florida, 2016.
「素早く動いている静物」(1956年頃)。小さいものは、もちろん詳密な表現が施されているが、やはり大きい作品は目の前で大きさも確かめるべきものと実感できる展示 Collection of the Salvador Dalí Museum, St.Petersburg, Florida Worldwide rights:(C) Salvador Dalí, Fundació Gala-Salvador Dalí, JASPAR, Japan, 2016. In the USA:(C)Salvador Dalí Museum Inc. St. Petersburg,Florida, 2016.

展示室に入ってすぐ、撮影自由な「メイ・ウエストの部屋」

 展示室の前に奇妙な空間が設けられているが、これは1974年に開館した「ダリ劇場美術館」の展示室の一角を再現した「メイ・ウエストの部屋」。赤い壁に2点の絵画が展示され、中央には暖炉、手前に赤いソファが置かれているが、ある角度から観ると女優のメイ・ウエスト(1893~1980年)の顔になる「ダブルイメージ」の仕組みを、今回の展示では鏡を用いて表現している。

残念なことに筆者はメイ・ウエストを知らないので、鏡に映ったこの角度が正しいかは不明だが、ダリが絵画で多用したダブルイメージを3次元に置き換えたもので、ダリ劇場美術館の来館者から人気の高い展示とのこと

ダリが使用していた和傘の複製が完成。日吉屋からペニュエラス氏へ贈呈

 ダリは1960年前後に和傘を贈られたらしく、傘をさして散歩している姿などが写真に残っている。この和傘はダリ財団が管理する「ダリ劇場美術館」で展示されていたが老朽化して開くことさえ困難になったため、京都で5代にわたり、和傘を製造している老舗「日吉屋」に複製が依頼されていたが、今回、複製品が完成したので展示会会場で日吉屋からダリ財団に贈呈された。

この元となった和傘は直径2.7m、柄の長さが1.65mで、内側には京友禅の桜が描かれていたことから、京都の業者が制作したものと推測されている

 京都市美術館での「ダリ展」は7月1日から開始し、9月に入って最初の日曜日となる9月4日まで。そして、9月14日から12月12日までは東京・六本木にある国立新美術館で開催される。多岐にわたるダリの才能と軌跡を辿り、かつ、本物に接することができる貴重な機会となる展覧会に、ぜひ足を運んでみてほしい。

ダリ展の開催期間内は、ポストカード、ポスター、Tシャツやオブジェなど、ダリに関連するグッズの販売も行なわれる